質問

同居している認知症の母に、有料老人ホームへ入居してもらう方向で兄弟と話を進めています。入居にはまとまったお金が必要なので、母の預金を引き出したいのですが、通帳と印鑑を銀行へ持参すれば引き出すことはできますか?

回答
桑野 恵子

お母様が認知症と診断されている場合、通帳と印鑑があっても金融機関は預金の引き出しに応じない可能性があります。仮にご本人が同行しても同じで、契約ごともできません。
そのため、お母様に成年後見人を立てて、預金の引き出しと有料老人ホームの入居契約を代理にしてもらう必要があります。
このページでは、認知症の親の預金の引き出し方法や、成年後見制度の活用法などについて解説します。 桑野 恵子(1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®)

【目次】
  1. 本人の意思であれば家族が引き出すこともできる
  2. 本人が認知症になった場合は後見人が必要
  3. 後見人は親族がなるもの?
  4. 認知症になる前であれば「任意後見」や「家族信託」という制度もある
  5. まとめ

本人の意思であれば家族が引き出すこともできる

預金の引き出しには、「引き出したい」という本人の意思が必要です。本人に頼まれたのであれば、暗証番号とキャッシュカードでATMから預金を引き出すことができます。また、本人が委任状を作成できれば、通帳と印鑑を持参して窓口で引き出すことも可能です。

しかし、認知症の場合は本人が意思表示をすること自体が難しいこともあり、金融機関は「成年後見制度」の利用を勧めてくるでしょう。成年後見制度とは、判断能力が低下した本人に代わって財産を管理したり、適切なサービスを選択し、本人の生活を守るための制度です。




本人が認知症になった場合は後見人が必要

判断能力がない方に代わり預金を引き出すには、裁判所が認めた成年後見人しかできません。お母さまに成年後見人を付けるためには、家庭裁判所に申し立てを行います。
成年後見人には「財産管理」と「身上保護」の大きく二つの役割があります。

●財産管理とは

本人の財産を適切に管理します。50万円以上の支出が必要な場合や、保険金など多額の収入があった場合は事前に家庭裁判所に連絡します。もしも、本人の不動産を売却する際には、事前に家庭裁判所の許可が必要となります。

●身上保護とは

本人の意思を尊重し、適切な生活環境を整えるための法律行為(契約)をします。
例えば福祉サービスの契約や、老人ホームなどの住まいの契約もその一つとなります。

>関連リンク:成年後見制度とは




後見人は親族がなるもの?

成年後見人となる人に、特別な資格は必要ありません。裁判所が選任した地域住民や、法人が担うケースもあります。しかし、本人ある程度の財産があり「不動産の処分が必要」「親族同士で金銭トラブルを抱えている」「財産が多く契約や権利関係が複雑」といった場合には、専門知識をもつ弁護士司法書士社会福祉士が適切でしょう。
本人の親族も後見人になれますが、適任であるかどうかは裁判所が判断します。許可しないこともありますし、後見人になれたとしても、正しく後見業務ができているかを監督する「監督人」が付きます。

また、成年後見制度については二つの注意点があります。

●後見人に報酬を支払う必要がある
●後見人が決まるまで一定期間を要する

次の項で順に見ていきましょう。


成年後見人に対して報酬が発生する

弁護士や司法書士など、親族以外の第三者が後見人を受任すると、本人の財産から毎月報酬を支払わなければなりません。家庭裁判所の公開情報によると、成年後見人の報酬の目安は「月額2万円」です。しかし、管理する財産が数千万円以上にも上る場合は、報酬も「月額5~6万円」と高くなります。


後見人が決まるまで数ヶ月が必要!老人ホームにすぐ入所したいとき

後見人の申し立てをしてから、実際に預金を引き出せるようになるまで、およそ3ヶ月程度必要となります。しかし、お母様の状況から、入居を急がなければならない場合もあるでしょう。そのときは、以下の方法で対応することができます。


「これから施設を探す」場合

入居金が高額で、子供が立て替えることが難しい場合もあります。そのときは「入居金0円プラン」のある施設を選ぶことで、初期費用を抑えることができます。また、月々の支払い方法は「振り込み」ではなく口座引き落とし」ができる施設を探しましょう。引き落とし口座にお母さまの口座を指定すれば、毎月の費用はそこから引き落とされます。


「すでに入居契約が済んでいる」場合

お母さまの口座から老人ホーム側へ直接振り込みができないか、金融機関に相談してみましょう。老人ホームと交わした「入居契約書」を提出し、金融機関が「間違いなく本人のために利用する」という判断に至れば、家族の同意のもと入居金の支払いに応じてくれるかもしれません。


認知症になる前であれば「任意後見」や「家族信託」という制度もある

では、親が認知症になる前に、将来の金銭管理を任されていた場合はどうでしょうか。

これも口約束であったり委任状では効力がありません。法的に行うためには「任意後見」または「家族信託」という二つの契約方法があります。認知症になる前に、何れかの契約を交わしておくことで、後の財産管理ができるようになります。

●任意後見契約
本人に判断能力が無くなった際に、家庭裁判所で認められれば任意後見人として財産管理ができます。
●家族信託契約

認知症の有無に関わらず、委任者が本人の代わりに財産管理をすることができます。

どちらの契約も、判断能力が失われる前に時間をかけて準備するものです。契約内容を考えることも難しいので、弁護士司法書士といった専門家に相談すると良いでしょう。


>関連リンク:任意後見制度とは




まとめ

親が認知症と診断されたとき、事前準備をしておかないと簡単に預金を引き出すことができません。そのときは、本人に成年後見人を立てることになります。

ただし、後見人が決まるまで3ヶ月程度かかるため、急いで入居が必要な場合は「入居金0円プラン」のある老人ホームを選択すると負担を軽減できます。また、月額費用も「口座引き落とし」ができないか施設に相談してみましょう。

身近に相談できる相手がいなければ、担当のケアマネジャー、地域包括支援センターの窓口、本人の口座がある金融機関など、本人に関わるあらゆる機関や、法律の専門家にも相談してみましょう。

本人や家族にとって、より良い選択ができることを願っております。

このQ&Aに回答した人

桑野 恵子
桑野 恵子(1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®)

1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®
ファイナンシャルプランナーとして、1人暮らしの高齢者を定期訪問、見守りサービスをしています。また、任意後見と遺言、相続のお手伝いもしています。
母は92歳の今も元気で認知症グループホームで暮らしています。
毎月現場を見て、ヘルパーさんやケアマネさんとお話をさせて頂いています。
コーディネート (株)優益FPオフィス