老老介護・認認介護問題とは?原因や実際の割合、共倒れを防ぐ解決策
高齢化に加え核家族化が進んだ現代で問題視される「老老介護」。さらには「認認介護」と呼ばれる問題も浮上しています。
「老老介護」「認認介護」それぞれの定義や現状から対策、サポート方法をわかりやすく解説します。今後ますます長寿高齢化が進む日本ではこれら問題から目を反らすことはできません。共倒れを防ぐためにもあらかじめご確認ください。
老老介護とは?
老老介護とは、高齢者が高齢者を介護する状態のことです。体力や身体機能の低下に伴い、高齢者が排せつや入浴の介助まで行うのは困難。共倒れの危険性があります。
老老介護の構成はこれまで配偶者同士が大半を占めていました。しかし近年は65歳以上の子どもが高齢の親を介護するケース、高齢の兄弟同士が支え合いながら生活するケースなど多様化しています。
またその背景には、介護への価値観や経済状況など孤立化するさまざま理由があってその現象に至っています。
認認介護とは?
認認介護とは、主介護者も要介護者にも認知症の症状がある状態のことです。認知症の症状により理解力や判断力が低下し、周囲に助けを求めることも困難になります。
お互いが認知症であるため体調管理や服薬管理ができず、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。また、社会的接点が失われてしまい、周囲に助けを求めることができないという問題も抱えています。
老老介護比べて両者に認識がないため、早期発見と対応が求められます。
割合で見る老老介護・認認介護の実態
社会的な問題ともいえる老老介護や認認介護。実態はどのようなものか、厚生労働省の調査データをもとに解説します。
老老介護の割合
出典:厚生労働省「2022年 要介護者等のいる世帯の状況」令和4年の国民生活基礎調査によると、65歳以上の高齢者のみの世帯は全体の31.2%で、総数も割合も30年以上増え続けています。
また、65歳以上の要介護高齢者がいる世帯の63.5%が主介護者も65歳以上であり、老老介護であることを示しています。
さらに、要介護者も主介護者も、共に75歳以上という世帯が30%を超えている現状(35.7%)があります。つまり3組に1組が75歳以上との結果なります。75歳以上になると、認知症や脳疾患などをきっかけに要支援・要介護認定の割合が上昇します。
認認介護の割合
高齢夫婦の11組に1組は認認介護世帯という試算があります。「うちの親はまだ大丈夫」と過信せず、行政や介護関係者の協力を仰ぎながら必要なサービスに繋ぎましょう。
80~84歳の認知症出現率が21.8%というデータがあり、夫婦ともに80歳くらいの老老介護世帯においては、21.8%×21.8%×2=9.5%で、11組に1組は認認介護世帯であると試算されています。
一方で、前述の調査によると要介護状態となった原因は認知症(23.6%)が最も多く、次いで脳血管疾患(19.0%)、骨折・転倒(13.0%)の順になっています。
要介護1においては、認知症が原因で要介護状態になったケースは26.4%と、3人に1人に近い数値です。
そのため、老老介護世帯のうち夫婦ともに要介護者の場合は、2人とも認知症であるケースも珍しくないでしょう。
老老介護、認認介護の問題点
老老介護は、介護をする側も高齢者であるため多くの問題を抱えています。介護者自身も身体機能が低下していたり、持病を抱えていたりします。思うように介護ができないなか、身体的・精神的なストレスも加わり、介護放棄や虐待などの事件に発展することもあります。対策を講じるために、まずは老老介護と認認介護の問題点を確認しておきましょう。
老老介護の問題点
家族の共倒れ
- 介護する側が高齢のため、体力的かつ精神的な負担によって倒れやすい
- 介護する人がいなくなる
介護にかかる時間の増加
- 介護する側の体力消耗や動作そのものが遅いために介護に時間がかかる
- 介護される側の負担も大きくなる
- 介護度が重くなるほど、お互いの負担が加重される
介護者の社会的接点の減少、閉じこもり
- 外出ができなくなり、社会とのつながりが希薄になる
- 運動量が少なくなり、筋力が低下し、身体能力が衰える
- 体力的にも時間的にも日常生活を維持するだけで精一杯になり、生活を楽しむ余裕がなくなる
- 体力的、精神的負担と外部からの刺激がないことなどから、うつ状態や認知症になる
認認介護の問題点
服薬管理ができない
- 「薬を飲んだ」という行為を忘れてしまい、飲み忘れや飲みすぎになり体調を崩す
- 場合によっては命に関わる事態に陥ることもある
食事・栄養管理ができない
- 好きなものばかりを用意するなどで栄養に偏りが出る
- 満腹感が鈍くなることで食べたことを忘れて過食になる
- 空腹感が鈍くなることで食べることを忘れて低栄養になる
- 嗅覚などの衰えや賞味期限などの確認ができなくなる
体調管理ができない
- 寒暖の感覚が鈍くなり、温度調節ができず熱中症になる
- のどの渇きがわからず、適切な水分摂取ができず脱水症状を起こす
- 身体の不調を説明できない
- 身体の不調に対して適切な対応ができない
お金の管理ができない
- お金をおろしすぎて引き落としができなくなった
- キャッシュカードの暗証番号がわからず生活費をおろせない
- 銀行に入金できない
- お金がないにもかかわらず高額のものを購入してしまう
緊急事態の対応ができない
- 緊急事態が起こった時の連絡先がわからなくなる
- 緊急事態が起こっていることに気づかない
火の不始末
- 火をつけっぱなしにして鍋を焦がす
- 賃貸物件でボヤ騒ぎを起こすと退去させられる可能性もある
老老介護、認認介護になる原因
老老介護や認認介護に陥る原因はさまざまあります。また、これら原因が複合的に絡み合っているケースも多いです。
経済的な余裕がない
介護サービスを利用するなど、第三者によるサポートを利用するには一定の費用がかかります。
介護サービス費は原則一割負担とはいえ、経済的に余裕がないとサービスの利用を控えるようになります。すると介護は家族が担ったり、要介護者本人が自力で対応するしかありません。
介護保険の自己負担割合も2割、3割と拡大し、要介護者の負担も増加傾向にあるため、老老介護や認認介護のさらなる増加が懸念されています。
他人を頼ることに抵抗がある
「介護は家族がするもの」という固定観念や、「他人の世話になりたくない」といった考えが強いと、介護サービスの利用に抵抗を感じ、老老介護や認認介護に発展することもあります。
また、責任やプレッシャーなどを感じて、介護を1人で抱え込む配偶者も少なくありません。一般的には女性よりも男性にその傾向が強いと言われています。
ほかにも、介護は入浴や排せつといったデリケートな側面もあり、羞恥心から「他人に頼りにくい」と感じている方も多いもの。これらも老老介護や認認介護の一因といえるでしょう。
身近な人に相談しづらい
離れて暮らす子どもに、介護のことを相談しづらいという状況も、老老介護が増える一因といえます。
年齢的に子ども世代も結婚、出産、マイホームの購入、教育費など、何かとお金のかかる時期。親としては家族に迷惑をかけまいという気持ちが先行するものです。
また、できない事が増えた姿を子供に批判されることを嫌い、限界までSOSを出さない親もいます。
社会環境の変化
ここまで述べたように、いずれも少子高齢化・核家族化・女性の社会進出・晩婚化・長寿化などが絡み合って出た結果と言えます。
女性の社会進出や景気が不安定などの理由で、仕事を辞めない・辞めることができない。仮に仕事を辞めたとしても介護離職の課題に直面し、虐待に発展するなど根本的な問題解決にはなりません。
少子化で介護の対象となる身内が複数人いて、一人だけを面倒をみることができない。晩婚化・晩産化で育児と介護が同時に発生したなどダブルケアの課題に発展する可能性があり、さまざまなケースが存在します。
さらに、長寿高齢化によって子供も共に老いることになり、協力が得られないケースも増えてきています。「親が90代で子供は70代」というケースも珍しくないのです。
老老介護、認認介護世帯へのサポートや解決策
現在、老老介護や認認介護に特化した行政のサポートはありません。しかし、既存の介護サービスの活用で解決できることもあります。
肉体的、精神的なストレスで限界が来る前に、家族や自分たちに合う対策を取り入れて、無理なく介護ができるように進めましょう。
地域包括支援センターへ相談
地域包括支援センターとは、高齢者の介護や健康に関する相談をワンストップで対応する、最も身近な相談窓口のことです。
およそ中学校区にひとつの割合で整備され、その数は全国5,000ヶ所以上。行政から委託された法人が運営しています。行政窓口で行う手続きの多くは地域包括支援センターでも対応できるため、介護が始まったら訪れたい頼れる専門機関です。
地域包括支援センターには、ケアマネジャーや保健師などの専門職が在籍し、地域に住むすべての高齢者及びその家族の相談に乗ります。高齢者の介護予防から要介護認定の申請、介護サービスの利用や介護離職回避の相談など、幅広く相談に乗ってくれます。
関連記事地域包括支援センターとは?その役割と賢い活用法
見守りサービスの利用・ご近所の関係構築
家族と離れて暮らし思うように帰省できない場合は、高齢者の見守りサービスを活用してみましょう。
シルバー人材センターや民生委員、地域のボランティアを活用して高齢者の見守りを行っている地域があります。安価で提供していることもあり、自治体サービスの内容も確認しておくと良いでしょう。
また、ご近所の方も見守りをしてくれる強力なサポーターです。帰省したときにはご近所に挨拶して関係性を築き、何かあったときのために連絡先を渡しておくこともお勧めします。
在宅介護サービスの利用
在宅介護サービスとは、介護が必要な高齢者が自立した生活を継続するために利用する介護保険サービスのことです。
老老介護、認認介護に関わらず、介護が必要な状態であれば介護保険サービスを利用して負担を軽減しましょう。
仮に介護への価値観からサービス利用の拒否があった場合や、経済的な余裕がなく介護サービスの利用回数が不十分であったとしても、現状を地域包括支援センター等に相談をすることをおすすめします。まずは状況がどれだけ大変であるかを共有し、その変化に気がつくことができます。
サービスの種類として、ホームヘルパーや看護師などが自宅を訪問する訪問系サービス。デイサービスやデイケアなど、通いで介護サービスを受ける通所系サービス。福祉用具貸与など多岐に渡ります。
要支援・要介護認定を受けていれば、原則一割負担で安価に利用できるのもメリットです。近年24時間対応の介護サービスも誕生し、さらなる普及が望まれています。
関連記事在宅介護サービスの種類と特徴、利用の流れを解説
介護施設への入居
老老介護や認認介護の負担が重く、介護サービスを利用しても生活に不安がある場合は、介護施設の入居を検討しましょう。
介護施設は公的・民間など多くの種類があり価格もさまざま。24時間の介護サービスはもちろん、掃除や洗濯などの生活支援も提供しているため、安心して任せることができます。
介護施設によっては、夫婦二人で入居できる広い居室もあります。老老介護や認認介護によって共倒れになる前に、選択肢として考えておくとよいでしょう。
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訪問介護・訪問看護
訪問介護は、介護に関する有資格者が自宅に来て介護をしてくれるサービスです。食事や入浴、排せつや歩行といった介助を行うのがメイン。
訪問看護は、看護師や保健師といった医療関係の有資格者が自宅を訪れて医療処置を施すサービスです。訪問介護と同様に食事や入浴といった介助が受けられるほか、点滴や胃ろうといった医療処置や、理学療法士などによるリハビリテーションが提供されます。
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ショートステイ
ショートステイは、介護施設である一定期間、宿泊できるサービス。65歳以上で要介護、もしくは要支援に認定された方が対象です。
介護保険制度で利用可能なショートステイは要介護度によって利用期間はことなりなりますが、最高、連続30日まで利用できます、保険利用と保険適応外のサービスであれば利用期間が選択できます。
在宅介護の負担を一時的に軽減したり、冠婚葬祭などの用事で介護ができなくなったりした際に利用するケースが多いようです。
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デイサービス・デイケア
デイサービスは、日中だけ施設に行って介護サービスや機能訓練などを受けることを言います。通所介護と呼ばれることもあるサービスで、65歳以上かつ要介護に認定された方が対象です。
一方でデイケアは通所リハビリテーションとも言われ、介護老人保健施設や病院などが提供しているサービスです。要支援、要介護認定を受け、リハビリが必要だと判断された高齢者が対象とされています。
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脱老老介護・認認介護に向けて検討したい介護施設の種類
老老介護や認認介護で必要になった際のサービスのひとつが、介護施設(老人ホーム)です。介護施設は多くの種類があり、それぞれ特徴があります。ここでは代表的な介護施設について具体的に解説します。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームとは、自宅で生活するのが難しくなった要介護3以上、65歳以上の高齢者が入居できる介護保険施設です。また、介護保険料を納めている40~64歳でも特定の疾患認められる場合や、特例により認められた要介護1~2の方も対象。
24時間介護を受けることが可能で、比較的安い費用で入居することができます。また、所得に応じて減免制度があるのも特徴のひとつです。
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有料老人ホーム
有料老人ホームには、さまざまな種類があります。例えば、要介護の方に向けて生活支援と介護を行う介護付き有料施設が代表的です。
また、食事や掃除といった生活支援を行う住宅型有料老人ホームや、要介護ではない自立した生活が送れる方に向けて、少しでも長く健康を維持できるようサポートする健康型有料老人ホームと呼ばれる施設もあります。
入居可能条件は施設によって異なるため、自分にあった条件の施設を選びましょう。
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グループホーム
グループホームは、認知症の症状がある高齢者向けの施設です。
65歳以上で、要支援2もしくは要介護1以上の方が対象。施設がある場所と同じ地域に住まい、もしくは住民票がある場合に入居できます。
地域に密着した施設で、介護施設を利用したいけれど住み慣れた場所から離れたくない方にもぴったり。少人数の単位で共同生活を送りながら、介護や自立支援などのサービスを受けることができます。
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サービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅とは、安否確認と生活相談サービスが付いたバリアフリーの賃貸住宅のことです。「サ高住(さこうじゅ)」とも呼ばれています。
概ね60歳以上を対象とし、介護認定のない自立した高齢者も入居することができます。しかし、実情は全体の8割以上が要支援・要介護高齢者で、9割以上が75歳以上となっています。
介護が必要な場合は、外部の介護サービス事業者と契約して利用します。
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関連記事サービス付き高齢者向け住宅の費用のめやす
まとめ
平均寿命が延びたことや核家族化が進んだなどの理由で、老老介護や認認介護は増加傾向にあります。まずは老老介護や認認介護の問題点をしっかりと把握して、いざというときに備えましょう。問題点が分かっていても、当事者や家族・親族だけなど関係者のみではの解決は困難です。
近年、介護保険サービスをはじめ便利で安価なサービスも増えました。家族・親族だけで抱え込まず、専門機関や第三者の力を借りることを前提に、安心できる生活が送れるよう工夫してみましょう。
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イラスト:安里 南美
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この記事の制作者
著者:武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)
学習院大学卒 福祉住環境コーディネーター 宅地建物取引士
これまで高齢者住宅の入居相談アドバイザーとして約20,000件以上の高齢者の住まい選びについての相談を受ける。 「高齢者住宅の選び方」「介護と仕事の両立」等介護全般をテーマとしたセミナーの講師をする傍ら、テレビ・新聞・雑誌などでコメンテーターとして活躍。 また日経BP社より共著にて「これで失敗しない!有料老人ホーム賢い選び方」を出版。
監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)
地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。