福祉タクシーとは?利用方法と介護タクシーとの違い

車いすを利用している方や介護が必要な方にとって、ちょっとした外出も大変なことです。

そのような方たちにも安心して乗れるように、利用者をサポートしてもらえる交通手段があります。それが「福祉タクシー」や「介護タクシー」です。タクシーと名が付いていますが、普通のタクシーとはまったく異なります。

福祉タクシーと介護タクシーも同じような言葉ですが、運転手が保有する資格や利用者の利用条件など、さまざまな面で違いがあります。何がどのように違うのか、詳しく説明します。

福祉タクシーとは?

福祉タクシーの管轄省庁は国土交通省

福祉タクシーの正式な呼称は「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)」といいます。福祉タクシーは運送事業ですので、一般のタクシー事業者と同じように国土交通省の管轄となります。国土交通省によると、福祉タクシーの定義は以下の通りとなっております。

『福祉タクシーとは、道路運送法第3条に掲げる一般乗用旅客自動車運送事業を営む者であって、一般タクシー事業者が福祉自動車を使用して行う運送や、障害者等の運送に業務の範囲を限定した許可を受けたタクシー事業者が行う運送のことをいう』(引用:国土交通省HP)

また、タクシー業界では、高齢者、障害者など手助けが必要な利用者の外出支援サービスを「福祉輸送サービス」「ケア輸送サービス」などとも呼んでいます。

道路運送法における「福祉輸送サービス」の基準については、国土交通省通達「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可等の取扱いについて(国旅第169号)」にて定められています。

福祉タクシーの利用条件

福祉タクシーは、その名の通りタクシーと名がついていますが、一般タクシーのように公道を走っている車両に、手を挙げて乗車することはできません。

福祉タクシーには「運送の引き受けを営業所において行う輸送に限る」というルールがあります。つまり、福祉タクシーを使用する場合は、事前にタクシー事業者に予約をしてからでないと使用することはできません。

福祉タクシーは身体障害者の方や身体の不自由な方の移動をサポートする車両ですので、高齢者のみなどという利用制限はありません。身体の不自由な方や病気やケガをされた方なら、どなたでも利用が可能です。

国土交通省の通達による「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可等の取扱いについて」では、サービスの対象となる旅客の範囲は以下のようになっています。

①身体障害者手帳の交付を受けている者

②要介護認定を受けている者

③要支援認定を受けている者

④上記①~③のほか、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害やその他障害により単独での移動が困難な者であって、単独でタクシーその他の公共交通機関を利用することが困難な者

⑤消防機関又は消防機関と連携するコールセンターを介して、患者等搬送事業者による搬送サービスの提供を受ける患者

上記のほかにも、福祉タクシーでは付添人の方や体の調子が悪い方でも利用することが可能です。

また、利用目的も病院などの通院の送迎はもちろん、買い物や映画館、スポーツ観戦、レジャーなどの目的でも問題はありません。このように福祉タクシーは、利用目的に制限なく使用することができますが、運転手に介助などを頼む場合、運賃の他に介助料が発生することがあります。

福祉タクシーに使われる車両

福祉タクシーとは一般的に、車いすに乗ったままでも乗車できるタクシーになります。そのため福祉タクシーには、利用者に負担が掛からないように乗車できる車両が使用されています。

具体的にはワゴンタイプやワンボックスタイプの車両が多く、車いすやストレッチャーが乗降しやすいように、電動リフトやスロープがついているのが特徴です。

ただし車両に乗車する際、タクシー運転手が介助をすることもできますが、利用者の乗り降りが困難な場合などは、ご家族やヘルパーなどの付き添いをされる方のサポートが必要となります(タクシー会社によっては、介助を禁止している場合もあります)。

また最近では、一般のタクシーでも従来のセダン型タクシーとは違い天井が高く、車いすもそのまま乗車できるタイプの車両も多く走っています。福祉タクシーとは違うカテゴリーになりますが、予約も必要なく、急な外出の時も一般のタクシーのように利用することができます。

しかし、ケガや障害の程度によっては乗車が困難な場合もありますので、タクシー会社やタクシー乗務員と相談の上で利用したほうがよいでしょう。

福祉タクシーの助成金制度

自治体によっては福祉タクシー利用料金の補助制度があります。福祉タクシーの利用を考えている方は、どのような補助制度があるのか、担当窓口に問い合わせてみるとよいでしょう。

タクシー料金を助成する「福祉タクシー券」を配付する自治体も多くあります。しかし、自治体によって利用対象者や金額、交付方法も異なります。お住まいの自治体の福祉タクシー券が、どのような条件で利用できるものなのか、必ず確認するようにしてください。

介護タクシーとは?

「介護保険タクシー」と「介護タクシー」

一般的に「介護タクシー」という言葉が使われていますが、介護タクシーには主だった定義はなく、福祉タクシーと同じように道路運送法第4条に定める「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)」が正式名称とされています。

介護タクシーの管轄省庁は、福祉タクシーと同じように国土交通省ですが、介護保険を有する事業の場合は、介護保険の管轄である厚生労働省も関係することになります。

このように介護タクシーには、「介護保険が使えるもの」と「使えないもの」の2種類のタイプがあります。どちらも呼び名は同じ「介護タクシー」ですが、介護保険が適用されるタクシーを「介護保険タクシー」、介護保険適用外のタクシーを「介護タクシー」として区別する場合もあります。

また、福祉タクシーや介護タクシーでは、家族など付添人も同乗できますが、介護保険タクシーの場合は自治体の許可が必要となり原則的には同乗できません。

介護タクシー・介護保険タクシーに使われる車両

介護タクシーに使われる車両は、福祉タクシーに使われる車両と同じように、利用者に負担が掛からないように乗車できる車両が使用されています。

車種も福祉タクシーと同じようなワゴンタイプやワンボックスタイプが多く、設備としても、車いすやストレッチャーから降りずにそのまま乗車することができる電動リフトや、足が不自由な方や歩行が不安定な方が安心して乗降できるスロープなど、さまざまな設備が整っています。

介護タクシーの運転手には、介護に関する資格が必要な場合もある

介護タクシーの運転手には、一般的なタクシーや福祉タクシーの運転手と同じように普通自動車第二種免許が必須になります。普通自動車第二種免許とは、タクシーやハイヤーなどのように「人を乗せて、料金をいただく」という旅客運送行為を生業とするものにとっては必要不可欠な自動車免許です。

福祉タクシーと介護タクシー(介護保険適用外)の場合は、普通自動車第二種免許だけがあればいいのですが、介護保険の対象となる介護保険タクシーの運転手には介護職員初任者研修という介護の資格も必要となります。

介護職員初任者研修というのは、介護職として働くうえで基本となる知識や技術を習得するための研修です。介護保険タクシーの運転手は、ただ運転をするだけではなく、介護利用者の身体サポートを行うこともできます。

介護保険タクシーで介護保険が適用される条件

介護保険タクシーで介護保険を使うには、利用者側にも事業者(タクシー事業者)にもそれぞれ適用条件があります。ただし介護保険の適用となるのは乗り降りなどの介助であり、輸送は含まれません。

利用者側の介護保険の適用条件は、ケアマネジャーが作成したケアプランに「乗降介助・身体介護が必要」と記載されていることです。

例えば、要介護1〜5の認定を受けた人の中で、一人暮らしの方や老人ホーム入居者の方が、1人で公共交通機関に乗ることができない場合や車の乗降に介助が必要な場合になります。よって、要介護1以上でも介助なしで車の乗降ができる場合などは、介護保険適用外となります。

また、「日常生活上または社会生活で必要な行為に伴う外出」が目的の場合のみ介護保険適用条件になっていますので、プライペートな目的による利用は、介護保険適用外となります。

要支援と認定されている方が介護保険タクシーを利用した場合においても、介護保険適用外となりますので、料金は全額自己負担となってしまいます。

事業者側が、介護保険適用事業者となるためには法人会社となり、訪問介護保険事業所の指定を受けなければなりません。

例えば個人ですでにタクシー業を営んでいる方であれば、まずは法人への登記が必要となります。また提供するサービスに合わせて、介護支援専門員や看護スタッフ、生活相談員、介護スタッフなどの必要な人員を満たさなければなりません。

訪問介護「通院等乗降介助」とは

訪問介護保険事業所の介護職員初任者研修の資格をもった運転手が、利用者の乗降を手助けするサービスのことを「通院等乗降介助」といいます。

介護保険タクシーを利用した場合、目的地までの送迎だけではなく、乗降車時、乗車前・降車後の移動支援や降車後の病院の受診の手続きなどの支援、降車後の付き添いも受けることができます。

通院等乗降介助を利用するためには、介護保険適用条件と同じく要介護1以上の要介護認定を受けている必要があります。しかし、要介護1以上であっても通院等乗降介助は介護保険サービスの1つであるため、ケアプランに記載されていないと利用することができません。

通院等乗降介助は利用目的に制限があり、以下の6つに限ります。いずれも居宅が始点または終点である必要があります。

①医療機関への通院
②公共の施設や選挙投票所への送迎
③介護保険施設への見学
④銀行などの預貯金の引き出しや日常生活を送るうえで必要なもの
⑤病院から病院への移送やデイサービスやショートサービスから病院への移送
⑥入退院に伴う送迎

⑤に関しては、発着のいずれかは居宅でなければならないのであくまでも経由に限ります。また、訪問介護事業者側が通院等乗降介助のサービスを提供するためには、一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の認可を得ている必要があります。

※介護タクシー(介護保険適用外)はこれらの制限なく、福祉タクシーと同等に利用することができます。

福祉タクシーと介護タクシー・介護保険タクシーの違い

福祉タクシーと介護タクシー・介護保険タクシーの違いを、わかりやすく以下の表にまとめました。

福祉タクシー

介護タクシー

介護保険タクシー
(※1※2)
利用対象者 身体の不自由な人や病気や
ケガをしている人、介助が必要な方
介護認定を受けた要介護1~5の人のみ
利用目的

利用制限なし

レジャーなど利用可能

利用制限あり

(病院など、日常生活において必要不可欠なもの)

移動による介助 介助は可 乗降時の介助の他、乗降後の介助も可能
介護保険の利用 不可

条件を満たせば利用可能

(主に要介護3以上)

運転手の
介護福祉関連資格の有無

・福祉車両の場合は不要

・セダン型は介護職員初任者研修資格が必要

・運転だけなら不要

・介護サービスを提供する場合は、介護職員初任者研修資格が必要

ケアプランの作成 不要 必要
家族や付添人の同乗 可能 ケアマネジャーに相談
料金 全額自己負担 アプランの「乗降介助」または「身体介護」のみ
介護保険適用できるが輸送代は実費

※1事業には、訪問介護事業所の登録が必要

※2利用には、ケアプランが必要

まとめ

ここまで、福祉タクシーと介護タクシー・介護保険タクシーの違いを説明してきました。福祉タクシーや介護タクシーが利用条件も利用目的も制限がないのに対し、介護保険タクシーは利用条件も利用目的も法律で厳密に決められています。

一括りに「介護タクシー」といわれることも多いですが、介護タクシーと介護保険タクシーとでは、介護保険の適用があるかないかで種類が変わり、利用者の被介護保険だけではなく、事業者側の運転手にも介護資格の有無の条件がつきます。

これらのルールを知らず介護タクシーと介護保険タクシーを混同してしまうケースもありますが、実は両者はまったく異なるタクシーだといえます。

ご利用の際は、上記で記述した利用条件や利用目的に当てはまるかを確認の上、福祉タクシーにするか介護保険タクシーにするか、タクシー会社に依頼するのか訪問介護保険事業所に依頼するのかなど、十分に調べてから選択するようにしてください。

分からないことや困ったことがありましたら、お近くのタクシー事業者やケアマネジャー、市区町村の役所の福祉課に相談するとよいでしょう。

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この記事の制作者

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監修者:丹羽祐史(NPO法人 日本福祉タクシー協会 中部支部 支部長)

日本福祉タクシー協会は2002年に開設され、「福祉輸送を通じ、高齢者や障害者の社会参加を支援すること」を理念とした活動をしています。全国22ケ所に拠点を置き、福祉タクシーを開業する方や利用する方のサポートを行っています。

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