【ドクターごとう】訪問歯科診療チョー入門①|訪問歯科診療にできること
皆さん、ご自宅に歯医者さんが来てくれるサービス、知っていましたか?いわゆる訪問歯科診療というものです。
元気な時でも歯医者にお世話になることは多々あります。でも、寝たきりになって自由に外に出られなくなった時、口の中はそのままでいいでしょうか。
口は食べるだけでなく、しゃべること、呼吸をすること、そして表情も作るためにあるものです。最期まで大切にしていきたいものです。そのためにあるサービスが訪問歯科診療です。
訪問歯科の役割と目的
自分で通っていた歯医者さんに通えなくなった時、自宅で同じことをすることが訪問歯科診療…ではないのです。あえて言えば目標が少し違うのです。
例えば健康な方がむし歯で歯が痛くなって歯医者さんに駆け込んだとします。
そこでは麻酔をしたり歯を削ったりといった適切な処置を行い、歯の痛みをとっていきます。
最後に差し歯などを入れて形も直すと元通り食事がとれるようになります。
一方、訪問診療ではどうでしょうか。入れ歯の調整や作製、むし歯の治療などの依頼はもちろんあります。
しかし、それだけでなく口腔ケアの依頼や口から食べられなくなった方の評価や食べるための訓練の依頼もあります。診療室での治療と訪問診療、何が違うのかというと対象の方の状態と目標です。
診療室に来られる方は基本的に元気な方が多いので、痛みをとって形を直せば機能は回復します。
では、訪問歯科診療での目標は何でしょうか。その方の状態や年齢、環境などを把握し、その人らしく生きることをバックアップすることなのです。
特に歯科の領域ですから「お口の環境を整え、食べる機能を維持向上させること」が目標となります。
例えば、短距離の陸上選手が足を怪我して走れなくなったとします。そうすると整形外科の先生や理学療法士などのトレーナーの協力を得ながら故障を回復させていきます。
さらにトレーニングを積むことにより現役のアスリートとして復帰できるでしょう。しかし、90歳で寝たきりになってしまった高齢者の目標が100メートルを10秒ほどで走ることになるでしょうか。
そんな目標になんの意味もありません。今はベッド上で寝たきりだけど公園に歩いて行きたいという目標かもしれません。
もしかしたら少し立ってトイレに自分で行くことかもしれません。いや、もっと近くでベッド脇にある車椅子に乗り移ることかもしれません。それもご本人がよりよく生きるための目標なのです。
このように、訪問診療の現場での目標は、その人の機能と環境によって全く異なります。これまで僕が経験した目標を上げてみましょう。
- 「お粥は嫌いだから普通のご飯が食べられるようになりたい」
- 「医者から一切食べてはいけないといわれているが、何としてでも口から食べたい」
- 「口が乾燥して不快なのでケアを継続して欲しい」
- 「他のものはいいからアワビが食べたい」
- 「お酒を飲むとむせるので何とかしてほしい」
- 「入れ歯がないと死顔がみっともないので入れてほしい」 等々。
訪問歯科診療を希望される方は皆さん、自分の命がそんなには長くないことを知っておられます。
だからこそ、よりよく生きるための希望としていろいろな欲求が生じてくるのです。訪問歯科診療はそんなお手伝いをしているのです。
おわりに
訪問歯科診療は、お口の環境を整え、食べる機能を維持向上させることでその人がより良く生きるためのお手伝いをします。
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この記事の制作者
著者:五島 朋幸(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、新宿食支援研究会代表)
1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」(全国15局で放送)「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」(FM調布)パーソナリティー。著書に「訪問歯科ドクターごとう1: 歯医者が家にやって来る!?」、「口腔ケア○と×」、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」などがある。