口腔ケアとは?目的から適切な手順、必要用品まで網羅的に解説
口腔ケアを正しく行えば、実に多くのメリットをもたらしてくれます。逆にケアを怠ると嚥下障害や認知症、感染症などの要因になることも。実際の口腔ケアの手順やポイント、注意点にも触れているので、ぜひ参考にしてください。
口腔ケアとは?
口腔ケアは一般的には口腔内の清潔を保つケアのことです。
大きく器質的口腔ケアと機能的口腔ケアに分けられ、それぞれ定義が異なります。
口腔ケアには口腔内の清潔を保つ以外にも、歯や歯ぐきなどの口腔内の疾患を予防する目的もあります。
口腔ケアの種類
器質的口腔 ケア |
うがいや歯磨きで口の中の清潔を保つケアのことです。 舌の清掃や義歯の洗浄、歯ぐきの清掃も含まれます。 |
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機能的口腔 ケア |
口腔機能の維持・回復を図るための マッサージやトレーニング、リハビリのことです。 |
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口腔ケアの6つのメリット
口腔ケアには健康状態の改善や衛生的な生活を送る上で様々なメリットがあります。メリットを正しく知ることでモチベーションにも繋がるでしょう。
虫歯や歯周病の予防
口腔ケアの最大の効果・メリットは虫歯や歯周病の予防につながることです。歯周病は、放置すると歯が動いて入れ歯が合わなくな理、最悪の場合に歯を失う原因になります。日頃から適切に口腔ケアすることで、口腔内のトラブルが減らせます。
栄養状態の改善
口に入れた食物をしっかりと切断、破砕し、唾液と混ぜ合わせることは、食べ物を消化・吸収する作用の第一段階。口腔ケアを適切に行うと、口から食べた食べ物の消化・吸収機能が正常に働いて、栄養状態が改善します。低栄養や脱水が予防でき、体力回復や意欲向上につながり、全身状態も改善できます。
感染症の予防
誤嚥性肺炎とは、唾液や食べ物などが誤って気道に入り込む「誤嚥」が生じた際、一緒に口内の細菌も肺へ入り発症する感染性肺炎のことです。口腔ケアにより誤嚥性肺炎の原因となる菌が大きく減少すれば、たとえ誤嚥が生じても、重症化する可能性が低減されます。
特に、高齢者が寝ている時に唾液が奥へたれ込むことは防げず、それが元で起こる誤嚥性肺炎は口腔ケアでしか予防できません。誤嚥性肺炎以外の感染症も、口腔ケアにより予防できます。歯周病などの口腔内感染症から血管に菌が入って全身敗血症に、といった感染症によくあるパターンを、根本から食い止められます。
認知症予防
口でものを噛み飲み込む際の強い刺激は脳の広い領域に影響を与え、脳の活性化に役立っています。その結果、認知症予防も期待できます。最近の研究では、歯が多いほど認知症になりにくい、噛む刺激で記憶に関わる脳内の海馬という場所の神経細胞が増える、歯周病がアルツハイマー型認知症を増悪させる、など、咀嚼と脳機能に関する研究が多くなされています。
食欲増進
味覚は水に溶けたものしか感知できないため、口腔ケアで唾液分泌が増加すれば味覚も改善され、食欲も増し、栄養改善にもつながります。なにより、食べることが好きな方には、自分が好きなものをいつまでも美味しくいただけることは、精神的に大きな支えとなるでしょう。
コミュニケーションの改善
口や舌の動きが向上することで発音がよくなり、会話や意思疎通も円滑にできるようになります。また、口腔ケアで口内環境が良くなると、口臭など人と話すときの障害が減らせます。
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口腔ケアのポイント
口腔ケアはポイントを抑えて適切に行いましょう。本来の効果を得られなかったり、被介護者の方の意欲が低下したら元も子もありません。口腔ケア時に抑えたいポイントを解説します。
なるべく自力で行う
被介護者が自力で口腔ケアを行うことは、手のリハビリにもつながります。被介護者が使いやすい歯ブラシを使い、仕上げは介護者が行います。
スムーズに行う
口を長時間開けておくのは、高齢者でなくても辛いことです。特に高齢者の口腔内は乾燥しやすいため、長時間の口腔ケアは苦痛を伴います。使うアイテムは近くに準備しておき、できる限り短時間で済ませます。
姿勢に気を付ける
あごを引いて、うつむき気味の姿勢で行います。あごを上げると水や唾液を誤嚥し、誤嚥性肺炎などを引き起こす危険があります。ベッドで行うときは最低でも30度は身体を起こし、枕を少し高くして顎を引き気味になるようにしてからケアしましょう。
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口腔ケア時の観察項目
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口腔ケアをするときは、口の中の状態をチェックしてから始めましょう。観察を行うことで、汚れが溜まりやすい部位や出血の有無を発見できます。これらの観察項目はケア後にも観察し、次の口腔ケアへ活かすようにします。
口腔ケアにおすすめの用品
口腔ケアを効率的に行うためのアイテムについて解説します。口内環境が清潔に保たれると毎日のケアもどんどん楽しくなりますよ。
歯ブラシ
ヘッドが小さく、毛が短いブラシであると口が開きにくい場合でも磨きやすいでしょう。1ヵ月ごとを交換時期の目安にしますが、毛先が広がってきたら交換します。
タフトブラシ
介護者が仕上げ磨きをするときにとても便利なブラシです。歯と歯の間、歯と歯茎の境目、一番奥の歯の後ろを磨くときなどに役立ちます。
歯間ブラシ、デンタルフロス
歯と歯の間や、歯ブラシでは磨けない小さな隙間を磨くのに適したブラシです。サイズが数種類あるため、隙間に合った使いやすいサイズを選びましょう。
スポンジブラシ
歯ブラシのブラシの部分がスポンジになっているのが、スポンジブラシです。歯や歯ぐきの汚れを取り除くために使います。基本的には使い捨てです。
舌用ブラシ
舌の白くなっている舌苔を取り除くための、舌専用のブラシです。舌は積極的に磨きすぎると傷つける恐れがあるため、優しく力を入れず奥から手前に掻き出すように磨きます。
バイトブロック
被介護者にバイトブロックを噛んでもらえば、無理なく口を開けられます。自力では口が開けず、口の中の観察や口腔ケアが難しい場合に使います。
義歯用ブラシ
通常の歯ブラシよりも毛が硬く、汚れを取り除きやすいブラシです。義歯を外してから、磨くときに使います。
うがい受け(ガーグルベースン)
うがいはできるけれど洗面台まで行くのが難しい場合は、うがい受けとうがい用の水を用意します。
口腔ケア用のジェルや保湿剤
口腔ケア用のジェルはケア前に塗って汚れをふやかして取りやすくする、ケア後の乾燥した口腔内を保湿する目的があります。口腔ケア後にうがいが不要なものもあり、被介護者の状態によって選びます。うがいをしない場合は必ず不織布やガーゼで拭き取るようにしましょう。
口腔ケアの手順
ここからは口腔ケアの手順を見ていきましょう。下記の流れで行い、忘れずに全ての工程をこなせるように注意します。
1. うがい
水を口に含み、左右の頬を膨らませて、しっかり動かしながらぶくぶくします。口の中の体操になります。
2. 歯の清掃
歯ブラシをご自身で扱える場合
できる限り自力での歯みがきを促しましょう。肘を挙げていられなければ、その部分だけ支えたり、手首がうまく回らなければ電動歯ブラシを利用したりと、できない動作だけを支援します。できた部分は「磨けていますよ」と評価しつつ、磨き残しなどがある場合は以下のような介助が必要です。
介助が必要な場合
歯ブラシとは反対の手指で、唇や頬を広げ視野を確保しながら、口の中を磨きのこしなく一周して磨いていきます。
寝たきりや重度障害など、誤嚥の可能性が高い場合
歯ブラシだと誤嚥の可能性が高い場合は、保湿ジェルをつけながらタフトブラシで汚れを浮かせ、不織布やガーゼで拭き取るようにしています。
3. 粘膜の清掃
頬の内側、唇の内側、歯ぐき、上あご、舌などの汚れを取ります。デリケートな部分なので、スポンジブラシや、口腔ケア用のウェットティッシュなどを利用してやさしく取り除きます。
4. 舌の清掃
舌にこびりついた白い苔状のものは、食べかすや細菌が集まってできた舌苔(ぜったい)といい、口臭の原因にもなります。舌用ブラシやスポンジブラシなどで奥→前、中→外の方向に、やさしくこすりとります。
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5. 頬のストレッチ
スポンジブラシや歯ブラシの背の部分で、頬の内側を外へ押し広げながら、上下に3~4回動かします。頬の筋肉のストレッチになり、口が動かしやすくなります。
6. うがい
仕上げに洗口液を使用するのもおすすめです。
7.義歯の洗浄
以上の手順で行います。
1. 食べ物の残りかすなどをざっとすすぎます。 2. 歯とは別の義歯用ブラシでブラッシングします。 3. すすぎます 4. 時間があれば義歯洗浄剤につけ置きます。 |
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口腔ケア時の注意点
口腔ケアをする前に知っておきたい注意点を解説します。安全かつ口内の衛生状態を保つためにも、必ず事前に把握しておきましょう。
誤嚥に注意する
嚥下機能が低下している場合は、口腔ケア中も誤嚥に注意が必要です。顔を横に向け、枕などを使ってあごを引き、水分や汚れが気管に入らないようにしましょう。水分の使用はできるだけ少なくして、嚥下反射や咳反射を生じやすいよう、身体は麻痺していない側を下にすると良いでしょう。
口腔内の乾燥に注意する
薬の副作用などで唾液が減少すると、口腔内が乾燥するようになります。それによって、口内の細菌が増加、炎症が起き、粘膜自体も脆弱となって感染しやすくなってしまう可能性が高いです。口腔ジェルなどの塗布や舌体操・嚥下体操、マッサージなどのケアで唾液の分泌を促すことが大切です。
日々の口腔ケアを習慣に
口腔ケアで口の中をきれいにすることは、虫歯や歯周病の予防のみでなく、健康を維持するためにも大切なことです。
定期的に歯科で口腔チェックを受ける、清潔な歯ブラシを使うなど正しい方法で口腔ケアして、口の中のみでなく身体の健康も維持していきましょう。口腔ケアは嚥下障害ともつながりがあります。ぜひこちらの記事も読んでみてください。
関連記事嚥下障害
口腔ケアは日に数回は行うもので、ご負担やケアの不足などによる嚥下障害などの不安を感じられることも多いかと思います。その際は場合は在宅介護サービスや施設入居も検討してみてください。
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この記事の制作者
監修者:萩野礼子(歯科医師)
東京医科歯科大学歯学部卒長、同大学院顎顔面補綴学専攻。日本顎顔面補綴学会認定医。東京医科歯科大学歯学部付属病院、国立がん研究センター中央病院歯科などに勤務。ときわ会常磐病院歯科ではいわき市初の訪問歯科の立ち上げに参画。2019年、東京都文京区区におはぎ在宅デンタルクリニックを開設。