認知症の疑いがあるとき、何科を受診すればいいか?
「朝ごはんを食べたのに、忘れてしまった」「暑いのにクーラーを付けなくなる」など、認知症を疑う症状が家族に現れたら、何科を受診したら良いのでしょうか?また、診察はどのように行われるのでしょうか?
このページでは、認知症の場合にかかるべき病院や、受診のコツなどについて解説します。
認知症は病院の何科にかかるべき?
認知症が疑われる症状が出てきた場合、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。かかりつけ医は、これまでの病気や詳しい身体状況を理解しています。そのため、認知症専門の医療との連携がしやすくなります。
しかし、かかりつけ医がいない場合もあるでしょう。かかりつけ医がいない場合は、認知症専門医のいる病院を探す、あるいは認知症を専門とする精神科や心療内科、脳神経外科、老年科を受診することをおすすめします。
認知症専門医とは
認知症が疑われる場合、認知症専門医のいる機関を探してみましょう。認知症専門医とは、日本認知症学会および日本老年精神医学会が認定している医師です。2021年11月時点では、認知症専門医は約2,000人とされています。(参照元:認知症フォーラムドットコム)
認知症専門医のいる医療機関は、日本老年精神医学会、日本認知症学会のホームページから検索可能です。
日本認知症学会
精神科とは
精神科では、認知症の混乱につながる心理症状(BPSD)に対応できます。
精神科は、元々患者さんに寄り添った受診を得意としています。そのため、まずは本人を安心させたいという観点から選ぶなら、精神科が良いでしょう。
ただし、精神科は担当する領域が広いため、認知症専門医を探すといいでしょう。精神科には、認知症専門医がいる場合が多いです。
心療内科とは
心療内科でも認知症診療を行っています。心療内科は本来、心身症(ストレスが身体の反応を引き起こす症状)を診る科ですが、昨今では心療内科でも認知症診療を行う医師が増えています。
精神科や内科など様々な出身科の医師が心療内科を掲げていることもあるので、認知症に知見がある医師かどうかを確かめるとよいでしょう。
脳神経内科・脳神経外科とは
脳神経内科では脳や脊髄、神経、筋肉の疾患を診てくれます。身体を動かすことや考えること、覚えることがうまくできなくなったときに頼りになります。脳が関係している疾患であるため、最近では認知症の対応をしてくれる医師も増えています。
脳神経外科では脳や脊髄の異常から起こる痙攣や片麻痺、意識障害、認知機能の低下などに対応しています。認知症だと思われる症状が脳や脊髄に原因がある場合は対応してくれます。
老年科とは
老年科とは、高齢者の脳や心の病全般に対応している科です。物忘れや理解力の低下、気分の落ち込みや意欲低下などの症状を診てくれます。
老年科の専門医は、日本老年医学会が専門医の認定を行っており、全国に1500人ほどいると言われています。認知症かどうか判断がつかない場合は、まず老年科で診てもらうのも良いでしょう。
もの忘れ外来とは
もの忘れ外来とは、名前のとおり「忘れっぽくなった」という症状に対応してくれる専門外来です。物忘れには、認知症の他にも病気が原因の場合もあれば、加齢による場合もあります。
もの忘れ外来での診察方法は病院によって異なりますが、頭部CT検査や認知症テスト、血液検査などがあります。もの忘れ外来の主な検査については、以下の記事でも解説しているので、参考にしてください。
【医師監修】もの忘れ外来とは?本人が受診を拒否する場合の対応
認知症の検査を本人が拒否する場合もあります。軽度の認知症の場合、本人はまだ大丈夫だと認識していて受診してくれない場合があるのです。
しかし、認知症は、早期発見・早期治療をすることで進行を防げます。そのため、説得をして受診してもらうことが本人の生活の質にも関わってきます。以下では、受診してもらうための方法を解説します。
無理な説得をしない
前提として、無理やり連れていくことはやめましょう。力ずくで連れていくことは余計に不安を煽ります。むしろ逆効果となってしまい、継続的に受診してくれなくなってしまうでしょう。
認知症の受診は、本人の納得がなければいけません。本人が自ら納得して受診するように、ゆっくり時間をかけて説得しましょう。
ストレートに症状を指摘しない
認知症の可能性がある人に対して「少しボケている」「認知症かもしれない」といった発言はしないようにしましょう。
高齢者のほとんどは、自分が昔と比べて変わっていることに気づいています。そのため、ストレートな発言に傷つけられ、受診することによって認知症と診断されることを恐れてしまい、かえって受診を強く拒否するようになります。
本人を不安にさせないためには「認知症」や「物忘れ」といった言葉を使わない方がいいでしょう。
「将来のために念のために行ってみない?」「予防のためにみんな早い段階で診てもらっているみたいだよ」などと伝えてみると進んで受診してくれるかもしれません。
伝える人を変える
また、ご家族の中でも様々な関係性があります。娘・息子が説得してもうまくいかなかったところ、義理の娘・息子から話したことで好転したケースもあります。
ご家族や親族でも難しい場合には地域包括支援センターや馴染みのかかりつけ医なども相談に乗ってくれることがあります。
伝え方の工夫については、こちらの記事でも解説しているので参考にしてください。
【親が認知症検査を拒否!「伝え方」を4つのパートに分け、工夫してみたら……】診察の流れ、検査内容
認知症の検査方法は、主に3つに分かれます。
- 面談
- 一般的身体検査
- 認知症検査
それぞれについて解説します。初めての診察の場合は本人も家族も緊張するので、流れを把握してスムーズに進められるように準備をしておくとよいでしょう。
面談で何を聞かれるか
面談では、これまでにかかった病気や、いつから症状が出ているかなどを聞かれます。しかし、本人が乗り気でない場合、何も話さない可能性があるので、ご家族である程度把握していなければいけません。そのため、以下のポイントは、面談前にメモにとっておきましょう。
- 症状が出始めたタイミング
- どのような症状が出ているか
- これまでの病気
- 症状がでるきっかけとなった病気や事故の有無
- 現在処方されている薬
さらに、本人の現在の記憶力を知るため、朝食や病院までどのように来たかなどを質問される場合があります。そのため、できるだけ本人の口から伝えられるように準備し、家族はフォローできるようにメモなどを準備しておきましょう。
一般的身体検査で何を行うか
認知症に対する検査とともに、一般的身体検査として以下の検査が行われます。
- 血液検査
- 心電図検査
- 感染症検査
- X線撮
これらの検査を行うのは、今後の医療・介護方針を検討するためです。他の疾患がある場合、薬の処方なども変わってくるので、重要な検査になります。
認知症検査で何を行うか
認知症検査では、神経心理学検査と脳画像検査が行われます。病院によって実施する検査は異なりますが、主に以下の検査が行われます。
専門用語を覚える必要はありませんが、どのような検査があるのかを把握しておくと慌てずに済みます。
- 神経心理学検査
- ・改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
・ミニメンタルステート検査(MMSE :Mini Mental State Examination)
・時計描画テスト - 脳画像検査
- ・CT
・MRI
・SPECT
・VSRAD
治療の内容
病院を受診して、認知症が発覚した場合には、治療を行う必要があります。
ただし、現在ごく一部の例外をのぞき、認知症の進行を完全に止める方法や、根本的な治療は見つかっていません。そのため、認知症の治療は、進行を緩やかにすることを目的としています。
主な認知症の治療方法は「薬物療法」と「非薬物療法」の2つです。
薬物療法は、認知機能改善薬や行動、心理症状を抑える薬を使用します。
非薬物療法では、趣味などを通じて、認知機能リハビリや生活リハビリを行います。
具体的な治療方法については、以下の記事も参考にしてください。
認知症の治療方法、つづけ方のポイント認知症による資産凍結のリスクをご存知ですか?早めのご相談を
認知症により判断能力が不十分とみなされると、ご本人にもご家族にも預金がおろせない、不動産を売却できないなど、「資産凍結」に陥るリスクがあります。
備える方法を詳しくみる
本人に告知をするべきか
認知症と診断された場合、本人に伝えるかどうかは、とても繊細な問題です。そのため、医師から本人に直接伝えられないケースもあります。
「公益社団法人認知症の人と家族の会」の2013年の調査によると、医師から説明を受けるケースが多くを占めています。
- 医師から説明を受けた……55.1%
- 家族から説明を受けた……14.6%
- 認知症の診断についての説明を受けていない……18.1%
- その他……5.6%
- 無回答……6.7%
さらに、2019年の医師へのアンケートでは、認知症の告知に関して、以下のような結果になりました。
- 本人と家族に告知する…49.6%
- 家族にまず告知し、本人への告知は家族と相談して決める……34.1%
- 家族のみに告知する……10.7%
- 本人のみに告知する……2.2%
- 告知しない……1.2%
- その他……2.2%
(参照元:日経メディカル)
上記のように、医師によっても告知するかしないかは異なります。そのため、事前に家族と医師で、どのように告知するべきかを相談しておくと良いでしょう。
また、告知とサポート方法を伝えることはセットで考えておくべきです。家族だけで話し合いをせずに、医師とも相談の上、慎重に行いましょう。
認知症と言われて本人がショックを受けないように、元気な頃から家族で話し合っておくことも大切です。
この記事の制作者
監修者:橋本将吉(内科医)
杏林大学医学部医学科を卒業。2011年に株式会社リーフェ(リーフェグループ)を設立し、医大生向けの個別指導塾『医学生道場』の運営と、健康情報の発信を通した啓蒙活動に力を入れる。実際に現役の内科医として診療を行う一方で『医学生道場』にて医学生の指導を行いつつ、YouTuber『ドクターハッシー』としての顔も持つ。