【医師監修】長谷川式認知症スケールとは?

「長谷川式認知症スケール」とは、認知症の簡易検査です。日本国内の多くの医療機関でも使用されている、信頼性の高い評価法です。

認知症は現代医学でも完治は難しいと言われていますが、その兆候にいち早く気づいて対応していくことで、認知症の発症を遅らせたり、進行予防に繋げられるケースがあります。

この記事では、認知症の兆候を見定めるためのファーストステップ「長谷川式認知症スケール」について詳しく解説していきます。

長谷川式認知症スケールとは?

長谷川式認知症スケール(HDS-R)は、長谷川和夫医師によって認知症の簡易チェックのために開発された認知機能検査です。

年齢を重ねると、もの忘れが増える、人の名前や物の名前が思い出しにくくなるということが誰にでも起こります。しかし、年齢相応のもの忘れではない場合には、認知症の兆しであることが疑われます。

そんな時には長谷川式認知症スケールを使い、本当に認知症の疑いがあるのか? 認知症の程度はどのくらいか?を簡易的に推定することができます。
 
実際の認知症の診断は医療者の問診からはじまり、さまざまな評価や、CTやMRIによる画像診断を通じて判断します。長谷川式認知症スケールは、認知機能の低下が認められるかを最初にチェックするための検査です。

評価方法をしっかり学び、身の回りの物を使えば、誰にでも行うことができる検査です。
 

長谷川式認知症スケールの質問項目は?

長谷川式認知症スケールは9つの設問でできている

長谷川式認知症スケールの検査時間は、10分から15分程度になります。

認知機能のさまざまな側面を検査するために、9つの設問には見当織(場所や時間を判断する能力)や記憶力、注意力の検査などが含まれています。

長谷川式認知症スケールは全部で30点満点

点数は30点満点で、20点以下だった場合、認知症の疑いがあると言われています。

長谷川式認知症スケールの採点は、年齢や教育歴などが考慮されていないので、解釈には注意が必要です。

9つの設問内容と検査の意図について

長谷川式認知症スケールを受けるには?

長谷川式認知症スケールは、医療保険を使って検査を受けることができます。

2018年度の診療報酬改定後から、保険診療で行える検査の一つに認定されました。「もの忘れ外来」や「認知症専門外来」があるクリニックや病院などで、専門家によるチェックを受ける事ができます。

検査にかかる費用は?

検査のみにかかる保険点数は80点(800円)で、そこから医療保険の負担割合に応じて、3割負担の方の場合は240円、2割負担の場合は160円、1割負担の場合は80円になります。

再診料やその他の検査料は別途かかってきますので、ご注意ください。(※保険点数や料金は、令和2年度現在の情報になります。)

家庭で長谷川式認知症スケールを行うには?

ご家族や身内の方で評価をする場合の注意点

長谷川式認知症スケールの正確な評価には、知識とテクニックが必要です。最終的な判断は必ず医療者に実施してもらうようにして下さい。

このページではあくまで参考までに、ご家庭で実施する場合の5つのポイントをご紹介します。

ご家庭でチェックする場合の5つのポイント

① 検査環境が最適か?
テレビがついていたり、周囲に人がいたりするような気が散る環境ではなく、検査に集中でき、かつリラックスできる環境での実施を心がけましょう。
② 耳の聞こえが悪くないか?
耳の聞こえが悪い場合は、聞き間違えによって正しく評価できないことがあります。難聴が疑われる場合には、ゆっくりはっきりと質問するようにしましょう。
③ うつ状態などの精神症状への配慮
うつ状態などによっても認知機能は低下します。精神状態に認知機能が左右されている可能性があるので、医療機関での対応をお勧めします。
④ 学習効果への配慮
何度も検査を実施していると、検査内容を覚えてしまい、正しい評価ができなくなる可能性があります。
④ 無理やり検査を実施しない
検査を受ける方のプライドや精神状態への配慮は不可欠です。認知症かどうかを疑われることは、本人の自尊心を傷つけてしまう場合があります。

信頼関係が悪化しないように配慮しましょう

認知症の早期発見、早期治療開始はもちろん大切です。

しかしご家族や身内の方が検査する場合には、信頼関係の悪化や思わぬトラブルに注意が必要です。ご本人が検査を拒否する場合は無理に行うのはやめましょう。

検査を行うことそのものよりも、ご家族が各設問の意図を理解して、日常会話の中で「違和感を見過ごさず、認知症の兆候に気づくこと」ができれば良いと思います。
 

認知症と診断されたら

認知症は、歳を重ねれば誰でもなる可能性のある病気です。認知症と診断された場合、どのように進行していくのか不安になってしまう方もいます。

今後の生活の変化に不安を抱える身内の方も多いのではないでしょうか?

そのような不安を少しでも和らげるためには、「認知症を理解すること」「認知症の進行に備えること」が大切になります。

認知症を理解する

「認知症」とひとくちに言っても、原因疾患によって現れる症状や対応方法は変わってきます。

例えば、脳出血や脳梗塞によって起こる「脳血管性認知症」は、症状に波があることが特徴です。また、「レビー小体型認知症」という脳の進行性の病気では、本来あるはずのないものが見える「幻視」や、手足が震えたり動きが鈍くなる「パーキンソン症状」がみられることが特徴です。

認知症を理解することで、ご本人への対応がスムーズになるでしょう。

認知症の進行に備える

認知症は、初期の段階では大きな支障なく日常生活を送ることができます。しかし、進行とともに少しずつサポートが必要になっていき、最終的には1人で日常生活を送ることが難しくなっていきます。

もし身内の方が認知症と診断された場合、まだ病状が軽いうちに、どのように余生を過ごしていくのか、誰が介護を担っていくのかを十分に話し合っておくと良いでしょう。

困ったときの相談場所

認知症の方のケアを続ける際には、1人で抱えこまないようにしましょう。認知症で心配なこと、困っていることなどを相談できる窓口もあります。

総合的な相談は、お住まいの地域の地域包括支援センターに連絡をしてみてください。

また、専門的な相談については、例えば横浜市では「横浜市認知症疾患医療センター」や「認知症コールセンター」という窓口があります。

そのほかにも、「家族会・介護者の集い」や「認知症カフェ」という、当事者や介護者の心の負担軽減を目的としたイベントも各地で開催されているので、一度足を運んでみることをオススメします。
 

まとめ

長谷川式認知症スケールは、認知症の兆候を把握するために役立つ簡易検査です。認知症の兆候を早期につかみ取り、早めに専門外来を受診して発症予防や進行抑制に繋げることが大切です。

開発者である長谷川医師も、自分が認知症になったことを2018年に公表しました。ご自身の体験や変化について、著書や講演会を通じて述べられています。

人生100年時代、認知症は誰もが発症する可能性があるものなのです。みんなで認知症を理解し、備えることが必要な時代になりました。

認知症になっても、当事者も、ご家族も、周囲の人も、安心して楽しく人生を過ごしていける国にしていきたいですね。

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イラスト:坂田 優子

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この記事の制作者

新田 智裕

著者:新田 智裕(理学療法士)

横浜市青葉区の青葉さわい病院にて3歳〜105歳までのリハビリの担当を経験し独立。現在は、同じ青葉区内で、理学療法士と管理栄養士がつくる デイサービス「バレーナ」を運営。理学療法士が考案した、YouTubeで「バレーナチャンネル」を運営。シニア向けのホームエクササイズ動画を配信中。

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内海 久美子

監修者:内海 久美子(砂川市立病院 副院長・認知症疾患医療センター長)

NPO法人中空知・地域で認知症を支える会理事長、一般社団法人認知症疾患医療センター全国研修会代表理事も務める。
長年にわたり、医師として認知症の診断、治療の傍ら、地域に向けた啓発や関係者とのネットワークづくりに尽力。
「砂川モデル」として全国からも注目され、講演、取材、TV出演など多数。

介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅、その他介護施設や老人ホームなど、高齢者向けの施設・住宅情報を日本全国で延べ57,000件以上掲載するLIFULL 介護(ライフル介護)。メールや電話でお問い合わせができます(無料)。介護施設選びに役立つマニュアルや介護保険の解説など、介護の必要なご家族を抱えた方を応援する各種情報も満載です。
※HOME’S介護は、2017年4月1日にLIFULL 介護に名称変更しました。

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