一人暮らしの家族が認知症に。トラブルへの対策、適切な相談先は?

一人暮らしの家族に久々に会ってみると、「同じ話を何度もする」「冷蔵庫の中に同じものを大量に買い込んでいる」「料理の味付けがおかしい」など、異変を感じることがあるかもしれません。

一人暮らしの高齢者が認知症になった場合、どのようなトラブルが考えられ、どのように対応したら良いのでしょうか。安心して生活を続けるコツや、施設入居を考えるタイミングなどを解説します。

一人暮らしは認知症になりやすい?

一人暮らしと言ってもその生活スタイルは様々です。一概に認知症になりやすいとは言えませんが、一人暮らしをしていることでこのような生活になっている場合は、注意が必要です。

  • 人との会話が少ない
  • 人との交流が少ない

認知症を防ぐためには「社会との繋がり」や「人との交流」が重要だと言われています。実際に、週1回以上友人と交流している人と、まったく交流を持たない人とでは、前者の方が認知症または認知機能障害を発症する可能性が低いことがわかってきています。

なぜなら、人との交流には、以下の2つのことが関係しているからです。

  • 約束
  • 会話

他の人と約束することは、家を出る時間や交通手段を考えるために頭を使ったり、記憶力を鍛えたりするため、脳の活性化に繋がるのです。

また会話は、言葉を発する際や相手の話に合わせるために脳を使います。

そのため、一人暮らしで日常生活の中で人との交流が少なくなってしまうと、認知症になりやすいと考えられます。

一人暮らしの家族の認知症に気づいたら

一人暮らしをしている家族が認知症ではないかと気づいたら、以下の3つの行動を取ってみましょう。いざという慌てないために必要な手順を確認しておくことが必要です。

  • 認知症の診断を受ける
  • 介護認定を申請する
  • 生活の状況を把握する

1.認知症の診断を受ける

まずは、認知症の診断を受けてもらいましょう。基本的には、本人が安心できるように、かかりつけ医に相談してください。

もしかかりつけ医がいない場合は、認知症を専門とする脳神経内科や脳神経外科、精神科や心療内科に相談してください。認知症の進行具合によって、今後の対応が変わります。

2.介護認定を申請する

次に、認知症だと診断されたら、介護認定を申請しましょう。介護認定の申請は、本人が住んでいる地区町村の役所窓口で行います。申請時の持ち物は、以下の4点です。

  • 介護認定の申請書
  • 介護保険被保険者証、または健康保険の保険証
  • マイナンバー
  • 身分証

3.生活の状況を把握する

ご家族は本人の生活状況を把握し、メモをつけておきましょう。「今、何ができないのか?」「どんなサポートが必要なのか?」「一緒に暮らすべきなのか?」など、生活の様子をみておくことが大切です。

日や時間帯によって様子が変わることもあるので、継続的に接することが効果的です。

かかっている病院、常飲している薬やお金周りのことも把握を

生活のこと、特に医療とお金についても把握しておくことが重要です。

認知症により持病の服薬ができていないことがあるかもしれません。また、一人でお金の管理ができなくなっている可能性もあるため、収入状況や財産など、これまで本人しか知らなかったことも、周囲の人が知っておく必要があります。

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認知症で一人暮らしの場合に起こりやすいトラブル

認知症の人が一人暮らしをしている場合、数々のトラブルが発生する可能性があります。とくに注意しておくべきトラブルは、以下の5つです。

火の不始末
キッチンで火を消し忘れる、ガスや暖房器具をつけっぱなしにするなど。
病気(服薬)
夏の脱水や冬の低体温症、薬の飲み忘れや飲んだことを忘れてしまうために起きる過剰摂取による副作用。
事故(行方不明)
信号が理解できないことで起きる交通事故や、危険の察知が遅れるために起きる事故。記憶力の低下から起こる道迷い。
金銭トラブル(不当な契約)
飛び込み営業や高額商品の購入、高齢者を狙った詐欺被害に遭う可能性。さらに、日常的な金銭管理ができないために起こる家賃、電気水道料金などの滞納、未納。
近所トラブル
収集癖によるゴミ収集やゴミ屋敷となるトラブル。その他、物盗られ妄想によるご近所トラブル。
栄養の偏り、低栄養
食生活の乱れや同じものを食べ続けてしまうことによる栄養の偏り、またそれに伴う生活習慣病や認知症悪化のリスク。

認知症を抱える人への対応方法

認知症の方とのコミュニケーションに不安を抱えているご家族も多いのではないでしょうか。こちらが理解できない行動をとり叱ってしまうこともあるかもしれません。

しかし、適切に対応しないと状態を悪化させてしまうこともあります。認知症の人は、知的機能が衰えても、感情の機能はその分繊細に働いています。そのため「なぜ叱られているかわからない」状態となってしまい、ストレスを受け、嫌な感情だけが残ってしまうのです。

また、ストレスがたまり過ぎると、大きな声を出したり暴力的になったりと認知症の周辺症状(BPSD)を引き起こして対応困難となります。

上記を前提としたうえで、好ましい対応は、以下の3つです。

(1)状態や心身の状況を把握し、ありのまま受け入れる
(2)あるときは同情や共感し、ある時は支持・承認するなど細かく配慮する
(3)自我や自尊心・羞恥心・感情を傷つけない

良くない言葉がけは、以下の通りです。

(1)指示・命令語は(見下されたと思われる)
(2)禁止・否定語(その人の考え方や価値観・存在感まで否定してしまう)
(3)指摘・叱責・詰問用語(感情がエスカレートしてしまう)

基本的に、何事に関しても本人の意見を聴いた上で、丁寧に説明してあげてください。押し付けたり叱ったりするのではなく、寄り添いながら心を通わせて正しい行動を教えてあげましょう。

離れて暮らしながら介護をするには?

離れて暮らしている認知症の人をサポートするには、家族だけでは限界があります。

何か問題が起こってもすぐに駆けつけられないため、状況に応じた対策が必要です。一人の時間が増えてしまうと、リスクが高まります。そこで、以下の3つを検討しておきましょう。

  • 介護のキーパーソンを決める
  • 直接自分が手を動かさなくてもいい介護態勢を作る
  • サービスやデバイスを利用して遠隔で行動がわかるようにする

1.介護のキーパーソンを決める

まず、介護を誰がするのか確認しておきましょう。ご家族の他、友人や親戚、ご近所の人などサポートしてくれる人はいませんか?サポートしてくれる人が多いにこしたことがありませんが、メインで介護にあたる人を決めておくといいでしょう。

キーパーソンを決めておくと、一人ひとりの役割分担が明確になり、負担も軽減されます。そうすると、一人が常に介護していなくても良い環境を作れるため、介護疲れの軽減にもつながります。

2.直接自分が手を動かさなくてもいい介護態勢を作る

ご家族だけで介護を行う場合、手が足りなくなったり、距離が離れていてすぐにサポートできなかったりすると、介護者の負担となってしまいます。

そのために、介護のリーダーを決め、実際に食事を作り食べさせる、また排せつ介助などは外部サービスに任せましょう。

ご家族やリーダーとなる人物は、監督的な立場で外部サービスの選択や調整をする形にしておくと、介護の負担を少なくできます。

3.サービスやデバイスを利用して、遠隔で行動がわかるようにする

遠隔でも様子を見守れて、安全性を高められるサービスはいくつもあります。多く普及しているものはGPSで、行方不明になった場合でもすぐに場所を特定できます。

その他、スマートリモコンを使えば季節ごとに室温の見守りができますし、スマートスピーカーでその日の予定を音声で伝えられます。

また、家の中の様子を確認したい場合は、スマートカメラの活用も1つの方法です。
 

安心できる一人暮らしに、頼れる支援やサービス

認知症の介護は、家族だけでは大きな負担になります。とくに、誰か一人の負担が多くなった場合は、介護疲れや介護うつになる可能性があるので、注意しなければいけません。

また、大声・興奮や暴力・さまよい歩き(徘徊)といった認知症の周辺症状(精神症状や行動障害)は、家族やケアスタッフの対応の適切さによっても変化します。

認知症の人が周囲の人に発するサインをいかにキャッチし、不安なく安心して穏やかに暮らすことができるよう調整することが重要です。

そこで頼るべきは、在宅支援サービスです。

認知症の人をサポートする在宅支援には様々なサービスが存在します。相互の連携を図るためにお互いの専門性への理解、情報の共有をしながら「認知症の人の尊厳を守り、その人らしい生きがいを持てる生活」の支援を行っています。

認知症の人をサポートする支援サービスには以下のようなものがあります。

介護保険の通所サービス

デイサービスセンターに通って食事や入浴、排せつなどの介護サービスを受けるものです。送迎が行え、来所時は看護師による体調のチェックを行います。

介護保険の訪問サービス(訪問介護、訪問看護)

スタッフが利用者の自宅に訪問し、食事や排せつの介助、掃除、洗濯などの生活支援を行う訪問介護、主治医の指示のもとで健康管理や療養上の世話を行う訪問看護があります。

見守りサービス

特定の方の安否確認を行います。定期的にスタッフが訪問するサービスから、家に設置した機器で安否確認を行うもの、スマホアプリや電話を利用するものまで様々あります。自治体が提供している場合もありますので、調べてみると良いでしょう。

食事配達サービス

定期的に食事をお届けするサービスです。栄養素をきちんと考えられているので、食事を摂らない、低栄養が気になる方におすすめのサービスです。

日常生活自立支援事業

認知症など、判断能力が不十分な方を対象に、福祉サービスの契約手続きや日常的なお金の出し入れや公共料金の支払い手続きなどを支援するサービスです。

家事代行サービス

家の清掃や、整理整頓、ゴミ出し、お買い物など、文字通り家事を代行してくれるサービスです。

介護保険の訪問サービスにも家事を支援してくれるサービスがありますが、保険内のサービスではルールによってできないこともあります。そうした部分を補うために民間の家事代行サービスを利用するのも一つの手です。

サービスを利用するポイント

介護保険のサービスであれば、1割の本人負担で利用でき、金銭的負担は軽減できます。また、要介護度により、使える上限の金額が決まります。

介護保険外のサービスに関しては、費用負担が大きくなる場合もあるので、いくつかの業者を比較検討しましょう。

また、それぞれのサービスを利用する際には、必ず本人の同意も得て、繰り返し伝えてください。たとえば、何も知らずに訪問介護のスタッフが家に来た場合には、本人を混乱させてしまいます。本人の生活状況や本人の意向を汲み取った上で、適しているサービスに依頼してください。

相談先

認知症に関して、周りに相談できなかったり、知識のある人がいなかったりする場合は、以下への相談をおすすめします。

機関 電話番号 相談できる内容
地域包括支援センター 地域によって
電話番号は異なる
・必要なサービスや制度の紹介
・継続的なケアマネジメント
かかりつけ医 ・医療機関の紹介
・認知症の接し方
認知症に関する電話相談
(公益社団法人認知症の人と家族の会)
0120-294-456
平日10:00-15:00
認知症に関する
知識や介護の仕方
若年性認知症
専用コールセンター
0800-100-2707
月〜土 10:00-15:00
・個別相談
・関係機関への連絡調整
認知症疾患医療センター 地域によって
電話番号は異なる
・もの忘れ・認知症に関しての受療相談
認知症学会専門医 地域によって
電話番号は異なる
認知症専門医の紹介
日本老年精神医学会専門医 地域によって
電話番号は異なる
認知症専門医の紹介
もの忘れ外来 地域によって
電話番号は異なる
認知症専門医の紹介
市区町村の保健所・保健センター 地域によって
電話番号は異なる
地域の医療機関の紹介
都道府県の
高齢者総合センター
地域によって
電話番号は異なる
・認知症など、高齢者とその家族の心配事や悩み事
・法律に関する相談
認知症110番 0120-654-874 ・認知症による電話相談
・専門医の紹介

施設入居をどこのタイミングで考えるべき?

認知症の方の施設入居のタイミングは、ご家族によって様々です。なかには「できるだけ施設に入れたくない」という方もいるかもしれません。

しかし、以下の場合においては、施設への入居を検討する時期かもしれません。

  • 本人だけでの安全な生活が難しくなってきている
  • 介護者の介護による疲れや負担が大きくなってきている

なかには限界になるまでご家族が介護をする場合もありますが、限界になってからでは、家族や本人の負担やストレスを大きくするだけです。また、認知症の症状をさらに悪化させてしまうことも少なくありません。

そのため「この行動ができなくなったら」「こんなトラブルが起きるようになったら」など、ある程度、ご家族のなかで施設入居のタイミングを事前に考えておくと良いでしょう。

また、施設入居のタイミングについては、こちらの記事でも解説しているので、参考にしてください。

在宅介護の限界はどこ?専門家が判断する「老人ホームの入居どき」 家族が認知症、施設に入れるタイミングは?【PR】少人数のグループケアで認知症の方に馴染みやすいホーム・くらら

この記事の制作者

溝井由子

監修者:溝井由子(認知症看護認定看護師)

国立がんセンター中央病院看護師として15年間勤務。北柏リハビリ総合病院保健管理局長・副施設長、有料老人ホームマザアス南柏副支配人などを経て、現在はサ高住「麗しの杜」館長補佐・地域連携室長。柏市認知症にやさしいまちづくり会議委員。
啓発活動として、専門職や一般市民向けに「認知症の理解と支援」「認知症予防」講座などを実施。千葉県看護協会長賞受賞。

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