訪問リハビリの選び方と注意点|失敗しない8つのポイント
訪問リハビリとは、リハビリの国家資格である理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などが自宅に訪問し、自宅内外の移動や日常生活の動きが危なくないかといった評価と自立した生活ができるようリハビリを行ってくれるサービスです。
このサービスを提供する事業所は多々ありますが、どのように選べばよいのでしょうか。現役のケアマネジャーが解説します。
介護保険で利用する訪問リハビリサービス
訪問リハビリとは、医療機関(病院、診療所)や介護施設(介護老人保健施設、介護医療院)にいるリハビリ専門職が、利用者の自宅へ訪問して実生活に合わせたリハビリを行うサービスです。
例えば、「自宅の階段を安全に上れるようになりたい」、「近所のスーパーまで買い物に行けるようになりたい」など、自立した日常生活を送ることを目標として、リハビリ計画を立案してくれます。
サービス利用日以外もリハビリをすることが効果的である場合は、ご本人が一人でできるリハビリメニューを考えたり、自主トレーニングのアドバイスを受けることもできます。
介護保険でリハビリのサービスというと、施設に通いながらリハビリを行う「デイケア(通所リハビリ)」があります。
訪問リハビリはデイケアと比べると、利用者本人の自宅でリハビリを行うので、より生活に則した実践的なリハビリを受けることができます。
訪問リハビリについて詳しく見る訪問リハビリ利用の流れ
訪問リハビリを利用するには、どのような手順で進めればよいのでしょうか。利用手順を進めるうえでの注意点や気を付けるポイントをみていきましょう。
どのような時に利用すればよい?
訪問リハビリは、デイケアではできないリハビリを希望する場合に有効です。
例えば「自宅のお風呂の浴槽が跨げるようになりたい」「スーパーまでの道を安定して歩けるようになりたい」など、実際の環境におけるリハビリが望ましい場合、訪問リハビリを利用します。
また、寝たきりでデイケアに通えない方に麻痺や関節の拘縮(こうしゅく)改善のリハビリを行ったり、食事のムセや飲み込みの悪さに対して訪問リハビリを利用することもできます。
- !ワンポイント!
- このサービスを利用するには、主治医の指示が必要です。まずはケアマネジャー、主治医に状況を伝え、利用について相談してみましょう。事業所によっては、主治医とは別に、訪問リハビリの病院・診療所にいる医師の診察が必要な場合があります。
訪問リハビリを選ぶときの2つの注意点
実際に選ぶときどんな点について注意すべきでしょうか。
1.事業所による違いは職員の専門性
訪問リハビリが提供するサービス内容について、大きな違いはありません。
ただ、職員の配置状況については、事業所によって違いがあります。リハビリの国家資格である理学療法士や作業療法士については、配置している事業所が多いのですが、言語聴覚士は有資格者が少なく、配置していない事業所もあります。
言語聴覚士とは、例えば失語症で言葉が上手く出せない人のリハビリや、飲み込みに不安のある方の嚥下(えんげ)障害のリハビリを行う専門職です。
もしも脳梗塞の後遺症などで、失語症や嚥下障害がありリハビリを希望する場合は、こうした違いがあることを知っておきましょう。
2.ケアマネジャーに勧められたところを利用しなくてもいい
ケアマネジャーに相談すると、特定のサービス事業所を勧められる場合があります。しかし、必ずしもその事業所を利用しなければならない決まりはありません。
もし勧められた場合には、その事業所にはどのような特徴があるのか、なぜお勧めなのかを聞いてみましょう。その上で、利用するかどうか判断すれば良いのです。例えば入院していた医療機関が退院後のフォローをする目的で提案している場合もあります。
いづれにしても最終的には、利用者及び家族の意思で決定します。
ケアマネジャーは、中立の立場でサービス事業所を提案してくれます。紹介したところで、ケアマネジャーに紹介料が入るというようなことはなく、あくまで利用者のためを思って提案してくれています。
お勧めの理由を聞いて、ケアマネジャーと話し合いながら事業所を選択していきましょう。
家族にもできる事業所選びの8つのポイント
実際に事業所選びのポイントをみていきましょう。
<チェックポイント>
- ①必要な専門職種が在籍しているか
- 先に述べた通り、理学療法士や作業療法士がいても、言語聴覚士がいない場合があります。
それぞれ職員がいるのか、現状で対応可能な職種についても確認してみましょう。 - ②経験年数はどのくらいか
- できるだけ経験のある人にリハビリをしてもらいたいものです。所属しているリハビリ職員が何年のキャリアがあるのか、確認してみましょう。
- ③営業曜日
- 平日は営業していますが、土日や祝日に営業しているかも確認してみましょう。
- ④担当者が訪問できなくなった場合の対応方法が決まっているか
- 担当のリハビリ専門職が病気などで訪問できなくなった場合、別の人が来るのか、キャンセルとなるのかなど、対応方法が決まっているかを確認してみましょう。
- ⑤認知症ケアに対する研修を行っているか(認知症の方の場合)
- 認知症の方の場合には、時にリハビリを拒否することもあります。そのような時に、認知症に対する知識があると上手くリハビリを行えることもあります。
対応マニュアルや研修を行っているか確認してみましょう。 - ⑥ケアマネジャーや福祉用具の事業所や主治医と連携しているか
- 訪問リハビリでは、住宅改修(手すりが必要かどうか)や杖などの福祉用具の選定もしてくれます。
その時に、ケアマネジャーや福祉用具の事業所と連携を取ってくれると、専門職同士で話しがスムーズに運び、利用者・家族の負担が少なくなるでしょう。
また主治医との連携も重要です。例えばリハビリの指示を出す医師と、かかりつけの医師が異なる場合があります。ケアマネジャーの作成するケアプランに沿った連携ができるように意識をしているかについても重要です。 - ⑦病状が急変した時の連絡手順や対応方法が明確か
- もしもリハビリ中に体調が急変したらどのような対応になるのか、マニュアル化されていた方が、利用する方としても安心できます。利用前に確認しておきましょう。
- ⑧訪問リハビリ終了時、他の介護サービスについてアドバイスを行っているか
- 訪問リハビリには目標があり、達成した場合には、サービス終了となります。その場合、継続して今の身体を維持していくために必要なサービスを提案してくれるかどうかも大切になります。
例えば、自宅内での移動が安定してきたので、少し時間を伸ばし交流も兼ねてデイサービス・デイケアへ変更をする提案もあります。
終了後は、どのように生活していけばいいのかアドバイスをもらえるか質問して、今後のことも考えてくれるかどうか確認しておきましょう。
上記の情報については、介護サービス情報公表システムから検索することができます。
「介護サービス情報公表システム」現役ケアマネジャーが考える、訪問リハビリの選び方
訪問リハビリの選び方について解説してきました。ここからは、現役のケアマネジャーである筆者がオススメの利用方法について、例を挙げてご紹介します。
例1.寝たきりで褥瘡のあるAさんの場合
介護度が重く寝たきり状態だと、デイケアに通うことが難しい場合があります。この方のリハビリは、「拘縮予防」や「嚥下機能を含む身体機能のが低下しないこと」が主目的だと予想できます。
また、褥瘡(じょくそう ※床ずれ)があると、その処置も必要になってきます。訪問リハビリはあくまでリハビリのみのサービスなので、褥瘡の処置まではできません。
このような状態の場合は、訪問看護事業所が提供する訪問リハビリの利用を提案します。
その理由は、訪問看護師であれば褥瘡の処置も行うことができること。そして、看護師と同じ事業所で働くリハビリ職員が訪問リハビリも行ってくれるので、看護師と連携しながらリハビリを実施してくれます。
このように、看護師が行う医療的ケアも必要な場合には、リハビリ専門士ではなく、訪問看護事業所が提供する訪問リハビリの利用をオススメします。
訪問看護について詳しく見る例2.転倒が多くなり、近所のスーパーに買い物に行けなくなってきた方
近所のスーパーに行けなくなってきた方については、自宅からスーパーまでの環境(砂利道か傾斜がある道か)によって、その場所でないと訓練できない内容になるため訪問リハビリが望ましいと思います。
リハビリを行う中で、利用した方がよい歩行器などの提案も受けることができます。
訪問リハビリでスーパーに行けるようになった場合には、デイサービスを利用して、足の筋肉が落ちないようにする必要性があるかという、訪問リハビリを卒業した後のことを考えてくれる事業所をオススメします。
訪問リハビリは、生活の質を向上させるサービス
訪問リハビリは、目標を決めて、その達成のためにリハビリを行います。
目標は、「1人で買い物に行けるようになる」や「前行っていた地域の集会所に行けるようになって碁を楽しめるようになる」というように生活が楽しくなるような目標を設定することもできます。
利用者の状態によってさまざまですが、寝たきりの方も「車いすに乗れるようになって桜を見に行けるようになる」や、嚥下訓練で「好きだったアイスを1口食べられるようになる」というように、どんな方でも生活の質を向上させる目標を立てることが大切です。
利用者にとって、リハビリテーションは身体機能を向上するだけではありません。本人の大事にしてる価値観や生活の質を向上させることが本来の目的なのです。利用者の喜びになることが増えるように、上手に訪問リハビリを利用してみましょう。
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この記事の制作者
著者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)
株式会社HOPE 代表取締役
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。
監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)
地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。