【ドクターごとう】訪問歯科診療チョー入門⑩|最期のときまで歯科診療

みなさんもお分かりだと思いますが、医科と歯科との違いの1つは「人の生死にかかわるか」ということだと思います。

歯科の中には口腔外科という分野があり、抜歯や粘膜の病気などの処置の他にお口の周囲のがんなども治療します。もちろんがんですから手術もありますし、残念ながら命を落とされる方もいます。

しかし、一般的な歯科の分野では、「死ぬほど痛い!」と言われることはあっても命を落とされる方はほとんどいません。実際、私自身も訪問するまではそのような状況にいたことはありませんでした。

ただ、在宅ケアの世界は命の現場です。医科であろうと歯科であろうと介護職であろうと生と死に向き合わなければならないのです。

口腔ケアは保湿・消毒・殺菌が大切

歯科の分野で最期まで要求されるのは「入れ歯」と「口腔ケア」です。

「最期まで食べるため」はもちろんのこと、「最期まできれいな顔でいたいから入れ歯を装着して欲しい」と依頼されることもあります。

入れ歯の調整等は本当に最後の最後まで必要であり、重要な仕事なのです。

残念ながら死期が近くなると体調だけでなくお口にも大きな変化が起きてきます。実はお口の環境を大きく左右するのは唾液なのです。

良質なつばが必要量お口の中にあり、保湿・消毒・殺菌をしていれば良好なお口の環境が保てます。しかし、高齢の影響やお薬服用の副作用としてつばが減ってきます。

もちろん死期が近づくとお口の乾燥も進み、息苦しくなってしまいます。食欲も減ってきて、口から食べるのも少なくなってくるとさらにつばが出なくなり、息苦しさが増してしまいます。

もし、このまま放置してしまうと…想像に難くないですね。実際、「干からびた口」の方はたくさんいます。このような方たちのために最期まで口腔ケアは必要なのです。

また、がんの治療として抗がん剤を服用した方や放射線治療を行った方の多くが口内炎を発症してしまいます。口内炎を体験された方はわかると思いますが、痛みがあり、食欲低下など大きな問題が生じます。

このようながんの方の口内炎ケアとしても口腔ケアは重要なのです。

終末期、訪問歯科にできることは

顔や首のマッサージをしていくとつばが出てきます。その状態で今度はお口の中でマッサージ、そして歯や歯ぐきのブラッシング。そして最後に保湿。

このような口腔ケアを継続していくことでご本人も過ごしやすくなります。

入院中、ほとんど口腔ケアをされることなく、「干からびた口」になって退院された方がいました。

余命1カ月と言われて出てきたその方は、荒く大きな息づかいをするだけで食べることも話すこともできませんでした。

そこから口腔ケアを開始。1週間に一度ですが行くたびにお口の環境が良くなっていくのは分かりました。お口の変化とともに、息づかいが柔らかくなり、1カ月もすると会話も少しできるようになりました。

ゼリーを1口食べて「美味しい」といえるようにもなりました。その1か月後、静かに息を引き取られました。これが訪問歯科にできることです。

最期まで口から食べることを支援できるのは歯科です。最期まで食べられる口づくりをするのも歯科です。そして最期の時を穏やかに迎えていただける口づくりをするのも歯科なのです。

おわりに

歯科は、生死にかかわる病気の治療に直接関わることはありません。しかし、最期を迎えるまでのケアに関わることができます。

静かにその人らしい最期を迎えるための口腔ケア、それを提供するのが訪問歯科なのです。

多種職による支援

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この記事の制作者

五島 朋幸

著者:五島 朋幸(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、新宿食支援研究会代表)

1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」(全国15局で放送)「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」(FM調布)パーソナリティー。著書に「訪問歯科ドクターごとう1: 歯医者が家にやって来る!?」、「口腔ケア○と×」、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」などがある。

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