任意後見制度とは-手続きの流れを解説

人生の最期を準備する「終活」。葬儀や相続について、生前に準備される方が増えています。

しかし、認知症等により判断能力が低下したり、自らの意思を伝えられなくなったりすることもあり得ます。そのような場合に備えるのが「任意後見制度」です。

任意後見制度とは? 成年後見制度との違い

任意後見制度は、将来、判断能力が不十分となったときに備えるための制度。本人の判断能力があるうちに、将来、自らの判断能力が低下した場合における財産管理や介護サービス締結等の療養看護に関する事務について、信頼できる方に依頼し、引き受けてもらう契約を結びます。

この契約を任意後見契約といい、依頼するご本人を委任者、引き受ける方を任意後見受任者(後に、任意後見人)といいます。また、任意後見契約は、公正証書により締結します。

ちなみに、よく聞く成年後見制度と任意後見制度の違いですが、任意後見制度は成年後見制度のうちの一つです。

成年後見制度には大きく2つあります。判断能力が不十分になる前に本人が、ご自身の意思で後見人を決定できる制度が、任意後見制度です。判断能力が不十分になってしまった後に、周囲の方などが申し立てを行い、家庭裁判所が後見人を選定する制度は法定後見制度と言います。

任意後見制度は、なぜ必要なの?

元気なうちに自分のことを決めておけるのが任意後見制度

任意後見制度では、制度を利用するかどうか、任意後見人を誰にするのか、どんなことを依頼するのか、は全て本人が決めることができます。そのため、判断能力低下後も、これまでの生活スタイルを維持できるというメリットがあります。

身寄りない方の施設入所等に備える

施設入所契約を締結する際、身元保証人が必要になります。身寄りがなく、身元保証人が立てられない場合は、身元保証会社との契約、または任意後見人を定めることを前提とする施設もあります。もちろん、これはご本人に判断能力があればという場合です。

任意後見制度手続の流れ 7ステップ

1.任意後見受任者を決める

任意後見人になるためには資格は必要ありません。家族や親戚、友人、弁護士や司法書士等のほか、法人と契約を結ぶこともできます。また、複数にすることも可能です。ただし、以下に該当する人は任意後見人になることができません。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
  • 破産者
  • 行方の知れない者
  • 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
  • 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

2.任意後見人にしてもらいたいことを決める

契約内容を決めよう

契約内容を考える際には、たとえば、身体が動かなくなったら○△施設に入所希望、かかりつけ医は○×病院、墓参りは年○回行きたい等、将来の生活に関する具体的な希望や金額等を記載したライフプランを作成するとよいでしょう。また、病歴も確認し、任意後見受任者に伝えることをおすすめします。

任意後見人にどのような事務を依頼するかは、契約当事者同士の自由な契約によります。任意後見契約で委任することができる(代理権を与えることができる)のは、財産管理に関する法律行為と介護サービス締結等の療養看護に関する事務や法律行為です。加えて、上記法律行為に関する登記等の申請等も含まれます。

任意後見人にペットの世話を頼めるの?

たとえば、食事を作る、ペットの世話をする等の家事手伝いや、身の回りの世話等の介護行為は任意後見契約の対象外です。これらをお願いしたい場合、別に準委任契約を結び、任意後見契約発効後も終了しない旨を定めておくとよいでしょう。

任意後見人に死後の葬儀等を頼めるの?

たとえば、葬儀費用の支払い等、本人の死後事務は、任意後見契約の対象外です。葬儀等死後事務をお願いしたい場合には、任意後見契約とセットで死後事務委任契約を結んでおくとよいでしょう。

なお、上記以外に、入院・入所・入居時の身元保証、医療行為についての代諾も任意後見契約の対象外となります。

任意後見人の報酬はどのくらい?

報酬の額、支払方法、支払時期等は、本人と任意後見受任者との間で自由に決めることができます。

法律上、特約のない限り、任意後見人は無報酬となります。そのため、報酬を支払うためには、公正証書に必ず報酬規定を盛り込んでおく必要があります。また、報酬の支払時期は、規定がなければ任意後見事務終了後となりますので、報酬を定期的に支払うためにはその旨規定に盛り込む必要があります。

報酬は、任意後見人が第三者の場合には、一般的には月5,000円程度から3万円程度が相場です。

なお、任意後見事務を行うに際し必要となった交通費等の経費、本人に代わって支払う医療費や介護サービス利用料等は、本人の財産から支払うことができます。

3.任意後見契約は「公正証書」で締結する

任意後見受任者、任意後見契約の内容が決まったら、本人と任意後見受任者の双方が、本人の住居の最寄りの公証役場に赴き、公正証書を作成します。事情により本人が公証役場に直接出向けない時は、公証人に出張してもらうことも可能です。

公正証書とは、公証役場の公証人が作成する証書のことです。公正証書によらない任意後見契約は無効となりますので注意しましょう。また、公正証書を作成するのに係る費用は、以下の通りです。

公正証書作成の基本手数料 11,000円
登記嘱託手数料 1,400円
登記所に納付する印紙代 2,600円
その他 本人らに交付する正本等の証書代、登記嘱託書郵送用の切手代など

参考資料:法務省民事局発行「いざという時のために 知って安心 成年後見制度 成年後見登記」

4.判断能力が低下したら「任意後見監督人選任の申立て」をする

認知症の症状がみられるなど、本人の判断能力が低下したら、任意後見契約を開始します。任意後見監督人の選任を申し立てましょう。申立て先は、本人の住所地の家庭裁判所です。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です。原則として、本人以外が申立てを行う場合には、本人の同意が必要です。任意後見の手続の流れは、下記の通りです。

手続きの流れは以下の通りです。

1.任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てる
2.任意後見監督人が選任される
3.任意後見契約の効力が発生。任意後見監督人による監督のもと、任意後見人による支援が開始される

任意後見監督人を通じて、間接的に家庭裁判所が任意後見人を監督することにより、本人の保護を図っています。

公正証書に本人が希望する任意後見監督人候補者を記載しておくこともできますが、本人の希望通りの任意後見監督人が選任されるとは限りません。

任意後見監督人の報酬はどれくらい?

任意後見監督人に支払う報酬額は、家庭裁判所が決定します。また、任意後見監督事務を行うに際し必要となった経費は、本人の財産から支払うことができます。

報酬額の目安は「管理財産額が5,000万円以下の場合には月額1万円~2万円,管理財産額が5,000万円を超える場合には月額2万5000円~3万円」(注)です。

注:資料「成年後見人等の報酬額のめやす 平成25年1月1日」東京家庭裁判所

5.任意後見監督人選任後、任意後見受任者は「任意後見人」になる

任意後見監督人の審判が確定すると、任意後見受任者は任意後見人となり、任意後見契約に基づき職務を行うこととなります。

任意後見契約の終了

本人または任意後見人が死亡・破産すると契約は終了します。また、任意後見人が認知症等により被後見人等になった時も、任意後見契約は終了します。

また、任意後見人に不正行為、著しい不行跡、その他任務に適しない事由がある時は、家庭裁判所は任意後見人を解任することができます。解任請求ができるのは、任意後見監督人、本人、その親族または検察官です。

契約内容を変更したり、やめたくなったりした時はどうする?

契約内容の変更は可能です。どこを変更するかにより手続は異なりますが、どの場合でも公正証書で契約します。また、任意後見契約の解除は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任する前か後かで、手続きが異なります。

選任前:本人または任意後見受任者は、いつでも契約を解除することができます。ただし、公証人の認証が必要です。

選任後:正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、契約を解除することができます。申立てができるのは、本人または任意後見人です。

任意後見契約には、即効型、将来型、移行型の3類型がある

即効型とは?

任意後見契約締結と同時に、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てを行い、任意後見をすぐに開始するものです。

ただし、本人が制度や内容について十分に理解できておらず、不利益を被る契約内容になっていたり、任意後見開始後に本人との間でトラブルになったりすることも考えられますので注意を要します。

将来型とは?

本人に判断能力がある時に任意後見契約を締結し、その後、本人の判断能力が不十分となった時に任意後見監督人の選任の申立てを行い、任意後見を開始します。

「将来型」の場合、任意後見契約締結から任意後見の開始まで相当な期間が経過することから、任意後見を開始せずに本人が死亡することもあり得ます。

また、任意後見受任者が、本人の判断能力の低下に気がつかなかったり、本人が任意後見契約を締結したこと自体を忘れてしまったりすることもあり得ます。そのため別途、「見守り契約」を結び、任意後見の発効まで継続的に支援する仕組みを作ることをおすすめします。

移行型とは?

任意後見契約で最も多く使われている類型です。任意後見契約締結と同時に見守り契約(本人の健康状態等を把握するために定期的に訪問するなどして見守るという契約)や任意代理契約(財産管理・身上監護に関する委任契約)や死後事務委任契約(死亡時の葬儀等事務に関する委任契約)等を締結します。

本人の判断能力がある当初は見守り契約や委任契約による支援を行い、本人の判断能力が低下後は任意後見契約による支援を行うため、支援の空白期間がないというメリットがあります。

ただし、本人の判断能力が低下した後であっても、任意後見受任者が任意後見監督人の選任の申立てを行わず、権限を濫用する恐れもあります。防止策としては、委任契約書に「任意監督人の選任請求義務」を記載したうえで、受任者を監督する者を置いたり、受任者を複数にしたりする等があります。

任意後見制度は、老い支度

元気で判断能力がある内に、判断能力が低下した時に備えておくのが任意後見制度。将来、安心して老後を迎えるために自己責任で備える制度であり、老い支度ともいわれます。

任意後見人には、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないという義務があります。

任意後見人を決める際は、信頼できる人であるのはもちろんのこと、自分にとっての最善を常に考えてくれる人を選ぶようにしましょう。

また、任意後見契約を締結するにあたっては残りの人生をどう生きていきたいかをしっかり任意後見人となる人に伝えることが大切です。

著者

三次 理加

三次 理加((株)りか 代表取締役社長 CFP® マイアドバイザー®登録FP)

ラジオNIKKEI第一「ファイナンシャルBOX」等に出演後独立。2012年、経産省・産業構造審議会商品先物取引分科会委員。東京大学「市民後見人養成講座」修了。NPO法人市民後見センターはままつを設立し成年後見制度の普及啓発を行っている。

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