介護うつは家族などの介護をしている人が、介護疲れやストレスが原因でうつ病を発症した状態のことです。
介護うつの発症は介護をする人、受ける人にとって辛い状況を生み出しかねませんが、対応次第で予防、改善が可能です。
ここでは介護うつの原因、症状、セルフチェック方法、治療方法、予防方法などをお伝えします。
- 【目次】
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介護うつの原因と症状
介護うつは家族などの介護をしている人が、介護疲れやストレスが原因でうつ病を発症した状態のことです。
介護うつの発症は介護をする人、受ける人にとって辛い状況を生み出しかねませんが、対応次第で予防、改善が可能です。
ここでは介護うつの原因、症状、セルフチェック方法、治療方法、予防方法などをお伝えします。
介護うつとは脳のエネルギーが不足した状態
介護うつを含め、うつ病は気の持ちようではありません。
介護によってストレスや身体的負担が積み重なって、睡眠や休養が十分にとれない状況が続くと、脳の処理能力がパンクしてしまいます。
すると脳のエネルギーが不足し、意欲や判断力が低下して元気に動けなくなります。
それが介護うつです。
介護うつの初期症状 ポイントは食欲と睡眠
では、介護うつの症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
以下のような状態が2週間以上続く場合は、介護うつの可能性が高いと言えます。
こうした症状は、なかなか自覚しにくいものです。しかし、これら以外に自覚しやすい症状がふたつあります。
ひとつは食べること、もうひとつは睡眠です。
食欲がない、食べてもおいしくない、なかなか寝付けない、途中で何度も目が覚める、熟睡した感じがしないといった症状を自覚したときは、介護うつの可能性があります。
周囲の人が、いつもと違う介護者の様子に気がついたら、声をかけてあげることも大事です。
介護うつのセルフチェック
介護うつになっていないか、以下の項目を参考にセルフチェックしてみましょう。
<介護うつセルフチェック>
この2週間程度を振り返り、当てはまるものをチェックしましょう。
心当たりが5つ以上ある場合、介護うつになっている可能性があります。
ちょっとした気分の落ち込みや気持ちが晴れないことは誰もが経験します。しかし、うつ病の場合は憂うつな気持ちが2週間以上続き、何をやっても気持ちが晴れません。
介護うつは早めの対応で改善、予防できるものです。日頃からセルフチェックを活用して、介護うつのサインを見逃さないようにしましょう。
ただし、セルフチェックの結果がうつ病の診断に代わるものではありません。心配な点がある人は医療機関の受診をおすすめします。
次に介護うつになりやすい人はどんなタイプなのか、紹介します。
介護うつになりやすい人のタイプは?
介護による負担やストレスが大きければ大きいほど、こころとからだに与える影響は大きくなります。さらに次に紹介するような傾向がある人は、特に注意が必要です。
真面目で几帳面・完璧主義
介護を完璧にすることに重きをおくため、手を抜くことができません。介護の様子を細かく記録して分析するなど熱心な反面、スケジュール通りにいかないとイライラして自分を追い込んでしまいます。
また、介護を受ける相手が思い通りに行動しないと、強いストレスを感じてしまうでしょう。
責任感が強い
自分に厳しく、人に頼ることが苦手です。
周囲の人が心配しても受け入れない傾向が強く、ひとりで抱えこんでしまいます。疲れても休まないため、疲労が積み重なってしまうでしょう。
気が弱い・人の頼みを断れない
自分に自信がなく、仕事や介護に常に不安や心配を抱えています。人に指摘や注意をされるとひどく落ち込み、さらに自信がなくなってしまう傾向があるでしょう。
また、周囲の人からのお願いを断れず、何でもひとりで処理しようとします。
相手の気持ちに敏感
とても優しく、気遣いができる人です。
しかし、自分よりも相手を優先するため、なんでも我慢する傾向が強くなります。相手の気持ちを推し量るばかりに、取り越し苦労をすることも少なくありません。うまくいかないと自分を責めて、ひどく落ち込みます。
これらの特徴以外にも、経済的な不安を抱えている人、肉体的に過重な介護を強いられている人も介護うつになりやすいとされています。
介護うつの治療法
介護うつの治療法は、大きく分けて3つあります。
「休養」「薬による治療」、考え方などを見直す「精神療法」で、これらを組みあわせた治療が行われます。
1. 休養
脳のエネルギーが満たされるまでしっかり休むことが治療の基本で、最も大切なことです。
介護からいったん離れ、疲れきったこころとからだをリセットします。
家族に迷惑をかけてしまうと考えるかもしれませんが、長く介護を続けるためには、介護する人が健康でいることが必要です。
休養によって介護うつの治療効果も上がります。
家族の協力が得難い人は、介護サービスの利用を検討するとよいでしょう。
十分な休養をとれない場合は、軽症でも入院した方がよいこともあります。医療機関、ケアマネジャーなどに相談しましょう。
2. 薬による治療
うつ病も他の病気と同じように、薬による治療で症状を改善することが必要で、医師から処方される「抗うつ薬」が有効です。
最初は副作用を抑えるために少量から服用し、徐々に適切な量に調整します。効果があらわれるまで2~3週間ほどかかるため、自分の判断で中断することは避けましょう。
吐き気や眠気、めまいなどの副作用が気になる場合は医師に相談してください。
3. 精神療法
うつ病の精神療法には「認知行動療法」があります。感情や気分に影響を受けている物の見かたや考え方を、専門家との対話によって客観的に整理し、現実的で幅広い捉え方ができるようにする治療法です。
介護ストレスは、耐えて我慢するものではありません。100点ではなく60点くらいでいこうとする緩やかな気持ちが大切です。
ここまで、介護うつの治療法について見てきました。
ここからは介護うつの予防法について解説します。
介護うつを予防するには?
介護うつは、いくつかのポイントに注意することで予防したり解消したりすることが期待できます。
具体的な介護うつの予防・改善・解消方法を見てみましょう。
1. 介護サービスを活用する
介護保険で利用できるサービスにはさまざまなものがあります。
通所系サービスは、介護を受ける人が半日から1日出掛けている間に自分の時間を有効に使えるので、ぜひ活用してください。
しっかり休養したい人には数日から数週間のショートステイの利用がおすすめです。場合によっては数ヶ月入所することもできます。
担当のケアマネジャー、地域包括支援センターなどに相談すると、手続きや利用方法を教えてもらえます。
2. 運動
最近の研究では、うつ病を予防する最も効果的な方法は運動と言われています。
時間や体力がない人は、ほんの数分〜数十分の散歩や軽い運動でも効果があります。特に朝の散歩は、起床後すぐに太陽の光をあびることで脳内のセロトニンが分泌され、気持ちの落ち込みの改善につながるでしょう。
3. 100点の介護を目指さない
何でも完璧にしないと気がすまない性格が、うつ病の誘因になることがあります。介護も少し手を抜いて、60点くらいを心掛けましょう。
4. ひとりで抱え込まず、相談できる環境をつくる
介護のすべてをひとりで抱え込もうとすると、それだけで大きな負担がかかります。周囲の人を信頼して、任せることも必要です。
介護をしていることを周囲に知らせない人も多いですが、その場合相談できる人がいないために、ひとりで抱え込んでしまいます。信頼できる人を見つけ、介護の苦労や不安な思いを話せる環境を作りましょう。
ケアマネジャーは介護の専門家なので、さまざまな相談に乗ってくれます。地域包括支援センターで介護の相談をするのもよいでしょう。
5. 食事はバランスよく、好きな物を食べる
食欲低下はうつ病の代表的な症状です。介護に時間をとられて自分の食事は後回しの人も多いのではないでしょうか。
好きなものを食べることで幸せを感じ、気持ちも落ち着きます。
ビタミンを多く含む野菜や、肉・魚・卵・大豆製品などの高タンパク低カロリーなものをバランスよく食べることも大切です。
6. アルコールの量に注意する
アルコールを飲むと確かに寝つきは良くなりますが、眠りが浅いために早く目覚めるようになり、うつ病を悪化させることもあります。
アルコールによって一時的に気が晴れた感じがしますが、うつ病が治ったわけではありません。また、抗うつ薬の作用にも影響を与えることがあります。
7. 楽しみの時間をつくる
介護から離れて、楽しいことに集中する時間を持ちましょう。
買い物や美容院に行く、趣味に集中するなど介護を忘れる時間が少しでもあると気分がリフレッシュします。
まとめ
24時間365日気が抜けない介護を担う人は、こころとからだに大きな負担を強いられ、誰しも介護うつになる可能性があります。身近に助けてくれる人がいない、一緒に介護を担ってくれる人がいない場合はより注意が必要です。
終わりの見えない介護を続けていくコツは、ひとりで頑張りすぎないこと、人とのつながりを絶やさないことです。遠慮せずに「助けてほしい」「話を聞いてほしい」と声をあげましょう。
あなたを支えてくれる人は必ずいることを忘れないでください。
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この記事の制作者
著者:宮崎由希(看護師・ケアマネジャー)
平成2年、看護師資格取得。
総合病院の勤務を経て、民間介護会社で訪問介護の管理者やヘルパー講座の講師などを担当。
平成11年にケアマネージャー資格取得。
特別養護老人ホームにて看護師、ケアマネージャー業務に就く。
平成23年からは訪問看護、訪問診療の現場にて従事。
現在は、訪問看護ステーションで、管理者とケアマネージャー業務を行いながら、
ニチイ学館の介護福祉士実務者研修の講師の仕事を実践中。