【2021年最新】認知症リハビリ|いきいきとした心を取り戻す「回想法」

認知症・回想法

回想法とは、認知症のリハビリテーションに用いられる手法の一つです。

会話しながらその方の人生を振り返ったり、写真や映像を見て過去を思い起こすことで、気持ちの安定やコミュニケーションの活性化に繋がります。

ここでは回想法の方法やその効果について解説します。

回想法の始まりと発展

回想法は1960年代にアメリカ老年学の草分けともいわれる精神科医、ロバート・バトラー氏によって提唱された心理療法です。

高齢者が昔の話を何度も繰り返すのはよく見られることですが、当時のアメリカの精神医学では、そうした行動は一種の病的状態であるとみなされていました。

しかし、ロバート・バトラー氏は、そこに高齢者の生きる力を引き出すポジティブな意味があるととらえました。

回想法は、思い出を引き出すために写真や絵画などを使うこともありますが、原則として道具を必要とせず、支援者が受容的な態度で過去の思いを共感しながらコミュニケーションを重ねていく方法です。

個人で行うことも、グループで行うこともできます。

そうした手軽さもあり、当初は特別養護老人ホームやデイサービス、病院などでレクリエーション活動として行われていましたが、現在は次第に公民館や敬老館など高齢者の集いの場にも広がりを見せています。

回想法でみられる効果

人はなぜ回想するのでしょうか?

楽しかった思い出を追体験するためでしょうか? 苦しかったころを思い出し、生き抜いてきた自分を再確認するためでしょうか?

どんな人でも、回想には素晴らしい力があるものですが、特に回想法を認知症の人に行ってもらうことで、以下のような効果が期待されています。

自己を再確認する

いま置かれている状況がわからなくなり、周囲の人々と自分との関係、時には家族であることさえも見失ってしまう。それはとても不安で苦しいことです。

回想によって、自分がどのように生きてきて、どのような存在であるのか

両親や兄妹、自分の育てた子どもたち、どのような人々に囲まれていたのかを取り戻すきっかけができます。

昔と今と未来をつなぐ

昨日と今日、明日をつなぐ時間の流れ。

私たちにとっては当然のことですが、認知症によって、時間の見当識が混乱すると、遠い過去や現在の認識が入り乱れ、いま何年で何歳なのか、季節はいつなのかわからなくなります。

過去の足跡をたどり、今にたどり着き、明日を想う。回想にはそのような力もあります。

自信と希望を取り戻す

認知症の人には認知症の自覚がないというのは、愚かしい誤解です。

自分だけでできることが少なくなったり、様々な失敗を引き起こしてしまったりと、自分に対する情けなさや失望を感じ、何かがおかしい、自分はどうなっていくのだろうという不安や苦しみを抱えておられる人がほとんどです。

様々なことを成し遂げてきた自分の歴史と生き生きとした思い出を振り返り、自分への自信と誇りを取り戻し、不安を和らげ、明日への力を生み出す。

回想を通して、そうした希望と自信による活力をもたらすことができます。

コミュニケーションを深める

思い出話に花を咲かせるのは、とても楽しいものです。戦時の苦しみ、高度成長期のにぎわい、子どもが育ちゆく喜び。

同時代を生き、体験が共有できる仲間と交流するのも回想法の効果の一つです。また、若い世代に自分の生きてきた時代の苦労や喜びを伝え、歴史を教え導くのも誇らしいでしょう。

そうしたコミュニケーションを深める効果も期待されます。

回想法は、認知症・認知機能を改善する、認知症を予防するといった科学的立証がされているものではありません。

しかし、回想法によって混乱や不安がおさまり、結果として、本来あった能力が引き出せるようになり、人間関係が改善する可能性はあります。

認知症を改善する、予防するという直接の効果を期待するのではなく、あくまで、ご本人の歴史に敬意を抱き、持っている力を発揮していただく方法と考えましょう。

回想法の実例

猫の思い出から“家族”を取り戻したAさん

Aさんは自分がいくつなのか、ここがどこなのかもあやふやになっていました。お子さんの名前を思い出せないことにも気づき、「わからない、わからない」と混乱しパニックに陥っていました。

そこで、私が「一人暮らしでさびしくて猫を飼いたい」と、猫の写真集をお見せしました。

かわいいかわいいと猫を見ているうちに、昔、ご自身の飼っていた猫の話題になりました。

「猫はかわいいんだけれど、こういうオイタもするのよね」と嬉しそうに今いる部屋の壁紙の傷を指さしました。実際にはここは入居しているホームなのですが、どうやらこの瞬間、Aさんはここを「家」として認識し、安心したようです。

「あとね、死んだときがかわいそうなのよ、〇〇がえらく泣いちゃってね」と自然にお子さんの名前も取り戻しました。

「猫って10年は生きるからね、あたしもお迎えまでもう一回は飼えるかしら?」と、いたずらっぽく微笑むAさん。ご自身がおおよそいくつなのかも取り戻したようです。

味噌は財産!のBさん

「お金がない、どうしよう」が口ぐせのBさん。そこからいつしか、周囲にお金を盗られたと不安になることも多いようです。

Bさんに出身地の名産の豆みそをお見せしました。「なつかしいねぇ!」と喜ぶBさん。

この味噌を買ってきたという私に、「今はそうだよねぇ。昔は手作りしたもんだよ」と誇らしげな表情。

「戦後の貧しい時期はね、味噌を譲ってくださいと、わざわざあたしの住んでる田舎に来る町の人もいてね」「手間暇かかるし、豆で栄養もあるからね、貴重なもんだよ。お金みたいに大事にしてたね」。

私が「味噌を手作りなんて想像できない!」というと、「どうだい!あたしも大したもんだろ?ひと財産稼げるね!」と。

「それで、その味噌でどうすんだい?味噌汁つくろうか」と晴れ晴れとした張りのある声で台所に向かうBさんでした。

回想法の基本と実践方法

回想法は個人で行う場合と、グループで行う場合があります。実施する場所もご自宅や、デイサービスなど介護施設で行うこともあるでしょう。

ここではまず回想法をする際の基本的事項を挙げ、次いでご自宅で個人に対して行うケースと、介護施設でグループに行うケースについて実践方法を解説していきます。

基本的事項

プライバシーを守る

回想は時として非常にプライベートな事柄も引き出します。

ネガティブな人間関係、性的なものや死の話題など普段なら触れたくないことにまで話が及ぶこともあります。不用意に他人に伝わってしまうことのないよう環境に配慮し、秘密保持を厳守しましょう。

他人の反応から本人の尊厳を守る

ある人が話した過去の経験に対して、他の参加者がそれは事実と違うとか、こうすればよかったとか反論する可能性はあります。

また、赤裸々な過去に対して、実施側がネガティブな表情や態度を示してしまうことも。

回想法は記憶テストでもありません。事実と異なったり、話すたびに内容が違ったりしていても、それは語り手のその時の真実です。

また自分や世間一般と大きく違う経験があろうとも、尊重されるべきでしょう。

せっかく心を開いたご本人を傷つけないよう、回想を通して、その人に学び、敬う。周囲にはその態度が大切です。

タブーに触れない

人間は語りたくない過去もあるものです。それを不用意に他人が探ろうとするのは、あまりにも無礼です。

事前に触れられたくないだろう話題にあたりをつけ、その話に流れそうになったらどうするか想定し、話したくない表情やそぶりに敏感でいることが大切です。

無理強いはしない

どの心理療法でも、ポジティブにもネガティブにも心は大きく動き、少なからぬ疲労や興奮が残ります。

特に認知症の人は脳が疲れやすくなっています。何かを思い出すというのは、とてもエネルギーが必要です。疲れた表情や口ぶりが出たらきりのよいところでさっと終わりましょう。

心地よく終える

回想法に限らず他の心理療法でも、「クロージング(終えること)」の場面が大切だとされています。

苦しい思い出や後悔を最後に話して終えると、日常まで辛い思いを引きずってしまいます。

楽しい思い出や、希望の持てる話題で締め、終了後は落ち着ける音楽や、静かな環境、美味しいお茶やおやつを用意するなど心地よい余韻を楽しめる工夫が必要です。

自宅で行う場合のポイント

日常的な環境にいながら、遠い非日常の昔に戻るのは一苦労です。過去の事を話してもらおうとしても、目の前の冷蔵庫があればその中身の話題に戻ってしまうことも。

集中してゆったり話せる空間や、写真集のような過去への鍵となるアイテムが必要かもしれません。

一方で、現在の自宅は過去の歴史の集合体とも言えます。写真立てやアルバムの写真、飾ってあるお土産物にふれるのも効果的です。

実施者がお嫁さんやお子さんなど近い間柄の場合、思い出のとばっちりが来るかもしれません。

ご本人の嫁入りの話題だったのに、「嫁の心得」や「ダメ出し」に話が移ったりして……。近い間柄ならそういったパターンやタイミングも把握し、否定せず傾聴する覚悟は必要かもしれません。

自宅なら、料理の話題になったら実際の料理に取り掛かって終結したり、お気に入りの人形や写真で終結するなど、クロージングはしやすい環境です。

介護施設で行う場合のポイント

介護施設でグループに対して回想法を行う場合、秘密保持や他者からの異見や論争に十分に気を付けましょう。

特にプライベートで重要な話題に触れた場合、終結後にもその情報を職員で共有し、配慮し続けることが必要です。

その場では何事もなく終わっても、後に「あの人はこういう生い立ちなんだって」「子どもとこういう関係らしいよ」など噂になっては、ご本人の尊厳にかかわります。

深い話題に入り過ぎないよう事前に下調べをする、話題転換のシミュレーションをする、うまく切り上げご本人を安心できる環境に避難させるなどの十分な配慮をしましょう。

実施者側の思い込みや偏見にも注意すべきです。高齢者が誰でも演歌好きなわけではないし、洗濯板を懐かしがるわけではありません。

実施者が参加者間の世代差・時代背景、社会階層、地域差を考慮せず、ステレオタイプを押し付ければ、不愉快に感じ、参加者同士の論争や断絶、実施者への不信感を生み出すことでしょう。

また、たとえ同じ時代の話題であっても、ある人は興味がなく、むしろ嫌な話題であることもあります。

意見が異なっても仕方がありません。グループ対象であったとしても一人ひとりの歴史や思いによりそい、多様性への配慮は忘れてはいけないのです。

私たちは、過去があるから、今日を生き、未来があるのです。その意味で、過去を振り返る回想は、人間の本質にかかわるものです。

認知症の記憶障害や見当識障害は、ご本人の時間の流れを傷つけかねない不安で苦しいものですが、回想法をうまく取り入れられれば、その人の本来の輝きを取り戻す瞬間が増え、そこから次世代につなげることもできる貴重な経験となることでしょう。

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イラスト:安里 南美

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この記事の制作者

志寒浩二

著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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