【おぼえておきたい】かかりつけ医の役割と7つのメリット
高齢になると、慢性的な病気にかかりやすくなります。
また、いくつもの病気を抱える高齢者も多く、必然的に通院する機会も増えていきます。そこで、通いやすく待ち時間の短い、気楽に受診できる「かかりつけ医」がいると大変心強いでしょう。
でも、かかりつけ医の役割はそれだけではありません。
このページでは、かかりつけ医とは何か、そしてかかりつけ医の見つけ方などについて詳しく解説します。
かかりつけ医の役割と必要性
かかりつけ医を持つ人が増えてきました。かかりつけ医とは、病気になった時や健康に不安があるときに、すぐに相談できる一番身近なお医者さんのことです。一般的な治療を行う地域のクリニックや診療所、一般病院を言います。
国や日本医師会では、かかりつけ医を次のように定義しています。
「健康に関することを何でも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」
つまり、単に病気の診療をするだけでなく、地域の保健や福祉を担う総合的な能力を有することが求められているのです。特に高齢者が患者の場合は、医療と介護の連携が不可欠なため、地域に根差したかかりつけ医の存在はとても重要視されています。
かかりつけ医の必要性が高まっている背景
かかりつけ医を持つことが推奨される背景には、高齢人口の増加に伴い医療費も増加していることがあります。
医療の効率化を図るため、診療所などの小規模な病院と大学病院などの大きな病院のそれぞれの役割をはっきりさせようとしています。
具体的には、患者が外来にかかるとき、最初はかかりつけ医に診てもらい、一般的治療で難しい病状があった時には、かかりつけ医から専門的治療を受けられる大きな病院を紹介してもらい、治療を終えて病状が安定したらまたかかりつけ医に戻るという仕組みです。
紹介状がないと大病院への受診負担が増加する
国はこの仕組みを浸透させるため、近年度重なる法改正を行ってきました。
2022年10月からは、他の病院からの紹介状なしに大きな病院(特定機能病院及び200床以上の地域医療支援病院)を受診すると、初診時医科は7,000円以上(歯科は5,000円以上)、再診時医科は3,000円以上(歯科は1,900円以上)の選定療養費が患者に負担されています。ただし、この選定療養費の金額設定は病院によりますので、各病院で確認してください。
かかりつけ医は在宅医療の司令塔
また、団塊の世代が75歳になる2025年に向けて、介護と医療の連携による在宅医療の充実が図られています。在宅医療とは、医師のほかに看護師、理学・作業・言語療法士、歯科医、薬剤師などさまざまな医療専門職が患者宅に訪問する医療のことです。その在宅医療の充実化に向け、外来と在宅医療をまたぐ「かかりつけ医機能」の推進も始められています。
かかりつけ医機能は、かかりつけ医が往診などの体制を確保して、自らもしくは連携医療機関の協力を得て在宅医療を行い、患者と24時間の連絡体制を確保する機能です。しかし、このような条件を整えられるかかりつけ医がなかなか増えないため、まずは患者がかかりつけ医をもつことが推進されているのです。
このように、かかりつけ医は患者の一般的な病気の治療と健康相談窓口になり、大きな病院との懸け橋にもなり、ゆくゆくは在宅医療の充実のための重要な司令塔としても位置づけられています。
かかりつけ医をもつ7つのメリット
高齢者がかかりつけ医を持つメリットは次の通りです。
1.病気や健康問題を気軽に相談できる
かかりつけ医は病気や症状に関する全般的な知識を備える努力をしていますので、専門分野にかかわらずさまざまな健康問題について相談できます。
例えば、将来の胃ろうの心配や延命処置のことなど、高齢者が不安に思っていることも相談に応じてくれます。
2.的確な診断を受けられる
患者の心身の状態、病歴、生活習慣などを踏まえた診療を継続的に行いますので、異変があれば素早い対応が期待できます。
大きな病院では予約が必要な検査も、場合によっては、すぐにしてもらえることがあります。
また、離れて暮らす家族が見逃しがちな認知症の初期症状にも気付いてくれる可能性が高いのです。
3.高度な医療機関との連携がスムーズに行える
専門的な治療が必要と判断されるときは、紹介状とともに適切な医療機関につなげてくれます。
患者や家族が病院を探すよりも、効率よく適切な医療機関につながりやすいでしょう。
また、専門医からの診断結果や治療内容もかかりつけ医にフィードバックされます。
4.「主治医の意見書」や指示書を書いてくれる
要介護認定を申請する際に必要な「主治医意見書」を書いてくれます。
かかりつけ医がいないと、市区長村が指定する医師の診察を受けなければなりません。その場合は1回だけの診察で正確な意見書を書いてくれるかどうかの不安が残ります。
また、介護が始まってからも、必要に応じて意見書や指示書を作成してくれます。
5.ケアマネジャーと連携してくれる
かかりつけ医は、ケアマネジャーや地域包括支援センターと連携します。そして、医療の情報をケアプランに、介護の情報を意見書作成や治療方針にそれぞれ反映してくれます。
なお、ケアマネジャーは利用者及びかかりつけ医の同意のもとで主治医意見書を市区町村に開示を求めることができます。
6.在宅の看取りにつなげてくれる
かかりつけ医自身が在宅医療を行っている場合は、そのまま看取りまで担当してくれるでしょう。
看取りまでかかわらない医師の場合も、いずれ訪れる終末期の相談に応じて、ケアマネジャーや在宅療養サービスの人たちと検討し、訪問医を中心とした看取りチームにつないでくれると思います。
7.死亡診断書を書いてくれる
自宅で死亡したときは、不審な点がなければかかりつけ医が死亡診断書を書いてくれます。書いてくれる医師がいないと、警察が呼ばれて検死を受けることになります。
どうする?かかりつけ医の見つけ方
かかりつけ医には、幅広く診察できる内科医がよいとされています。現在、地域の内科医に定期的に受診しており、高血圧症や糖尿病などの慢性病の薬を処方されている人は、その内科医がかかりつけ医といえるでしょう。
なお、内科の医師には、消化器系、循環器系、心療内科などそれぞれの専門分野があります。新たにかかりつけ医を探すときは、不安のある病状の専門分野の内科医を探すとよいかもしれません。
なお、内科の病気では定期的に通院していないが、膝や腰の痛みがあって長年整形外科に通院している高齢者も多くいます。
そういう場合は、その整形外科医がかかりつけ医でよいと思います。内科的なことにも深く通じており、何でも相談してくださいとしている整形外科医も多くいます。
新しくかかりつけ医を見つける具体的な方法をいくつか紹介します。
かかりつけ医の具体的な見つけ方
- 風邪や予防接種の時に受診する
- まずは受診してみないと始まりません。風邪の症状や予防接種などの際に気軽に初診を受けてみましょう。
- 特定検診を受ける
- 各市区町村では毎年、特定検診や長寿検診を実施しています。検診の案内書には地域の病院リストが添付されていますので、近くの診療所や一般病院で検診を受けてみましょう。
検診では問診も行われますから、印象がよければかかりつけ医として検討するとよいと思います。毎年同じ病院で検診を受けていればデータが残りますので、病気になった時の参考にしてもらえます。 - 近所の口コミ
- 実際に受診した経験のある人の声や評判は得難いものです。しかし、他の人がよかったからといって自分もよいとは限りません。その逆もあります。かかりつけ医には本人との相性がとても大事なので、口コミは参考程度にするとよいでしょう。
- かかりつけ医の具体的な見つけ方
- インターネットで調べる
インターネットで地域の「内科」を検索し、どのような医師が地域にいるのかの情報をまず得ることから始めてみます。ホームページを持つ病院も増えてきました。治療方針や得意分野などをチェックして、候補を絞って一度受診してみるとよいでしょう。 - 行政や地域包括支援センターから情報収集を得る
- 公平中立な立場上、具体的にどの医療機関がよいと教えてくれることはありませんが、市内の医療機関の一覧表や医療マップなどを受け取ることができます。
また地域包括支援センターでは、疾患や身体状況、通院手段などをヒアリングする中で、ご自身の状況に合ったかかりつけ医を選ぶ相談に乗ってくれることでしょう。
相性も大切?探すときの注意点
よいかかりつけ医に出会うためのチェックポイントをいくつか紹介します。
通いやすく、地域に密着していること
高齢者には通院しやすいことが大事です。歩いて通える範囲で探すほうがよいでしょう。
また、高齢者は介護との連携が重視されますので、地域の介護サービス事業者の提携医師や、地域の介護事情に詳しい地域密着型の医師はよいと思います。特にケアマネージャーや地域包括支援センターなど、介護事業者と連携が取れていることはかかりつけ医の必須条件になります。
本人との相性がよいか
気軽に話すことができ、不安や疑問にわかりやすく答えてくれることが何よりも大切です。ただ、医師の説明がわかりやすいかどうかは、患者によって異なります。
治療に関して丁寧に説明してくれることを望む患者もいれば、話をじっくり聞いてくれる医師がよいという人もいます。
本人にとってわかりやすいことや話しやすいことが大事です。
患者の健康状態の把握に努めようとする姿勢があるか
かかりつけ医に求められる大きな役割の一つが患者の異変に気付くことです。
病歴や生活習慣について確認してくれること、データだけで判断することなくきちんと問診してくれること、聴診器を当てて心音や呼吸音を聞き、患者が不調を訴える患部を診る姿勢があることが大事です。
往診と夜間連絡について確かめる
高齢者は、自宅に来てもらいたい状態の時や、次第に通院ができなくなることもあります。往診に来てくれるかどうかを確認しておくことは大事です。
ただし、往診をしていない医師であっても、何でも気軽に話せて信頼できる医者であることが何より大切ですので、通院できなくなった時のことを念のため相談してみるといいでしょう。
往診の要望が多くなったことから、必要に応じて往診を始めたという診療所もあります。
専門医療機関と連携をとってくれるか
専門的な治療や検査が必要な時に専門医療機関につなぐことは、かかりつけ医の重要な役割です。
実際にそのような必要性が起こった時に、専門医療機関を紹介して連絡を取ってくれるかどうかは、大きな見極めポイントになるでしょう。
認知症に関する専門知識を持っている
地域の開業医などを対象に、認知症診断の適切な知識と技術や、家族との適切なコミュニケーション法を習得するための研修が実施されています。
したがって、多くのかかりつけ医は認知症に関してきちんと学んでいるはずです。
高齢者患者が多い診療所では、認知症患者を診る経験も多くなっていると思います。
問診の際に認知症について気になることがあれば質問してみましょう。
終末期医療についての理解や知識がある
終末期や看取りについて相談できることは重要です。高齢者の患者を多く診ている医師であれば、経験も多く、おおむね安心してよいと思います。
なお、在宅介護が始まったと同時に在宅医療が必要な場合は、ケアマネジャーに相談して最初から在宅医療を専門的に行う訪問診療医と契約をしたほうがよいこともあります。
ドクターとの付き合い方
かかりつけ医を決めたからといって、何でもかんでもかかりつけ医を通す必要はありません。
かかりつけ医が24時間365日対応するのは不可能ですから、緊急の場合は救急車を呼び、かかりつけ医が休診の日に調子が悪くなったときは、別の診療所に受診するなど臨機応変に判断するようにしましょう。
あとからかかりつけ医に報告すればよいのです。専門医のいる病院を紹介してもらったときも、その後の経過について報告しておくとよいでしょう。
密なコミュニケーションで信頼関係を築く
こういったコミュニケーションが今後の健康管理に役立つばかりでなく、互いの信頼関係を深めるためにも大事です。
医師も患者から学びます。診療を通して本人の価値観や人生観を理解してもらい、徐々に分かり合えるようになることが大切です。
しかし、信頼関係を築く努力をしても、どうしても相性が合わないとか、信頼できないと思ったときは、思い切ってかかりつけ医を変えることも必要です。
質問した時に、答えるのを面倒くさがったり機嫌が悪くなったりするような医師、大きな病院で精密検査や入院が必要な時に、専門医療機関を紹介しない、紹介状を持たせてくれない医師は、かかりつけ医としての役割を果たそうとしていませんので、変更してもよいと思います。
まとめ
要支援や要介護を受けている高齢者は、病院に行くのが仕事だと冗談を言うくらいに通院の機会が多いものです。
それほど高齢者の生活に欠かせない医療ですから、よいかかりつけ医がいると、高齢者にとっても家族にとっても、安心感はとても大きなものになります。
まさにかかりつけ医は“病気を診る”という本来の役割以上に、患者の“生活を診る”役割があると思います。
上記に挙げたいくつかのポイントを押さえつつ、何でも話せてわかりやすい説明をしてくれるかかりつけ医を見つけるようにしてください。
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この記事の制作者
著者:浅井 郁子(介護・福祉ライター)
在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。
高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。
東京都民生児童委員
小規模多機能型施設運営推進委員
ホームヘルパー2級
監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)
地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。