高齢者とがん

全国がん登録データによると2018年に罹患した高齢者(65歳以上)のがん患者の割合は75.1%。高齢化にともない、がん患者のなかでも高齢者の割合が増加しています。

そもそもなぜ高齢になるほどがんにかかりやすくなるのか? もしもがんになったらどんな治療法があるのか?

今回は高齢者とがん治療ついて解説していきます。
 

高齢者ががんになりやすい理由

がんは高齢者に多い病気です。がんは別名、悪性腫瘍と呼ばれ、その腫瘍の漢字のイメージの通り「できもの」です。細胞のエラーなどで細胞が異常に増殖してしまい「できもの」のようになってしまい、その増殖が止まらないために「悪性」と呼ばれ、人を死に至らしめます。

年齢を重ねるうちに細胞のエラーが多くなったり、その修復能力が下がったりするため、高齢者ほどがんになりやすくなります。実際2018年のがん罹患者は65歳以上が75.1%、75歳以上が44.4%になります。このぐらいの年齢になったら、「そろそろ、がんの1つや2つにかかるころだな」と思って、検診は積極的に受けて早期発見で対処していきましょう。

また、体の不調がなかなか治らなくて長引いているということが、実はがんのアラートだったりもします。例えば、「喉が枯れて、なかなか治らず長引いている」「最近食べ物が喉にひっかかるのが治らない」ということが、喉のがんのアラートの可能生があります。何らかの異変が長く続いている場合は、病院に行って頂ければと思います。

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高齢者ががんの宣告をされたら

がんは死の病ではなくなり、今は6割が治る時代です。また早期発見ができれば、体の負担なく完治させることも難しくありません。まずは落ち着いて主治医の話を聴きましょう。

高齢者は「もう年だから」と諦められる方も少なくありません。しかし、人生100年時代に突入して長生きされる方も多くいます。勿論、高齢者は若い頃よりも体力が落ちていることが殆どなので、厳しい治療は出来ないこともあります。しかし近年は放射線治療や薬の発達で、高齢者にも優しい治療が出てきています。ご本人の体調に合わせた治療で、生活の質(QOL)を上げていくことも出来るようになっています。すぐに諦めるのではなく、まずは主治医に相談しましょう。

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科学的根拠が認められた「標準治療」

がん治療は進歩しています。がんは昔から人類の課題であり、がんに対するベストな治療は何かという研究が世界各国で長年行われてきました。その結果、現在に至るまでに最も良い治療成績を残して科学的根拠が認められたものが「標準治療」と呼ばれています。まずはこの標準治療ができるかからスタートして、患者さんの意向に合わせて治療を選択していきます。

どのような治療であれ、必ず副作用を伴いますので、インフォームドコンセント(説明と同意)が大事になってきます。治りやすいけど副作用の強い治療を選ぶか、治りにくいけれども副作用の小さい治療を選ぶかなどよく説明を受けで、治療に同意してください。

「先生に全てお任せします」という方も多いですが、このインフォームド・コンセントの過程を経ることで患者さんの理解が深められ、治療に良い効果をもたらすことが少なくありません。「標準治療にはどんな治療があって、先生のお勧めは何ですか?」と聞くとスムーズに医師とコミュニケーションができると思います。

ちなみに、医師の立場では患者さんの以下のようなことに注意しながら治療の提案をします。

まずは体の状態を見て可能な治療の選択肢を決め、次に患者さんの意向を伺い、きつい治療をしてでも治癒率をあげたいかどうかを確かめます。最後に家族の協力体制です。頻回な外来受診や入院、または体力の落ちた時の食事の介助などそばでしてくださる方がいると体力が落ちてしまうような治療も可能になりますので、実は家族との関係も大事な要素です。そのため「体の状態」「患者さんの意向」「家族との関係」で提案の内容が変わります。
 

がんが進行したときの治療とQOLと余命の考え方

がんは当然ですが、治らなければ進行します。高齢者はがんの進行が遅いと思われがちですが、そうとは限りません。確かに高齢になってから発見されるがんが、進行の遅いがんだったというケースはあります。しかし、全てがそうではないので注意しましょう。

高齢者のがんの場合は「無理に治さず、余生を全うする」という考え方も必要です。治療や延命をすることで、生活の質(QOL)を悪化させてしまう可能性があるからです。

がん治療は基本的に手術、抗がん剤、放射線治療を組み合わせて行います。高齢者の場合、元気であれば通常の治療を行いますが、多くの場合は体力が落ちているので調整をします。放射線治療単独だったり、抗がん剤の強さを弱めたりなど調整して、治療自体で具合を悪くしてしまうリスクを減らします。
若者と比べて、余生がが短いということがメリットと考えられることもあります。残りの余生と、がんの進行スピード・余命を比較して、治療をすべきか否かを判断するとよいでしょう。がんがおとなしい間は治療せず、副作用のない楽しい生活を送ったりするのも一つの選択肢になります。そして痛みなどが出てきたら緩和照射などで痛みを和らげることで通常の生活に戻ることも出来ます。

入院期間が長くなることで体力や筋力が落ちたり、手術の成功率など、治療をすることによる生活への影響なども考える必要があります。本人の意思を確認しながら、何が最善かを医師と相談していきましょう。

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余命宣告されたらやるべきこと

余命宣告が積極的に行われることはありません。同じ状況でも患者さんによって経過は異なり、がん治療に慣れた医師でさえがん患者さんの余命を正確に予測することは難しいからです。ただし、ざっくり「5年以上生きているのは30%くらいです」などと伝えられることはありますので、相応の覚悟は必要でしょう。また、年齢を重ねれば重ねるほど、がんに限らず脳卒中や心筋梗塞などで死亡したり意思疎通が取れない状態になるリスクはありますので、自分はどう生きたいか(延命治療を受けたいかなど)を話あう「人生会議」を、折にふれて家族としておきましょう。ご本人にとっても家族にとっても満足のいく治療を受けられるようになります。

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がん患者の在宅介護で注意すべきこと

がん治療と在宅介護は密接な関係があります。介護は食事・排泄・移動を中心として様々な配慮が必要になりますが、がんの治療中や治療後の方はそれぞれ通常の方よりも+αでケアが必要です。

ケアが必要になってくる例

  • がんで消化管が閉塞してうまく食事ができない
  • 放射線治療中で皮膚が脆弱になっている
  • 大腸がん手術後で排泄は人工肛門からおこなっている

上記例のような既にわかっていることへのケアだけではなく、足のふらつきや、腕を動かす際に痛がるかなど、がんが進行して出てくる症状をキャッチする観察などがん患者さんの介護ならではの視点を必要とします。

上手な介護ができるようになると、患者さんの在宅生活の質が上がり、ご家族の幸せな時間が増えることになります。しかし、ご家族だけで介護をすることはとても大変です。ご家族だけで抱え込まず、地域のサービスもうまく活用していきましょう。

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まとめ

がん治療と一括りに言っても、乳がん治療と肺がん治療と前立腺がん治療はそれぞれ別の治療です。「がん」とざっくりとした括りで失望するのではなく「〇〇がん」と該当するがんの個別の特徴などを把握して、高齢者にはどのような治療が出来るのだろうと探してみましょう。

体力が落ちてなければ通常の治療をすれば良いし、少し体力が落ちているならば別の治療を検討することも大事です。特に主治医の先生は各科の先生(産婦人科、泌尿器科など)になり、手術や抗がん剤などはよくご存じでも、近年進歩の目覚ましい放射線治療についてはあまりご存じない場合もあります。言われるがままにすると「その先生にとってのベストな治療」であって「患者さんにとってのベストな治療」でない方向にいくこともあります。

また、残念なことに世の中には、患者さんの不安につけ込むようなサプリメントや、治療を勧めてくる詐欺もあります。あらゆるがんに言えることですが、最初に検討すべきは標準治療ですので、そこはしっかり頭に入れておきましょう。そして、セカンドオピニオンをうまく使うためにもどういった治療があるかは大まかで良いので知っておきましょう。

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この記事の制作者

上松 正和

著者:上松 正和(放射線科専門医)

九州大学医学部卒。放射線科専門医。国立がん研究センターを経て現在は東京大学病院で放射線治療を担当。無料動画で医療を学ぶ「YouTubeクリニック」では「10分の動画で10年寿命を伸ばす」を掛け声に30-40代の方やがん治療に臨む方へ向けた日常生活や治療で役立つ医療話を毎日配信中。

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