【ドクターごとう】訪問歯科診療チョー入門⑦|訪問歯科と栄養改善
そもそも、僕が訪問歯科診療を始めた20年前、訪問歯科の仕事は「外された入れ歯を入れに行けばよい」と思っていました。
もちろん当時は、何らかの病気で入院してしまうとすぐに入れ歯を外されてしまい、退院まで外されっぱなしで入れ歯が合わなくなる人が多くいました。
その方たちが退院して元気になってかかりつけの先生に入れ歯を入れてもらえればよいのですが、寝たきりになってしまうと入れ歯を入れていない寝たきり老人ができるという構図だったのです。
だからこそ入れ歯を入れに行くことを一大使命として訪問歯科診療を始めたのです。しかし、時代とともに「口から食べること」の重要性がうたわれるようになり、歯科もそのような分野に進出せざるを得なくなりました。
そういった中で、本当に最近、歯科と栄養についても考えるようになったのです。
歯科も栄養状態の把握が必要
高齢者の栄養状態が悪いということをご存知でしょうか?高齢者の約2割が低栄養、つまり栄養不足なのです。
中でも在宅医療などのケアを受けている方は、ほとんどが低栄養なのです。栄養状態が悪い方は体力もなく、肺炎などを発症しやすくなります。また、口から食べること自体とても体力のいることなのです。
私たちが入れ歯を入れるということは「お口の環境を整える」ということです。しかしそれだけでは食べることはできません。噛んだり飲み込んだりする「食べる機能」が備わっていなければならないのです。
食べる機能を発揮するためには、十分な栄養と体力が必要なのです。そう考えてくると、歯科も栄養状態を把握したいということは分かるのではないでしょうか。
地域の中で訪問歯科を実践する診療室が増えてきました。実は地域の歯科診療室で働く管理栄養士さんが増えていることをご存知でしょうか。
私たちの病院でも10年ほど前から入っていただいていますが、最近、加速度的に増えているように感じます。それほど歯科と栄養というものはかかわりが深いのです。
専門職が連携し栄養状態を回復
さて、先日、ある管理栄養士さんとか関わった例をご紹介しましょう。ある病院から退院をされた時の体重はわずか26キロの女性でした。上下の入れ歯は入らなくなり、ケアマネジャーの紹介で訪問をすることになりました。
初診時、あまりの体力のなさでぐったりと横たわっておられました。主治医から栄養剤(液体)が処方されていましたが、1日に必要な栄養量の半分程度しか入っていませんでした。
入れ歯を作製しながら食べる機能を見てみると、さほど悪くありませんでした。
そこで管理栄養士とも連携し、少し噛むもの(軟らかいもの)も食べていただくようになりました。
その後入れ歯が完成し、しっかり噛んで食べられるようになると、栄養状態は一気に改善し、1カ月で3キロ体重が増加しました。
その後、家族と同じ食事も食べられるようになり、外出できるまでになりました。お口の環境と機能、そして栄養は切っても切れない関係なのです。
おわりに
歯科においても栄養は重要なことです。いわゆる歯科治療はお口の環境改善のために行われることが多いですが、食べる機能を維持向上させることも私たちの大きな仕事です。
そのためにはご本人の栄養状態を考えていくことが不可欠なのです。
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この記事の制作者
著者:五島 朋幸(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、新宿食支援研究会代表)
1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」(全国15局で放送)「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」(FM調布)パーソナリティー。著書に「訪問歯科ドクターごとう1: 歯医者が家にやって来る!?」、「口腔ケア○と×」、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」などがある。