認知症による買い物トラブル、対策やサポートの方法

認知症の症状は、進行すると日常的な行動にもさまざまな支障をきたします。

「同じものを何度も買ってくる」「高額な商品をいつの間にか買っていた」など、認知症の高齢者の買い物トラブルを耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。

買い物自体は認知機能や運動機能のリハビリにもなるため、本人がやりたいと思っているのであればできるだけ奪わないことが大切です。そのためには、家族や周囲の人によるサポート体制を整えておく必要があります。

ここでは、認知症による買い物トラブルの事例を紹介し、トラブルを防ぐための対策やサポート方法について詳しく解説します。
 

認知症による買い物トラブルの事例

認知症の症状により判断能力が十分でない状態の高齢者は、日常生活の一部である買い物によるトラブルも多く発生します。

独立行政法人国民生活センターの調査によると、認知症等高齢者の消費者トラブル相談件数は2008年から増加傾向にあり、2013年度に過去最高となりました。高齢者人口の増加に伴い、今後もますます増加するといわれています。

判断能力が十分でないことにより、高額商品の購入や不要なサービス契約などのトラブルが多くみられます。具体的なトラブル内容は下記のとおりです。

スーパーで何度も同じものを買う、大量に買い込む

認知症による記憶障害から、買ったことを覚えておらず、同じものを何度も買ってしまいます。

本人は買ってきたこと自体を覚えていないため、同じものが家にあったとしても自分が買ってきたものだと認識することが難しく、何度も同じものを買ってきてしまうのです。

消費期限の管理ができず腐らせる

認知症になると「いつ、どこで、何をした」というエピソード記憶の障害や、料理の手順など計画力の低下が見られます。そのため、「買い物をしたこと」や「買ってきた物」を忘れて同じ食品をたくさん買い込んでしまい、期限内に消費ができず食品を腐らせてしまうことがあります。

また、段取りを立てて買い物をすることができなくなるため、購入時に「何を作るか」「どう調理するか」を考えず購入してしまうため、消費はさらに追いつかなくなってしまいます。

会計せずに持って帰ってくる

認知機能の低下により、論理的思考や判断が難しくなる、または会計したかどうかを忘れてしまうことにより会計を済ませていないものを持ち帰ってしまうことがあります。前頭側頭型認知症(ピック病)の人は、脱抑制があり欲しいと思ったものはそのまま持ってくるといった症状も見られます。

通信販売で必要のない商品をたくさん購入してしまう

カタログやテレビショッピングなどで目にしたものを大量に購入してしまいます。

判断能力が不十分でお金の管理ができないために、健康食品や化粧品といった商品をテレビなどで勧められたままに大量買いしていた…といったケースも多くあるようです。

訪問販売で必要のない契約をしてしまう

訪問販売でのトラブルは後を絶ちません。販売される商品はさまざまで、新聞などあまり金額の大きくないものから、高級な羽毛布団まで多くの事例があります。

判断能力が十分でない状態であるために、自宅を訪問してきたセールスマンに言葉巧みに勧められるがまま商品を購入、または契約するのです。

「必要のない通信回線の契約をし、数万円振り込んでいた」「複数社の新聞が配達されていた」「見たことのない羽毛布団が大量に置いてあった」など、家族が見つけて気がつくケースが多いようです。

なぜ買い物トラブルが起きるのか

認知症の方の買い物トラブルが起きる原因はいくつかの要因が考えられます。

認知機能の低下

認知症の方は記憶障害や認知機能の低下によって、何を買おうとしていたのか、買ったのかを忘れてしまいます。それが不要なものの購入や会計を済ませずに持ち帰ってしまうといったトラブルにつながります。

忘れないようにメモをしていても、書いたこと自体を忘れてしまうのです。

過去の習慣である、買い物が好き
本人にとって買い物が以前から行っていた日常動作の1つだった場合も多いでしょう。習慣として体が覚えているから、買い物が好きだからなどの理由で買い物へ出かけ、トラブルが発生するケースもあります。
常にないと不安
「なくなったら困る」という気持ちから、同じものを大量に買い込んでしまうこともあるようです。不安な気持ちから逃れるための手段として、買い物をしている場合もあります。
悪質な業者の存在

認知症高齢者と気付きながら弱みにつけ込む業者も一定数存在するため、そうした悪質な業者に狙われやすいとも言えます。

また、認知症に限らず高齢者の孤独感につけ込んで不当な訪問販売を行う例も多いと言えます。
 

認知症の方の買い物トラブルへの対策

買い物トラブルを防ぐためには、家族や周囲の人のサポートが欠かせません。日頃から本人の様子を伺い、不審な点がないか、おかしな行動がないかをみておくことが重要です。

前述した具体的な買い物トラブル事例に対して考えられる対策は下記のとおりです。

前提としてー頭ごなしに叱らない

何度も同じものを買ってくる、大量に買い込むことへの対策として、「もう買わないでと言ったでしょう」と頭ごなしに叱ることはあまりおすすめできません。本人は、すでにあるものを自分が買ってきてしまったこと自体を覚えていないためです。

そんな時に「もう買わないで!」と言われたらどう思うでしょうか。

本人の視点に立ってみると、頭ごなしに叱ることは自信を喪失させ、認知症の症状を進行させてしまうなど、悪い影響を及ぼす可能性があります。

失敗をしてしまい、叱責を受けたり苦しんだりして不快な感情が募ると、認知症の周辺症状(BPSD)を引き起こし大声、興奮や暴力、徘徊など対応困難な症状が出て対応困難な状況にもなりかねません。

頭ごなしに叱ることはせずにまずはその行動を受け入れて、その他の対策でできることをしていきましょう。

買い物に行く時は付き添う

同じものばかりを買ってきてしまい消費しきれないことへの対策として有効なのは、家族や周囲の人が買い物に付き添い、必要なものを必要な分だけ買うようにすることです。

同じ食品を買おうとしていたら、本人に気づかれないように元の場所に戻したり、あらかじめ「買うものリスト」もしくは「買わなくていいものリスト」を作っておくのもいいでしょう。

よく行くお店の店員さんに協力してもらう

お店で会計をせずに商品を持ち帰ってしまうことへの対策として、お店の人に協力してもらう方法があります。

認知症の人が買い物に行くのは、なじみのスーパーや近所の商店街が多いです。

何度か買い物をしたことのあるお店の人には、事前に認知症であることを話しておき、店を訪れた際には注意してみてもらうようにするのも1つの方法です。

通信販売は購入のきっかけを排除する

通信販売で不要な買い物をしてしまうことへの対策は、ダイレクトメールなどきっかけとなりうるものを排除することです。

「買い物をするな」といってもなぜしてはいけないのかを理解できないため、そもそものきっかけを排除することで対処するしかありません。

ダイレクトメールがよく届いているのであれば、発送元の会社に連絡をして発送を止めてもらうといった対策を検討しましょう。

成年後見制度を活用する

成年後見制度は、認知症をはじめ精神障害や知的障害が原因で判断能力が不十分な人に代わり、選任された後見人が契約や財産管理などを行う、本人の保護を目的とした制度です。

後見人は、日常生活に必要な買い物以外の契約を取り消したり、購入意思能力がなかったことを理由に契約が無効であることを主張したりできます。

利用したい場合は、本人の住所地の家庭裁判所に申し立てる必要があります。

後見人になるために特別な資格は必要ありませんが、未成年はなれないなど一定の条件があり、親族のほか弁護士、司法書士、社会福祉士などが選任されることが多いです。

成年後見制度とは?スッキリわかる3つのポイント

訪問販売はクーリング・オフ制度を使う

訪問販売で必要のない契約をしてしまう場合の対策は、クーリング・オフ制度を使うことがあげられます。

実際の店舗や通信販売で商品を購入した場合には基本的に適用されませんが、訪問販売や電話勧誘の場合、契約から8日以内であれば契約を解除できる可能性があります。

クーリング・オフ制度は契約を解除できる期間が決まっているため、契約したことになるべく早く気がつくことが重要です。

場合により通販でも返品が可能

通信販売の場合、返品の可否は特約の有無によって変わります。もし、返品特約の記載がない場合は、商品到着から8日以内であれば送料を負担した上で返品ができます。
 

認知症の家族の金銭管理はどのように行う?

同居、別居に限らず認知症の家族の買い物トラブルを不安に思うご家族も多いと思います。

ただし、一方的な金銭管理は本人の自尊心を傷つけてしまいます。まずは家族が管理をする前に、ご本人が安全にお金を使える工夫や、できる限りの対策をしましょう。

対策例1 口座を分けてお金を管理する
普段使い用や貯蓄用など複数の口座に分散して管理をしておくと、多くの金額を使い込んでしまうことを防げます。
対策例2 キャッシュカードを作らない
頻繁にお金を引き出してしまう場合、キャッシュカードではなく窓口でお金を下ろす仕組みにしておくと良いでしょう。

以前までカードでお金を下ろしていた場合には反発を受けるかもしれません。その場合、信頼していないわけではないことや、社会的に特殊詐欺が問題になっていることを受けて、用心として行うことを説明し、納得していただくことが鍵です。
対策例3 家族への相談を約束する
◯◯円以上の買い物は家族に相談するなど、本人と約束をしておくことも効果的です。忘れないよう、大きな字で書いたメモをわかりやすい場所に貼っておくと良いでしょう。

できるだけ本人が管理できるように工夫し、ご家族が管理することは最終手段として考えてください。認知症の方の金銭管理については、こちらの記事もご覧ください。

【専門家が回答】認知症を抱える父の金銭管理が不安。家族が管理すべき?【PR】少人数のグループケアで認知症の方に馴染みやすいホーム・くらら

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この記事の制作者

溝井由子

監修者:溝井由子(認知症看護認定看護師)

国立がんセンター中央病院看護師として15年間勤務。北柏リハビリ総合病院保健管理局長・副施設長、有料老人ホームマザアス南柏副支配人などを経て、現在はサ高住「麗しの杜」館長補佐・地域連携室長。柏市認知症にやさしいまちづくり会議委員。
啓発活動として、専門職や一般市民向けに「認知症の理解と支援」「認知症予防」講座などを実施。千葉県看護協会長賞受賞。

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