認知症介護はいつまで続く?
認知症介護を行う家族が抱える問題の1つに「先が見えないこと」があげられます。
介護の負担を背負い込みすぎて家族が崩れてしまわないよう、支援やサービスを利用することも方法の1つです。
ここでは、認知症介護や在宅介護の平均期間について説明し、認知症介護のための頼れる支援やサービス、相談先などについて解説します。
認知症介護の平均期間
認知症介護の平均期間は、発症の年齢や症状により異なります。
公益社団法人「認知症の人と家族の会」の調査によると、認知症介護の平均年数は6〜7年ですが、個別の回答を見れば1年〜31年と幅があります。(2019年「認知症の人と家族の介護と暮らしに関する実態調査」)
若い時に発症した方もいれば高齢になってから発症する場合もあり、認知症の介護期間は状況によりさまざまと言えるでしょう。
在宅介護の平均期間
2019年にLIFULL 介護が実施した「介護施設入居に関する実態調査」によると、老人ホームに入居した方が入居前に在宅介護をされていた期間の平均は、約3年という結果でした。
ケアマネジャーがケアプランを作成し、それぞれに必要な介護サービスを受ける手続きを行うことを「居宅介護支援」といいます。アンケート調査結果では、居宅介護支援サービスの利用期間が平均して約3年であったことから、その居宅介護支援の利用期間を「在宅介護を受けた期間」と考えています。
介護を続けるために頼れる介護保険サービス
介護を続けるための手助けになる、様々な介護保険サービスがあります。
介護保険サービスを受けたい場合、要介護認定が必要です。お住まいの市区町村の役所、地域包括支援センターの窓口で申請を行ってください。
要介護認定とは?区分判定基準は認知症も関係する?自宅で受けられる介護保険サービス
訪問介護
利用者ができる限り自立した生活を送ることができるよう、訪問介護員が自宅を訪問し、食事や排せつ・入浴の介助に加え、掃除・洗濯などの日常的な生活援助を行うサービスです。
訪問介護とは?サービスの利用方法と費用訪問看護
看護師が利用者の自宅を訪問し、主治医の指示に基づいて、血圧や体温などの測定により健康状態をチェックし、症状の緩和を行うサービスです。また、健康相談や生活指導により、利用者や家族の精神的不安や苦痛の緩和を行います。
病状の悪化時や急変時は、主治医への橋渡しなど速やかに医療に繋げるよう対応します。
訪問看護とは?サービスの内容や利用条件、費用をまとめて紹介訪問入浴介護
看護職員と介護職員が利用者の自宅を訪問し入浴の介護を行います。自宅の浴槽でサービスを受ける場合もあれば、専用の浴槽を載せた車が来る場合もあります。
利用者の身体の清潔保持と心身機能の維持や回復を目的として行われるサービスです。
訪問入浴サービスとは|利用条件や費用、トラブル事例まで訪問リハビリテーション
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などが利用者の自宅を訪問し、自立した生活や心身機能の回復を目指したリハビリテーションを行うサービスです。
訪問リハビリテ―ションとは通って受ける介護保険サービス
通所介護
要介護認定を受けた方が、自宅での生活を送りながら日帰りで施設に通い、食事・入浴などの介護サービスを受けるものです。
自宅から施設までの範囲によっては送迎もしてもらえるため、検討する際には、その事業所が送迎可能な範囲についてもチェックすると良いでしょう。
デイサービス(通所介護)の内容と種類・費用・利用方法まで解説通所リハビリテーション
要介護認定を受けた方が、自宅での生活を送りながら、通った先の施設でレクリエーション活動やリハビリテーションなどのサービスを受けられるものです。
短期入所生活介護
1日単位などの短期間で入居サービスを利用できるのが短期入所生活介護です。普段は在宅介護を行っている人でも、最短1泊から一時的に利用できます。
ショートステイ(短期入所生活介護)とは?料金や活用法について短期入所療養介護
短期入所生活介護と同様に、日常生活上の支援を受けられるほか、医師や看護師による医療サービスやリハビリテーションを受けることができます。
短期入所療養介護(医療型ショートステイ)のサービス内容と利用方法その他の介護保険サービス
福祉用具貸与
利用者ができる限り自宅で安全・安心に生活が送れるよう、事業者が利用者の状況や生活環境などを考慮し、適切な福祉用具を選択するための援助や貸与を行うサービスです。福祉用具の利用による家族の介護負担軽減などを目的としています。
福祉用具をレンタルするときに知っておきたいこと認知症介護の相談先
認知症に関する主な相談先を紹介します。1人で悩む前に、まずは相談をしてみてください。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、介護や医療、保健、福祉の側面で高齢者を支える相談窓口です。医療・介護・福祉の専門職員が介護に関するサービスや日常生活支援に関する相談に応じています。
近年、認知症の増加に伴い認知症に関する相談にも多く対応しており、介護者への支援も行っています。相談は無料です。
おおよそ人口2〜3万人の圏域ごとに1箇所の地域包括支援センターが設置されています。
対象地域内に住んでいる65歳以上の高齢者、もしくはその人の支援に関わる人が利用できます。そのため、離れた家族について相談したい場合は、対象となる家族が住んでいる地域のセンターに問い合わせる必要があります。
認知症疾患医療センター
認知症に関する専門医が診断・治療を行い、専門知識を有する保健師、看護師、精神保健福祉士が患者や家族からの相談に応じる、地域の認知症疾患対策の拠点です。
そのほか、地域住民への啓発活動として認知症研修会の開催や、行政、かかりつけ医療機関、福祉施設等と連携しながら、認知症の方々が住み慣れた地域で安心して生活できるよう支援します。
公益社団法人 認知症の人と家族の会
認知症の人を介護している家族を中心に、認知症の問題に関心を持つ方々が主体的に組織している団体です。2022年6月時点で会員数は約1万人おり、全国47都道府県に支部が置かれています。
認知症の人と家族が当事者同士で励まし合い、周囲の人たちに理解と支援を与えるための取り組みとして、集う場をもうける、また相談事業などを行っています。
公益社団法人 認知症の人と家族の会介護施設入居という選択肢
在宅での介護は精神的にも身体的にも大きな負担を強いられます。ストレスを抱え込むまで我慢を続けると、本人や周囲の人との大きなトラブルに発展してしまう可能性も。
在宅での介護に限界を感じたら、介護施設への入居も検討してみましょう。
老人ホーム入居者の8割に認知症の症状
株式会社LIFULL seniorが行った「介護施設⼊居に関する実態調査」(2020年)によると、老人ホーム入居者の平均の要介護度は2.7と比較的軽いものの、8割以上の人に認知症の症状があることが分かりました。
「介護度の重い人が施設に入居するもの」というイメージがあるかもしれませんが、老人ホーム入居前に要介護5だったの人は全体の10%以下と、意外にも少数となっています。
このことから、介護度が重度ではなくとも在宅での認知症介護は難しく、認知症の症状が施設へ入居する大きな理由となっていることが分かります。
施設介護でのメリット
「施設に入居すると認知症の症状が進行するのでは…」と心配する人も多いのではないでしょうか。
たしかに施設入居には、認知症を進行させるリスクがあるといえます。行動や考える機会が減ったり、生活の自由が制限されたりすることで、認知症が進行するためです。
しかし、施設だからこそ受けられる認知症ケアもあります。
- 家族以外の人との関わりが刺激となる
- 安全な環境下でのレクリエーション活動で意欲が引き出される
- 栄養のある食事を適切なタイミングで提供してもらえる
- 昼夜の生活リズムを整えられる
これらは24時間その場に専門のスタッフがいるからこそできるケアです。
施設入居によって認知症の症状の進行を遅らせたり、暴力や暴言が減ったり、無気力だった人が意欲的になったりという改善事例もあるほど。
施設介護は懸念点もありますが、うまく活用することでメリットを得られ、ご家族の介護負担も軽減できます。
介護家族が覚えておきたい、4つの心理ステップ
認知症の家族を介護していく中で、「これからどうなっていくのか」「いつまで介護が続くのか」と、先の見えなさにつらくなる人も多いでしょう。
そのような時にぜひ思い出してほしい、認知症の人を抱える家族がたどる4つの心理ステップを紹介します。
第1段階:戸惑い・否定
最初に訪れるのは、認知症を患った方に起きる変化への戸惑いです。周囲の人は、認知症であるだろうと分かってはいるものの、「そんなはずない」「すぐ治るだろう」などと、否定してしまうことがあります。
第2段階:混乱・怒り・拒絶
否定できないほどに認知症の症状が悪化し、介護者が「なぜこんな行動をするのか」「どう対応すればいいのか」と症状に振り回され、心身の疲労から混乱する時期です。
介護者は「どうして私ばかりがこんな思いをするのか」と症状を示す本人への怒りを抱くこともあれば、支援しようとする周囲の人々にも拒絶反応を起こしてしまうこともあります。
この段階になると、一人で介護をこなすのではなく、周囲の人々の支援や国のサービスを頼ることなどが重要になります。
本人の症状や変化を受け入れ、心の拠り所を見つけながら乗り越えていく時期です。
第3段階:割り切り・諦め
症状や変化への理解が深まることで、予防や治療に対する諦めが出る一方、認知症の本人と今後どのように付き合っていくのかを割り切って考えられるようになる時期です。
この段階になると、初期にあった戸惑いや否定はなくなり、苛立ちから諦め、開き直りに変わり、本人の現状を少しずつ肯定できるようになっていきます。
第4段階:受容・理解
認知症の本人や介護をする自分自身をありのまま受け入れる時期です。仕方ないと悟りの境地となり、認知症の負の側面だけではなく、「認知症になってもできること」、「認知症になったからこそ見つけた本人の側面」や「介護をしたからこそ得られたもの」などに目を向けられ前向きな考えができるようになります。
この4つのステップは誰しもスムーズに歩めるものではありません。時には長い間第1、第2段階で止まってしまうこともあれば、戻ってしまうこともあるでしょう。
辛く苦しい時は、こうした客観的な指標があること、苦しさには次のステップが存在することをぜひ思い出してください。客観的に自分と介護者の状況を見つめ直す糸口になります。
認知症介護、5つの心得と7つの原則
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この記事の制作者
監修者:溝井由子(認知症看護認定看護師)
国立がんセンター中央病院看護師として15年間勤務。北柏リハビリ総合病院保健管理局長・副施設長、有料老人ホームマザアス南柏副支配人などを経て、現在はサ高住「麗しの杜」館長補佐・地域連携室長。柏市認知症にやさしいまちづくり会議委員。
啓発活動として、専門職や一般市民向けに「認知症の理解と支援」「認知症予防」講座などを実施。千葉県看護協会長賞受賞。