【ドクターごとう】訪問歯科診療チョー入門③|往診と訪問のちがい
往診と訪問医療をうまく併用する
皆さん在宅医療という言葉を聞いたことありますか?「往診」や「訪問診療」はどうでしょうか。
おそらく多くの方たちが聞き覚えのある言葉だと思います。いずれも医療者が診療室から出ていくイメージですが、それぞれ意味合いが異なります。さて、これらの言葉の違いは分かりますか?
実は医療者が診療室を出て在宅や施設などで医療を行うことが在宅医療です。これが一番大きなくくりです。この在宅医療の中に往診と訪問診療があるのです。
往診とは「患家の求めに応じて患家に赴いて診療するもの」です。
イメージとしては、若いお母さんがかかりつけの先生に「うちの子が昨日から高熱出してるんです」と電話すると先生が「昼休みに行きますよ!」と言って自宅に来てくれて診療してくれた、というものです。
一方、訪問診療は「居宅において療養を行っている患者であって、通院が困難なものに対して、その同意を得て計画的な医学管理の下に、定期的に医師・歯科医師が訪問して診療を行うもの」です。
ポイントは、計画的であり、定期的であるということです。ケアマネジャーのたてたケアプランに沿ってホームヘルパーさんが月曜日と木曜日、午後1時から30分訪問するといった感じに似ています。
このように往診は突発性のトラブルや急性化への対応、訪問診療は慢性期のケアともいえます。
これを歯科の中で考えるとどうなるでしょうか。
娘さんから「うちのお父さんの入れ歯が割れました!」と診療室に電話がかかってきます。僕が、「それはお困りですねぇ。今日の夕方行きますよ」と伝えます。
夕方、そのお宅に訪問して入れ歯の修理をするとお父さんが、「いやぁ、良かった。入れ歯がないと飯が食えねぇとこだったよ」と言って笑ったとします。これは往診です。
往診をする時は、例えばどのような方と同居しているのか、どのようなところに住んでいるのか、どのような生活をしているのか…等々は関係ありません。入れ歯が直ればよいのです。
さて、脳卒中の後遺症などで嚥下障害(飲み込みが難しくなる障害)が生じるケースがあります。
ここに、同じ場所に同じ脳梗塞を起こしてしまいまったく同じレベルの嚥下障害を持っている2人の男性がいたとします。
1人の男性は江戸っ子気質の和菓子職人だった方、もう1人はとてもクレバーな商社マンだった方だとします。
和菓子職人だった男性が奥様に「俺は自分の作った餅で死ぬんだったら本望でぇい!餅持って来い!」と言っても奥様が「あなた、死ぬかもしれませんよ」と言って渡すわけにはいきません。
小さくちぎったり、食事姿勢を整えたり、むせたりしたりしないか横で観察したり…いろいろな支援が考えられます。
一方、クレバーなお父さんに対し娘さんが、「お父さん、お餅は好きだろうけどお父さんのような障害がある人だと窒息をしやすい食べ物なんですって。ここに飲み込みが悪くなった人でも安全に食べられるゼリーがあるんだけど」と言ったとします。
お父さんはよく考えて「ゼリーを食べよう」と言ってつるっと食べたとします。
同じ機能であってもその人がどうやって生きてきて、誰と生きてきて、これからどうやっていきたいのか、どうやって死にたいのかまでわからなければ支援はできません。
それを支えるのが訪問診療です。訪問診療とは、現場に応じた目標を考え、生活を支えることなのです。
在宅医療とは、この「往診」と「訪問診療」をうまく併用しながらその方の生活を支えていくことなのです。
おわりに
在宅医療には往診と訪問診療があります。それぞれ目的は異なりますが、うまく併用しながらその方の生活を支えていくことが在宅医療の目的です。
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この記事の制作者
著者:五島 朋幸(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、新宿食支援研究会代表)
1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」(全国15局で放送)「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」(FM調布)パーソナリティー。著書に「訪問歯科ドクターごとう1: 歯医者が家にやって来る!?」、「口腔ケア○と×」、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」などがある。