【ケアマネが解説】訪問介護サービスへの苦情と対処方法

介護保険サービスの中でも、一番身近で生活を支えてくれる訪問介護サービス。

自宅にヘルパーが来てくれて、掃除や買い物、調理など家事の支援や、入浴の介助やおむつ交換などの身体の介護をしてくれる介護サービスです。

自立した生活するうえで、このサービスを必要とする方が多くいらっしゃいます。そんな訪問介護ですが、ちょっとした行き違いやヘルパーの失敗をきっかけに苦情を言いたくなることもあります。

そのようなときに、どのように苦情を言えばいいのか、うまく解決するにはどうしたらよいのかをご紹介していきます。

訪問介護サービスの不満と苦情

訪問介護を利用している中で、どんなことが不満や苦情になるのでしょうか。

ホームヘルパーの対応に不満に思ったAさんのケースを、まずは見ていきましょう。

Aさん

  • 83歳・女性
    介護認定:要介護2

一人暮らしのAさんは脳梗塞の後遺症があり、近くのスーパーマーケットまで歩いていくことができない状況です。

そこでケアマネジャーに相談し、訪問介護による「買い物、調理、お部屋の掃除」をお願いすることに。ほどなくして訪問介護の利用が始まります。ヘルパーが家事をやってくれるおかげで、困ることなく一人暮らしの生活が送れるようになりました。

そんな時、いつも来てくれるヘルパーではない人が訪れます。いつも通り家事をお願いし、ヘルパーの介護サービス時間が終わるころに、「夕方になってきて、寒くなってきたので、上着を着るのを手伝ってほしい」とお願いをしました。

するとヘルパーから「窓があいているから寒いんですよ。閉めますね。」と言われます。Aさんは「窓はあけておいてほしい」とお願いしました。

ヘルパーは、何も言わずに帰り支度を始めたため、Aさんが「帰らないで。寒いから上着を着るのを手伝って」と再度お願いしたところ、「もう時間なので、そんな時間はありませんね。今日は帰ります。」とそそくさと帰ってしまいました。

Aさんは、今まで来てくれていたヘルパーが、とても優しくて心の拠り所になっていました。「ヘルパーさんはみんな優しくて、親切にしてくれる方」だと思っていたため、大きなショックを受けてしまいます。

また次も同じ人が来たらどうしようと、ヘルパーが来る日が怖くなってしまいました。この気持ちをどうしたらいいか、わからなくなり、家族を通してヘルパーを断るようになってしまったのです。

まずは本人の気持ちを確認する

Aさんのように、訪問介護に対して不満を感じた場合、どうしたら良いのでしょうか。

まずは、サービスを使っているご本人の気持ちを聞いてみましょう。話をきいているうちに、どういうことがあって何が不満だったのかを整理します。

また、ご本人も聞いてもらうことで気持ちが落ち着き、物事が冷静に考えられるようになります。冷静になったところで、どうするかを一緒に考えてみましょう。

繰り返さないためにも苦情を伝える

苦情を言うことに対して気が進まない方もいるのではないでしょうか。

「今までお世話になっていたから言いづらい」など、さまざまな思いがあるでしょう。しかし、訪問介護事業所と今後も付き合っていくのですから、不満をそのままにしておくことはオススメしません。

同じようなことが繰り返される可能性もありますし、他のお宅でも同様のことがあり、自分と同じく嫌な思いをしている人がいるかもしれません。

苦情はサービス品質の向上にも繋がる

苦情を伝えることで「クレーマーと思われないか」など、前向きになれない気持ちもあると思います。

しかし、訪問介護事業所にとってもサービスの質を向上するきっかけにもなりますし、雇用するヘルパーの仕事ぶりを確認できる機会にもなるのです。苦情を言うことで感謝されることもあります。

地域によい訪問介護事業所が増えるきっかけと考え、不満に思うことを伝えてみましょう。

このときの伝え方ですが、感情のまま話を進めるとかえって解決までに時間がかかってしまうこともあります。

どんなことが起きてご本人はどう感じたのか。今後どうしてほしいかを冷静に伝えることが大切です。

最初に相談すべきはケアマネジャー

ケアマネジャーは公正中立に利用者を支援する存在

「ケアマネジャーから紹介された訪問介護事業所だから、苦情を言っても訪問介護事業所の味方をするのではないか」と思う方もいるかもしれません。

ケアマネジャーは、利用者との契約書の中に、「公正中立の立場で支援する」と記載されています。利用者と介護サービス事業所とでトラブルがあった際は、間に立って不満や苦情についてアドレスをしてくれます。

また、地域の介護サービス事業所の評判や質についても、ケアマネジャーは把握しています。さまざまな苦情も聞いていますので、どのようにしたらよいか、相談してみましょう。

場合によっては、間に入り第三者として、客観的に苦情を伝えてくれたり、その時のヘルパーの状況などを確認してくれることがあります。

ただ最終的には、利用者と契約を結んだ介護サービス事業所との協議になりますので、苦情について最後までケアマネジャーが対応してくれるわけではありません。

サービス提供責任者に相談する

訪問介護事業所に、直接苦情を言う方法もありますが、その際は誰に伝えるべきでしょうか?

訪問介護事業所には「サービス提供責任者」と呼ばれる方がいます。

サービス提供責任者は、利用者に対しどのようなサービスを行うのかを記載した「訪問介護計画書」を作成し、実際に訪問するヘルパーに仕事の手順などを教える役割を担う人です。

サービス提供責任者に苦情を伝えることで、ヘルパーの対応に不備はなかったか事実確認を行い、事業所の管理者と相談して苦情対応にあたってくれます。

ただ、中立の立場で対応してくれるかどうかは、その事業所しだいです。もしも対応に偏りを感じるときには、後述する第三者の苦情相談窓口を利用してみましょう。

誠意のある対応がなければ第三者機関へ

苦情を訪問介護事業所に伝えても、解決の糸口が見えなかったり、誠意のない対応をされた時には、どうしたらよいのでしょうか。

訪問介護を利用するときに、契約書と重要事項説明書の説明を受け、納得し書類に署名をして介護サービスが開始されています。

この「重要事項説明書」を読み返してみましょう。訪問介護事業所の苦情担当者が記載されています。また、当事者同士で解決できない場合の第三者の相談窓口についても記載されています。

国民健康保険団体連合会(国保連)

各都道府県には「国民健康保険団体連合会(以下、国保連)」があり、苦情相談窓口を設置しています。国保連は、介護サービスの審査支払業務や苦情処理業務を行う行政機関の1つです。

そのため、国保連が介護サービスの苦情窓口になっており、相談することで苦情の内容を調査し、介護サービス事業所にも聞き取りを行います。

改善が必要な場合、国保連より、介護サービス事業所に改善について指導・助言を行います。

相談方法は、訪問介護事業所と契約したときに渡された「重要事項説明書」の中に記載されている国保連の電話番号へ問い合わせます。

もし「重要事項説明書」が見当たらない方は、ケアマネジャーに聞くか、インターネットで「お住いの都道府県名」「国民健康保険団体連合会」「苦情」と検索してみると、窓口の電話番号がわかります。

まずは電話で相談してみましょう。

お住まいの市区町村の介護保険担当課

上記の国保連と同様に、こちらも公的な相談窓口になります。市区町村役場の介護保険を担当している窓口になりますので、来所して相談しやすいというメリットがあります。

こちらも、苦情を聞いたあとについての対応は、先にご紹介した国保連とほぼ同じです。訪問介護事業所と契約したときに渡された「重要事項説明書」の中に記載されています。

もし見当たらない場合は、ケアマネジャーに聞くか、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口に電話するか、市区町村役場の介護保険担当課へ来所してみましょう。

ガマンせずにきちんと話し合いましょう

訪問介護サービスのヘルパーの対応に不満があった場合は、そのままにせずにきちんと苦情を申し立てて、改善を求めましょう。まずは、訪問介護事業所と話し合うことです。

直接のやり取りに不安を感じるようであれば、ケアマネジャーに相談してから、訪問介護事業所と話し合ってみましょう。

それでも不満が解決しない場合には、公的な苦情相談の第三者機関に相談します。

苦情を言う方は気が引けたり、抵抗があったりするかもしれません。しかし、苦情を言うことで訪問介護事業所の対応が改善されたり、お互いの信頼関係が強くなることがあります。

決して、マイナスなことばかりではありません。

もし、苦情を言っても解決できなかったり、同じことが繰り返されたりする場合には、ケアマネジャーに相談をして、別の訪問介護事業所に変更することも考えてみましょう。

変更は自由にできますので、自分に合う訪問介護事業所を見つけることも良いかもしれません。

本人が我慢したり、家族だけで解決しようとせずに、ケアマネジャーやご紹介した相談窓口を上手に利用し、解決に向けて進めましょう。

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この記事の制作者

森 裕司

著者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)

株式会社HOPE 代表取締役 
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。

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