認知症による暴言・暴力へ対応するには?

認知症の症状と、それに対する不安や恐怖が、様々な要因で暴言や暴力につながってしまうことがあります。ご家族や介護者の方は、対処に困ることが多いでしょう。ここではそのような認知症による暴言・暴力とその対応法を解説します。

暴言・暴力の「理由」

全ての認知症の方が暴言や暴力を起こすわけでも、認知症の進行で常にみられるわけでもありません。認知症の人が暴力・暴言に至ってしまう要因には様々なものがあり、多くの場合、複数の要因が運悪く重なってしまった結果、暴言や暴力に至ることがほとんどです。

言い換えれば、暴言や暴力につながる要因を推測し、そのどれかがうまく解消できれば、このような悲劇が生じる可能性をぐっと下げることができます。
1つの事例で考えてみましょう。

なじみの歯医者に一緒に通院する途中、突然「ひどいことしないで!」と大声で叫びだし、ご家族に殴り掛かったAさん

Aさんは、どんな原因から、このように暴力的になってしまったのでしょうか。

要因1:不安を感じ、混乱している
認知症の人は現状やこれから起こることをうまく理解できず、いったん理解したとしても忘れてしまいます。常に不安や混乱と隣り合わせです。私たちでも、なぜそこにいるのか、その人は誰か、これから何が起こるのかわからならければ、心細いのではないでしょうか?
この例では、歯医者に行くという状況を道中で忘れて混乱しています。ただし、論理的な記憶より感情的な記憶は残りやすいので、「あまり気が進まない不安なところに連れていかれる」という感じは覚えています。その不安や混乱が要因の1つと考えられます。
要因2:感情のコントロールがうまくいかない
認知症の人は多くの場合、感情のコントロールが難しくなっています。感情を抑制し冷静な思考や行動を行う大脳の前頭葉という部分が委縮していることが多く、ご本人の意思や性格に関係なく、恐怖や不安、怒りで興奮してしまいます。いったん生じた感情の暴走は容易には収まりません。
この例でもご家族は「落ち着いて!」と抑えましたが、大きな声で注意されたことで、Aさんはかえってパニックになってしまいました。
要因3:周囲の感情に巻き込まれている
認知症の人は論理的な理解が難しくても、周囲の感情を読み取ることは得意です。その場で起こっていることを、身近で頼りになる人の表情や態度で理解します。ただし、その感情がどのような理由のものなのか、誰に対するものなのかまでの理解は難しいのです。
この例の場合、通院がうまくいくか、ご家族は険しい表情をしていました。Aさんが暴れると、外出先での身内の暴力に、恥ずかしさと困惑で顔を真っ赤にしました。それを見たご本人もさらに不安になり、2人の間で否定的な感情の相乗効果をもたらしました。
要因4:自尊心が傷つけられている
誰でも自尊心が傷つけられれば怒り、悲しみを覚えます。認知症の人は、認知症という病識はない場合でも、自分の能力低下を自覚しています。そのため、試されるような言動や、のけ者、はれもの扱いされるような自尊心が傷つけられる場面には過敏に反応してしまいます。
この例の場合、ご家族はつい何度も「(歯医者に行くのは)大丈夫よね?」という言葉を繰り返してしまいました。私たちは本当に大丈夫だと思っている相手には「大丈夫?」と言わないものです。弱い立場にいる人に対して、「大丈夫?」は、悪気がなくとも自尊心を傷つける言葉として作用し、Aさんの言動につながってしまいました。
要因5:体調が悪い・不調である
認知症の人は自分の痛みや体の不調を正確に理解し、周囲に伝えることが難しいものです。
私たちは傷んだものを食べてしまったことを頭で理解できれば、腹痛に耐えることも、医者にかかるなど状況を改善する手段をとることもできます。それがうまくできない認知症の人にとって、痛みや体調不良は想像以上にストレスを感じるものです。
この例の場合、「なんでこんなに痛いのか」といらだち、「痛みを解消するために歯医者に行く」ことを理解できず、「こんなに痛いのにどこに連れていく気だ」と思っているのかもしれません。

その他にも暴言・暴力には様々な原因が挙げられます。その中には認知症の種類によって、強く現れる、もしくは特有のものがあります。

例えば脳血管性認知症では、感情のコントロールが利かない感情失禁が強く現れます。レビー小体型認知症では恐ろしい幻視を見て、それから逃れるために暴力がみられるかもしれません。前頭側頭型認知症では、より暴力的な言動が現れやすくなるかもしれません。

認知症の種類についても、合わせてご覧ください。

認知症の種類

暴言・暴力が起きたときの対応法

暴言や暴力が現れた場合、一番よくない対応は、力や言葉で対抗することです。自己防衛のためには仕方ない場合もありますが、抑えつけたり、叱りつけたりすることは、原則として双方に深い傷を残すばかりで、状況の改善にはなりません。

一方で、ご家族はご自身を責めてはいけません。どれだけ愛情をもって介護していても、このような事態は起こってしまうものです。また、暴言暴力に怒りや憎しみを感じたとしても、おかしなことではないのです。

「暴力」という状況に、ご家族や周囲の人々は過敏に反応せず、以下の対応をとってみてください。

物理的な距離をとる
まずは、暴言や暴力に巻き込まれないため、可能な限り物理的に距離をとってください。他に対応できる人がいれば交代してみましょう。ご本人は、あなたを傷つけようとしてそのような行為をとっているわけではありません。ご本人にとっても、あなたが傷つくのは不本意で悲しいことなのです。あなた自身とご本人を守るために、まずは距離をとってください。
感情的な距離をとる
物理的な距離がとれたら、対応する人の感情をクールダウンしましょう。少し離れてもまだご本人の感情に巻き込まれるようなら、全く見えない場所に移動しましょう。冷静になれる言葉や歌を思い浮かべたり、全く違う気分になれるものを見たりするのもよいかもしれません。
誰かに話す・相談する
身内に暴言や暴力を向けられるのはとてもつらいことで、他人にも話しづらいものです。他人に話したってなにも変わらないと思うかもしれません。しかし、誰かに「話す」ということは、辛い体験から距離をとり、悲しみを癒す強力な手段なのです。ご家族同士でもよいですし、ケアマネジャーなどの身近な専門職、介護家族会でもよいでしょう。話す相手が見つからないなら、日記やノートに記録するだけでも効果があり、今後相談するときの資料にもなります。

暴言・暴力の予防と改善策

暴言や暴力を防ぐには、まず、起きたことから学ぶことが大切です。ご本人が暴言を発したタイミングや状況、暴力を起こした引き金になるものを振り返り、要因をチェックしてください。
ただし、要因がわからなければそれで構いません。何が悪かったかと思い詰めるのはむしろよくありません。後述のようにケアマネジャーなどに相談してわかることもあります。

日頃のコミュニケーションで注意すべきこと

ご本人が不安や混乱にはまり込まないようにしましょう
今、ご本人がどのような状況に置かれ、これからどうすればいいのか、わかりやすくご本人に伝えましょう。忘れてしまうことも想定して、何度もていねいに伝えてください。メモを作ってみるのもよいでしょう。
否定しないようにしましょう。
ご本人は常に悪戦苦闘しながら現実を理解し、自分なりの答えをみつけようとしています。たとえ現実とずれていたとしても、それを否定しないことです。直接に否定せず、無意識に「でも」「だけど」とつけた言葉にも、「否定された」と感じてしまいます。
自尊心を傷つけないようにしましょう。
例えば、できないであろうことを「できる」と主張し、結局できなかったとしても、はじめから「それは違う、できないでしょう」と否定されれば、誰でも自尊心は傷つきます。「わかる?」「できるよね?」と確認されるのも、いささか自尊心が傷つくものです。
ご自身の感情を大切にしましょう。
誰でも、話している相手が苛立っていれば自分も苛立つもの。認知症の人は感性が優れ、こちらの感情を映し出す鏡でもあります。相手の負の感情を敏感に返してきます。
しかし、ご家族が苛立ってはいけない、怒ってはいけないということではありません。否定的な感情がわいたら、それを自覚し、しっかりとストレス解消することが大切なのです。作り笑いではないご家族の笑顔が、ご本人の笑顔につながります。
ストレスを軽くする認知症の介護の方法

ケアマネジャーや医師に相談

ケアマネジャーや介護の専門職に相談するのもよい方法です。ご本人へのよりよい対応へのヒントになるかもしれませんし、同じような事例で効果的だった対応策などを教えてくれます。ご自身では気が付かなかった要因を発見してくれることもあるでしょう。

ショートステイなどを利用することで、ご家族が一時的に介護を離れられるレスパイト(休息)を提案してくれることもあります。

医師や医療機関も心強い味方です。内科や整形外科で痛みや体の不調をチェックし改善することで、暴言や暴力が収まる場合も少なくありません。精神科や認知症専門医ならば、適切な向精神薬の処方も行ってくれますし、現在飲んでいる薬の副作用も考慮して調整してくれます(ただし、強力な薬剤を用いて過度に安静にさせるのは危険ですし、暴言や暴力をなくす魔法のような薬や方法はありません)。

大切なのは多くの人を巻き込み一人で抱えないこと、様々な立場の専門職の目で要因を探ることです。

暴言や暴力は、これまでの状況がうまくいかなくなっているSOSであり、意図して誰かを傷つけるためにしているわけではありません。暴言や暴力を受ける悲劇もありますが、愛している家族に暴言や暴力を向けてしまうのも悲劇です。

ご本人が抱えるその悲劇は、1人で立ち向かうには重いものです。ご家族や介護者は、ご本人のSOS信号をしっかり受信し、多くの人に伝えてください。そうすれば、その悲劇は長く続くことはありません。社会全体がそのSOSをうまく受け取ることができ、笑顔を取り戻す支えになれればと思います。

著者

志寒浩二

志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

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