混合介護で、わたしたちの介護はどう変わる?

「混合介護」とは、介護保険が適用される「介護保険サービス」と、介護保険が適用されない「介護保険外サービス」を合わせた介護サービスのことを言います。

介護保険外サービスには、各市区町村などが提供しているサービスもありますが、ここでは、介護サービス事業者が行う保険外サービスと組み合わせた場合の混合介護について解説します。

混合介護とは何か

混合介護とは、 介護保険サービスを利用している要介護者が、介護サービス事業者が提供する介護保険外サービスを全額自費で利用する場合をいいます。

例えば、通院の付き添いは介護保険サービスを利用し、病院内の待ち時間・診察の付き添い、トイレ介助などは介護保険外サービスを利用するときに混合介護が行われています。

また、いわゆるデイサービスの「お泊りデイサービス」は、昼間は介護保険によるデイサービスが行われ、夜間の宿泊は保険外サービス利用になるので、これも混合介護と呼べます。

ただし、混合介護には大きなハードルがあります。それは、厚生労働省が平成30年9月の介護保険サービスと保険外サービスとを組み合わせて提供する場合の取扱いについて「混合介護は、保険内サービスと保険外サービスが明確に区分されていること」という考えを示していることです。

そのため、介護保険サービスと介護保険外サービスは「同時・一体的」に利用してはならないことになっています。
 
2016年9月に公正取引委員会が公表した「介護分野に関する調査報告書」  によると、多くの市区町村では、混合介護は「同時・一体化」は認めないが「連続」ならば可能としています。

「同時・一体的」に利用してはならず、「連続」であれば利用可能とは、例えば下記のような状を生みます。

事例1:ヘルパーができる支援は要介護認定者に限られる
高齢者世帯の夫婦のうち、夫が要介護者の家庭。ヘルパーが訪問し、介護保険サービスとして夫の食事の支度、洗濯、部屋の掃除を行うことはできても、それと同時に介護保険外サービスとして妻の食事の支度、洗濯、部屋の掃除はできない。ただし、夫の家事支援が終わった後に、改めて(連続して)妻の家事支援をするのは可能。
事例2:介護保険の適用範囲外の家事をする
独居の要介護者の家にヘルパーが訪問し、介護保険サービスとして掃除をするついでに、介護保険外サービスにあたる庭の花木の水やりをすることはできない
事例3:デイサービスを利用中に別サービスを提供する
介護保険でデイサービスを利用しているときに、介護職員に簡単な買い物に付き合ってもらうことは介護保険外サービスにあたるのでできない

しかし、利用者のさまざまな要望が、厚生労働省が示す「同時・一体的」に当たるのか、それとも当たらないのかを介護サービス事業者が判断するのは難しく、利用者の利便性を欠く状況になっています。  

この「同時・一体的」であるかどうかの判断は、各市区町村に任されていることから、運用に曖昧さが起こっているのが現状です。

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混合介護をめぐる国の動向

現在の混合介護の課題を受けて、国は混合介護の規制緩和に動き出しました。

混合介護の実態調査を実施した公正取引委員会が「介護保険サービスと保険外サービスを同時・一体的に提供することを可能にすること」「介護サービス事業者が質の高いサービスを提供するために価格を自由化し、多様なサービスの提供を可能にすること」を提言し、いわゆる「混合介護の弾力化」を図るよう示しました。

これを受け、東京都が国家戦略特区制度を活用し、東京都豊島区において混合介護のモデル事業(選択的介護モデル事業)を2018年4月から実施することに 。具体的には、豊島区で次の2つが可能になりました。

(1)介護保険サービスと介護保険外サービスを同時一体的に提供する
(2)介護保険サービスの付加価値をつけた部分に料金を上乗せ設定する

(1)は、先の例でいえば、要介護者の夫の食事と、要介護者ではない妻の食事の支度を一緒にできるようになります。

(2)は、医療や健康に関する資格やコミュニケーションスキルをそなえたヘルパーに対する指名料を上乗せできるようにするものです。

また、忙しい時間帯の料金を高くし、そうでない時間帯を安くすることなどの価格の自由化も検討されています。

豊島区の試みが成功すれば、他の市区町村でも実施したいという要望が高まるでしょう。

それを受けて国の制度として新しい混合介護が認められていくようになる見込みです。
 

新しい混合介護で利用者の生活はこう変わる

新たな混合介護が始まったら、利用者にはどんな利便性が生まれるでしょう。あくまでも想定ですが、現在の混合介護との比較でまとめてみました。規制緩和によって「同時に」「一体的に」「付加価値」のあるサービス提供が可能となります。

要介護者とフルタイムで働く娘が同居する世帯の場合

現在
要介護者の食事介助で調理・食事介助・後片付け(身体介護)が終了後、改めて娘用の食事の支度をする。
新たな混合介護
要介護者の食事の支度の際に、娘の食事の支度を同時に行う。台所の流しにある洗い物を一緒に洗う。

高齢者夫婦で妻が要介護者、夫が妻を介護している世帯

現在
要介護者の洗濯と部屋の掃除(生活援助)を行う。夫の洗濯やそのほかの部屋の掃除は別の日に行う。
新たな混合介護
夫婦の洗濯を一緒に行う。要介護者が利用する部屋のみではなく、ほかの部屋の掃除も同時に行う。

要介護者ひとり暮らしの世帯

現在
ヘルパーの付き添いで買い物、必要最低限の家事支援を利用。別の日に散歩の付き添い。生活援助で掃除を行う。
新たな混合介護
ヘルパーの付き添いで買い物をする時に、本や趣味の物も買い、散歩も行う。部屋の掃除の際に、衣替えや物の整理を同時に行う。

認知症の要介護者と家族が同居する世帯

現在
要介護者の食事・排せつ介助などの身体介護を行う。
新たな混合介護
家族が外出するとき、要介護者の身体看護の際に、見守りや長時間の話し相手を行う。

規制緩和された混合介護のメリットとデメリット

利用者の利便性が高まると予想される混合介護ですが、具体的にどのようなメリットとデメリットがあるのかを、それぞれまとめます。

メリット

要介護者の生活の質を上げられる
混合介護で最もニーズがある介護保険外サービスは「移動・外出支援」と「家事代行」といわれています。介護保険では日常生活に必要なものの買い物しかヘルパーは付き添えませんが、規制が緩和されれば買い物のついでにアルコールなど特別な趣味嗜好品を買うことができます。さらに、要介護者の立ち寄りたい場所に行くことができます。 また、普段の掃除のついでに衣替えや本の整理などができれば、要介護者の生活の質はよりよくなるでしょう。
同居家族の負担が軽減される
要介護者 の分だけでなく同居家族の分の家事支援も同時に利用できるため、家族の負担が軽くなります。
介護サービス事業者は収益を上げられる
介護サービス事業者に支払われる介護報酬は、法で定められた一定のものです。保険外サービスで収益を上げることが可能になれば、介護職員の待遇改善にもつながると考えられます。

デメリット

利用者の費用がかさむ
介護保険外サービスが全額自己負担であることに変わりはありませんから、混合介護を利用すれば費用はかかります。実際に利用できるのは富裕層など一部に限られるのではないかという意見が多くあります。
利用者がどのサービスを選択するか、判断がしにくくなる
現在の介護保険制度も複雑で利用者に十分理解されているとは言い難いところに、混合介護によってサービスの多様化が進むと、利用者が適切にサービスを選択できるかが懸念されています。
利用者被害が起こりうるかもしれない
要介護者の中には判断力に乏しい利用者も多いため、事業者の言いなりになり高い料金の契約をしてしまうケースが出てこないかが心配されます。

混合介護の課題と見通し

新しい混合介護によってこれまでにない介護サービスのアイデアが生まれ、サービスの選択肢が増えることはよいことです。しかし、いくつかの課題も想定されます。

課題1.ケアマネジャーの仕事がより複雑に
まず、混合介護をケアプランに組み込ませるためには、ケアマネジャーの知識と判断力が一層必要になるでしょう。
混合介護を希望する利用者に対して適切なケアプランを提示できるかの手腕がますます問われていきます。先ほどの豊島区の取組みでは、選択的介護協力事業者としてケアマネジャーを位置づけ、より高い専門性を求めています。
課題2.介護保険サービスが不平等に
また、費用の面で混合介護を利用できる人とできない人が出てくるため、すべての人に平等に行われてきた介護保険サービスの理念が崩れるのではないかという心配の声も上がっています。
そのためにも、一定のルールのなかで混合介護も実施されることが重要で、国はそのためのガイドラインを作成することが求められています。

こうした課題がありつつも、介護サービス事業者がより高度な技術をもったヘルパーを育成して質の高いサービスを行うことは、利用者のためになりますし、介護業界の発展にも結びつくものです。

また、家事代行サービス事業者などが、家事だけでなく介護サービスも同時に行える人材を確保すれば、介護業界に新たな競争力が生まれてくるでしょう。
 

まとめ

混合介護のポイントは、要介護者とその家族が安心して暮らし続けることができるために、介護保険外サービスと介護保険サービスを上手に組み合わせることです。

公正取引委員会の調査  によると、これまで介護保険外サービスを利用したことのない人が半数近くいることがわかっています。

その人たちに新しい混合介護が使いやすいものになることと、従来の介護保険サービスの質が落ちないことを、利用者と介護業界全体で注視していくことが大事です。

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この記事の制作者

浅井 郁子

著者:浅井 郁子(介護・福祉ライター)

在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級

山本 武尊

監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)

地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。

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