【ドクターごとう】訪問歯科診療チョー入門⑤|口腔ケアとは

口腔ケアで気持ちも前向きに

皆さん、口腔ケアという言葉は聞いたことありますよね。「お口の中をきれいにすることでしょ」「歯磨きでしょ」という声が聞こえてきます。

当たらずとも遠からず?いや、似て非なるものかもしれません。そうなんです。多くの方が口腔ケアを誤解しています。

決して難しい話ではないのでぜひここで理解してくださいね。

口内環境を整える要素

まず口腔ケアには3つの意義があります。

①細菌を除去すること

②お口の周り(中や外も)を刺激するということ

③口腔清拭や口腔消毒ではないのでケアの側面があるということ

これらを簡単に説明しましょう。

お口の中には300種類数千億個といわれる数の細菌が存在します。もちろんこの数は正常な数です。

細菌の正常値を保つ

人間の口の中の細菌はずっと同じ数と言うわけではありません。

口の環境というのは細菌培養に大変適しています。体温と同じ36~37℃で唾液が湿った環境、さらに食べ物のカスなど細菌の栄養になるものも存在します。

つまり、日常生活の中で細菌数はどんどん増えていっているのです。もちろん細菌の数が標準より多くなるということは不潔になっていくということです。

さて、私たちはこのような細菌を除去することを日常的に2つ行っています。

①は、皆さんおなじみの歯磨きです。歯ブラシを使ってしっかり磨いてうがいをすることで細菌数は減少します。

さらに「しっかり噛んで唾液を出して食べる」ということも細菌の減少に繋がります。

唾液の殺菌作用や物理的食道に入れていくことにより、細菌数は減少するのです。

つまり、しっかり噛んで食べられる人はある程度で細菌数はおさえられます。逆に言うと、食べる機能が低下した方ほどブラッシングによる細菌除去が必要なのです。

②のお口の周囲の刺激。皆さんが歯ブラシを用いてブラッシングをするということ自体が刺激になります。もちろんしっかり噛んで食べることも刺激です。皆さんの中には経験された方もいるかもしれませんね。

口腔ケアで気持ちも前向きに

介護している方に食べられない時期があると飲み込みも悪かったのが、徐々に食べられるようになると飲み込みも良くなります。

そうなんです。口腔ケアをしてお口を刺激することによって飲み込みは良くなるのです。

口腔ケアはケアであって作業ではありません。口を無理やり開けて歯ブラシを突っ込んでゴシゴシやることはケアではありません。

挨拶もあり、スキンシップもあり、不安を感じさせないようなコミュニケーションをとりながら行うことがケアです。これによって生きる意欲であったり希望であったり食欲がわいてきたりもするのです。

さて、今から約20年前、このような口腔ケアが誤嚥性肺炎予防になるということがわかりました。大変画期的な話で医療、介護の世界では大きな衝撃を与えました。一時期は口腔ケアブーム。

しかし、ここで大きな誤解が生じました。なぜ口腔ケアによって誤嚥性肺炎を予防できるのか。

飲み込み機能の向上

お口の中の細菌を除去することによって、間違って気管の方に唾液や食べ物が入っても「細菌が少ないから肺炎を予防する」という考えが広まってしまいました。しかし、実はそうではありません。

しっかりお口の周囲を刺激することによって飲み込みの機能が向上し、誤嚥性肺炎が予防されたのです。

細菌を減らしたことではなく、その人の飲み込みの機能が向上したことによって誤嚥性肺炎を予防したのです。つまり「きれいにしました」は口腔ケアの一部でしかありません。「お口を清潔に保ち、しっかり刺激をして飲み込みの機能を向上させること」が口腔ケアなのです。

おわりに

口腔ケアの目的はお口の中をきれいにすることだけではありません。

しっかりとお口を刺激することによって飲み込みの機能を向上させることが重要でありそれが誤嚥性肺炎予防につながるのです。

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この記事の制作者

五島 朋幸

著者:五島 朋幸(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、新宿食支援研究会代表)

1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」(全国15局で放送)「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」(FM調布)パーソナリティー。著書に「訪問歯科ドクターごとう1: 歯医者が家にやって来る!?」、「口腔ケア○と×」、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」などがある。

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