地域包括ケアシステムとは 高齢者の暮らしはどう変わる?

少子高齢化が急速に進むなか、国は人生90年時代にふさわしい社会への転換を推し進めることを示しています。

具体的には、高齢者になっても住み慣れた地域で、自立した生活を最期まで送ることができるように、必要な医療、介護、福祉サービスなどを一体的に提供し、すべての世代で支え・支えられるまちづくりをすることです。そのためのしくみを「地域包括ケアシステム」といいます。

全国の市区町村では現在、それぞれの地域に合った「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。その背景や内容を解説します。

地域包括ケアシステム誕生の背景―2025年には4人に1人が75歳以上!

地域包括ケアシステムが必要とされるようになった背景には、日本の急速な少子高齢化があります。

「高齢化の推移と将来推計」内閣府平成29年版高齢社会白書より

「高齢化の推移と将来推計」内閣府平成29年版高齢社会白書より

「65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率」内閣府平成29年版高齢社会白書より

「65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率」内閣府平成29年版高齢社会白書より

高齢者人口は、団塊の世代がすべて65歳以上となった2015年に3,387万人に達し、総人口の27.3%を占めました。その団塊の世代が75歳以上になる2025年には、65歳以上の高齢者は3,677万人となり、総人口の30.0%を占め、4人に1人は75歳以上の後期高齢者になる推計です。

また、認知症患者の数も、2012年は65歳以上の高齢者の約7人に1人の割合でしたが、2025年には5人に1人の割合になると予想されます。このように、2025年には、高齢者の数と認知症の人の数が今よりも確実に増えると予想されることから「2025年問題」と呼ばれています。

2000年から介護保険制度が始まり、昔のように家族にだけ介護の負担がかかることはなくなりました。しかし、高齢化とともに少子化が進み、税収が減少して社会保障費が予想以上の速さで増大しています。そのため介護保険や医療保険などの公費だけで高齢社会を支えるのは無理が生じてきました。

そこで国は、医療と介護を病院などの施設で行うものから、在宅で行うものへと切り替え、地域にかかわる多くの人たちが相互につながることで安全と安心を確保していく「地域包括ケアシステム」の考え方を打ち出したのです。

国が地域包括ケアシステムの構築を急ぐのには、このような財政の問題が大きな要因になっています。

地域包括ケアシステムの基本的な考え方

地域包括ケアシステムは、各市区町村がその地域の特性に応じて創り上げていくものです。そのための構成要素を厚生労働省では次の5つとしています。

1.介護
介護が必要になったら利用する介護サービス全般
2.医療
かかりつけ医、看護サービス、急性期病院、リハビリテーション病院など医療サービス全般
3.予防
いつまでも元気で暮らすための介護予防や健康づくり、保健衛生面など
4.生活支援
日常の暮らしを支えて自立を支援するための福祉サービスや地域交流に関すること
5.住まいと住まい方
高齢者の住まいの確保、賃貸住宅入居時の保証人の確保、空き家の活用など

以上の5つの要素を、総合的かつ一体的に提供するシステムを構築することが地域包括ケアシステムの目的です。生活のベースとなる「住まい」と、生活を支える「福祉サービス」をまず確保し、そのうえで「医療、介護、介護予防」を有効的に機能させます。

なお、地域包括ケアシステムにおける「地域」とは、住民の日常生活の範囲をいい、具体的には30分程あれば駆けつけることができる範囲とされています。

地域包括ケアシステムのポイントは「互助」と「自助」

これまで、社会福祉は「自助・互助・共助・公助」の4つをバランスよく組み合わせて行われてきました。

「自助」とは、自分で自分を助けることです。かかりつけ医をもち、定期的に健康診断を受けるなどして、普段から自分の健康に注意を払い、自立した生活を維持するために必要なサービスは自費で購入するものです。

「互助」とは、住民同士の支え合いです。町会・自治会などの活動やボランティア・NPOなどによる、公的な制度と異なる助け合いのしくみを指します。

「共助」とは、制度化された相互扶助のことです。医療、年金、介護保険といった社会保険制度を指し、保険の仕組みを用いて社会全体で助け合おうというものです。

「公助」とは、国による社会福祉制度のことです。税の負担による生活保護制度や市区町村が実施する高齢者福祉事業を言います。

今後は「互助」と「自助」の役割を一層高めようとする考え方が「地域包括ケアシステム」になります。
 

地域包括ケアシステム構築のプロセス

地域包括ケアシステムの構築は、各市区町村で3年ごとに策定する「介護保険事業計画」を通じて計画的に進めることになっています。従って、全国一律のものではなく、各地域が目指す独自のケアシステムを計画していくものです。

ただし、システム計画の方法として、次の3つのプロセスを経て進めることが国から示されています。

1.地域の課題の把握と社会資源の発掘
市区町村では、住民の日常生活に関連したニーズの調査を行います。また、地域包括支援センターなどで「地域ケア会議」を開催し、地域の個別事例の検討を行い、地域の課題を分析・把握します。同時に、医療・介護・福祉サービスの担い手となる地域のNPOやボランティア団体、町会や商店などを発掘します。
2.地域関係者による対応策の検討
市区町村レベルの「地域ケア会議」を行い、総合的に課題を検討し、具体的な対応策を立案します。
3.対応策の決定と実行
市区町村において対応策を決定、地域にかかわる多様な主体による多様な支援メニューを整備します。

このプロセスの中で重要な役割を果たすのが「地域ケア会議」です。

地域ケア会議は、地域包括支援センターなどが主催する圏域ごとの会議をまず行います。会議には、自治体の職員、ケアマネジャー、介護事業者、町会・自治会、民生委員、医療関係機関、社会福祉協議会、ボランティア団体など多くの地域関係者が集まります。この会議で地域における個別事例を検討し、その検討を積み重ねることで地域の課題を把握していきます。

圏域ごとの地域ケア会議により把握された課題は、次に市区町村レベルで開催される代表者による地域ケア会議に報告されます。そして、市区町村で実施した住民のニーズの調査の結果と併せ、地域の共通の課題と社会資源を具体的に検討し、サービスの開発と地域づくりが計画され、地域包括ケアシステムを構築していくことになります。

地域包括ケアシステムを実行するためのサービスメニューには、外出支援、買い物支援、家事援助、声かけや安否確認、サロン活動などの多様なサービスが考えられます。そのようなサービスを、地域の商店や郵便局、金融機関、NPO、社会福祉協議会、民生委員、ボランティア団体、町会などが提供の主体となることが期待されています。

地域のこのような社会資源をつなげた「地域支援ネットワーク」がいかに機能するかが、地域包括ケアシステムの鍵となるでしょう。

2017年度から全国の市区町村で完全にスタートした「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」は、地域包括ケアシステムを実現させるための具体的な「地域支援ネットワーク」を生かした地域の支援事業ということになります。

総合事業とは

地域包括ケアシステムのメリットとは

地域包括ケアシステムが始まると、高齢者の暮らしはどう変わるでしょう。期待されることをまとめます。

一体的で継続的な医療と介護の連携サービスが提供される
今までは医療と介護の連携が整っておらず、医療ケアが特に必要な要介護者への、柔軟なサービスの提供が困難でした。しかし、在宅医療サービスと介護サービスがきちんと連携することで、必要なタイミングで柔軟なサービス提供が可能になり、医療依存度の高いい方でも安心して自宅で今まで通りの生活を続けやすくなります。
認知症になっても、自宅での生活を続けられる
地域支援ネットワークを生かし、地域に認知症カフェや認知症サポーターが増えて、認知症の人の居場所や見守る人たちの数が増えていくでしょう。また、2018年度から地域包括支援センターを通じて設置される「認知症初期集中支援チーム」により、認知症が疑われているが医療や介護サービスに結びついていない人をサービスにつなげることができるようになります。
このようなことから、認知症になってもできる限り住み慣れた環境で自分らしい暮らしを続けることが期待されます。
地域に多様な生活支援サービスが生まれる
高齢者の日常生活に欠かせない買い物、調理、掃除、ゴミ出しなどの家事支援や外出支援、見守りなど個別のニーズに対して柔軟に対応できるサービスが提供される予定です。
高齢者が社会参加できる
比較的元気な高齢者は、支援する側になる機会が増えます。地域での役割を果たしながら、自分の生きがいを見つけたり、介護予防につなげたりできるでしょう。
 

地域包括ケアシステムの取り組み事例

1.都市部の人口規模最大地域である、東京都世田谷区の事例

地域包括ケアシステムの5つの構成要素についてバランスよく取り組む。

  1. 医療:在宅医療を推進
  2. 介護:定期巡回・随時対応型訪問介護看護利用の推進
  3. 介護予防:高齢者の居場所づくりと高齢者自身の参加の創出
  4. 住まい:グループホームや都市型軽費老人ホームの整備
  5. 生活支援・福祉サービス:住民団体や社会福祉協議会主体の地域活動の推進

人口規模の大きい地域であるため、NPO、事業者、大学など約70もの団体が地域包括ケアシステムに参画することが可能。それらの団体が連携・協力を活発に行うことで、高齢者が支援を受けるだけでなく、支援する側として社会参加できるしくみを促進していく。

2.人口規模が小さい地域である、鳥取県南部町の事例

人口1万人ほどの地域ならではの特性を生かした共同住宅の実現。借り受けた空き家などを活用して高齢者の共同住宅を確保し、地域の交流と共同生活の機能を併せ持つ第三の住まいのあり方を目指す。

医療と介護の連携サービスや地域住民が必要に応じて見守りや食事の提供などの生活支援サービスを提供する。

3.在宅医療の推進する、千葉県柏市の事例

行政が事務局となり、医師会、薬剤師会、在宅栄養士会、在宅リハビリ連絡会、訪問看護連絡会、歯科医師会、地域包括支援センター、ケアマネ協議会など在宅医療にかかわる多くの関係者が話し合う体制を構築し、在宅医療に関する地域住民への普及啓発を積極的に行う。

今後の課題

既に始まっている事例から見出される課題や今後推測される課題をまとめます。

医療と介護の連携の遅れ
医療と介護が連携できる体制づくりは地域包括ケアシステムの柱ですが、まだまだ十分な体制が整っているとは言えず、例えば夜間や早朝、緊急時の対応がまだ不十分です。迅速に医師や看護師と介護職が連携できる体制の整備が課題です。
地域の格差が起こる
財源、マンパワー、高齢者人口のバランスを踏まえたシステムをいかに構築できるかは、各市区町村にゆだねられているため、地域間の格差が生まれやすくなる懸念があります。
地域包括ケアシステムの趣旨が住民に浸透していない
地域包括ケアシステムの考え方や各サービスの情報を、地域の人たちに伝えていくための周知や啓もう活動が必要とされています。
「自助」と「互助」が進められるか
近所づきあいの希薄化が進むなか、いかに「互助」の充実を図れるか。また、低所得者が増加している傾向にあり「自助」がどこまで行えるかが心配されています。そのためにも積極的な住民参加のきっかけ作りが必要です。
過疎化が進む地域の担い手不足
高齢化とともに過疎化が進む地域では、サービスの担い手となる人々の確保に苦労があります。

まとめ

地域包括ケアシステムは、高齢者だけでなく子育て世帯、障害者などを含むその地域に暮らすすべての人にとっての総合的、包括的な地域ケアのしくみとして考えていくことが大切です。

地域包括ケアシステムには全国共通のモデルはありません。その地域独自のものができるかどうかは、行政と住民が共に「わが事」として、自分たちが住む「まちづくり」に取り組む姿勢をもてるかどうかにかかっているとも言えるのです。

イラスト:上原ゆかり

著者

浅井 郁子

浅井 郁子(介護・福祉ライター)

在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級

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