【ドクターごとう】訪問歯科診療チョー入門⑧|訪問歯科ができること

訪問歯科診療でできる事できないこと

ここまで、訪問歯科診療の可能性をいろいろお話してきましたが、今回は一番大事なお話を。

いったい歯科診療室でやっていることのどれくらいを訪問でやってもらえるのか?

実は、その診療室の設備によって大きく異なるのですが、基本的には診療室とほぼ同じことができます。

しかし、あくまでも診療室ごとにできることは異なりますからそこはしっかり把握して依頼するようにしましょう。

訪問歯科で一番多い依頼は「入れ歯」

さて、訪問歯科診療で最も多い依頼とは「入れ歯に関する依頼」です。

例えば、「入れ歯を入れていると痛みがある」「外れやすい」「うまく入らない」「なくした」といったものです。

これらに対応するために必要な器材はそれほど多くないので、ほぼ全ての診療所で対応できます。訪問という形でもでもよほどでない限り、診療室と同じレベルの処置が可能です。

また、最近では定期的な歯科検診を含む口腔ケアの依頼も増えています。お口をきれいに保つ必要性は大分理解されてきたのですが、良好な状態を維持しようと思うとなかなか難しいのです。

それは高齢者の口の中の特徴によります。そもそも残っている歯が少なく、数本が点在していたりします(孤立歯)。

そうすると1本1本磨かなくてはならず大きな歯ブラシなどを使うと非常に磨きづらくなります。

また、歯の頭の部分が折れてしまい、根っこだけ残ってしまっているようなケースもあります(残根)。

この場合、しっかりとケアをしておかないと周囲の歯ぐきに炎症を起こしやすくなります。

このような特殊な状況もあるため、口腔ケアの依頼が増えています。

私が訪問診療を始めた20年以上前は歯のない高齢者からの依頼が多かったのですが、年を経て歯を残しておられる方が多くなりました。

もちろん良いことなのですがケアは大変になりました。

口腔ケアはもちろんすべての歯科診療所で対応できます。ただ、訪問の口腔ケアができる歯科衛生士がいるかどうかの差はあります。

治療がすべてじゃない?治療のメリットとリスクも考える

訪問歯科診療に必要な道具

診療所ごとで差が出てしまうのはむし歯の処置です。訪問歯科でむし歯の痛みなどで依頼があるケースは多くありませんが、処置を求められることもあります。

むし歯の処置をする時は、水を出しながら歯を削る道具、その水を排出する器械、さらには自宅でも使用できるレントゲン装置などが必要になります。

もう1つ重要なのは抜歯などの外科治療です。訪問診療の中で難しい親知らずの抜歯などはありませんが、環境を整えるために抜歯を選択することがあります。

手技的、器材的にはさほど困難になることはないのですが、ご本人の全身状況が大きく関与します。どんなに容易な抜歯であってもストレスはかかってしまいます。

抜歯にすることのリスクを考えて選択しなければなりません。また、薬の服用状況によっては抜歯できないケースもあります。

訪問においても歯科診療はかなり幅広く行うことができます。

しかし、問題はその治療をすることのメリットとリスクを考えて行うことです。例えば、大きなむし歯で処置に時間がかかりそうなとき、抜歯をして早く入れ歯を入れるほうが早く食事がとれるケースもあるでしょう。

また、残根がたくさん残っている状態であっても全身状況から抜歯せずに残すケースもあります。訪問診療の中では、何ができるかではなく、何をするかが重要になります。

おわりに

訪問診療であっても診療室と同様な処置は可能です。しかし、訪問診療の対象になる方の体調はそれぞれ異なります。

訪問歯科診療においては「その治療をすることのメリットとリスク」を考えて行わなければなりません。

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この記事の制作者

五島 朋幸

著者:五島 朋幸(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、新宿食支援研究会代表)

1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」(全国15局で放送)「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」(FM調布)パーソナリティー。著書に「訪問歯科ドクターごとう1: 歯医者が家にやって来る!?」、「口腔ケア○と×」、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」などがある。

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