認知症による介護拒否への対応

せっかく用意した食事を食べない、お薬を吐き出してしまう、お風呂に誘ったら怒りだしてしまった。認知症介護でみられるこうした現象は介護拒否ともいわれます。

こんなとき、家族はこれまでの介護の苦労とこの先のことを考え、報われない、救われない気持ちになってしまうことも多いでしょう。一方で、ご本人はご本人なりの切実さと理由をもって拒否をされていることが多いのです。

このページでは、介護拒否が生じるときの、介護する側の心得についてお伝えします。

介護拒否の起きる原因と対策

介護全般で考えてみる

介護を受ける人が感じていること

認知症介護に限らず、介護全般で介護拒否が生じる背景として、「介護されている人なら誰でも感じうる気持ち」に思いを巡らせることは、介護拒否対応にはとても大事なことです。

介護を受けることによる自信喪失
介護を受ける人だからこそ、介護されること自体に否定的な思いをもつことがあります。簡単なことも人に頼らなければならない情けなさ、迷惑をかけてしまっているという悲しみ。ありがたい気持ちと同時に、自信の喪失や心苦しさを感じています。
思い通りにならない歯がゆさ
自分でやれば好きなやり方やタイミングで行うことができます。他人の手を借り、多少なりとも自分好みではないやり方やタイミングを受け入れざるを得ない一方で、手を煩わせているという思いから文句も言えず、不満を抑え込んでいることも少なくありません。

介護する側ができる対策

介護を受ける人ができることを一緒にみつけよう
上記のような気持ちから、うつ状態になってしまうと問題ですが、「自分でやるからいい!」という言動が表れることがあります。そのときはまずはご自身でできるところまでやってもらい、どこに手助けが必要なのかを見極めてください。行程のすべてに介助が必要ではないのかもしれません。例えば、服のボタンを掛け間違うなら一番上と下だけを手伝い残りは任せるなど、できない部分だけ必要最小限の介助のみにすることで、ご本人の自尊心は少しでも保たれ、拒否されることは減っていきます。
ご本人の意思を尊重しよう
人は「この人は私を対等な立場で尊重してくれる」という意識があると、その人に対して親和的に行動するようになります。何を着るのか、何を食べるのか、いつ何をするのかなど、可能な範囲でご本人に決めてもらいましょう。また、例えば身づくろいなら最後に鏡でチェックをする、料理なら味見をしてもらって仕上げるなど、重要な決定をご本人に任せてみましょう。このようなことでも、介護を納得して受け入れてもらいやすくなります。

認知症の方の介護拒否の背景

介護一般の基本的な姿勢をふまえてもなお認知症の方が介護を拒む場合は、認知症特有の事情も考えられます。認知症の方がどんなことを感じ介護拒否をするのか、主な理由をみていきましょう。

介護の意義を理解されていないのかもしれません

例えば、汚れた衣服を替えるという目的が理解できなければ、突然服を脱がされるのは怖いことです。認知機能が低下していると、現状や介護の意図を理解してもらうのには時間と根気が必要です。目線の高さを合わせてゆっくり説明すると、納得されるかもしれません。

また、当初は理解しても記憶障害により途中で忘れる場合もあります。「服が汚れたので着替えましょう」など何度か介護の意義をお伝えすることも必要でしょう。

他にしたいこと、気になることがあるのかもしれません

認知症の方は、自分がどのような状態で、何をしたいのかうまく説明できないことがあります。実はトイレに行きたいが伝えられないときに入浴を促されても、ご本人はそれどころではない焦りと漏らしてしまう恐怖があり、暴言や暴力が表れるかもしれません。

また、身体的な不快感や痛みがある場合も、はっきりと伝えられないのかもしれません。便秘や腰痛などが介護拒否の原因になっていることもあります。ご本人の様子や状態を再確認して、ご本人が優先したい事情を解決してから介護を受け入れてもらいましょう。

疲れているのかもしれません

認知症の人は脳が疲れやすい状態にあるといわれています。徹夜明けの眠くて辛いときのように、思考力が低下したり、意識がぼんやりしたりしていることもあります。

そんなときに何かをしてもらおうと思っても困難です。タイミングを替えると、スムーズにいく場合があります。

言葉だけではわからないのかもしれません

例えば道具や視覚などの五感による具体的な手掛かりや情報が、言葉での説明よりも有効なことがあります。

例えば、食事介助が必要な方が口を開けてくれないときでも、自分で箸を持つと食事をし始めたり、入浴を嫌がる方が昔ながらの木桶と石鹸箱を見ると、入浴に意識が向いたりします。逆に、愛用の薬ケースを替えた途端、薬を飲まなくなる方もいます。

ご本人の生活の歴史や習慣を尊重して活かすことが有効です。

負の感情や思い出が邪魔をしているのかもしれません

認知症の人は感情的な記憶が言動により大きな影響を及ぼします。例えば、トイレで失禁してしまう→恥ずかしい、という感情が度重なると、トイレに行くことを避けるようになります。さらに、手荒な更衣介助を経験すると、体に触れられることすら大声で拒絶することもあります。

そのような場合、例えばトイレに花を飾ったり、心地よい照明や音楽が流れる場所でやさしく更衣をするなど、心地よい感情を引き出す環境に変えることでうまくいく場合もあります。

また、介護を受けることで楽になる体験が重なることで、拒否も徐々に少なくなることが多くあります。例えば入浴ができて気持ちがいい、便意が解消されてすっきりと楽になるなど、快い体験を積み重ね、次の機会にはそれを思い出してもらいましょう。

よくある介護拒否シーンの背景と対応

では、現場でもよくみられる6つの介護拒否のシーンと、その対応を考えるヒントを挙げていきましょう。

食事拒否
食事をする環境や、本人の食べる能力、食べている状態などに課題がある場合があります。
食事拒否の背景と対応→詳しくはこちら
服薬拒否
本人が服薬の必要性を忘れている場合と、服薬自体を本当に拒否している場合があります。
服薬拒否の背景と対応→詳しくはこちら
入浴拒否
認知症の人によくみられる拒否のひとつで、衣服の着脱が難しくなっている、衛生を保つ意識が薄れているなどの原因があります。また、入浴を見られるのが恥ずかしいという思いから拒否が生じることもあります。
入浴拒否の背景と対応→詳しくはこちら
着替え拒否
適切な衣類を選び、順番に更衣をすることは、実は十分な認知機能を必要とするとても難しい作業です。また、着替えも入浴同様プライベートなもののため、直に触れられ、隠したい場所を見られることに抵抗があります。
着替え拒否の背景と対応→詳しくはこちら
トイレ拒否
認知症が進むと、尿意や便意を感じづらくなる傾向があります。また、トイレの意思を伝えづらくなったり、場所の見当識障害でトイレの位置がわからなくなることもあります。
トイレ拒否の背景と対応→詳しくはこちら
デイサービスなどの施設への外出拒否
出かける意味や理由が理解できなかったり、準備で家族が慌ただしくしているため「何か大変なことが起こるのでは」「私も手伝わなくては」などと考えてしまうために外出を拒むことがあります。
外出拒否の背景と対応→詳しくはこちら

介護拒否の対応では、視点を変えていくつかのアプローチを試行錯誤していく必要があります。

いずれの対応も、介護を受ける側もする側も無理をしないことが大切です。何かの拒否があっても、重大な生命や生活への危険がない限り、いったん距離をおいて気持ちを落ち着けることがよい結果につながることが多いものです。

今は問題なく行っている介護も、認知症の症状が進行していくにつれ、これまでなかった拒否が表れることもあります。拒否が生じることは確かにひとつの危機的状況ですが、それに対応していく中で新しいサービスを取り入れるきっかけになるなど、さらにお互いが楽になる転換点にもなり得ます。

家族会などで、そうした危機を乗り越えた実例も知ることができるでしょう。決して家族だけ、ひとりだけでは悩まず、周囲にご相談ください。

著者

志寒浩二

志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

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