家族が認知症を発症すると、歩き回り(徘徊)の対応で24時間誰かが見守っていないといけなくなったり、うっかり火事を起こしたりしないように火の元の管理が必要となります。
そして、金銭的な面で大変なのが、認知症発症による銀行口座の凍結です。凍結されるとどんなことが起きるのか、その解決法には何があるか解説します。
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認知症になると口座が凍結される。その理由
認知症は病名ではなく、認識する力や記憶力、判断する力に障害が起きている状態を示す総称です。
認知症にはいくつかの種類がありますが、代表的なものが「アルツハイマー型認知症」で、全体の6割を占めると言われています。
よく知っているはずの物や人の名前が出てこないとか、昨日の夕食が思い出せないといった物忘れや、何かを取りに行って、その何かをとらずに帰ってくるといったうっかりは加齢による自然現象で、認知症ではありません。
認知症の場合はその事象についての記憶がスポンと抜け落ちてしまうのです。
例えば、あの人、よくTVで見るけど名前が思い出せない…これは物忘れ。認知症の場合は、「TVでよく見るあの人」ということ自体を忘れてしまいます。
また、夕飯に食べたものが思い出せないのではなく、夕飯を食べたこと自体を忘れてしまうのです。
このように、認知症になるとまるっと記憶が抜け落ちてしまうため、周りの状況を理解する、自分の意思を明確に判断して行動するということができなくなってしまいます。
そのため、認知症の発症が認められると、銀行は本人の財産を守る手段として「口座凍結」をします。
死亡時の口座凍結と認知症の場合は違う
口座名義人が死亡すると、銀行口座が凍結されるというのはご存知の方が多いかと思います。これは、相続協議中は不正が起きないよう、口座が利用できないようにするものです。
銀行口座が凍結される状況としては、下記のようにいくつかのケースが考えられます。
口座が凍結されるケース
- 親族が、取引のあった銀行に口座名義人の死亡を伝えて口座を凍結する。(一般的な凍結のケース)
- 葬儀の告知を見た銀行が、故人の口座を凍結するケース。(ごく稀にある)
- 認知症発症時に、死亡時と同様に家族が認知症について銀行に告知し、口座を凍結してもらう。
- 認知症を発症した口座名義人が、銀行に出向き、その際に銀行側が、口座名義人である本人が、意思決定能力が著しく欠け、いわゆる認知症と思しき状態になっているということに気がつき、口座を凍結するケース。
- 認知症になった本人の施設入所のために、家族が定期預金などを解約しようとして、本人と一緒に銀行へ出向き、認知症ということが判明して、凍結されるケース。
こうしたことが行われるのは、そもそも、認知症が疑われる口座名義人が、詐欺や横領などの犯罪や口座の不正使用に巻き込まれ、財産を失うのを防ぐという目的のためです。
口座が凍結されてしまうと、預金の引き出し、解約は一切できなくなります。
例え、口座名義人本人のために預金を利用することが明確、例えば介護費用の支払いや、施設入所のための契約金だとしても、です。
しかも、口座名義人との親族関係が明白、例えば、戸籍謄本やマイナンバーカードなどを提示して親子関係が書類上も明らかに分かるような場合でも一切引き出し、解約は認められません。
預金は口座名義人本人の財産。その財産は、例え親族、子どもであっても、本人の意思が確認できない以上、勝手にすることは一切認められないためです。
凍結された口座のお金を介護費用として使う方法
本人がお金を持っているのに、使えない状態というのは困りますよね。なんとか使う方法はないのでしょうか。
認知症で口座凍結されてしまった場合、「成年後見制度」を使うことで、本人の財産を介護に使うことができます。
成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が低下し、財産管理や契約ごとができず、悪徳商法などの被害で財産を失う恐れがある人を支援する制度です。
本人の判断能力の程度に応じ、後見と保佐と補助の3つに分かれた制度を使うことができます。
後見制度の手続きは家庭裁判所へ
成年後見制度を使うためには、家庭裁判所へ申立てが必要になります。
その後、家庭裁判所の調査官による調査、審理、成年後見人等の選任・審判、そして審判が確定すると法定後見の開始となります。
制度の利用開始までには、3~4カ月かかります。
なお、法定後見制度の利用後に、成年後見人等から請求があった場合には、報酬の支払が必要となります。このときの金額は、家庭裁判所の判断により決定されます。
また、この制度は判断能力が不十分となった人を守るための制度なので、本人の判断能力が回復したと認められない限り、制度の利用を途中でやめることはできません。
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立て替えた親の介護費用、相続で差し引いてもらえる?
本来、本人が支払うべき介護費用ですが、口座が凍結されてしまうと、支払いたくとも本人は支払えません。そのため、家族が肩代わりすることもありえます。
このとき支払った介護料は、「日々の生活でかかる費用」つまり生活費という扱い。
生活費は、家族であれば本人の代わりに支払って当然とみなされる費用になりますので、たとえ領収証などを全て保管していたとしても、相続のときにその額を差し引いてもらえるかかは明確ではありません。
遺産分割協議の場において、寄与分として認めてもらうべく、他の相続人に相談することはできますが、立て替えたと認めてもらえない可能性もあります。
ですから、介護費用はできるだけ本人の財産で賄うのが賢明です。
【FPが答える】認知症になった親の預金を引き出したい
認知症や介護の問題については、ナーバスだから話しにくいテーマではありますが、何も準備していないといざというときに大変です。
本人の判断能力が低下する前に家族でしっかり話し合っておくのがいいでしょう。もしものときは成年後見制度の利用を検討するなど、家族としても心構えや事前の情報収集が必要です。
イラスト:安里 南美・上原ゆかり
この記事の制作者
著者:株式会社回遊舎 酒井富士子(フィナンシャル・プランナー)
“金融”を専門とする編集・制作プロダクション。
お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで担う。近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」、「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点1 0」(株式会社ダイヤモンド社)など