アルツハイマー型認知症の症状とは?原因から経過、治療までを解説
アルツハイマー型認知症の症状は初期、中期、後期と段階ごとに異なります。後期になるほど症状も重くなるため、治療や進行対策の観点からも早期の対策が重要です。
アルツハイマー型認知症の患者と接する際のポイントにも触れているので、参考にしてください。
アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症は認知症の一種です。認知症を発症する人の多くが、アルツハイマー型認知症に該当すると言われています。脳にアミロイドβという特殊なたんぱく質がたまり、脳神経が変性して脳の一部が萎縮。徐々に進行していき、記憶障害、見当識障害、実行機能障害、認知機能障害などの症状が現れます。
認知症には、アルツハイマー型認知症以外にも複数の種類があります。詳細は下記の記事で解説中なのでぜひチェックしてください。
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アルツハイマー型認知症の前段階、MCI(軽度認知障害)とは
MCI(Mild Cognitive Impairment)は軽度認知障害と呼ばれており、認知症の前段階の症状です。記憶力や集中力、注意力の低下はあるものの、認知症ほど症状は重くない状態。本人は不安や焦燥を感じることもあるでしょう。ただし、MCIの方がすべて認知症に進行するわけではありません。
認知症の発症リスクを減らすには、MCIをできるだけ早期に発見して治療することが大切。気になる症状がある場合はなるべく早く医師の診察を受けましょう。MCIについては、下記の記事でさらに詳しく解説しています。
関連記事軽度認知障害(MCI)
アルツハイマー型認知症の症状
アルツハイマー型認知症は段階ごとに現れる症状が変化します。接し方や介護プランを練るヒントになるので、段階別の症状を把握しておきましょう。下記の記事では、認知症全般の症状や進行について解説しています。
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初期症状
もの忘れ:最近の出来事を忘れる、待ち合わせしたこと自体覚えていない
時間の見当識障害:昼夜、日時、季節の取り違えが見られはじめる
実行機能障害:計画立てて物事を進めることが困難になる
近時記憶障害:先週行った家族旅行の記憶がない
アルツハイマー型認知症の初期には日常生活の失敗が徐々に増えます。料理する際に順番を間違えたり、先週行った旅行の記憶を忘れてしまったりするでしょう。アルツハイマー型認知症は軽度の段階から記憶をつかさどる海馬が損傷するため、もの忘れの症状が顕著です。
中期症状
即時記憶障害:ご飯を食べたことを忘れてしまう
遠隔記憶障害:自分の通った小学校の名前などパーソナルな情報を思い出せない
場所と人物の見当識障害:通い慣れたスーパーまでの道に迷う、知っている人が誰かわからない
認知機能障害(失認・失行):1人で着替えられない、お金の払い方がわからない
失語:物の名前が上手く出てこない
アルツハイマー型認知症の中期には、今いる場所や目の前にいる人がわからないなどの症状が現れます。記憶に関する症状のほか、着替えやコミュニケーションに支障が出ることも。
本人的にも自信を無くしやすく、言語能力も低下するため気持ちをはっきりと伝えられません。無気力や抑うつ、暴言などの二次的な症状につながるケースもあります。
後期症状
人の見当識障害:同居する家族が誰かわからない
知的機能の重度障害:靴を反対に履く、最近の出来事をほとんど覚えていない
運動機能の障害:歩幅が狭くなる
弄便(ろうべん):排せつ物を手で触ったり壁や床にこすりつけたりする
異食:食べ物ではない物を食べてしまう
アルツハイマー型認知症の後期になると、日常生活全般においてサポートが必要になります。言葉を忘れる失語の症状などが強く現れることでコミュニケーションが困難になることも。家族など介護者の負担も非常に大きくなるため、状況に応じて施設入居や介護サービスの利用も検討しましょう。
アルツハイマー型認知症の原因
アルツハイマー型認知症は複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。明確な治療法は確立されていませんが、発症や進行のリスクを減らすことは可能。認知症の原因については下記記事でも解説中です。
関連記事認知症の原因とは?ストレスとの関連性や進行速度も解説
生活習慣
生活習慣病はアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めるとされています。運動不足、寝不足、喫煙経験などに覚えのある方は要注意です。
年齢
アルツハイマー型認知症を発症した人の多くは65歳以上です。年齢が高くなるほど加齢により脳機能が低下します。有病率も高くなるため健康管理に気を配りましょう。
遺伝
遺伝によりアルツハイマー型認知症を発症するケースはごくわずかですが、家族性アルツハイマー病も存在します。ただし、家族が認知症になったからといって必ず発症するわけではありません。
食事
食生活の乱れはあらゆる病気のリスクとなり認知症も例外ではありません。主食・主菜・副菜を組み合わせた栄養バランスの良い食事は認知症予防にも有効です。
病歴
高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある方はアルツハイマー型認知症の発症リスクが高まります。規則正しい生活を送るなどして、十分に対策しましょう。
教育歴や知的な活動の長さ
教育歴や読書などの知的な活動時間が長い場合、認知症予防につながるという研究結果が出ています。逆に教育歴が短いと認知症のリスクも高まります。
その他
社会的に孤立して外部とコミュニケーションを取る機会が少ないと、アルツハイマー型認知症の発症リスクも高まります。転倒による頭部外傷などが発症の原因になることも。
アルツハイマー型認知症の検査
アルツハイマー型認知症と診断されることへの不安から受診を避け、発見が遅れて病気が悪化してしまう方もいます。いずれの病気にも言えますが、早期の発見、対策、治療が重要なことをしっかりと理解しましょう。
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問診
- 異変にいつ頃気づいたか?
- 具体的にどのような症状があったか?(もの忘れや料理の手順がわからなくなったなど)
- 家族がどんな症状で困っているか?(ご飯を食べたことを忘れるなど)
- 家族構成や生活環境に変化があったか?親しい友人などが亡くなったなどの変化はないか?
- 日常生活にどんな支障・困難が生じているか?(買い物から帰ってこられなくなったなど)
- 今までにかかった病気、現在飲んでいる薬
問診検査では、上記のような質問を本人や家族、介護者に対して行います。普段の様子や異変が現れたときの状況をメモしておくと診察の助けになります。変わったことがあればメモする習慣をつけておきましょう。
診察
- 血圧測定
- 聴診
- 発語
- 聴力
- 手足の麻痺や不随意運動の有無
- 歩行状態
- 精神状態 など
診察では本人の健康状態を確認します。現在の症状がアルツハイマー型認知症によるものなのか、それ以外の原因があるのかを調べる必要があるためです。今後の治療方針を正確に決めるためにも、重要な検査です。
検査
- 神経心理検査
- 画像検査
- その他の検査
神経心理検査では記憶障害の程度などを調べるために、簡単な質問に答える検査(長谷川式簡易知能評価スケール・HDS-Rやミニメンタル検査/MMSE)などを行います。加えて、脳梗塞や脳出血の有無、脳萎縮を調べる画像検査も実施。
その他、脳血流を調べるSPECT検査やレビー小体型認知症の可能性を見るMIBG心筋シンチグラフィーなどを行う場合もあります。
アルツハイマー型認知症の治療
アルツハイマー病には薬物療法と非薬物療法がありますが、根本的な治療法はまだ見つかっていません。早期発見ができれば進行をゆるやかにするなど、選択できる治療の幅も広がります。
薬物療法
薬物療法では、低下した脳の働きを改善するアリセプト、レミニール、リバスタッチ、脳細胞の損傷を防ぐメマリーの4種類が使用されます。
これらは、アルツハイマー型認知症における認知機能障害を改善させる薬です。第一義的な処方ではありませんが、対症療法としての以下の薬剤も本人や家族の負担軽減に役立つ可能性があります。
抑肝散(よくかんさん):イライラや妄想対策
睡眠薬:時間の見当識障害による睡眠障害対策
精神安定剤:強い不安や焦燥感を抑える
非薬物療法
- 姿勢の改善
- 歩行を安定させる
- できる範囲で洗濯や料理などを行う
- 回想法:昔の思い出話に花を咲かせ、楽しむことで認知機能を高める
- 認知リハビリテーション:音読や書き取りのドリルを使って脳を活性化させる
- 音楽、園芸療法:音楽や園芸を介して感情の安定を目指す
アルツハイマー型認知症の治療では、心理療法やリハビリテーションなど非薬物療法も行います。
非薬物療法の大きな目的は、自発性を引き出して脳の活性化を促すこと。適切な介護は必要ですが、本人が何もしない状況を作りすぎるのは認知機能の低下にもつながります。体制の整った施設に入居してリハビリを行うという選択肢もあるので、あわせて検討してみてください。
アルツハイマー型認知症の方への対応
・忘れたことを責めない |
アルツハイマー型認知症を発症後も適切にサポートすることで、ある程度自立した生活が可能です。介護側の負担があることは事実ですが、本人も辛いことを忘れないようにしましょう。
忘れたことを責めない
忘れたことを責めないようにしましょう。家族が話したことを1分程度は理解していますが、記憶できないため何度も聞いてしまいます。アルツハイマー型認知症の症状のひとつとして理解して対応しましょう。
部分的に手伝ってもらう
アルツハイマー型認知症では、例えば味噌汁を作る際に、出汁を取る、具を切る、茹でる、味噌を溶くなどプランニングができなくなります。具材を切るだけ、味噌を溶くだけなど、部分的に手伝ってもらうようにしましょう。料理は楽しいなど家事に達成感を味わってもらうことが大切です。
一緒に散歩する
散歩をすると景色が変わり気分もよくなります。アルツハイマー型認知症の方も例外ではなく、普段家にいることが多い分リフレッシュになるでしょう。家族と一緒に過ごして身体を動かすことで刺激にもなります。
生活環境を整える
アルツハイマー型認知症の方は視界が徐々に狭くなるため、冷蔵庫の上段、下段に入れた物などが目に入らなくなります。同様にテーブルの端にある物も見えなくなるため、できるだけ目に入る位置に置くように生活環境を整えてあげましょう。
味の濃い食べ物も時々とり入れる
アルツハイマー型認知症が進むと味覚に変化が現れます。レトルト食品やスーパーのお惣菜、スナック菓子などの味の濃いものを好むようになる傾向が多いです。健康面を考慮しつつ、時々は味の濃いものも取り入れてみましょう。
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認知症により判断能力が不十分とみなされると、ご本人にもご家族にも預金がおろせない、不動産を売却できないなど、「資産凍結」に陥るリスクがあります。
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アルツハイマー型認知症の症状を理解して早期の発見と進行対策を
アルツハイマー型認知症の症状は初期、中期、後期と段階ごとに異なります。進行を遅らせるには早期発見が重要。
各段階の症状を理解して、可能な限り初期段階で発見できるようにしましょう。アルツハイマー型認知症の経過は他の認知症に比べて進行が穏やかですが、症状が進むと自宅での介護が難しくなる場合も。思い切って介護施設への入居を検討する方法もあるでしょう。
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イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:横山由希路(ライター)
町田育ちのインタビューライター。漫画編集、ぴあでのエンタメ雑誌編集を経て、2017年に独立。週刊誌編集者時代に母の認知症介護に携わり、介護をはじめて13年が経った。2020年にひとりっ子でひとり親を介護している経験から、書籍「目で見てわかる認知症ケア」(2刷)を企画・構成した。
監修者:石井道人(医師)
ファミリークリニックあざみ野 院長
北里大学医学部卒。東京都立多摩総合医療センターで救急医療、総合診療を学ぶ。2013年より北海道・喜茂別町で唯一の医療機関に管理者として赴任。
乳幼児健診から看取りまで、町民二千人の健康管理を担う。2020年神奈川県横浜市にて開業。
日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医
日本救急医学会認定救急科専門医
日本内科学会認定内科医
日本医師会認定認知症サポート医