傾眠傾向とは?原因や対処法、進行状態の症状について解説
高齢者の介護でよく聞かれる「傾眠」という言葉。傾眠傾向とは、高齢者に多い意識障害のひとつです。一見、ウトウトしているだけのように見えますが、認知症をはじめ、大きな病気が隠れていることがあります。
対策をするためにも、ここでは傾眠傾向の原因や対処法のほか、進行状態の症状について解説していきます。
傾眠傾向とは
高齢者に多い意識障害のことです。
傾眠傾向とは、高齢者に多い意識障害のひとつで、一日中眠くなってしまう症状が続くことです。
高齢者がウトウトしているとき、肩をさわったり、声をかけたりするといった、ソフトな刺激だけで意識が戻る状態が傾眠傾向です。深い眠りについているわけではありません。
ただし、反応で一度起きたとしても、しばらくするとまた眠ってしまいます。一見すると寝不足の状態に似ているように思えますが、傾眠は寝不足とはっきり違う点があります。それは、自分がどこにいるのか、起きる前にそもそも何をしていたのかがわからないことが多いことです。
「傾眠傾向かな?」と思ったときはどうする?
高齢者の傾眠傾向の中には、外からの軽い刺激により起きたとしても、無気力状態や注意力散漫、そしてなぜか疲労が溜まっているという症状を見せる人もいます。そのような傾向が見えた場合は認知症の疑いがあるため、まずは医師に診てもらうといいでしょう。
また、一見寝不足に見えてしまうので、介護する家族はそのままそっとしておくことも多いと思いますが、場合によっては病気の進行が原因であることもあります。何が原因なのか、医師の診断で探ることが必要です。
傾眠傾向になる原因
傾眠傾向を引き起こしてしまう原因には、下記の9つが考えられます。大切な家族の病気を見逃すことのないよう、正しい知識を持っておきましょう。
認知症
認知症の特徴的な症状に、昼夜逆転があります。これは、夜に覚醒してしまうため寝不足を引き起こし、日中に傾眠してしまうというもの。また、認知症の初期症状である無気力状態から、とにかく寝ようというように傾眠状態に入ることも。
大切なことは、日中に意識的に活動すること。夜にしっかりとした睡眠を取れるように、生活リズムを崩さないようにしましょう。
>認知症についてもっと詳しく知りたい方は、こちらもお読みください。
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加齢に伴う体力低下
加齢によって体力が低下していくと、神経伝達機能も徐々に低下していきます。その結果、傾眠が起きることがあるのです。
日中のウトウトぐらいは問題ありませんが、急激に傾眠傾向が進んだときは、ほかの原因を疑ってみたほうがいいでしょう。
食事性低血圧
低血圧の中には、食事性低血圧と呼ばれるものがあります。誰しも食後は眠気を感じるものですが、その症状が悪化したものが、食事性低血圧です。この症状が見られた場合、下記のような重篤な病気と結びついていることが多いため注意が必要なのです。
食事性低血圧は、食事を契機に血圧が低下することから日頃のケアは欠かせません。そのために、「一気に食べない」「ゆっくり食事をする」「炭水化物の量を減らす」など、日常生活の中から改善していきましょう。
考えられる病気
- パーキンソン病
- アルツハイマー型認知症
- 高血圧
- 糖尿病
慢性硬膜下血腫
脳疾患のひとつに、慢性硬膜下血腫があります。慢性硬膜下血腫とは、頭を強く打つと、脳と硬膜のあいだに血腫ができてしまい、脳を圧迫する病気です。
血腫が大きくなるにつれ傾眠傾向が見られるようになり、頭を打ってから1~2ヵ月経過すると、頭痛や片麻痺による歩行障害といった症状などが徐々に現れてきます。基本的に外科手術が必要になるため、早期発見がカギとなるでしょう。
高齢者は反射神経が徐々に鈍ることから、少しのつまずきで受け身を取れずに頭を打つことがあります。また、加齢とともに血管が細くもろくなるため、軽く頭をぶつけた程度でも硬膜下血腫を起こしやすくなっているため、この病気はとくに注意が必要です。
睡眠障害(過眠症)
傾眠傾向とよく似た症状が出る睡眠障害に、過眠症があります。過眠症の方は、睡眠関連呼吸障害などの睡眠を妨げる病気がなく、夜に睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強烈な睡魔に襲われてしまいます。中枢神経系の機能異常が原因と考えられています。
そのほか、発作的に強い眠気に襲われ、食事中や歩行中でも前ぶれもなく突然入眠する「ナルコレプシー」と呼ばれる慢性の睡眠障害も、過眠症のひとつです。
内科的疾患
肝臓や腎臓などの代謝に関わる臓器に異常が出ると、細菌やウイルスによる高熱によって終日意識がボーッとしてしまうことがあります。場合によっては傾眠傾向以外にも、自分が今いる場所や時間がわからなくなることもありますが、内臓の状態が正常に戻り、熱が下がれば症状は自然と収まるものです。
うつ
うつは、感情や気分、意欲、思考などの障害を示す精神症状で、不眠や食欲不振といったさまざまな身体症状が現れます。うつ病と診断される人の中には不眠ではなく、日中に傾眠傾向になる過眠症の人も。また、うつ病の治療薬である「抗うつ剤」「抗不安薬」などの服用により、眠気が出ることもあります。
脱水状態
噛む力や飲み込む力、舌の動きが衰えて十分な食事が摂れなくなると、栄養不足や脱水状態につながることも。とくに高齢者は、体に必要な水分を残しておく機能が低下しているため、水分を意識的に摂る必要があります。
脱水状態は、意識レベルを低下させ傾眠につながるだけでなく、ひどいときは幻覚症状まで引き起こすことがあるため、介護する家族の方は注意してください。
薬の副作用
副作用で軽い傾眠傾向が出る認知症の薬や、傾眠傾向を引き起こしやすい抗てんかん薬があります。ほかにも、薬によっては傾眠傾向を引き起こしやすいものが多々あるため、使用する際は医師や薬剤師に副作用について確認しておいてください。
ドラッグストアで買える薬で傾眠傾向を引き起こしやすいのは、抗ヒスタミン薬が含まれているもの。花粉症の薬にも使われているため、傾眠傾向が気になるときには薬剤師に相談して眠くなる成分が少ない薬を選ぶようにしましょう。
傾眠傾向が進行した際の症状
傾眠は軽度の意識障害とご紹介しましたが、意識障害は大きく分けて、「傾眠」「昏迷」「昏睡」と3つのステップを踏み進行していきます。
なお、正常な状態は意識清明といい、意識がはっきりしている状態です。意思疎通も問題なくでき、判断も正しくできます。これに対し、意識障害は意識清明でない状態です。それでは、傾眠、昏迷、昏睡、それぞれの症状について詳しく見ていきましょう。
1. 傾眠
傾眠は、3段階の1つ目にあたる軽度の意識障害です。肩を軽く叩かれたり、名前を呼ばれたりといった軽い刺激で意識が簡単に戻ります。傾眠状態の人には声をかけて起こしても大丈夫ですが、一度起きたとしても、しばらくするとまた眠ってしまいます。
2. 昏迷
傾眠傾向がさらに進んでしまった、3段階の2つ目にあたる意識障害が昏迷です。大きめの声で呼びかけるなどの強めの刺激でないと、なかなか意識が戻りません。
3. 昏睡
昏睡は、昏迷が進んだ状態を指し、物理的な刺激にも反応しなくなります。この状態になると、叩く、大声で呼ぶといった強い刺激でも目覚めず、刺激に対して嫌がる反応も示さなくなります。ただし、排せつは行われ、脊髄反射もあります。
傾眠傾向となったときの対策
傾眠傾向が見られたときに、自分自身で対処できることもあります。日常生活の中に、下記のようなことを取り入れて改善に取り組んでみてください。
睡眠環境を整える
夜の睡眠を充実したものにするため、心地の良いシーツ、枕、マットレスなど、寝る環境自体を整えます。
寝る直前までスマートフォンを見るのは禁物。遅くても就寝2時間前には、ブルーライトを発するスマートフォンなどの電子機器から目を遠ざけましょう。
生活リズムを調整する
起きたら朝の日を浴び、体を目覚めさせるようにします。早寝早起きを心掛け、生活リズムを整えることで、高齢者がかかりやすい睡眠障害などの不調からも逃れることができます。
熱や血圧を測る
急激な血圧低下は、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症、高血圧、糖尿病といった病気が隠れている可能性があります。こまめに血圧や熱を測ることが、大きな病気などの早期発見につながることもあるのです。
薬を調整してもらう
認知症やてんかん、アレルギー薬といった薬が原因の場合は、医師に相談して服薬量を調整してもらいます。介護する家族の方は、薬に含まれている成分や副作用について日頃から注意するようにしましょう。
家族に傾眠傾向が見られたときに周囲が気をつけること
介護をする家族は傾眠の様子を見守るだけでなく、こまめに話しかけるようにしましょう。話しかけることで、ご本人の病状の進行具合がわかることもあります。また、様子をつぶさに観察することで、ほかの大きな病気のサインに気づくきっかけにもなるため、まずは気にかけることが大切です。
具体的には、下記のようなことができているかを観察するようにしてください。
軽い運動をしているか
家の中だけでなく、外に連れ出して散歩をすることで気分転換にもなり、適度な運動で身体能力の向上にもつながります。日中に活発に動き回ることで、夜間ぐっすり眠れるようになるため、ラジオ体操などの軽い運動をしたり、散歩に行ったりするのをすすめてみてください。
昼寝の時間を作っているか
日中の眠気がひどい場合は、時間を決めて昼寝をしてしまうのが良いことも。昼寝の時間が長すぎると逆効果なため、効果を得るために昼寝は30分程の短時間にとどめるように起こしましょう。短い時間の昼寝は、日中の眠気を取って覚醒を促し、夜の睡眠にもそれほど影響を与えないとされています。
こまめに水分補給しているか
高齢者の健康維持には、水分補給が欠かせません。傾眠傾向だけではなく、高齢者が陥りやすい熱中症予防などにも効果的です。午前中に意識的に水分を摂取できていると、日中に傾眠する回数が徐々に減ってくるでしょう。
高齢者が気をつけたい傾眠傾向によって起こるトラブル
傾眠傾向が進むと、高齢者は同時に起きやすいトラブルが増えます。ケガや事故などが起こってさらに体調が悪化しないように、下記の3点はとくに日頃から注意しましょう。
食事中にうとうとすることでの誤嚥
高齢になると、食べ物を喉に送る舌の動きや、飲み込む力が徐々に衰えます。傾眠傾向が進んで、食事中にもうとうとしてしまうようになれば誤嚥する可能性が高くなり、注意が必要です。食事中の誤嚥は、誤嚥性肺炎を引き起こし、やがて口から食べられなくなることも。
食欲の低下
傾眠傾向が高くなると、徐々に食欲も低下して、生活リズムも崩れていきます。食事が徐々に摂れなくなると、生命の危機に直結してしまうため、気をつけて観察するようにしてください。
車いすなどからの転落
傾眠傾向が進んで一番怖いのは、転倒などの事故です。傾眠傾向が強くなると姿勢がどんどん崩れ、左右のどちらに体重がかかるなどして転倒を引き起こすことがあります。体勢が崩れているようでしたら、少しご本人を起こして体の向きを整えるようにしましょう。
傾眠傾向は日頃の観察が重要
傾眠傾向の中には認知症をはじめ、大きな病気が隠れていることもあります。傾眠傾向に気づかないまま、病気が進行していたり事故などのトラブルを起こしたりしてしまうことがあります。兆候が見られたら、ぜひ家族の方もいっしょに医師に相談して診断を受けてください。
また、傾眠傾向は、日頃の観察が重要です。自宅でこまめに見守るのが難しいと思われる場合は、手厚いサポートのある施設への入居を検討してみましょう。
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著者:横山由希路(ライター)
町田育ちのインタビューライター。漫画編集、ぴあでのエンタメ雑誌編集を経て、2017年に独立。週刊誌編集者時代に母の認知症介護に携わり、介護をはじめて13年が経った。2020年にひとりっ子でひとり親を介護している経験から、書籍「目で見てわかる認知症ケア」(2刷)を企画・構成した。