【ストレスを軽くする】認知症介護、5つの心得と7つの原則

「認知症のせいだとわかっていても、つい感情的になってしまう」「そんな自分が情けなく、疲れ果ててしまった」……先の見えない認知症介護。

こんな気持ちになることは決して不思議なことではありません。

ご本人を大切な家族と思い、過去の光景が胸をよぎるからこそ、苦しくなることが多いもの。

ここでは、認知症の方のご家族がその介護のストレスを少しでも軽くするためのヒントや工夫を挙げていきます。

認知症介護をする家族がたどる4つの心理ステップ

認知症介護をする家族が抱える辛さの一つに「先が見えないこと」が挙げられます。これからどうなるのか、暗がりを手探りで歩いているような気持ちになるご家族も多いことでしょう。

そのような時には、認知症患者の家族がたどる4つの心理ステップを思い出すとよいでしょう。

ご本人の認知症が診断されてから、その家族が様々な心理状態をたどり、最終的にご本人の認知症を受け入れ平穏さを取り戻すまでを整理したものです。

今どのような状態にあるのか客観的な目安となり、冷静になることができます。

第1段階 戸惑い・否定

ご家族が認知症を発症し、その変化に戸惑いを覚える時期です。

認知症だろうと頭では理解していても、時には診断が出た後も、「まさかそんなはずがない」「他の病気の影響だ」と認知症を否定したり、「いつもこんな感じですぐに治る」と、症状が表れていること自体を否定しようとすることもあります。

「今から予防に取り組めば治る」と様々な情報を収集し努力をされることもあります。

次第に、否定できないほど認知症が進むと、次の段階に移行します。

第2段階 混乱・怒り・拒絶

次々と表れる症状と変化する状況に「いったいこれはなぜなのか」「どのように対応すればいいのか」と混乱する中で介護に取り組み、多くの事柄を処理し続ける一方、否応なく進行する認知症や症状を示すご本人にも怒りを覚えてしまいます。

その結果、「なぜ私がこんな思いをしなければならないのか」と絶望し、ご本人、時には手を差し伸べてくれる人々をも拒絶するようになってしまうことも。

一方、自分ひとりだけが苦しんでいれば丸く収まるのだと孤立して、一見淡々と介護をこなしているようにみえる方もいるので注意が必要です。

このステップは社会的つながりが特に重要になる時期です。

次々と起こる症状を適切に理解し、対応のヒントを与えてくれる人々、負担や疲れを軽減する各種サービス、共感し先の見通しを伝えてくれる仲間や、介護家族会などとつながり、肩の力を抜いてご本人に向き合えるようになると次のステップに移行します。

第3段階 割り切り・諦め

依然負担感はあっても、認知症を格別の悲劇であるととらえることもなく、割り切ることができるようになります。

認知症は進行するもので予防も治療もできないと諦めを感じている一方で、それとどのようにうまく付き合っていけばいいのか、認知症と、認知症のご本人と共に生きていくことを受けとめはじめる時期です。

「もしこの認知症が起きなかったら私の人生はどうだったか」「他の認知症のご家族はこんなに苦労をしているのか」という思いも時折よぎりつつ、認知症になってもなお愛すべきご家族であることを感じ、現状を肯定していくようになるにつれ、次のステップに移ります。

第4段階 受容

認知症のご本人、介護をした自分自身、そして認知症そのものに対しても受容し、その価値を認めていきます。

「認知症になった母をみて、初めてあるがままの母を知ることができました。私は、母は認知症になってよかったと思っています」、「認知症介護に関わらなければ出会えなかった人々がいた。その人々とのつながりは、今度は自分が認知症になったとき、大切なものとなると思います」と語るご家族もいます。

いつか自分もなるかもしれない認知症、あるがままのご本人、共に生きてきた自分自身の全てをかけがえのないものとして受容し、さらなる未来を考えていく段階 です。

誰しも以上のようなステップをスムーズにたどるわけではありません。また、これは必ずしも一方通行ではなく、時には前の段階に戻ったり、ずっと同じステップに立ち止まっていることもあります。

それでも、いつか受容できることを思いながら、認知症のご本人と共にゆっくりと生きていく指標の一つとして、胸にとどめておくとよいでしょう。

心の負担を軽くする「5つの心得」

前述した4つのステップは、上がるにつれご家族の心が軽くなっています。認知症介護を続けるには、介護者の心の負担を軽くすることは非常に大切なこと。そのための「5つの心得」を知っておきましょう。

1.がんばらない

認知症介護にたずさわるご家族は最善の方法を学び、ご本人のために熱心に介護されていることが多いのですが、しばしば介護者ご自身の疲れや苦しみがないがしろになっています。また、ごく自然な老化に起因することなど、どうしようもないことについてもご自身の介護努力と関連付けて、必要以上にがんばってしまう様子もみられます。

過度ながんばりの裏には、元気なままのご家族であってほしいという愛情と、それが叶わないかもしれない悲しみが横たわっていることでしょう。その気持ちを見つめ、あるがままを受け入れ、がんばり過ぎなくていいんだと、まずはご本人よりも「ご自身」に優しくすることが第一です。

2.抱えこまない

「他人に任せることが不安」「認知症を知られることに抵抗がある」など、様々な思いで認知症介護をおひとりで抱え込まれるケースも少なくありません。

医療が進歩した今は介護が長期にわたることも多く、介護は一人きり、一つの家族で抱えこめなくなっているのが社会的な現実。外部サービスなどに介護の一部を任せることは、むしろ望ましい姿なのです。

認知症が進むにつれて、ご本人もご家族も周囲とのつながりが薄れていく傾向もあります。初期の頃から同じ悩みを持つ仲間や、家族会などとつながりをもち、抱え込まない意識を持ち続けましょう。

3.弱音を吐く

「介護は家族への恩返し。やりがいのあるもののはず」と、明るく元気にふるまい、ご家族の介護の愚痴や弱音を吐くことを許さない方もいます。

でも、きれいごとだけではすまないのが介護。どろどろとした不満ややりきれない気持ちは、あってあたりまえです。

時には介護家族会に参加したり、信頼できる友人に話を聞いてもらうなどして、弱音や愚痴を少しずつ、でも「きちんとこぼす」ことも、実は認知症介護にはとても大切なのです。

4.くらべない

認知症の進み方や症状の現われ方は千差万別。「あの人よりも若いのに」「同じ時期に発症したのに」と他のケースと比べるのはあまり意味がないうえ、不幸の始まりです。

他のケースを参考にするのは悪いことではありませんが、介護に正解はありません。ご本人の症状や認知症の進行度が、介護者の介護の良し悪しを反映・評価するものでもありません。

介護者ご本人が、ご本人らしくいられる介護が最もステキな介護だといえます。

5.おわりを考える

認知症は進行していくもの。どのような症状にも「おわり」があります。道迷いで目を離せなかった人も、歩くことが難しくなれば症状はなくなります。

妄想や幻覚などの行動・心理症状も、時が来れば、それすらも失われていくのです。

目の前の苦しみがいつおわるのか、本当におわるのかわからない辛さは確かにありますが、「いつかおわるもの」と気を長くもち、そのおわりを迎えるときにご本人もご家族も笑っていられるように「いま」を過ごしましょう。

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ハッピーな認知症介護のための「7つの原則」

ご本人にやさしく、介護者も気持ちいい認知症介護を行うために、以下のような「7つの原則」も知っておきましょう。

1.ゆったり、ゆっくりを心がける

認知症では脳の情報処理速度が低下するため、ご本人は映画を早送りで見ているように全てが慌ただしく感じられます。

それでも理解しようと努力しつづけるので、ご本人は心も脳も疲れ切ってしまいます。

その結果、ますます理解は遅くなり、なおさら混乱や苛立ちを募らせ、負のスパイラルに陥ります。

介護者が会話も動作も「ゆったり、ゆっくり」を心がけると、時にご本人が驚くほど穏やかになることも多いのです。

2.五感を活かしてコミュニケーションする

私たちは言葉だけでなく、常に五感による情報を受け取り、それを活用しています。

耳が聞こえなければ目をこらし、目が見えなければ耳をすますように、認知症の人の低下した情報処理機能を補うのが、五感の情報です。

認知症の人は常に五感を使って心のアンテナを精いっぱい拡げています。

下の例のように、介護者が五感を活かしたコミュニケーションを意識すると、ぐっと意思疎通が楽になります。

五感を活かしたコミュニケーション例
・声に感情や表情をつけ、質・大きさを工夫する
・顔をしっかり合わせ豊かな表情で対応する
・身振り・手振りを交える
・(ご本人に抵抗がなければ)ご本人にやさしく触れる、さする

3.共感し、感情を合わせる

人には「情動調律」と呼ばれる、相手の感情を読み取りそれに自分の感情を合わせる能力があり、認知症になっても失われにくいものです。

むしろ、周囲の状況をくみ取ってかかわることが難しくなった認知症の人にとって、感情によるコミュニケーションはより一層重要なものになっています。

ご本人が不安な時、介護者が優しい感情を見せていればご本人は次第に安心され、怒っている時、共感しながらも穏やかに接すると介護者につられ穏やかになっていきます。

表情や感情の共有を意識すると、安心感を与え、介護がスムーズになります。

4.認識や心の世界を理解する努力を

客観的な現実ではない認識や考えは、時に妄想と呼ばれ、ご本人を突拍子もない行動に至らせることもあります。

しかし、それはご本人にとってはまぎれもない現実。頭ごなしに否定せず、いったん受け止め、下記の例のようにご本人がそう認識するに至る要因を探ることが大切です。

いつも下記の例のようにうまくいくとは限りませんが、介護者が心の世界を尊重し、理解しようとする態度はご本人にも伝わり、信頼や安心を生み出します。

妄想の原因を知り、理解する

「私を殺すのか」と急に叫ぶ
→ うとうとする背後でかかっていたテレビのサスペンスドラマに心が巻き込まれたため
「迎えが来た!会社に行かなければ!」と興奮する
→ セールスマンのスーツ姿を見たため(「今日は創立記念日。休業のお知らせに来たようです」と声がけすると落ち着かれた)

5.わかりやすく調整する

認知症のご本人は、目や耳に異常はなくても、それを受け止める脳が機能低下を起こしているため、認識能力が低下しとてもあいまいに周囲の世界を認識しています。

薄暗い中に小さな明かりだけが灯っているように感じられたり、耳栓をしているように相手の言葉がぼんやりと聞こえて感じられれば、誰でも周囲を正確に理解できません。

さらに注意力や集中力も低下しています。

わかりやすい言葉で声をかけ、集中できる環境を整え、慣れ親しんだものは変えないなどのような工夫をすると、安心感をもって過ごしていただくことができます。

6.かけがえのない、有能な存在であることを感じてもらう

認知症の当人は何もわからないから楽だろうという誤解をされている人もいますが、実際のご本人はできないこと、わからないことが増え、自分が自分でなくなっていくかのような強い不安や絶望を感じています。

役割や仕事などを通して、自分も役に立つ存在であること、他人のために何かできる力があること、この世にふたりといないかけがえのない存在であると感じることは、そうした不安や絶望の軽減にとても大切です。昔の歌、写真などを通し、ご本人を力づけましょう。

7.外部とのつながりをもつ

認知症が進みコミュニケーションが難しくなると、行動範囲が狭まり、社会的つながりが次第に失われていきます。

ちょっとした世間話、かわす挨拶、なじみの顔と出会うなど若い世代には些細に思えるつながりも、認知症のご本人には残り少ない宝ものです。

また、私たちは、自宅でリラックスするのとは別のよそゆきの顔も大切にしています。認知症の方にも外に出てもらい、よそゆきの顔を使っていただくことは、ご本人の社会性を保つ大切な機会です。

もちろんご家族が孤立しないことにも役立ちますが、加えて、周囲の人々も認知症の方とのかかわり方を学べるという社会的意義もあります。

認知症のご本人やご家族が社会とかかわることは、社会がよりよく変わっていくための大切な基礎ともなるのです。

いくつも心得や原則を書きましたが、一番大切なことはたった一つ。

認知症のご本人を支える「あなた自身」が笑顔でいられることです。ご家族や周囲の笑顔はご本人の笑顔を呼び、笑顔は不安を和らげ、症状の進行を遅らせ、生活の質を大きく高めてくれます。

ご本人だけではなく、介護者である家族ご自身が様々な支援を受けて、がんばらない。無理をしない。それが認知症介護の一番の秘訣なのです。

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イラスト:安里 南美

この記事の制作者

志寒浩二

著者:志寒浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者/介護福祉士・介護支援専門員)

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。

(編集:編集工房まる株式会社)

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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