特定疾病の「骨折を伴う骨粗しょう症」とは?
骨粗しょう症とは、骨の強度が低下して骨折しやすくなる病気です。特に骨折を伴う骨粗しょう症は特定疾患に認定されるため、65歳未満であっても条件を満たせば、介護保険サービスを利用することができます。
ここでは骨粗しょう症として認められるための条件に加えて、症状や検査、治療法などについて解説していきます。
骨粗しょう症とは
骨粗しょう症とは、骨が脆くなって骨折しやすくなる病気です。患者数は年々増え、日本には約1,300万人いると推計されています。男性よりも女性に多いという特徴もあります。
高齢者の骨折は寝たきりのきっかけとなりやすく、2019年の国民生活基礎調査では要介護状態になった原因の第3位が「骨折・転倒」です。健康寿命を伸ばすためにも、骨粗しょう症は注意したい病気の一つです。
「骨折を伴う骨粗しょう症」は介護保険の特定疾患
骨折を伴う骨粗しょう症は介護保険の特定疾患です。そのため、40歳以上65歳未満であっても、申請すれば介護保険サービスを利用できます。
特定疾患として認められるためには、次にあげる条件を満たす必要があります。
特定疾患の対象となる条件
- 骨粗しょう症以外に骨が脆くなる病気がない、または骨が脆くなる薬を使っていない
- 骨密度がYAM(若年成人平均値:20〜44歳の健康な女性の骨密度)の80%未満、または脊椎X線像で骨粗しょう症が認められる
- 骨が脆くなったために、軽い力が加わったことで骨折が起きた(事故などによる骨折ではない)
ではなぜ、骨が脆くなってしまうのでしょうか。ここからは骨粗しょう症の原因について見ていきましょう。
骨粗しょう症の原因
骨は毎日、新しく作り変わっていますが、壊される分が作られる分を上回ってしまうと、骨が脆くなります。
その原因には、生まれつきの体質や栄養・運動不足、喫煙、過度な飲酒などがあげられます。また女性の場合は閉経によるホルモンバランスの変化も影響しています。
このほか、糖尿病や甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、肝硬変などの病気や、ステロイドなどの薬が原因で、骨が脆くなることがあります。
骨粗しょう症の症状
骨粗しょう症自体には、自覚症状がありません。
進行して背骨が骨折すると、背中や腰が丸くなって痛みが出てくることもあります。また身長が縮むこともあり、内臓が圧迫されて呼吸や消化機能の低下を招くこともあります。
骨粗しょう症による骨折
骨粗しょう症では骨が脆くなるため、転ぶなどして軽い力が加わるだけで骨が折れてしまいます。また体の重さに耐えられなくなって骨折することもあります。
骨粗しょう症で骨折しやすい場所は4ヶ所あります。
<骨折しやすい場所>
・背骨(椎体:ついたい)
・股関節(大腿骨近位部:だいたいこつきんいぶ)
・手首(橈骨遠位端:とうこつえんいたん)
・肩(上腕骨近位部:じょうわんこつきんいぶ)
特に股関節の骨折は要介護状態につながりやすく、その後の寿命にも影響を与えます。股関節を骨折した患者のうち、10.1%が一年後に亡くなっているという調査結果もあります。
骨粗しょう症の予防
できる限り長く元気でいるために、骨粗しょう症を予防することは大切です。ここでは予防のための5つのポイントをご紹介します。
- 体重管理
- 痩せていることは骨粗しょう症による骨折のリスクを上昇させます。また、閉経後の女性で太っている人は、背骨の骨折が増えるという報告があります。定期的に体重を測り、適正体重を維持するように心がけましょう。
- バランスの良い食事
- 骨を構成するカルシウムや、カルシウムの吸収を促進するビタミンDを摂るようにしましょう。ビタミンDは魚に多く、また紫外線にあたれば皮膚で生成することもできます。1日15分程度の日光浴も効果的です。
- 運動
- 活発に体を動かす人ほど、骨粗しょう症による骨折が少ないと言われています。ただし、普段あまり運動していない人が急に始めると、ケガにつながる恐れがあります。まずはウォーキングなどの運動から始めましょう。
- 禁煙・過度な飲酒を避ける
- タバコを吸わない人の方が、吸っている人よりも骨折のリスクが低くなります。またお酒を習慣的に飲む人の方が、飲まない人に比べて1.91倍も骨粗しょう症による骨折を起こしやすいという研究結果があります。アルコールは飲み過ぎに注意して、1日14g(ビール:250ml、焼酎:50ml、日本酒:80ml、ワイン:100ml)未満に抑えるとよいでしょう。
ここまで、骨粗しょう症の概念や予防法について解説しました。ここからは検査や治療、骨折したときの対応について見ていきましょう。
骨粗しょう症の診断・検査
骨粗しょう症の診断をするには問診・診察に加えて、いくつかの検査を行なっていきます。
- 問診・診察
- 患者から話を聞き、骨粗しょう症になりやすい要因がないかを確認します。また身長・体重の測定、背骨の曲がり具合、腰などの痛みの有無を調べます。
- 画像診断
- 骨折の確認や評価をするために、レントゲン、MRI、CT、などの撮影を行います。
- 血液検査・尿検査
- 毎日骨が作り変わっていく中でできる物質の量を骨代謝マーカーと言い、薬を選ぶときなどに参考にします。採血や尿検査で調べます。この他にも体に異常がないか、病気が隠れていないかを確認します。
- 骨評価
- 骨密度を測定します。特殊な機械によるX線撮影で測定する方法(DXA法、腰と股関節の骨を測ることが多い)、X線撮影の濃淡から測定する方法(MD法、手の骨を測ることが多い)、超音波で測定する方法(QUS法)などがあります。
骨粗しょう症の治療
骨粗しょう症の治療の一番の目的は、骨折を防ぐことです。治療薬は大きく、骨が壊されるのを抑えるもの、骨が作られるのを助けるもの、その両方の作用を持つもの、カルシウムの吸収をよくするものの4つに分けられます。
- 骨が壊されるのを防ぐ薬(骨吸収抑制薬)
- ビスフォスフォネート製剤、SERM、デノスマブという薬があります。飲むタイプのもの、医療機関で注射や点滴をするものがあります。
- 骨が作られるのを助ける薬(骨形成促進薬)
- 副甲状腺ホルモン薬(テリパラチド)という薬があります。医療機関で注射するものと、自分で注射するものがあります。
- 骨が壊されるのを防ぎ、同時に作られるのを助ける薬
- 医療機関で注射するロモソズマブという薬があります。
- カルシウムの吸収をよくする薬
- 活性型ビタミンD誘導体を使用します。飲み薬です。
この他にも、患者の状態に合わせてさまざまな薬を使用することがあります。また骨折してしまった場合には、骨折部位などに合わせて治療を行います。
骨折の治療
- 背骨
- 初期はギブス固定やコルセット装着などで安静を保ち、鎮痛薬を使用します。痛みが残ったり、骨折による骨の変形が進んだりする場合には手術することもあります。
- 股関節
- 股関節のどこが折れたかによって、手術または保存療法(手術をせずに経過を観察すること)を選択します。
- 手首
- ギブスや手術で、骨折したところを固定します。
- 肩
- 三角巾やバストバンドで固定します。場合によっては手術で固定したり、人工骨頭などに置き換えたりします。
骨粗しょう症自体を予防することも大切ですが、骨折のきっかけとなる転倒を防ぐことも重要です。床に物を置かない、足の体操を習慣にするなどして、転ばないように気をつけましょう。
【PR】介護が必要になったら、操作不要の【簡単テレビ電話】が便利(外部リンク)イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:上野 正喜(医療法人社団慶泉会 町田慶泉病院 副院長)
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本専門医機構脊椎脊髄外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本骨粗鬆症学会認定医