
インフルエンザの流行や、高齢者施設で発生した感染症について、毎年のようにニュースで耳にすることが多くなりました。
このページでは、なぜ年をとると感染症にかかりやすいのか、高齢者はどんな感染症にかかりやすく、どうしたら予防できるのかについて説明します。
- 【目次】
-
高齢者の免疫が低下する理由
高齢者が感染症にかかりやすいのは、若い人よりも免疫力が低下しているからです。
免疫機能は60歳を超えると20代のおよそ半分以下になるといわれています。
加齢によって、免疫を主導する白血球(T細胞)が生み出される数が減り、その活動も衰えます。さらにT細胞の成長を助ける脾臓やリンパ節の機能も低下するため、T細胞の病原体への反応が弱くなります。
このように、免疫機能を持つ細胞の産生が減り、免疫細胞の機能を助ける臓器が衰えると、体全体の免疫機能は低下していきます。
このため、高齢になると様々な病原体の影響をもろに受け、病気にかかりやすくなるのです。
高齢者がかかりやすい感染症
高齢者がかかりやすい感染症には、以下のようなものが挙げられます。
感染症は早く対処しないと、血液に細菌感染を起こし菌血症になったり、細菌による全身炎症反応である敗血症になって死亡に至る確率も高くなります。
上記の他に、感染症の治療による二次的な症状として、抗生物質の多用により腸内の良い菌が死滅し、悪い菌がはびこる薬剤性大腸炎も起こることがあります。
家族ができる感染症予防
日常生活での予防
ご本人の予防はもちろん、介護する人も健康管理に気をつけ、自分が患者にならないこと、感染源にならないことが大切です。
帰宅時に手洗いとうがいをする
外出先から帰宅した時には、手洗いとうがいを行います。うがいは、のどの奥だけではなく、口の中もしっかりとゆすぎます。
手洗いは、手の隅々まで洗うことが、外の菌を持ち込まないポイントです。
介護者は、介護前後の手洗いも徹底します。手袋をつけてケアした場合も、手袋をはずした後に必ず手洗いをします。
孫などの子どもから感染症がうつるケースが多くあります。子ども自身の体も守るため、丁寧な手洗い法を一緒にやって教えてあげましょう。
身体の清潔保持をする
感染症が流行する冬場は入浴が面倒になりがちですが、できるだけ清潔に保つよう心掛けましょう。
特に陰部は汚れがたまりやすい場所。尿路感染症や皮膚感染症を予防するためにも、清潔な水とタオルで清潔保持をすることが大切です。
予防接種を受けておく
高齢の方は、医師と相談のうえ毎冬に流行するインフルエンザの予防接種を受けておくとよいでしょう。
接種後約1~2週間してから効果が現れるので、流行前の10~11月ごろ摂取しておくと万全です。家族や介護者も接種が望ましいでしょう。
体力をつけ、楽しく過ごす
免疫の低下は、加齢のみではなく、栄養不良、睡眠不足、運動不足や過多なストレスなどからも生じます。
これらにより、体力が低下したり、体内のバランスを保つ機能が落ちると、さらに免疫力は低下し、感染症になりやすくなります。
食事・睡眠・運動などの生活習慣を整え、ストレスなく楽しく毎日を過ごして免疫機能を上げましょう。
感染後の感染経路に応じた予防
感染症にかかったことがわかった場合は、以下のような感染経路に応じた感染拡大防止策を徹底することが大切です。
感染経路 |
説明 |
主な感染症 |
予防法の例 |
飛沫感染 |
咳やくしゃみなどの飛沫から感染する |
インフルエンザ、肺炎球菌、風邪など |
・マスクの使用
・眼鏡、ゴーグルの着用
・ビニールエプロンの着用
・フェイスシールドの使用 |
接触感染 |
触って、または触った媒介物を通して感染する。 |
尿路感染症、疥癬、水虫(白癬菌)など |
・手袋・ビニールエプロンの着用
・手洗い・該当部位の清潔保持
・手指の消毒
・タオルなどの共有をやめる
・速やかなオムツ交換 |
空気感染 |
同じ空間にいることで感染する。 |
結核など |
・マスクの使用
・感染者の隔離
・同じ空間にいた人の検査
|
現場では、感染症が直接状態の悪化や死亡を招くだけでなく、例として以下のように別の状況を引き起こして悪循環となり、恒常的な状態悪化を招くパターンがよくみられます。
- ノロウイルスで嘔吐する → 誤嚥を引き起こす → 肺炎で呼吸状態悪化 → 呼吸器離脱できず
- 下痢で栄養低下 → 体力低下 → 持病の悪化、または他の菌の肺炎で死亡
感染症にかかったら、それを治すことだけではなく、全身状態を注意深く確認しておくことも大切なのです。
目に見えない小さな菌やウイルスなどにより全身状態の悪化を引き起こす感染症は、高齢者介護で最も恐ろしいものの一つともいえます。
しかし、予防策を習慣化しておくことや、何よりもご本人が十分な睡眠をとり、運動をし、バランスの良い食事を適量摂って体力をつけ、楽しく過ごして免疫機能を高めておくことが大切です。
そうすれば、完全ではなくとも、かなりの確率で感染症を防ぐことができるでしょう。
【入居できないことも?】老人ホーム|感染症の受け入れ
【Q&A】老人ホームではどのような感染症対策が行われていますか?
【Q&A】コロナのせいで老人ホーム見学断られた。どの老人ホームもそうなの?
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
監修者:野溝明子(医学博士/鍼灸師/介護支援専門員)
東京大学理学部、同大学院修士課程修了。東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、順天堂大学医学部解剖学・生体構造科学講座で医学博士取得。東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。
医療系の大学、専門学校で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅・施設等へ出向き施術を行ったり、ケアマネジャーとして在宅緩和ケアや高齢者の介護・医療の相談にものる。
著:編集工房まる株式会社