看護小規模多機能型居宅介護とは?
「病気を抱えて医療処置が必要でも、家族と一緒に暮らしたい」「住み慣れた自宅で最期まで自分らしく生きたい」「介護者である家族の負担軽減と、高齢の親の在宅生活を両立させたい」──。
そう考える人を支援する介護保険サービスが、看護小規模多機能型居宅介護(通称:看多機/かんたき)です。看多機を利用するとどのようなサービスを受けられ、どのようなメリットがあるのでしょうか? 対象者や利用料金とあわせてご紹介します。
看護小規模多機能型居宅介護とは?
はじめに、看護小規模多機能型居宅介護の概要をご紹介します。
看護小規模多機能型居宅介護とは
看護小規模多機能型居宅介護(通称:看多機/かんたき)は、介護や看護が必要な人の在宅生活を支援する介護保険サービスです。
介護保険サービスには、自治体に指定された事業所の施設へ通って受ける日帰りのサービス(通い)、施設に宿泊して受けられるサービス(泊まり)、自宅に訪問してもらい支援を受けるサービス(訪問介護)など、さまざまな種類があります。
看多機と似た名称の小規模多機能型居宅介護というサービスは、これらのうちの通い・泊まり・訪問介護が一体化した複合型サービスです。利用者が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、通いを中心に泊まりや訪問介護を組み合わせ、日常生活上の支援や機能訓練を行います。
看多機は、この小規模多機能型居宅介護に訪問看護をプラスしたもので、通い・泊まり・訪問介護・訪問看護を提供する複合型サービスです。退院後の在宅生活への移行、看取り期の支援、家族の介護負担軽減(レスパイトケア)など、利用者や家族のニーズに応じ、医療的なケアも含めた介護サービスを提供します。
看護小規模多機能型居宅介護のサービス内容
看多機を利用すると、1つの看多機事業所で以下のようなサービスを受けられます。
(1)通い(デイサービス)
利用者が看多機事業所の施設に通って受ける日帰りのサービスです。施設では食事、入浴といった日常生活における支援や、生活機能向上のための機能訓練、口腔機能向上サービスなどが提供されます。
自宅にこもりきりの利用者の孤立感の解消や心身機能の維持、介護をめぐる家族の負担軽減などを目的としており、レクリエーションなど高齢者同士の交流も行われます。
(2)泊まり(ショートステイ)
常に介護が必要な方の短期間の宿泊を受け入れます。宿泊時は、入浴や食事などの日常生活上の支援や、機能訓練などを提供します。宿泊利用回数に上限はありませんが、1日の宿泊定員は9人以下とされています。利用の際は、空きがあるか事前の確認が必要です。
(3)訪問介護
訪問介護員(ホームヘルパー)が利用者の自宅を訪問し、食事・排せつ・入浴などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの支援(生活援助)を行います。
(4)訪問看護
看護師などの看護職員が疾患のある利用者の自宅を訪問し、心身機能の維持回復を目的とした医療的なケアを提供します。主治医の指示に基づき、以下のようなケアに対応します。
- 体温、脈拍、血圧などの測定
- 病状の確認
- 排せつ入浴、清拭、洗髪、排せつの介助など
- ドレーンチューブやカテーテルの管理、褥瘡の処置、在宅酸素、リハビリテーションなど
- 在宅での看取り
看護小規模多機能型居宅介護の利用定員
1つの看多機事業所に登録すれば、上記のさまざまなサービスを受けられますが、名称に「小規模」とあるように、その規模は大きくはありません。
登録定員は最大で29人、利用定員は通いサービスが最大18人まで、宿泊サービスが最大9人までと規定されています。利用定員を抑えている分、きめ細やかなサービスを提供できます。
看護小規模多機能型居宅介護の人員基準
看多機事業所で働くスタッフの人員基準は、以下のように定められています(本体事業所の支所にあたるサテライト型事業所には別途基準あり)。
- 管理者
- 以下のいずれかに該当する常勤の専従者を配置します。
・保健師
・看護師
・認知症高齢者介護に3年以上従事した経験があり、
かつ、認知症対応型サービス事業管理者研修を修了した者 - 日中
- 通いサービス:利用者3人に対し1人以上(常勤換算)
訪問サービス:2人以上(常勤換算)
※いずれも、上記のうち1人以上は保健師または看護師または准看護師 - 夜間
- 夜勤:時間帯を通じて1人以上
宿直:時間帯を通じて1人以上
※泊まりの利用者がおらず、訪問介護サービスに必要な連絡体制が整っている場合は配置しなくてもよい - 看護職員
- 従業者のうち、保健師または看護師または准看護師2.5人以上(常勤換算)でなければならない。
※訪問看護ステーションと一体的に運営している場合は兼務可 - ケアマネジャー
- 介護支援専門員であって、小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修を修了した者
看護小規模多機能型居宅介護の特徴やメリット
では、看多機の特徴とメリットを見てみましょう。
看護小規模多機能型居宅介護の特徴
(1)入院せずに医療的なケアを受けられる
看多機の最も大きな特徴は、通い・泊まり・訪問介護・訪問看護を一体的に提供していることにあり、在宅生活をしながら幅広い医療処置を受けられます。医療処置は医師の指示書に基づいて看護師などの看護職員が提供し、胃ろうの管理、カテーテル類の交換、人工呼吸器の管理なども行います。
(2)家族のケアも行う
通い・泊まり・訪問介護・訪問看護を組み合わせることで、24時間365日サービスを提供し、家族の負担を軽減します。家族が一時的に介護から解放され、リフレッシュするためのレスパイトケアも行います。
(3)地域密着型のサービス
看多機は地域包括ケアを提供する一員として、地域の方の意見や要望を反映した運営を行います。地域ボランティアの方々が「通い」などに協力し、スタッフとともに在宅生活を送っている利用者を支えます。
看護小規模多機能型居宅介護のメリット
(1)医療依存度が高い人も、住み慣れた地域で在宅生活が可能
看護職員による医療的なケアを受けることができるので、医療依存度が高くても、住み慣れた地域での在宅生活が可能です。在宅での看取りも対応しており、利用者は慣れ親しんだ我が家で最期まで自分らしい生活を送ることができます。
(2)サービス内容を柔軟に変更可能
看多機は、通い・泊まり・訪問という3つのスタイルを組み合わせながら、介護と看護を一体的に提供します。この体制により、それぞれの利用者や家族の状態、ニーズに合わせたサービスが可能です。また、家族の状況が変化した場合などは、ケアマネジャーが相談に乗ってくれて柔軟にサービス内容を変更できます。
(3)顔なじみのスタッフによる、きめ細やかなサービス
看多機のサービスは、同じ事業所の同じスタッフが対応します。通いや泊まりに対応してくれたスタッフが訪問介護で自宅を訪れるなど、顔なじみのスタッフによって一貫したサービスを受けられ、安心感があります。スタッフが利用者の変化にも気づきやすく、より細やかなサービスを期待できます。
(4)介護者である家族の負担を軽減
介護者(家族)の介護負担軽減や、介護者の介護離職回避などを支援します。介護者の負担が軽減されることで、利用者の在宅生活が可能になるケースもあります。
(5)登録(契約)は1カ所でOK、高額な初期費用も不要
看多機は1つの事業所に登録すれば通い・泊まり・訪問介護・訪問看護のサービスを受けられ、サービスごとに登録する必要がありません。費用は要介護度に応じた月定額制が基本で、高額な初期費用はかかりません。
看護小規模多機能型居宅介護を利用するには?
看多機の利用対象者や費用についてご紹介します。
看護小規模多機能型居宅介護はどんな人に向いている?
看多機は、介護が必要な人、医療的なケアが必要な人が、在宅生活を送りながら各種サービスを柔軟に受けることができます。そのため、退院後で家族が介護や看護に不慣れな場合、がん末期等の看取り期にある場合など、病状不安定期にある人が在宅生活を継続したい場合に適しています。
また、在宅生活を継続でき、各種サービスを顔なじみのスタッフに対応してもらえるので、新しい環境が苦手な人にとって馴染みやすいサービスといえるでしょう。
看護小規模多機能型居宅介護の利用対象者と利用方法
看多機のサービスの利用対象者は、利用する看多機事業所の市区町村に住民票がある要介護1~5の認定を受けた人です。なお、医療機関で常時治療が必要な人は対象外となります。また小規模多機能型居宅介護と異なり、要支援1~2の人は利用できません。
看多機の利用を希望する場合は、担当のケアマネジャーまたは地域包括支援センターに相談するか、直接事業所に問い合わせましょう。
看護小規模多機能型居宅介護の利用料金
看多機の利用料金は、(1)介護度に応じた月定額制の基本料金(2)食費、宿泊費、おむつ代など(3)事業所ごとの加算料金 の3つに分けられます。
このうち、月定額の基本料金と事業所ごとの加算料金には介護保険が適用され、その場合、利用者の自己負担額は原則1割となります(一定以上の所得がある場合は、2割負担または3割負担)。
なお、看多機を利用している間に併用できるサービスは、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、福祉用具のレンタル(福祉用具貸与)となります。その他の介護サービスは利用できないので注意しましょう。ただし、住宅改修や特定福祉用具販売は利用できます。
(1)基本料金(介護保険適用)
月定額の基本料金を支払うと、通い・泊まり・訪問介護・訪問看護の4つのサービスを受けることができます。
月定額の基本料金は要介護度に応じて設定されていますが、地域によって異なります。同一建物以外に居住する場合(※)の目安は以下の通りです(1割負担の場合)。
■要介護1: 12,341円
■要介護2: 17,268円
■要介護3: 24,274円
■要介護4: 27,531円
■要介護5: 31,141円
※2022年6月現在(出典:厚生労働省介護サービス情報公表システム)
※上記は、利用者が「同一建物以外」に居住する場合。同一建物に居住する場合は自己負担額が異なります。同一建物とは、「小規模多機能と構造上または外形上、一体的な建築物」のことを指します。
(2)食費、宿泊費、おむつ代など(介護保険適用外)
食費、宿泊費、光熱費、理美容費、おむつ代などの日常生活費は別途必要になります。
(3)事業所ごとの加算料金(介護保険適用)
看多機事業所によっては、サービス提供体制強化加算、介護職員処遇改善加算(現行加算)、介護職員等特定処遇改善加算(特定加算)などが加わることがあります。事前に各事業所に確認しましょう。
まとめ
看護小規模多機能型居宅介護のまとめ
看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は、利用者の心身状態や家族の事情に合わせて、通い・泊まり・訪問介護・訪問看護を一体的に提供します。
利用対象者は、看多機事業所の所在地と同じ市区町村に住民票があり、要介護1~5の認定を受けた人で、利用料金は月定額制で介護保険が適用され、自己負担額は原則1割です。
看多機は在宅療養で受けられるサービスの幅が広がり、医療処置が必要でも在宅生活を送りたい人や、家族の介護力が十分ではない場合に適したサービスといえます。
利用者が最期まで自宅で自分らしく生きるために、そして、介護者である家族も介護負担を軽減して自分らしさを大切にするために、看多機の利用を検討してはいかがでしょうか。
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この記事の制作者
監修者:馬淵敦士(株式会社ベストウェイ代表取締役 介護員養成講師)
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員(ケアマネジャー)などの資格を持ち、ホームヘルパー、ケアマネジャーとしてキャリアを積む。2007年に株式会社ベストウェイ設立。ベストウェイケアアカデミー専任講師として、ケアマネジャー受験対策講座、介護員養成研修などの講師を務める。ほか、介護関連の受験対策書籍の執筆や『ケアマネ受験合格チャンネル』YouTube配信、セミナー講師など多方面で活躍中。