【はじめての方へ】認知症の症状から予防・対応方法まで
認知症とは、脳細胞の死滅や活動の低下によって認知機能に障害が起き、日常生活・社会生活が困難になる状態の総称です。
認知症=物忘れとイメージする方も多いと思いますが、記憶の消失だけでなく理解力や判断力にも大きく影響します。
介護が始まるきっかけの一つとして挙げられる認知症。その症状の特徴や、認知症の診断・治療、介護するうえでの対応方法について解説します。
認知症は特定の状態や症状の総称
認知症は、日常生活・社会生活が困難になる状態の総称です。認知症を引き起こす原因は様々で、その発症の過程により「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」などの種類に分類されます。
認知症はかつて「痴呆症」と呼ばれていましたが、痴呆という言葉には侮蔑的な表現が含まれているとして問題となりました。
その後、2004年12月に厚生労働省の用語検討会において「認知症」への言い換えが決まりました。
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もの忘れと認知症の違い
認知症による記憶障害は、加齢に伴う物忘れとよく間違えられます。しかし、「昨日食べた夕食が思い出せない」といった物忘れとは根本的に異なり、「夕飯を食べた」という体験そのものを忘れてしまいます。
下記の表は老化と認知症の違いをまとめたものです。
もの忘れ | 認知症 | |
---|---|---|
原因 | 加齢による物忘れ | 認知機能の障害 |
記憶 | 体験の一部を忘れる | 体験そのものを忘れる |
時間や場所 | 見当がつく | 見当がつかない |
自覚 | 忘れたことの自覚はある | 自覚がない |
症状の進行 | 進行はない | 著しく進行することも |
生活への影響 | 大きな支障はない | 支障が生じる |
三大認知症とは
アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)
認知症のうち最も多いとされているのがアルツハイマー型認知症で、全体の半数以上ともいわれています。
脳にアミロイドβやタウタンパクというたんぱく質が異常にたまり、脳細胞の損傷や神経伝達物質が減少します。これにより脳全体が萎縮して引き起こされると考えられています(諸説あり)。
主な症状は物忘れなどの記憶障害、時間や場所などの認識が低下する見当識障害、計画を立てる・こなすが困難になる実行機能障害です。ただし個人差も大きいため、この症状が全員一律に出るわけではありません。
レビー小体型認知症
アルツハイマー型認知症に次いで多いとされているのがレビー小体型認知症です。レビー小体という特殊なたんぱく質が脳内に生じることで脳神経細胞が破壊され、それに伴い発症するのがレビー小体型認知症です。
他の認知症と同じく物忘れなどの記憶障害や見当識障害、実行機能障害がみられます。さらにパーキンソン症状や幻視、自律神経症状、薬剤への過敏症などがあげられます。
個人差がありますが、初期は認知機能の低下よりも手足の震えや動きが遅くなったりとパーキンソン症候群特有の症状が表れるようです。
脳血管性認知症
脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)による、脳の血管の詰まりや破れから生じる病気を脳血管障害といいます。この障害により脳細胞が死滅することで発症する認知症を、脳血管性認知症と呼んでいます。
アルツハイマー型と同じく記憶障害や見当識障害などがみられますが、脳細胞の損傷によって身体麻痺や言語障害を伴うことも。
また、症状に対して本人の自覚も強く抑うつや、感情のコントロールができないため投げやりな態度になりやすいといったこともあります。
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認知症の診断
認知症の診断は複数の検査により総合的に行われ、認知症の種類や進行度合いを判定します。検査は面談、身体検査、認知症検査の大きく三つに分類されます。
1.面談
ご本人・ご家族から、現在の身体状態と過去の病歴を確認。当日のヒヤリングではきちんと伝えられない場合もあるので、あらかじめメモなどを用意しておくとスムーズです。
2.身体検査
血液検査や尿検査、レントゲンなどの一般的な身体検査を行い、ほかの病気の可能性の有無も確認します。
3.認知症検査
問診による神経心理学検査と脳画像検査があります。
神経心理学検査
代表的なものでは「長谷川式簡易知能評価スケール」、「ミニメンタルステート検査」、「時計描画テスト」などがあり、日付や記憶についての質問や単純計算や作業を行います。
脳画像検査
CTやMRIなどを用いて脳を撮影することで、脳の萎縮度合いや血流の状態を調べ認知症の診断に役立てます。
受診時の注意点
診断をするに当たり、ご本人やご家族にとっては「認知症と診断されるかもしれない」と思うこと自体が大きな不安とストレスになります。
また、ご本人に伝えるときはただ「検査に行こう」と伝えても拒否されることもあるでしょう。その際は、「健康診断だから」と説得したり、「家族の検査に付き添って一緒に受けてほしい」と頼んでみるのも一つの方法です。
また、後日検査結果を聞くときですが、認知症と告知された場合にショックを受け医師の説明が頭に入って来ないということも考えられます。そのため、なるべく他の家族とも一緒に行くなどし、今後について相談できるようにしておくとよいでしょう。
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認知症の予防と治療
早期発見が重要!
他の病気と同様に、認知症も早期発見・早期治療は重要です。認知症が疑われ同様の症状があっても、早く対処すれば治療できるような別の病気の可能性もあります。そして、認知症であることが確定しても、早い段階から様々な治療や介護サービスなどを受けることで、その後のQOL(生活の質)が向上することもあるのです。
認知症の予防
認知症予防を生活の一部に取り入れることで、認知症になった後でも症状の進行が緩やかになったり、QOLを保つことができます。
アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症は、糖尿病や脳血管障害など生活習慣病との関連が強いため、それらを予防・治療することは、間接的な認知症予防ともいえます。
低塩分・低糖質の食事は動脈硬化や脳血管障害のリスクを下げることに繋がります。ただ注意したいのは、健康によいと呼ばれるものを多量に食べることではなく、多くの食材をバランス良く摂取することが大切です。
そして、バランスの取れた食生活と共に、適度な運動など腰や関節等を動かす習慣があれば、筋肉の低下や身体の可動域を保つことができます。運動は脳にも適度な刺激を与えるので認知症の予防にも繋がるでしょう。
ただし、あくまでご本人がムリなく続けることが第一です。もともと好きな趣味があれば、それを続けられる環境づくりをすることも認知症予防の一環と言えるでしょう。
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認知症の治療
現在、認知症の進行を完全に止める方法や、根本的な治療方法はみつかっていません。認知症の治療はその進行を緩やかにしたり、QOL向上を目的としています。認知症の治療には大きく分けて「薬物治療」と「非薬物療法」があります。
薬物療法
大きく分けて、「中核症状」の進行を抑えるための認知機能改善薬と、「行動・心理症状」の軽減を目的とした向精神薬や睡眠薬によるものの二つに分けられます。症状によって処方される薬が変わるので、不安な点があれば認知症専門医などに相談しましょう。
非薬物治療
薬物を使わない治療法も、認知症の進行を完全に止めたり根本治療するものではありません。しかし、QOLを上げるという面では薬物療法以上の効果も期待されます。例えば昔からの趣味に集中することで、不安がなくその方らしく時間を過ごすことができます。
非薬物治療では、脳トレやゲームなどのリハビリテーションや、料理や洗濯などの生活リハビリがあげられます。他にも園芸療法、音楽療法、回想法など多岐に渡ります。
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認知症が引き起こす言動・行動
被害妄想
「財布を盗られた」「家族から悪口を言われている」といった被害妄想も認知症の症状の一つです。
この被害妄想の多くは、認知症の症状による苦しみと周囲への不満などが影響して表れます。ご本人にとって、そのような現状に対する抗議や、助けを求めるメッセージの意味合いがあります。
そのため、ご本人も無意識に身近で親しい間柄の人に訴えかけようとして、その人を「加害者」としてしまうことも多いのです。
徘徊
2017年の警察庁の発表では、徘徊による行方不明者は年間1万5千人にも上り社会問題となっています。
徘徊の一例としては、ご本人が自宅にいるにも関わらず「家に帰る」と外出し、その目的の家が分からず歩き続けてしまうということがあります。これは幼い頃に住んでいた当時の家を思い出しその「家」に帰るため歩き続けるというものです。
徘徊の意味は一般的に「目的もなくうろつき回ること」とされていますが、このようにご本人にとっては理由も目的もあるため、これを止めるのは困難です。
そして、このように目的があって歩いていることから、徘徊を「歩き回り」や「ひとり歩き」などへ言い換えようという動きもあります。
暴力・暴言
認知症と診断された方の誰もが暴言や暴力を起こすわけではありません。暴力・暴言に至る要因は様々で、複数の要因が重なった結果として暴言や暴力に至ることがほとんどです。
暴力・暴言に至る主な要因
- 不安を感じ、混乱している
- 感情のコントロールがうまくいかない
- 周囲の感情に巻き込まれている
- 自尊心が傷つけられている
- 体調が悪い・不調である
暴言や暴力が現れた場合、一番よくない対応は、力や言葉で対抗することです。抑えつけたり、叱りつけたりすることは状況の改善にはなりません。日頃のコミュニケーションでは、ご本人が不安を募らせないよう丁寧に繰り返し伝えましょう。
また、ご本人が「できる」と言ったことが仮にできなかったとしても否定したりせず、自尊心を傷つけないといった配慮も必要です。
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家族が知っておきたい認知症介護
認知症介護をする家族が抱える辛さとして「先が見えないこと」「終わりがない」が挙げられます。当然、不安になるご家族も多いでしょう。
認知症介護を続けるには、介護者の心の負担を軽くすることは非常に大切なこと。そのための「5つの心得」を知っておきましょう。
1.がんばりすぎない
過度ながんばりの裏には、元気なままのご家族であってほしいという愛情と、それが叶わないかもしれない悲しみが横たわっていることでしょう。その気持ちを見つめ、あるがままを受け入れ、がんばり過ぎなくていいんだと、まずはご本人よりも「ご自身」に優しくすることが第一です。
2.一人で抱え込まない
医療が進歩した今は介護が長期にわたることも多く、介護は一人きり、一つの家族で抱えこめなくなっているのが社会的な現実。外部サービスなどに介護の一部を任せることは、むしろ望ましい姿なのです。
3.弱音を吐く
きれいごとだけではすまないのが介護。どろどろとした不満ややりきれない気持ちは、あってあたりまえです。
ときには認知症の家族会に参加したり、信頼できる友人に話を聞いてもらうなどして、弱音や愚痴を少しずつ、でも「きちんとこぼす」ことも、実は認知症介護にはとても大切なのです。
4.くらべない
認知症の進み方や症状の現われ方は千差万別。「あの人よりも若いのに」「同じ時期に発症したのに」と他のケースと比べるのはあまり意味がないうえ、不幸の始まりです。
5.終わりを考える
目の前の苦しみがいつおわるのか、本当におわるのかわからない辛さは確かにありますが、「いつかおわるもの」と気を長くもち、そのおわりを迎えるときにご本人もご家族も笑っていられるように「いま」を過ごしましょう。
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認知症のリハビリ
認知症の根本的な治療法は確立されていませんが、以下でご紹介するリハビリにはその症状を和らげたり、進行を緩やかにさせる効果が期待できます。
効果には個人差があり、誰もが劇的な改善を望めるわけではありませんが、QOL向上に繋がるものも多いため取り入れてみると良いでしょう。
作業療法
掃除や洗濯、仕事や趣味など、日常生活はあらゆる作業に満ちあふれています。こうした日常生活での作業を継続することにより、心身の維持強化や幸福感、自尊心が充実するなど、心と身体のリハビリテーション効果が得られます。
単に「リハビリしましょう」と言っても、ご本人からすると失敗したときの不安や拒否感が高まります。例えば、農家の人なら土に触れる、調理が好きなら包丁に触れて作業を取り戻し、同時にこれまで生きてきた中で感じた、作業の喜びや、懐かしい思いがあふれてきます。
こうしたなじみの作業に触れることは回想法としての側面もあるのです。
運動療法
身体機能の低下は抑うつ傾向や認知機能の低下なども引き起こし、精神の健康も損なってしまいます。体と心の両面に働きかけ、心身機能を同時に高める運動療法は認知症の予防や進行の緩和にも役立つものです。
適度な運動は身体の可動域を保ち、適度な刺激は脳を活性化させ血流の改善にもつながります。一口に運動と言っても、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動。体操、ストレッチ、ボール等を使ったゲームなど様々あります。ご本人にとって興味のあるものだと継続します。
また、過剰な運動は健康にも影響するためやりすぎは禁物。安全にも配慮しましょう。
回想法
回想法は、個人でもグループでも行うことができます。会話しながらその方の人生を振り返ったり、写真や映像を見て過去を思い起こすことで、気持ちの安定やコミュニケーションの活性化に繋がります。
写真や映像は必須ではありません。それよりも大切なのは、ご本人のお話を否定せずに受容し共感する姿勢です。周囲が受け入れることで、自信と誇りを取り戻し、不安の緩和や明日への力を生み出すこととなるのです。
音楽療法
音楽療法は、文字通り音楽を聴いたり歌うことで、脳の活性化や心身に安定をもたらすリハビリです。認知症の高齢者にもその効果が期待され、近年は介護施設や医療現場のレクリエーションにも用いられています。
お一人で音楽を聴きながら、ゆったりとした時間を過ごすことも精神の安定になりますし、一緒に楽しむ人がいればますます味わい深くもなります。家族や友人とカラオケボックスへ足を運び、ともに聴き、歌うことも楽しい時間になるでしょう。
うまくテンポがとれなかったり、歌詞が出てこなくても、周囲が励まし受け入れてくれれば安心です。楽しみながら前向きに取り組む姿勢が大切です。
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介護拒否への対応
認知症の介護に限らず、自宅でも介護施設でも介護拒否が生じる場面があります。その背景として、「介護される側の気持ち」を考えることは大事なことです。
老人ホームなどの介護現場でもよくみられる6つの介護拒否のシーンを紹介します。
6つの介護拒否
- 食事拒否
- 食事をする環境や、本人の食べる能力、食べている状態などに課題がある場合があります。
- 服薬拒否
- 本人が服薬の必要性を忘れている場合と、服薬自体を本当に拒否している場合があります。
- 入浴拒否
- 認知症の人によくみられる拒否のひとつで、衣服の着脱が難しい、衛生意識が薄れているなどの原因があります。また、入浴を見られるのが恥ずかしいという思いから生じることも。
- 着替え拒否
- 衣類を選ぶ、順番に更衣をすることは、実は十分な認知機能を必要で難しい作業といわれています。また、着替えもプライベートなもののため、直に触れられ、隠したい場所を見られることに抵抗があります。
- トイレ拒否
- 認知症が進むと、尿意や便意を感じづらくなる傾向があります。また、トイレの意思を伝えづらくなったり、場所の見当識障害でトイレの位置がわからなくなることも。
- 外出拒否
- 出かける意味や理由が理解できなかったり、準備で家族が慌ただしくしているため「何か大変なことが起こるのでは」「私も手伝わなくては」などと考えてしまうために外出を拒むことがあります。
今は問題なく行っている介護も、認知症の進行とともに新たな拒否が表れることがあります。それが新たな悩みとなり、家族としても不安を募らせることになるでしょう。
一方で、それに対応していく中で新しい介護サービスを取り入れるきっかけになることもあります。さらにお互いが楽になる転換点にもなり得ますので、担当のケアマネジャーなどに相談してみましょう。
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認知症に関するQ&A
一人暮らしの親が認知症に。どう対応すればいいの? 認知症を認めたがらない父に診断・治療を受けてもらうには? 昼夜問わず電話をかけてくる認知症の母。着信音がストレス 認知症の症状により施設入居を断られることもある? 認知症になった親の預金を引き出せる? >>すべてのQ&Aを見るイラスト:坂田優子
この記事の制作者
監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)
1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。