【ケアマネが解説】訪問入浴の選び方│5つのポイントと注意点
訪問入浴とは、看護職員1名以上を含めた3名以上のスタッフが自宅に訪問し、専用の浴槽を使って入浴をサポートしてくれる介護サービスです。
身体機能の低下に伴い、一人での入浴が困難になることがあります。その場合、介護保険を用いた入浴支援サービスとして「訪問介護」「デイサービス/デイケア」「訪問入浴」という3つの方法があります。
「訪問入浴を勧められたけど、どの事業所を選べばいいかわからない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
訪問入浴は、他のサービスと比べ利用する方が限られるため、選び方について解説しているところも少ないのが現状です。ここでは、訪問入浴の選び方や注意点について解説していきます。
訪問入浴とは
訪問入浴とは、自宅での入浴が困難になった場合に利用したい介護保険サービスの1つです。
スタッフは看護職員(看護師または准看護師)1名以上、介護職員2名以上の計3名体制で利用者宅に訪問するのが一般的です。
入浴前に、看護師が血圧、脈拍、体温を測定し、主治医からの指示である入浴中止の血圧数値に該当しないかどうかを確認して、入浴が始まります。
1回の所要時間は45~60分程度で入浴そのものは約10分。持ち込み式の浴槽に浸かり、洗髪・洗身してくれます。
入浴後は着替えや水分補給、爪切り。軟膏や保湿クリームの塗布といったケアも必要に応じて行ってくれます。
訪問入浴について詳しく見る失敗しない訪問入浴サービスの選び方
いざ訪問入浴を使ってみて、ここの事業所にしなければよかったと、後悔する場合があります。利用する前に、どのようなサービス事業者なのか、しっかり把握することが大切です。
訪問入浴の対応は事業者によって違いがある?
結論からいうと、どこの訪問入浴を利用してもサービス内容に大きな違いはありません。しかし、事業所によって、以下のように特徴をもたせているところもあります。
- 人工・天然温泉で入浴できる
- 希望にあわせた入浴剤を提供してくれる
- アロマの香りを提供してくれる
- 訪問入浴事業所に訪問看護ステーションが併設されており、連携しながら入浴日以外の体調管理もしてくれる
- 訪問入浴事業所に福祉用具レンタルも併設されており、入浴時の皮膚状態に合わせた福祉用具を提案してくれる。※例、褥瘡(じょくそう)予防用のマットレスの使用を提案してくれる。
また、訪問入浴の看護師はたんの吸引といった医療的ケアを基本的に行いません。理由は安全に入浴をすることが目的であるからです。そのため、入浴前に済ませておきたい医療的ケアがある場合は、別途「訪問看護サービス」と時間を合わせる必要があります。
訪問入浴事業所に訪問看護ステーションが併設されていると、こうした際に連携しやすいというメリットがあります。
訪問入浴を決めるまでの流れ
事業所によって違いのある訪問入浴ですが、どのような流れで事業所を決めればいいのでしょうか。
訪問入浴を利用するタイミング
訪問入浴のサービスは介護認定があれば利用できるサービスです。
ただ、実際の利用者層は、病気等により要介護状態の重い方(要介護4~5)が多い傾向にあります。また、自宅の浴槽では入浴できない方、デイサービスを利用することも困難な方、医療リスクが高く安全な入浴が困難な方なども対象となります。
このように、加齢とともに身体機能が低下して寝たきりの状態になった方や医療的管理が必要な方などが利用しています。要介護者であるご家族が近しい状態であれば、利用を検討してみると良いでしょう。
ケアマネージャーに勧められたところを利用すべき?
訪問入浴サービスを選ぶ過程で、ケアマネジャーから特定の事業所を勧められることがあるかもしれません。しかし、必ずしもそこを利用しないといけないということはありません。
最終的には、利用者・家族の判断で決めます。勧められたところを利用しないと、ケアマネジャーに対して失礼にあたる、といったことは一切ありません。
ケアマネジャーだけでなく、地域の方や友人に評判の良い事業所を聞いて、利用者本人や家族の希望に合う事業所を選んでみましょう。
事業所の選び方!失敗しない5つのポイント
ケアマネジャーのアドバイスも踏まえながら、最終的にどこの事業所にするかは、利用者・家族が決めることになります。では、最終的にはどのように決めていけばよいのでしょうか。
以下の5つのポイントを確認しながら、決めてみましょう。
- 体調不良のときのキャンセルはどのような手順か
- キャンセルをしたときに、キャンセル料がかかるのか(当日キャンセル等)
- 浴槽や感染症対策などの衛生管理が徹底されているか
- 利用者・家族の希望にどの程度対応してくれるか
- 入浴中に体調が急変した場合など、緊急時の対応はどうなっているのか
特に、利用者・家族の希望が対応できるかどうかが、最終的な決め手になってくると思います。
例えば、スタッフはどのような人(性別)に介助してほしいかや、利用者が気に入っているシャンプーや石鹸、入浴剤やタオルが使えるのか。
入浴とともにベッドシーツ交換もしてほしい。爪切り、ボディークリームを塗ってほしいなど、やってほしいことを整理して、事業所に聞いてみると良いでしょう。
訪問入浴選びの失敗例・注意点
ここで、訪問入浴選びの失敗例をみてみましょう。事業所を選ぶときには、このようなことがありますので、頭に入れておくとよいでしょう。
訪問入浴は、持ち運び式の浴槽を自宅内に搬入するため、男性の職員が来る場合があります。
例えばお風呂に入る利用者が女性の場合、男性による介助は抵抗感がある方もいらっしゃいます。またその逆も然りでしょう。
これを知らずに、異性の職員が介助してしまい、利用者本人も言い出せない方や、言葉自体を発せられない方だと、このまま介助を受けるしかなくなってしまいます。そうした不快感が訪問入浴の利用拒否にも繋がってしまうことがあるのです。
事業所を選ぶときに「同性に介助してほしい」という希望を伝えて、対応できるか聞いておくと失敗することはないでしょう。
訪問入浴を選ぶ時には、そのような利用者と家族の希望を伝え、対応できるかどうか確認することが、失敗しないためのコツとなります。
ケアマネジャーが考える、事業所選びの例
筆者は現役のケアマネジャーとして、日頃から利用者及びその家族と接しています。これまでの経験から訪問入浴事業所の選び方を考えてみました。事業所選びの参考にしてください。
寝たきりの状態の方
寝たきりの状態の方の場合、手や関節が硬くなってしまうことがあります。これを「拘縮(こうしゅく)」と言います。
拘縮してる方だと、手を握ったまま固まっていたり、足や股関節が固まっていたりと、身体が洗いづらい状況があります。すると手指の間や鼠径部(そけいぶ)など洗い残しになりがちです。そうした部分まで丁寧に身体を洗ってくれるかが大切です。
事業所を選ぶときは、訪問入浴の予定に余裕があり、ケアの時間が慌ただしくない、時間に余裕のある事業所を選びます。
例えば、利用者数が何人いるのか、訪問入浴の車は何台あるのかということも意識して聞いてみましょう。全国平均として、1事業所あたりの利用者数は、33.9人(※1)、車の数は2.2台となっています。(※2)
※1.事業者あたりの利用者数は平成28年4月時点(厚生労働省「介護給付費実態調査」(各年4,10月審査分))
※2.車の数は平成28年1,2月時点の調査結果です。(訪問入浴介護の実態調査及び医療連携と業務の効率性についての調査研究事業報告書)
ガンの末期など、医療的なサポートが必要な方
ガンの末期などの病気を抱えている方や体力が低下している方は、入浴することで体力を消耗し、体調が悪くなる場合があります。
訪問入浴は一連の介助を終えると帰ってしまうため、スタッフがいなくなったあとに体調が急変することもあるかもしれません。
そうした観点で考えると、訪問入浴事業所に訪問看護が併設されているところであれば、同じ会社の訪問入浴の看護師と連携し、入浴時の様子を把握した上で訪問することも可能です。
医療的な連携が必要な方は、訪問診療を行うクリニックや病院、または訪問看護が併設されているところを選ぶと良いでしょう。
もしもお住まいの地域にそのような事業所がない場合、体調急変時にどのような対応をとってくれるのか、事前に確認しておくことをオススメします。
入浴が至福の時間となるように、最適な事業所選びを
寝たきりで話すことができない方や、コミュニケーションが取りづらくなった利用者も、入浴時は表情は和らぎ、気持ちよさそうな様子が見られます。多くの方は、入浴することでリラックスできるのではないでしょうか。
そうした時間を、介護職員と一緒に作ることが出来たら、良い事業所選びができたといえるのではないでしょうか。利用者にとって、訪問入浴が至福の時間となるように事業所を選んでみましょう。
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この記事の制作者
著者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)
株式会社HOPE 代表取締役
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。
監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)
地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。