【知っておきたい】口腔ケアで健康を維持

多くの人にとって、歯みがきは習慣になっていることでしょう。年を取るにしたがって口の中の状態も変化します。そのため、高齢者は口からさまざまなトラブルが起こりやすくなり、よりていねいな「口腔ケア」が必要になります。このページでは、口腔ケアの意義や手順、訪問歯科の頼み方などを解説します。

加齢による口内環境の変化

加齢に伴い、人の口の中は下記のように変化してきます。

  • 歯:すり減って短くなる、もろくなる、むし歯になりやすくなる など
  • 歯ぐき:やせて歯とのすきまが空く、食物がつまりやすくなる、弾力性がなくなる、義歯の安定感が悪くなったりする など
  • 唇:弾力性がなくなる、口を開けにくくなる、荒れやすくなる など
  • 唾液:少なくなる
  • 味覚:今までとは違う味に感じる

唾液が減少すると、口の中の自浄作用が低下するので汚れやすくなり、食べ物の飲み込みにも障害を起こしやすくなります。また、唾液減少、口の中の味を感じる器官(味蕾)の減少、服薬などによって味覚も変化してきます。さらに、口の中の感覚も鈍くなり自覚しづらくなります。この点で、口の中は、環境や症状が悪化しやすい部位だともいえるでしょう。

口腔ケアを行う意味

「口腔ケア」とは、歯みがきだけではなく、歯ぐき、舌、粘膜など口の中の全てから入れ歯まで含めた清掃や、咀しゃくし飲み込む機能を維持・回復する口からのどにかけてのリハビリテーションなども含めた、幅広い意味で使われる言葉です。

口腔環境は、全身の健康と密接に関連しています。口の中は、温度・水分・栄養分の面で、とても細菌が繁殖しやすい場所です。健康な人でも、口の中には600種類以上もの細菌が常にあると言われています。高齢者が口腔ケアを怠ると口の中の細菌は増殖して、病原性のある細菌に変化します。すると口腔内が不潔になり、歯周病、口内炎などの口腔内トラブルが発生しやすくなります。免疫力が低下していれば、口腔内カンジダなど口の中の感染症にもかかることがあります。

さらに、これらの細菌が肺に入ったり、口の中のキズ(虫歯や歯周病)などから血管内に入ったりして、下記のような全身疾患や感染症にかかり死に至ることもあります。感染症の病原体は必ずしも外から来るとは限らず、自分の体内から移動してくることも多いのです。口の中では無症状でも他の場所では病原性を発揮するタイプの病原体も多くあります。

口腔内細菌・口腔機能が関与するとされる全身疾患・感染症
・誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
・脳血管疾患
・感染性心内膜炎
・敗血症
・虚血性心疾患
・高血圧
・糖尿病

口腔ケアのメリット

高齢者にとって、口腔ケアで得られるメリットは、以下のようにたくさんあります。

口腔内トラブルの減少

当然ですが、口腔ケアが適切に行われれば、口腔環境が整えられ、虫歯や歯周病等の口腔感染症が改善されます。歯周病によりうまく固定されなかった入れ歯もしっかりと固定され、すきまにものが入って痛くなることもなくなります。

栄養状態の改善

口に入れた食物をしっかりと切断、破砕し、唾液と混ぜ合わせることは、食べ物を消化・吸収する作用の第一段階です。それができれば、口から食べることで栄養がしっかりと吸収され、低栄養や脱水が予防でき、体力回復や意欲向上、全身状態の改善につながります。

誤嚥性肺炎など、感染症の予防

誤嚥性肺炎とは、唾液や食べ物などが誤って気道に入り込む「誤嚥」が生じた際、一緒に口内の細菌も肺へ入り発症する感染性肺炎のことです。口腔ケアにより誤嚥性肺炎の原因となる菌が大きく減少すれば、たとえ誤嚥が生じても、重症化する可能性が低減されます。特に、高齢者が寝ている時に唾液が奥へたれ込むことは防げず、それが元で起こる誤嚥性肺炎は口腔ケアでしか予防できません。

誤嚥性肺炎以外の感染症も、口腔ケアにより予防できます。歯周病などの口腔内感染症から血管に菌が入って全身敗血症に、といった感染症によくあるパターンを、根本から食い止めることができます。

脳の活性と認知症予防

口でものを噛み飲み込むという強い刺激は脳の広い領域に影響を与え、脳の活性化に役立っています。最近の研究では、歯が多いほど認知症になりにくい、噛む刺激で記憶に関わる脳内の海馬という場所の神経細胞が増える、歯周病がアルツハイマー型認知症を増悪させる、など、咀嚼と脳機能に関する研究が多くなされています。

味覚の向上で食欲増進

味覚は水に溶けたものしか感知できないため、口腔ケアで唾液分泌が増加すれば味覚も改善され、食欲も増し、栄養改善にもつながります。なにより、食べることが好きな方には、自分が好きなものをいつまでも美味しくいただけることは、精神的に大きな支えとなるでしょう。

コミュニケーションの改善

口や舌の動きが向上することで発音がよくなり、おしゃべりや意思疎通も円滑にできるようになります。また、口腔ケアにより、口内環境がよくなると、口臭を減らすことができ、人と話すときの障害が減らせます。

家庭でできる口腔ケアの方法

口腔ケア時に便利な物品

歯ブラシ

唾液がたれ込みやすい場合は、歯ブラシから唾液を吸引する吸引ブラシもあります。ご本人の手や腕が不自由な場合などは、電動歯ブラシも活用しましょう。

歯間ブラシ・デンタルフロス

歯間ブラシ

歯と歯の間を掃除するときに使います。しっかり食い込んでとれない場合などは、フロスを使うと便利です。

スポンジブラシ

スポンジブラシ

頬の内側など、粘膜を清掃・刺激したいときに使います。

舌用ブラシ

舌を掃除するときに使います。

バイトブロック

バイトブロック

意識障害などで思わず口を閉じ噛んでしまう方などに対し、介助者が清掃視野を確保し、危険を防止するために使います。

義歯用ブラシ

義歯ブラシ

広いブラシで歯や歯ぐき部分を、狭いブラシで歯間や金属部分などを洗います。

うがい受け

うがい受け

ベッドなどでのケアで、うがいのあとの水を吐き出すときに使います。

口腔ケアをはじめる前に

近くに用具を置いておく

途中で席を立つ必要がないように、はじめる前に用具一式を前もって準備して、近くに置いておきましょう。

安全な姿勢を確保する

ご本人の状態により、安全で無理のない姿勢を確保しましょう。ご本人がしっかり座れる、または立てる場合は、背中をまっすぐにして行います。
ベッドなどで行う場合は、少なくとも30度は上体を起こす必要があります。ケア中に汚れた唾液がのどへたれ込み誤嚥してしまうこともあるので、後頭部に枕を置くなど、ご本人があごを引いたうつむき加減の姿勢が誤嚥しにくいといわれています。

誤嚥しにくい姿勢

誤嚥しにくい姿勢

口の中を観察しよう

口の中の汚れ具合や、食べ物が残っていないかどうか、出血、腫れ、口臭、乾燥の状態を確認してから始めましょう。

口腔ケアの手順

1. うがい

水を口に含み、左右の頬を膨らませて、しっかり動かしながらぶくぶくします。口の中の体操になります。

2. 歯の清掃

歯ブラシをご自身で扱える場合
できる限り自力での歯みがきを促しましょう。肘を挙げていられなければ、その部分だけ支えたり、手首がうまく回らなければ電動歯ブラシを利用したりと、できない動作だけを支援します。できた部分は「磨けていますよ」と評価しつつ、磨き残しなどがある場合は以下のような介助が必要です。
介助が必要な場合
歯ブラシとは反対の手指で、唇や頬を広げ視野を確保しながら、口の中を磨きのこしなく一周して磨いていきます。
寝たきりや重度障害など、誤嚥の可能性が高い場合
歯ブラシだと誤嚥の可能性が高い場合は、指に巻き付けたガーゼや綿棒で汚れを拭き取ります。介護者は使い捨て手袋などを装着し、殺菌ガーゼを指に巻き、水やうがい薬で湿らせ、余分な水分を搾り取ってから、ご本人の口腔内の汚れを拭き取ります。細部は湿らせた綿棒で汚れを落とします。

3. 粘膜の清掃

頬の内側、唇の内側、歯ぐき、上あご、舌などの汚れを取ります。デリケートな部分なので、スポンジブラシや、口腔ケア用のウェットティッシュなどを利用してやさしく取り除きます。

4. 舌の清掃

舌にこびりついた白い苔状のものは、食べかすや細菌が集まってできた舌苔(ぜったい)といい、口臭の原因にもなります。舌用ブラシやスポンジブラシなどで奥→前、中→外の方向に、やさしくこすりとります。

5. 頬のストレッチ

スポンジブラシや歯ブラシの背の部分で、頬の内側を外へ押し広げながら、上下に3~4回動かします。頬の筋肉のストレッチになり、口が動かしやすくなります。

6. うがい

仕上げに洗口液を使用するのもおすすめです。

7義歯の洗浄

以下の手順で行います。

  1. 食べ物の残りかすなどをざっとすすぎます。
  2. 歯とは別の義歯用ブラシでブラッシングします。
  3. すすぎます
  4. 時間があれば義歯洗浄剤につけ置きます。

唾液腺マッサージも効果的

このほか、唾液が出にくい方には随時口の中の乾燥を防ぐための人工唾液を使ったり、食事前に下のような唾液腺マッサージを行って、唾液の分泌を促します。

1.耳下腺マッサージ

唾液腺マッサージ1

親指以外の4指を、上の奥歯あたりの頬に当て、後ろから前へゆっくりと回す(10回程度)。

2.顎下腺マッサージ

唾液腺マッサージ2

親指以外の4指を、あご下の骨の内側の柔らかい部分に当て、耳の下までを4-5箇所程度に分けて押す(往復3回程度)。

3.舌下腺マッサージ

唾液腺マッサージ3

両手の親指を、あごの下から舌を押し上げるようにグッと押す(10回程度)。

訪問歯科を利用した口腔ケア

疾患を抱える高齢者ほど口腔ケアを行いにくく、治療が必要な状態になる方もいます。しかし、歯科に通院し順番待ちするのが負担ですし、待合室で感染症に罹患する恐れもあり、なかなか歯科受診につながらないものです。

歯科医師や歯科衛生士などが専用機材を持参して診察する「訪問歯科」を利用することで、病院へ行く煩わしさとリスクを低減し、時間も節約できます。
在宅介護を行うなかで、少しでも口の中のことで課題を感じたら訪問歯科を依頼しましょう。特に脳血管疾患や心疾患などで急性期処置を受け退院された方、認知症、パーキンソン病等の方などが、訪問歯科を必要とすることが多いようです。

訪問歯科の利用手順

在宅介護で訪問歯科を依頼すると、介護保険が優先して適用されます。おおむね、以下のような流れになります。

1.歯科を選ぶ
担当のケアマネジャーなど地域介護に詳しい人に尋ねて、訪問してくれる歯科を選びます。
2.申込
初回訪問日時を決めます。
3.初回健診
口の状態を診断し、体の健康状態を考慮して治療計画をたてます。
4.訪問治療
治療、口腔ケア、口腔リハビリを開始します。1回当たりの治療時間は30分程度です。
5.定期検診
治療後は定期的に検診を受けましょう。

訪問歯科の支払方法は、医院によって違いますので、最初の診療の際に聞いておくようにしましょう。

まとめ

口腔ケアで改善できることは、思っていたよりも多岐にわたることがおわかりになったでしょうか。運動や栄養摂取と同様に、口の中をきれいにするのは身体全体にとてもよいことなのです。面倒がらず、毎日しっかりとお手入れしましょう。

嚥下障害とも関わりが深いので、そちらのページも参考にしてみてください。

嚥下障害とは

イラスト:上原ゆかり

監修者

野溝明子(医学博士/鍼灸師/介護支援専門員)

東京大学理学部、同大学院修士課程修了。東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、順天堂大学医学部解剖学・生体構造科学講座で医学博士取得。東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。
医療系の大学、専門学校で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅・施設等へ出向き施術を行ったり、ケアマネジャーとして在宅緩和ケアや高齢者の介護・医療の相談にものる。
著:編集工房まる株式会社

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