日本の公的年金制度である国民年金と厚生年金について、それぞれ制度の特徴を詳しく解説していきます。国民年金と厚生年金の切り替えの方法や、保険料を重複して払ってしまったときの対処法もご紹介しますので、制度について難しいと感じている方も参考にしてみてください。
※本記事は2022年5月13日時点の情報です。
- 【目次】
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公的年金制度の基本
公的年金制度とはどういった制度なのか。まずは、公的年金制度について、基本から説明します。
公的年金制度ってどんなもの?
国民年金と厚生年金は、どちらも国が運営する公的年金制度です。公的年金制度は原則、日本国内に住んでいる20歳から60歳までの全員が加入する義務があります。20歳になると自動的に公的年金制度に加入することになり、毎月保険料の納付が必要です。学生などは、免除制度もありますので保険料の納付が難しい場合に利用するとよいでしょう。
公的年金制度は、加入者が保険料を支払うことによって、老後や障害を負った時、扶養者の遺族などに年金が給付されます。働ける現役世代が年金受給者を支える制度になっています。もしも公的年金制度がなければ、老後の資金は自身で準備する必要があり、事故・病気で障害を負った時や遺族の生活は苦しいものになるため、私たちにとって大切な資金と言えるでしょう。老齢年金の受給については、国民年金と厚生年金、どちらも65歳から受給を開始することが可能です。
老齢年金とは、老後に受け取れる年金のことで、国民年金に加入して保険料を納めたことにより受給される「老齢基礎年金」と、厚生年金に加入して保険料を納めたことにより受給される「老齢厚生年金」があります。
公的年金制度の加入者の種類
公的年金制度は、職業によって3種類に分けられます。その違いについて表をもとに説明します。
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条件 |
職業 |
第1号被保険者 |
20歳から60歳未満の日本在住の方で、
第2・第3号被保険者に該当しない方 |
自営業者・農業とその家族、学生、無職の人など |
第2号被保険者 |
原則70歳未満の方 |
公務員、民間企業(※1)の会社員 |
第3号被保険者 |
20歳から60歳未満で、
第2号被保険者の扶養に入っている配偶者 |
主に専業主婦(夫) |
※1 厚生年金保険適用事業所であること
公的年金制度の種類は、「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」に分けられます。自営業や農業、漁業などに従事している方は第1号被保険者、公務員や会社員の方などは第2号被保険者となります。また、家族の扶養に入っている専業主婦(夫)の方などは第3号被保険者です。
この中で、第2号被保険者は、70歳未満となっています。それぞれ年齢の条件も違いますので、ご自身がどの種類に該当するのか確認しておきましょう。
国民年金と厚生年金の違い
公的年金制度である国民年金と厚生年金について、表をもとに比べてみましょう。
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国民年金 |
厚生年金 |
加入の対象 |
20歳から60歳までの全国民
(第1号被保険者、第3号被保険者) |
公務員や会社員
(第2号被保険者) |
保険料 |
一律 |
所得により異なる |
保険料支払い負担 |
加入者が全額負担 |
事業主と折半 |
最低保険者期間 |
10年 |
1か月(※2) |
年金給付額 |
加入期間に応じて一律 |
所得と加入期間によって異なる |
支給開始年齢 |
65歳 |
65歳 |
※2 受給には老齢基礎年金の受給資格を満たしている必要があります。
支給開始年齢は基本的に65歳ですが、60歳に繰り上げたり70歳に繰り下げたりすることも可能です。ただし、65歳から年金を受給した場合と比べて受給額が変わってきます。繰り上げた場合は、繰り上げた月ごとに0.5%の減額、繰り下げた場合は、繰り下げた月ごとに0.7%の増額になります。受給開始年齢の繰り上げや繰り下げで金額が変わることを覚えておきましょう。
また、第2号被保険者は厚生年金の加入者であると同時に国民年金の加入者にもなります。国民年金と厚生年金は、加入できる対象をはじめ、保険料や保険者期間、年金の給付額なども異なります。ここからは、それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
国民年金の基本
国民年金にはどのような特徴があるのでしょうか?保険料や給付制度、滞納してしまった時の対処法についても紹介します。
国民年金ってどんなもの?
国民年金とは、「基礎年金」とも呼ばれている公的年金です。
国民年金には、以下3つの特徴があります。
1つ目は「国民皆年金」で、20歳から60歳までのすべての国民に加入義務があるのが特徴です。これにより、安定した保険料収入が可能になっています。2つ目は「社会保険方式」で、収められた保険料に税金を組み合わせて給付しているのが特徴です。そのため、高齢者などへの年金給付が安定して行えます。3つ目の特徴は「世代間扶助」です。国民年金は、働ける現役世代が納めた保険料が高齢者に給付される老齢年金になるため、世代間で支え合う仕組みになっています。
国民年金の保険料
国民年金の保険料は一律で、年齢や年収は関係なく同じ保険料を支払います。国民年金の保険料は毎年見直しが行われており、令和4年度は月額16,590円です。
毎月納めなければならない保険料ですが、前納することで割引になる制度があります。「前納制度」は、保険料をまとめて支払うことができる制度で、6か月分、1年分、2年分の中から選択が可能です。長期間まとめて前納した方が、保険料をより安く抑えられる仕組みになっています。
また、収入の減少などにより保険料の支払いが難しい場合には、「免除制度」が利用できます。手続きを行い承認されると、保険料の免除がされる制度です。なお、保険料免除の承認がされた期間も、年金の受給資格期間として扱われます。免除の申請をせずに未納のままにすると、年金が受けられない場合もありますので、支払いが難しい場合は申請の手続きをしましょう。
※国民年金保険料の免除制度についてはこちら
行政リンク:https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150428.html
国民年金の給付制度
国民年金には給付制度が3つあります。
「老齢年金」は基本的に65歳から終身まで受け取れる年金です。また、「障害年金」は、病気やケガなどによって仕事や日常生活に制限が出てしまう場合に受け取れます。さらに、「遺族年金」は、亡くなられた方の遺族が受け取れる年金です。
老齢年金の給付額は、加入期間に応じた金額を一律で受け取ることが可能です。国民年金は10年以上保険料を納めた方が給付の対象ですが、保険料の納付が長期間であるほど年金の額が増えます。40年間納めた方は年金を満額で受け取ることができるようになっています。
令和2年度の国民年金の平均給付月額は56,252円となっています。また、令和3年度の満額の年金受給額は月65,075円です。老後を安心して過ごすためにも、40年間保険料を納め、満額の老齢年金を受け取れるようにしましょう。
国民年金を滞納すると
国民年金の保険料を滞納すると、預貯金や給与が差し押さえられる可能性もあります。国民年金の納付は義務ですので、しっかりと納付しましょう。万が一支払えない場合は、免除制度や分割する方法もありますので、早めに年金事務所に相談しましょう。
ほかに、保険料の支払いが難しい場合は「納付猶予制度」もあります。学生以外の20歳から50歳未満の方で、本人や配偶者の所得が一定以下である場合が対象です。また、20歳以上の学生の方には「学生納付特例制度」があります。本人の前年の所得が128万円以下の場合、在学中は保険料の支払いを待ってもらうことが可能です。
ただし、納付猶予制度や学生納付特例制度を利用すると、利用しなかった場合と比べ、老齢年金の給付額が少なくなってしまいます。そこで、国民年金には追納制度もあります。追納をすると、将来の年金額を増やすことができ、社会保険控除の対象にもなるため、所得税や住民税の負担軽減も可能です。
国民年金とは|免除・追納・独自の制度
厚生年金の基本
厚生年金には、どのような特徴があるのでしょうか?保険料や給付制度についても見ていきましょう。
厚生年金ってどんなもの?
厚生年金とは、70歳未満の公務員や会社員などの第2号被保険者が加入する公的年金です。厚生年金にも老齢年金や障害年金、遺族年金などがあります。厚生年金に加入すると国民年金にも自動的に加入したことになります。そのため、将来的には、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2種類の年金を受け取ることが可能です。
老齢基礎年金とは国民年金に加入していた方が対象の年金のことで、受給資格期間が10年以上であれば65歳から受け取れます。また、老齢厚生年金とは厚生年金に加入していた方が対象の年金のことを言います。
厚生年金は、国民年金に上乗せする形でつくられた制度です。そのため、建物に例えて日本の公的年金は「2階建て」と呼ばれることがあります。会社員の場合は、厚生年金の保険料として給与から天引きされますが、この中には国民年金も含まれています。
※年金の「2階建て」構造について詳しくはこちら
行政リンク:https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/structure/structure03.html
厚生年金の保険料
厚生年金の保険料は、それぞれの給与によって異なります。保険料の負担は会社と従業員で折半する形になっていて、毎月の給与から天引きされる仕組みです。例えば、40,000円の保険料の場合は、半分の20,000円を会社が支払います。そのため、従業員はもう半分の20,000円を支払う形になります。
厚生年金の給付制度
厚生年金の給付は、厚生年金へ加入していた方が原則65歳から受け取ることが可能で、支給は生涯続きます。厚生年金は、保険料が個人の給与によって異なるため、給付額も個人によってそれぞれ異なるのが特徴です。また、加入期間にも応じて年金額が計算されます。つまり、現役時代に多くの保険料を長く支払った方は、給付額も多くなるという仕組みです。
厚生年金の受給者平均月額は、令和2年度では146,145円となっています。厚生年金の加入者は、厚生年金と国民年金の両方を受給できるので、この金額は老齢基礎年金に老齢厚生年金が上乗せされた金額です。
厚生年金のしくみ|基礎から保険料、厚生年金基金まで国民年金・厚生年金の切り替え
ここまで、国民年金と厚生年金について解説しました。では、国民年金から厚生年金に、また厚生年金から国民年金に切り替わる場合はどうすれば良いのでしょうか?具体的に見ていきましょう。
国民年金から厚生年金への切り替え
自営業者や農業、漁業に従事している方、専業主婦(夫)の方など、国民年金に加入している方が、会社員や公務員になったときは厚生年金への切り替えが必要です。切り替えの手続きは就職先が行うので、加入者は特に必要な手続きはありません。手続きには年金手帳か基礎年金番号通知書の提出が必要です。
就職先から年金手帳や基礎年金番号通知書を提出するよう求められることがありますので、用意をしておきましょう。
厚生年金から国民年金への切り替え
会社員や公務員の方など、厚生年金に加入している方が自営業者やフリーランス、専業主婦(夫)などになったときは、国民年金への切り替えが必要です。この場合、「厚生年金の脱退手続き」と「国民年金への加入手続き」を行います。
厚生年金の脱退手続きは、勤めていた会社や組織が行ってくれますが、国民年金への加入手続きは加入者自身または世帯主が行わなければなりません。手続きは、退職日から14日以内に、住んでいるところの役所にて行います。
持ち物は、年金手帳か基礎年金番号通知書、退職証明または退職日の分かる書類、免許証などの身分証明書が必要です。期間が限られており、持ち物も必要なため、慌てないように準備しておくことが大切です。
国民年金保険料の重複
正しく納付をしているつもりの国民年金保険料ですが、まれに厚生年金保険料と重複して支払ってしまうケースも考えられます。それはどのような場合なのか、対処法と共に見ていきましょう。
重複が起こり得るケース
重複が起こり得るケースとして考えられるのが、国民年金保険料の前納をしている場合です。国民年金の加入者が、保険料をまとめて支払った期間中に就職をした場合、その期間の途中から厚生年金に加入することになるため重複が生じてしまいます。
また、職場が厚生年金保険料を当月徴収にしていて、月末以外のタイミングで退職する場合も重複が起こり得ます。これは、月の途中で退職したことにより、その月の国民年金保険料も支払う義務が生じてしまうためです。その月の給与からは厚生年金保険料が引かれるため、重複してしまいます。
このように、就職や退職のタイミングで国民年金保険料を重複して支払ってしまうケースがあることを、把握しておくといいでしょう。
国民年金保険料が重複したときはどうする?
万が一、国民年金保険料を重複して納付してしまったときはどうすれば良いのでしょうか?対処法は、ケースによって異なりますので、見ていきましょう。
国民年金保険料の前納により重複したとき
国民年金保険料の前納によって重複が起きたときは、還付請求を行うことができます。まず、年金事務所より「国民年金保険料過誤納額還付・充当通知書」が送付されます。
個人の年金加入記録や保険料の納付状況は基礎年金番号によって管理されていて、保険料納付の重複があった場合には基礎年金番号をもとに確認後、1~2か月程度で書類が届きます。書類が届いたら、添付されている「国民年金保険料還付請求書」に口座情報を記入し、郵便局か年金事務所へ持参して、重複して納付した分の還付請求を行います。
月末以外の退職により重複したとき
職場が厚生年金保険料を当月徴収にしている場合で、月末以外に退職するという条件が重なると、保険料の重複が起きてしまうケースがあります。これは、月末の就業状況によって公的年金の種類が決まるためです。そのため、月の始めや中旬などの退職では、国民年金保険料の支払い義務が生じてしまうのです。この場合は、厚生年金保険料の還付手続きを行うことが必要です。
厚生年金保険料は脱退手続きが取られ、納付した保険料は一時的に職場の預かり金となります。まずは、退職した勤務先に相談をしましょう。また、退職した職場から発行される源泉徴収票のチェックも行い、社会保険料控除の金額が重複した厚生年金保険料を含んでいないか、確認しておくことも大切です。
どうすれば良いか迷ったときには、お近くの年金事務所に相談するのも1つの方法です。
※お近くの年金事務所の検索はこちら
行政リンク:https://www.nenkin.go.jp/section/soudan/まとめ
最後に、公的年金は老後の「老齢年金」だけと思われがちですが、これまでお伝えした通り「障害年金」「遺族年金」も受給できる優れた制度です。
国民年金と厚生年金は、職業や年齢などによって加入対象が違います。ご自身がどの種類に該当するのか、確認してみてください。もしも厚生年金へ加入していて国民年金への切り替えが必要なときは、ご自身で手続きをする必要があるので気をつけましょう。
また、保険料の重複があった場合は、還付請求の手続きをすることもできます。年金は、原則として保険料を納めた人とその遺族、第3号被保険者が給付を受けることができる制度です。しっかり理解したうえで納付し、老後の大切な資金として受け取れるように備えておきましょう。
【FPが答える】年金だけで老人ホームへ入居できますか?
この記事の制作者
監修者:武田 拓也(ファイナンシャルプランナー(AFP)、社会福祉士)
株式会社FAMORE代表取締役
有料老人ホームの管理者、外資系金融機関を経て、真にお客様のためになる提案をするため独立型FP事務所を開設。NPO理事として地域福祉の取り組みを実施している。
NPO法人あかし福祉士ネットワーク 事務局長
兵庫県社会福祉士会東播ブロック 理事長
公式株式会社FAMORE