パタカラ体操のやり方と効果的に行うポイント
パタカラ体操とは、誤嚥を防ぐための代表的な訓練方法の一つで、口・舌を鍛えることで食べる・飲み込む機能の向上を目的とします。
ここでは、パタカラ体操のやり方や効果的に行うためのポイント、体操を通じて具体的に何を鍛えられるのかについて解説します。
パタカラ体操とは
介護施設では、誤嚥を防ぐために口・舌の運動としてパタカラ体操やストレッチが行われます。パタカラ体操とは「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を発音することで口・舌の筋肉を使い、食べたり飲み込んだりする機能を鍛える代表的な体操の一つです。
パタカラ体操には、次の3つのやり方があります。
パタカラ体操3つのやり方
- 1.単音の発音
- 「パ」「タ」「カ」「ラ」のように1音ずつ発音する。
- 2.連続の発音
- 「パパパ……」「タタタ……」「パタカラ、パタカラ……」のように連続して発音する。
- 3.文の発音
- パ・タ・カ・ラを含む文を発音する。
よく使われているのが「パンダの宝物」という一文で、「パンダのたからもの、パンダのたからもの……」のように発音します。
どのやり方も、口・舌の準備運動として食事の前に各10回程度行います。
単音の発音が一番やさしく、連続の発音が一番難しいため、やりやすい方法から取り組んでみてください。
はっきり聞こえるように発音することが大切ですが、慣れてきたら早く発音してみるのも良いでしょう。
効果的に行うための3つのポイント
パタカラ体操を効果的に行うには、発音するときに気をつけるポイントを知ること、効果を感じること、そして少しずつでも毎日続けることが大切です。
具体的なポイントをみていきましょう。
発音するときに気をつけるポイントを知る
パ・タ・カ・ラの音には、それぞれの音を発音するのに使う筋肉があります。
そしてこれらの筋肉は、食べたり飲み込んだりする機能と密接に関係しています。
パ・タ・カ・ラを発音するとき、それぞれ口・舌にどんな力が入るのかを知れば、体操を効果的に行えるようになるでしょう。
「パ」は口を閉じる力
食べ物を口からこぼさないよう、唇を閉めるために働く筋肉を使います。唇をしっかり閉じてから発音しましょう。
「タ」は押しつぶす力
食べ物を押しつぶして飲み込むときに働く筋肉を使います。舌を上あごにくっつけて発音しましょう。
「カ」は誤嚥せずに飲み込む力
食べ物を飲み込むときに誤って気管に入らないよう、のどの奥を閉じるために働く筋肉を使います。のどの奥を閉じて発音しましょう。
「ラ」はまとめる(丸める)力
食べ物を飲み込みやすくまとめるときに働く筋肉を使います。舌を丸めて、舌の先を上あごの前歯の裏につけて発音しましょう。
効果に気づく
パタカラ体操を行うと、食べこぼしが減る、食べ物を押しつぶしたり丸めたりしやすくなる、食べ物が気道に入るのを防ぐといった効果が期待できます。
具体的には「飲み込みやすくなった」「食べ物が口に残らなくなった」「ムセが減った」などの効果が感じられるのではないでしょうか。
ご本人よりも、そばで見ているご家族の方が変化に気づかれることが多いようです。
何か少しでも効果を感じることができれば、体操を続けやすくなると思います。
アプリなどを使って楽しく続ける
パタカラ体操や口・舌の機能のセルフチェックができる無料のスマホアプリがあります。
分かりやすい画面を見ながらゲーム感覚で取り組めますので、楽しく続けるアイディアの一つとして参考にしていただけると良いと思います。
食べる・飲み込むのメカニズムとパタカラ体操
パタカラ体操をより効果的に行いたい方のために、食べる・飲み込むのメカニズムとパタカラ体操の関係をもう少し詳しく説明していきます。
食べる・飲み込むのメカニズム
食べる・飲み込むという運動は、主に次の5つの段階に分けられます。
①食べる物を認識する(先行期)
②食べ物を口に入れて、唾液とよく混ぜて咀しゃく(そしゃく)したり、舌で食べ物を押しつぶしたりする(準備期)
③食べ物を舌でまとめて飲み込みやすい形状にして、舌でのどに送り込む(口腔期:こうくうき)
④のどから食道へ送り込む(咽頭期:いんとうき)
⑤食道から胃へ送り込む(食道期)
パ・タ・カ・ラはどの段階と関係しているか
パ・タ・カ・ラは食べる・飲み込むという運動の、どの段階と関係しているのでしょうか。「パ」は口を閉じる力なので主に準備期との関係が深いです。「タ」は押しつぶす力、「ラ」はまとめる(丸める)力なので口腔期。「カ」は飲み込むためにのどに送る力であり、咽頭期となります。
「オーラルフレイル」という考え方
健康な状態と要介護の状態の間には、筋力や体力・活力が低下する「フレイル(虚弱:きょじゃく)」と呼ばれる段階があります。
ここには、ささいな口の機能の衰えを表す「オーラルフレイル」も含まれます。
フレイルの症状は筋力や体力・活力の低下、ささいな口の機能の衰えといった目立たないものなので、受診の際に積極的な治療を促されることも少ないです。
フレイル、オーラルフレイルは改善できる可能性が高いので、ぜひ挑戦してみましょう!
まとめ
普段は何気なく行っている食べる・飲み込むという行為は、実は意外と難しいことなのだと気づいていただけたのではないでしょうか。
リハビリの現場で働いていると、食事を楽しみにされている方がとても多いことに気づかされます。
この記事が、皆さんの身近な人、大切な人にいつまでも食事を楽しんでいただくためのお手伝いになれたとしたら、一臨床家としてとても嬉しく思います。
パタカラ体操の一つで、「パンダのたからもの」という文を繰り返し発声する方法をご紹介しました。
続けることで食べ物が飲み込みやすくなったり、ムセが減ったりという効果が得られるパタカラ体操。
「パンダの宝物」とは、”いつまでも食事を楽しめる日々”なのかも知れません。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:安藤 岳彦(介護老人保健施設ひまわりの里 リハビリテーション部長)
認定理学療法士(地域理学療法、健康増進・参加)、中級障がい者スポーツ指導員
1999年秋田大学医学部付属医療技術短期大学部理学療法学科を卒業。
医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院に勤務。介護老人保健施設ライフプラザ鶴巻、医療法人篠原湘南クリニッククローバーホスピタル、医療法人社団佑樹会・介護老人保健施設めぐみの里の開設を経て、現職。療養・生活に寄り添うリハビリ専門職として、日々の業務に従事しています。