高齢者講習と認知機能検査|運転に必要なからだづくり

高齢ドライバーの事故がメディアで頻繁に取り上げられ、免許返納を求める声も高まっています。一方で、返納による生活への影響が大きく、不安を抱えながら運転を続けている方も多いのではないでしょうか。

ここでは免許証更新時におこなう高齢者講習と認知機能検査。自主返納のメリット・デメリットや返納のタイミングについて解説。さらに高齢ドライバーの事故原因と安全運転を続けるために注意したいポイントをお伝えします。

高齢者講習と認知機能検査|75歳以上の免許証更新

高齢者講習とは、運転免許証の更新の際に70歳以上の方が受ける講習のことです。運転適性検査、講義、実車指導などを行い、受講後は終了証明書が交付されます。

認知機能検査とは、75歳以上の方が免許証の更新時に受ける検査のことで、認知機能を自覚して安全運転を続けるための支援を目的に、記憶力や判断力などを測定します。この検査は運転をやめさせることが目的ではありません。

高齢者講習と認知機能検査の内容をまとめてみました。

高齢者講習と認知機能検査
内容
高齢者講習

(運転適性検査)動体視力、夜間視力、視野を測定する。
双方向型講義:交通ルールや安全運転の知識を再確認して、質問を受けながら受講する。

(実車指導)ドライブレコーダーで運転状況を記録しながら運転し、映像を確認して助言を受ける。

(個人指導・映像教養)運転に関する個人指導を受け、映像で安全運転を学ぶ。

※75歳以上で、かつ認知機能検査の結果から記憶力・判断力の低下がみられた方が対象

認知機能検査

(見当識)年月日、曜日、時間を正しく認識しているかを検査する。

(手がかり再生)16点の絵を記憶し、どれだけ思い出せるか(再生できるか)を検査する。
続けて、ヒント(手がかり)を参考に思い出せるかを検査する。

(時計描写)時計の文字盤を描き、指定された時刻を表す針を描くことで、空間把握能力(物の位置を把握する能力)を検査する。

検査の結果、記憶力・判断力の低下がみられた方は、病院などで医師の診断を受けることになります。ここで「認知症である」との診断が出ると、運転免許証の更新ができなくなります。

ただし、検査のときに体調が優れなかったり、緊張しすぎたりということもあると思います。こうした場合は、検査を行っている自動車教習所などに再検査を申し込むことができます。

なお、75歳以上の方で違反行為を行った場合には、更新時期でなくても臨時の認知機能検査を受けることになります。

免許返納のメリット・デメリット

運転免許証の有効期間内に自主返納を選択した人は、申請により運転経歴証明書の交付を受けることができます。

自主返納の主なメリット・デメリットをまとめると、次のように整理できます。

自主返納のメリット・デメリット
メリット

・運転事故を避けられる。

・運転経歴証明書を受け取り、公的な身分証明書として使用できる。
 加えて、自治体や協賛する企業・団体などから特典や優遇を受けられる支援制度を利用できる。

・車の維持コストがかからない。

デメリット

・運転ができない。(生活環境によっては、移動・生活が極端に制限される)

・行動範囲が極端に狭くなることで心身機能が低下し、要介護状態におちいる危険がある。

車を運転する理由は生活環境や個人によってさまざまで、自主返納をした場合の代替手段があるかどうかも大切なポイントです。

こちらの表を参考に、みなさんにとってのメリット・デメリットを改めて考えてみてください。

高齢ドライバーの事故はなぜ起こる?2つの要因

運転者の死亡事故は、運転免許証保有者の人口あたりでみると、取得後間もない若年ドライバーと75歳以上の高齢ドライバーで多くみられます。ただし、死亡事故はどの年代においても緩やかな減少傾向にあります。

75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故は、75歳未満と比較して車両単独による事故や出合い頭の衝突、正面衝突、操作不適が多いとされています。

操作不適とは、ハンドル操作のミスやブレーキとアクセルの踏み間違いなどをさします。

ここでは事故原因として多い「出会い頭の衝突」と「ブレーキとアクセルの踏み間違い」がなぜ起こるのか解説します。

1.出会い頭の衝突

出会い頭の衝突は、信号機のない交差点、特に見通しの悪い場所で起こります。よくあるケースとして、一時停止線で正しく停止せず、交差点に進入しかけてから止まる人が見られます。多くの場合、「ここで止まっても見えないから」と一時停止線で止まるのを怠っているのです。

しかし、ゆっくりした速度を保ちながら左右を確認し、さらに危険を察知したら瞬時にブレーキを踏む…というのは、同時にいくつもの動作を行うことで、とても難易度の高い行動です。「停止線では止まる」という基本的なルールを守ることが、事故防止につながります。

2.ブレーキとアクセルの踏み間違い

例えば、有料駐車場でパーキングチケットを取るときや、駐車のためにセレクトレバーを「R」に入れて左右や後方に気を配っているときなど、運転中は同時にいくつかの行動を行う場面があります。

このとき体の位置が変わると、ブレーキをかけている足の位置がずれ、結果的にブレーキとアクセルを踏み間違えることになります。

さらに、危険な事態に遭遇したときの慌てやパニック状態によって、ペダルを踏む動作に悪影響が生じ、結果的に急前進や急後退につながることがあります。
 

正しく知ってほしい!加齢で衰える4つの機能

加齢による心身機能の衰えは、自動車運転にどのように影響するのでしょうか。ポイントを絞ってみていきます。

1.視覚

運転にあたって最も重要な感覚情報は視覚といわれています。視力の低下や視野障害により、自分の車両や周囲の状況を認知するのに必要な情報が得られにくくなります。

2.聴覚

視覚の補助的な役割を担います。聴力の低下により、他の車両の走行状態や位置関係、路面の状況、他の車両のクラクションや救急車、消防車のサイレンなどの情報がうまく得られなくなります。

3.注意力

注意力と一口にいっても、注意を持続させる力、多くの情報からいま必要な情報を選ぶ力、同時にいくつかのことに注意を向ける力。そして、別のことに気づいて注意を向ける対象を切り替える力があります。

注意力が低下すると、集中力が落ちたり、ラジオや会話に気を取られて道路上の危険を見逃してしまったり、刻々と変化する目の前の状況への対応が難しくなったりします。

4.手足・体幹の柔軟性、筋力

ハンドル操作やアクセル、ブレーキ操作をする手足の柔軟性と筋力、これらを安定して行うための体幹の柔軟性と筋力が必要です。

この柔軟性と筋力が低下することで、ハンドル操作のミスや後方の状況の確認不足、ブレーキとアクセルの踏み間違いなどが生じやすくなります。

注意力と身体機能は鍛えられる!その方法

ここまでの内容を踏まえて、安全運転を続けるための注意力と体の鍛え方を解説します。

1.注意力の鍛え方

代表的な方法として「コグニサイズ」があります。コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防運動のことで、運動と認知課題に同時に取り組み、注意力や認知機能を鍛えます。具体的には、足踏みをしながら1から順に数えて3の倍数で拍手したり、歩きながらしりとりをしたりします。

2.運転に必要な体の鍛え方

具体的な方法として、5つの運動を紹介します。

①首と背中のストレッチ
体を左右にひねります。この動きを柔らかくすることで、パーキングチケットを受け取るときや後方を確認するときに足の位置がずれにくい体を作ります。

左右とも10秒、3セットを目安に行います。
②肩甲骨まわりのストレッチ
腕を組み、肘を上げ、腕を前後に動かすことで肩甲骨まわりを大きく動かします。肩甲骨まわりが柔らかくなると、ハンドル操作のミスが起きにくくなります。

10回、3セットを目安に行います。
③もも裏のストレッチ
片足を前に出して膝を若干曲げ、体を前に倒します。もも裏が柔らかくなると、アクセルやブレーキの操作をする姿勢に余裕が生まれます。

片足ずつ10秒、3セットを目安に行います。
④腹筋の強化
腰と背もたれの間に入れた手を腰で押します。腹筋が鍛えられることで、運転姿勢を安定させることができ、腰痛予防にもなります。

10秒、3セットを目安に行います。
⑤足の筋力の強化
ゆっくりと立ち座り運動を行います。足の筋力を鍛えることで、アクセルやブレーキを早く、強く踏み込めるようにします。

10回、3セットを目安に行います。

3つの行動パターンを見直して事故防止に

加齢による心身機能の衰えがあるなかで安全運転を続けるためには、今までの運転を見直すことが大切です。行動パターンを見直すポイントは以下の3つ。ぜひ意識して運転しましょう。

1.正しい運転姿勢をとり、アクセルとブレーキの位置を確認する

2.一時停止の場所では停止線で必ず止まり、徐行して交差点の直前でもう一回止まる「二段階停止」をする

3.駐車場での駐車や発進の際は、アクセルを踏まなくてもゆっくり進む「クリープ現象」を利用して、ブレーキペダルの調整で車を進める

運転技術の衰えは免許返納を考えるとき

高齢ドライバーに対する世の中の論調は、いつも「危ないから免許返納を」「年なのだからあきらめて」の一辺倒であるように感じます。しかし、自動車運転は、単なる生活の足に留まらず趣味や家庭・地域での役割・生きがいなどに直結するなど、返納の影響は多岐にわたります。

免許返納により「家族に頼まないと買い物や病院にも行けず困る」「趣味の場に出かけられない」という高齢者もいるため、返納は別の問題を生むことにもなっています。

注意力や身体機能を鍛える、行動パターンを見直すなどの対策が、事故防止のための一つの手段となります。しかし、急発進・急ハンドル・急ブレーキが増えていたり、十分な左右確認ができていなかったりする場合は、免許返納を考えるべきタイミングなのかも知れません。

親の運転を隣で見守る“助手席孝行”などを通じて、ご家族が日ごろの運転の様子を観察してあげることも大切です。

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イラスト:安里 南美

この記事の制作者

安藤 岳彦

著者:安藤 岳彦(介護老人保健施設ひまわりの里 リハビリテーション部長)

認定理学療法士(地域理学療法、健康増進・参加)、中級障がい者スポーツ指導員
1999年秋田大学医学部付属医療技術短期大学部理学療法学科を卒業。
医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院に勤務。介護老人保健施設ライフプラザ鶴巻、医療法人篠原湘南クリニッククローバーホスピタル、医療法人社団佑樹会介護老人保健施設めぐみの里の開設を経て、現職。療養・生活に寄り添うリハビリ専門職として、日々の業務に従事しています。

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