【はじめての方へ】若年性認知症とは?

認知症は高齢期の病と思われがちですが、若い年代で発症することもあります。

65歳未満の若い世代で発症した認知症を「若年性認知症」と呼びます。

若年性認知症はどのような特徴があり、どれくらいの方が発症しているのか、どのような治療や支援が受けられるのかを解説します。

若年性認知症の状況

東京都健康長寿医療センターによると、2017年度~2019年度に実施した調査では、若年性認知症の患者数は全国で3.57万人と推計されました。

年齢の若さから、本人も周囲も当初は認知症と気づかず、単に疲れているだけだ、体調が悪いなどと思い込んで発見が遅れる傾向があり、医療機関でもうつ病や更年期障害などと診断されやすいため、正確な実態がなかなかつかみづらい疾病です。

若年性認知症の特徴

若年性認知症は単に発症年齢で区分・定義され、症状は高齢期の認知症と変わりません。ただし、若い年齢で発症することにより、発症すると以下のような状況の特徴が見られます。

ご本人や周囲のショックが大きい
まだ心も体も若く元気な年代です。それぞれに仕事を持ち、一家の大黒柱だったり、子育ての真っ最中だったり、ご両親もご存命かもしれません。
「まさかこの年で認知症なんて」と、ご本人も周囲も精神的負担は大きく、ご本人やご家族が抑うつ状態になってしまうこともあります。これまで抱いてきた未来の予想図を変更せざるを得ず、諦めざるを得ないことも出てきます。
経済的打撃が大きい
現状では若年性認知症の人が働き続けることは難しく、上記調査でも発症後約7割が「収入が減少した」と回答しています。住宅ローンが残っている世代でもあり、経済的な打撃は深刻です。
また、家族が介護離職をせざるを得なくなる、子どもの教育資金が不足してしまうなど、経済的困難を抱えることが多いようです。
能力がアンバランスである
認知症により障害を受けて低下した機能と、それ以外の、まだ高度に保たれている機能や身体的能力のアンバランスさが、ご本人にとっても周囲にとっても辛い場合が少なくありません。
例えば、これまでの仕事を行う高度なスキルや能力は残されているのに、記憶障害や見当識障害による道迷いなど、基本的な失敗から退職せざるを得ず、悔しい思いや歯がゆさを感じることも多いようです。
専門のサービスや支援が少ない
若年性認知症は高齢期の認知症に比べ有病者の絶対数が少なく、専門サービスや支援がほとんどありません。結果として、高齢者向けや障がい者向けのサービスを利用せざるを得ないことが多くなります。

若年性認知症と診断されると「精神障がい者保健福祉手帳」を取得できます。血管性認知症やレビー小体型認知症など身体症状がある場合は、「身体障害者手帳」に該当する場合もあります。

これらの手帳があれば、税制の優遇措置、公共交通料金や施設の利用料の割引などの利益があり、企業の障害者雇用枠として働き続けることが可能となる場合もあるでしょう。

そのほかに医療費控除、高額療養費、高額介護サービス費、高額医療、高額介護合算療養費制度などもある。住宅ローン、生命保険、国民年金保険料の免除などを受けられる場合もあるので活用してみてください。

若年性認知症の原因(種類)

若年性認知症は、ほぼ高齢期の認知症と同様の原因(基礎疾患)により発症します。

上記調査によると、若年性認知症の原因である基礎疾患別に見ると、アルツハイマー型認知症が最も多く、52.6%を占めています。

続いて血管性認知症が17.1%、頭部外傷後遺症が9.4%、頭部外傷による認知症が4.2%、レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症が4.1%、アルコール関連障害による認知症が2.8%となっています。

脳梗塞などによる脳血管性認知症、事故などで頭部外傷を負ったことによる頭部外傷後遺症など、若い世代でも脳血管障害や事故などで突然認知症になる可能性があることがわかります。

また、20~40代という特に若い年代で発症し、遺伝的な素因が推測される、家族性アルツハイマー病と呼ばれる疾患もあるといわれていますが、親が認知症になったとしても、子供がかかる可能性は低いといわれています。

原因から考えても、認知症は年齢に関係なく、誰しもなりうるものであるといえるでしょう。

若年性認知症の症状

若年性認知症は、高齢期の認知症と同様の症状を示します。特に中核症状は脳の生物学的な機能低下によるもののため、現れる状況などに違いはあっても、症状自体にはほぼ違いがありません。

一方、行動・心理症状は社会的・外的要因による二次的な症状ですので、若い世代がゆえの苦しみもあるようです。

中核症状

若年性認知症の中核症状には以下のようなものが挙げられます。

記憶障害
新しいものごとが覚えられない、起きたことをまるごと忘れてしまうなど、高齢者の認知症と同様のもの忘れが起こります。

取引先との打ち合わせを忘れてしまう、同じ内容の電話やメールを繰り返す、銀行口座の暗証番号が出てこないなど、仕事や人間関係、金銭の管理でトラブルになることが多いようです。
見当識障害
日時や季節がわからない、ここがどこかわからない、親しい人の顔を忘れるなど、時間・場所・人に対して「見当をつける」能力が低下します。

ゴミの回収日を間違える、通勤途中で道に迷う、お得意様をお得意様だと気が付かない、などの失敗が増えてきます。
実行機能障害
ものごとを計画的にこなしたり、順序だてて器具や機械を操作したりする能力が低下します。

手慣れているはずの料理ができない、駅の改札の通り方や切符の買い方がわからなくて途方に暮れる、など生活や仕事の様々な場面で影響が出てきます。
理解力・判断力の低下
ものごとを理解、判断する力が低下します。書類や新聞を読んでも頭に入らなかったり、買い物の支払いも手間取るようになったりします。

自動車の運転も、交通ルールを理解して行動できなくなったり、瞬時の判断が難しくなるなど、危険な状態になってきます。

行動・心理症状

若年性認知症の行動・心理症状には以下のようなものが挙げられます。

不安や焦り、抑うつなど
若い年齢での認知症の発症は大変にショックなものです。仕事や将来のことを考えると不安になり、家族の今後やお金のことを考えると焦り、いてもたってもいられなくなります。自暴自棄になる、閉じこもり抑うつ状態になるなど、精神的な症状が表れます。
妄想や幻覚
仕事でのミスをきっかけに「同僚が自分を陥れようとしている」と主張しだしたり、「配偶者が浮気をしている」と言い出したり、自分が置き忘れた財布を「盗まれた」と言い出すなど、職業や人間関係で築いた自尊心や傷つけられ、それをきっかけに妄想や幻覚が生じることもあるようです。
道迷い・行方不明・徘徊
若いため仕事や家事などで外出の機会も多く、脚力も体力もあるため、遠方までの道迷いや行方不明につながる機会も少なくありません。屋内外にかかわらず、あてもなさそうにうろつきまわる、いわゆる「徘徊」と呼ばれる行動も見られることがあります。

しかし、例えば自宅と職場を取り違えて、その違和感を解消するためにさまよっているなど、本人にとっては決して目的なく行動しているわけではありません。
暴言など攻撃的な言動
ご本人は若くして認知症になったショックや、仕事などを諦めなければいけない悔しさ、先行きが見えない不安、できていたはずのことができなくなった情けなさなどを抱えています。その辛さや些細な誤解から、攻撃的な発言や態度になってしまうこともあるでしょう。

しかし、決して誰かを傷つけたいからとそのような言動をとっているのではありません。やむにやまれず表現された悲しみだと捉えることもできるでしょう。

早期発見・診断が大切

上記厚生労働省調査では、最初に気づかれた症状はもの忘れ(50.0%)、行動の変化(28.0%)、性格の変化(12.0%)、言語障害(10.0%)となっています。

これらの症状が見られても、本人も周囲もまさかこの若さで認知症だとは思わず、早期発見や診断が遅れてしまうことがほとんどです。

しかし、若年性認知症においてはより一層、早期発見と適切な診断が重要です。

うつ病などの精神疾患や更年期障害など、若年性認知症と紛らわしい疾患でも、早期発見により適切な治療や対応が可能になります。

若年性認知症だった場合は、早期発見が以下のような望ましい生活を築くための第一歩になるはずです。

  • 認知症の進行を遅らせる薬物治療を受ける
  • 介護サービスや支援団体の情報を集め、その中から自分に合ったものを選ぶ
  • 理解や判断力が充分なうちに経済的なことや、将来のことを話し合う

かかりつけ医がいれば相談してもよいでしょうし、認知症に詳しい科で診断を受けたいのであれば、脳神経内科、心療内科や精神科などが適切でしょう。

日本認知症学会認定の専門医がいる医療機関ならより安心です。(http://dementia.umin.jp/list_g2/tkt.html

ご本人への問診だけでは気づきにくい症状もありますので、受診時にはご家族や周囲も協力し、気になるエピソードがあれば記録して医師に伝えるなどして、適切な診断につなげましょう。

進行を遅らせること、改善することはできるか
高齢期の認知症と同じく、適切に診断されたとしても、残念ながら根本的な治療を行って進行を完全に止めることはできません。
しかし、抗認知症薬により進行を遅くすることはできますし、本人に無理のない適切なリハビリテーションを行うことで脳を活性化し、認知機能の低下を遅らせることも可能です。
また、若いご本人にはまだまだ気力や体力があります。いままで取り組んだことのない新しい趣味を身に付けたり、これまでやれずにいた旅行や夢を実行することができるかもしれません。
場合によっては就労の継続や支援を受けられる可能性もありますし、いままでは取り組まなかったボランティア活動などで能力を発揮することもできるでしょう。
若年性認知症を予防できるか
高齢期の認知症が完全に予防できないように、若年性認知症も現在のところ完全に予防することはできません。
しかし、脳血管障害からの発症率が高い(上記)ことからも、脳血管障害の予防や生活習慣病の予防が大切なことがわかります。
食生活の改善や、適度な運動、定期的な健康チェックなどが、結果として最大の若年性認知症の予防法となるでしょう。

若年性認知症はご本人にも、ご家族にも大変な試練です。「なぜ私が?」「なぜあの人が?」と苦しみも多いでしょう。

そのような状況を受けて、日本社会も、若年性認知症に対し、積極的な支援体制づくりに取り組み始めたところです。

さらに、若年性認知症の当事者が出版された書籍は、ご本人を強く勇気づけることでしょう。

若年性認知症になっても、多くの人々とつながりたくさんの絆を活かしながら、試練を一人で抱えず社会全体を巻き込んで、しなやかに進んでいっていただきたいと思います。

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この記事の制作者

志寒浩二

著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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