がんの予兆って何?――病気だと気づきやすくする「がんのストーリー」

「2人に1人はがんになる」

このフレーズはTVCMなどでもバンバン流されて、すっかりお馴染みになりました。お聞きになられた方も多いかと思います。国立がん研究センターの「最新がん統計」(2020年05月07日)では、生涯でがんにかかる確率は男性で63%、女性48%と発表され今や誰がなってもおかしくない病気となりました。

がんは長生きすればするほどできやすいものです。私たち30-50代の世代自身のがんもそうですが、特に高齢者の仲間を入りして久しい団塊の世代を親に持つ私たちの世代は、気をつけてチェックしたいNo1の病気です。

今回は何気ない生活の中で「ひょっとしてこれってがんじゃない?」と気づけるサインについてのお話です。

「がん」と「癌」

ところで「がん」「癌」という2つの表記を見たことがないでしょうか。また似た言葉に悪性腫瘍という言葉もご存知かも知れません。もしかしすると勘が鋭い方は上記の文章でなぜ「がん」を「癌」って書かないのかと訝しがられた方もいるかも知れません。

先に結論だけ申し上げますと「がん」は「悪性腫瘍」全体を指し、「癌」はその一部の上皮性腫瘍だけを指す言葉です。

まず「悪性腫瘍」という言葉ですがこれは勝手に増殖して周りの組織や他の臓器に浸潤・転移をしていくものを指します。何が悪性なのかというと、この浸潤・転移によって臓器の機能が失われていくのと同時に栄養をとられてしまい、そうなると私たちの体は生きていけなくなります。だから悪性なのです。

良性腫瘍は勝手に増殖するのだけれど、ある一定のところに留まり、臓器の機能を障害したり栄養をとったりはしないある意味「ちょっと大きくなるだけ」なので良性なのですね。

この悪性腫瘍は大きく分けて3つあります。

(1)白血病やリンパ腫などの骨髄やリンパ節から発生する増血器のがん

(2)肺がん、食道がんなどの上皮細胞から発生する上皮性のがん

(3)骨肉腫や横紋筋肉腫などの非上皮性の細胞から発生するがん

私たちが「癌」と表記するのは上皮性細胞から発生するものだけを指すのですが、皆さんにとって馴染み深い肺がん・乳がんなどもこの上皮性がんなので「がん」と「癌」を混同してもそこまで困ることはありませんので安心してください。

私は「がん」を扱う医療者なので、ここでは全ての悪性腫瘍を含む「がん」という表記で進めていきたいと思います。

さて、どのようなものであれ「がん」はたった1つの細胞から始まります。顕微鏡で覗き込んでやっと見えるあの小さな細胞があらゆる癌の始まりです。それから分裂をしだしてやっと僕らの肉眼でも見えるくらいになるのには、おおよそ10-20年くらいかかります。それくらいゆっくり時間をかけて大きくなるのです。

やがて眼に見えるくらいに大きくなったがんは、大きくなる速度を早めて年単位であっという間に死に至らしめてしまいます。もちろん振る舞い方はがんによってそれぞれですが、これが一般的ながんのストーリーになります。

知っておくべき!がんのアラート

最初の方は気づきもしませんしかし悪さをし始めたらあっという間なので、できればそのがんのサインには数ヶ月くらいで気づきたいところです。

実はがん(が発生した)予兆というのは正確ではなくて、がんが大きくなってきたということですね。サインは「大きくなってきて、危険な大きさになってきてるよ」というアラートの役割を果たしてくれます。

その重要なサインですが、そのがんのストーリーを知っているだけで気づきやすくなります。

がんは、少しずつ大きくなります。これを言い換えると「症状がなかなか治らない」ということです。

例えば、「喉が枯れてきた」ということがあると、どういったことを考えるでしょうか。最初のうちは風邪でも引いたのかなと思うかも知れません。ただ2週間も続けば「治らないのはおかしいな」と思います。この場合は声を出す部位の声門というところに、がんが出来ていたために嗄声は治らなかったというわけです。

通常この段階で病院に行けば、まずがんは完治します。

最近食べ物がひっかかるし治らない場合は、食道癌の可能性があります。食道に出来たがんが食べ物を通りづらくさせているわけですね。舌に出来た口内炎が治らないなとなれば、舌がんの可能性があります。そうしたサインがあれば病院に行って頂ければと思います。

また、もう1つのがんの特徴として「出血しやすい」ということもあります。

例えば便が赤かったり黒かったり(血は酸化すると黒くなりますね)するのが治らない場合は、胃がんや大腸がんの可能性があります。咳をして同時に血も混じることが続くと、肺がんの可能性があります。血尿が続く時は腎がんや膀胱がん、帯下に血が混じる時は子宮癌などの可能性があります。

やはりそういった時も医療機関を受診して調べてもらう方が無難でしょう。

親子で良好なコミュニケーションがあると、良い治療に結びつきやすい

この「少しずつ大きくなる」「症状がなかなか治らない」「出血しやすい」というがんの特徴を知った皆さんは、多くのがんのサインをキャッチできるようになりました。最後にこのサインをキャッチできる最大のコツを皆さんにお伝えしてこの回を終わりにしたいと思います。

このtayoriniをご覧になられている皆さんは、もうすでに実践されているかも知れません。それは「コミュニケーション」です。飲み込みが悪いとか、便に血が混じるなどは、ご本人がちゃんと話をしてくれないと伝わらない内容です。

それなりに会話の頻度がないと「治らないなぁ」とはなかなか気づけないと思います。こういったサインに気づけた方は、それだけ親御さんとコミュニケーションをとられていた証拠だと思います。サインに気付いてしまうと不安な気持ちになってしまうと思いますが、実は親子で良好なコミュニケーションがあることが良い治療に結びつきやすいと言われています。

家族間のサポート体制ができていると治療の幅が増えることと、患者さんが行う治療について患者さん自身の理解が深まりやすいからです。また出現しやすい副作用に適したケアを家族から受けやすいこともあります。

ぜひ「ちゃんとコミュニケーションが取れている」と自信を持って頂いて医療機関に一緒に来て頂ければと思います。

今回のポイント

●がんは、「少しずつ大きくなる」「症状がなかなか治らない」「出血しやすい」

●少しでも症状が長引いたときは、勇気を出して病院へ行きましょう。

●大事な家族の病気のサインをキャッチするため、コミュニケーションをとりましょう。

さてこの特集では高齢のご両親を支える世代に向けてどんな人でも知っていれば親御さんや支える側の家族の助けになるトピックを扱っていく予定です。

次回はコミュニケーションがうまく取れてない方でも、コミュニケーションのきっかけにもなる「あるもの」を使ったサインの拾い方をお伝えしたいと思います。誰にでも出来てお金もかからないものです。それではまた次回にお会いしましょう。

(*)国立がん研究センター:がん情報サービス:最新がん統計

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上松 正和
上松 正和 放射線科専門医

九州大学医学部卒。放射線科専門医。国立がん研究センターを経て現在は東京大学病院で放射線治療を担当。無料動画で医療を学ぶ「YouTubeクリニック」では「10分の動画で10年寿命を伸ばす」を掛け声に30-40代の方やがん治療に臨む方へ向けた日常生活や治療で役立つ医療話を毎日配信中。

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