世帯分離で生活保護の受給が認められるケースとは!?

介護費用を節約する方法の1つに、同居している家族と住民票の世帯を分ける「世帯分離」というものがあります。世帯分離をすることで、たくさんのメリットがある一方でデメリットも。そして、生活保護を受けることを目的とした世帯分離についても解説します。

【世帯分離と生活保護のポイント】
・世帯分離を行うことで「住民税非課税世帯」となるケースもあり、さまざまな優遇を受けられる。
・世帯分離を行うことで親が生活保護を受けられる可能性も。
・生活保護における「世帯分離」が認められるケースは、「世帯分離」を行わなければその世帯が「要保護世帯」となるとき

世帯分離とは?

高齢になって今までのような日常生活を送れなくなってきた親を心配して、今まで育ててくれた親への恩返しも含め同居を考える人もいるかと思います。

「親子三世代、和気あいあいとした日々を過ごせて楽しそう」「孫と過ごせるようになり親も嬉しいはず」など、メリットが多いように見えますが、現実はそう甘くはありません。例えば、親の収入が激減してしまい、生活費や医療費を子ども世帯が負担しなくてはならないケースがあります。

特に子育て世代にとっては、受験や進学など自分の子どものためにある程度のお金が必要となります。仮に住宅ローンもまだ完済していないとなると、その負担は大きく生活を圧迫していきます。

そのような状況の時、おすすめしたいのが「世帯分離」という方法です。

「世帯分離」と聞くと「親子の縁を切らなければならない」などと思われる人はいるかもしれませんが、そうではありません。

そもそも世帯とはどういう意味かご存知でしょうか。世帯とは「居住及び生計を共にする者の集まり、又は単独で居住し生計を維持する者」を意味します。

家族によって構成されることが一般的ですが、同居人など家族以外の構成員を含む場合や、就職や就学、単身赴任などのために家族と離れて暮らしている場合はその世帯から外れることもあります。1世帯ごとに住民票があります。

では、その世帯を分離するということはどういうことなのか。わかりやすく説明すると、1つの家に同居しながらも、住民票の世帯を2つ(親と子など)に分けることをいいます。

世帯分離の目的

世帯分離の主たる目的は、親世代の「負担軽減」です。

例えば、現役で働いている子ども世代と、年金生活の親世代が一緒に暮らしている場合、親が住民税非課税であったとしても、子どもが課税者であれば、親も課税世帯の一員となります。世帯分離をすることで親世代が「非課税世帯」になれば、医療や介護の軽減制度が利用できるようになります。

ここでは介護費用がどういった制度や仕組みで軽減されるのか、そのメリットとデメリットについて解説します。すべての方が軽減されるわけではないので、ご注意ください。

世帯分離のメリット

メリット①  自己負担額の上限が下がる場合がある

たとえ1割負担であったとしても、多くのサービスを利用すると自己負担額は膨らんでしまうもの。その際、適用できるのが「高額介護サービス費制度」です。

高額介護サービス費制度とは、1ヶ月の介護費用が高額になった場合、自己負担額の上限を超えた分の金額を払い戻しできる制度のこと。自己負担額の上限は世帯所得によって異なります。上限額には5つの区分があり、所得が少ない方ほど上限が低額で設定されています。

課税者の子ども世代と同居している非課税の親世代が、子ども世代と世帯分離をすることで非課税世帯となるため、高額介護サービス費の利用者負担限度額が下がり、結果的に自己負担を抑えることができます。なお、住宅改修や特定福祉用具購入費、施設サービスなどの食費・部屋代等は対象外となります。

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メリット② 介護保険施設の居住費と食費が軽減される場合がある

介護保険施設を利用している場合、居住費・食費を軽減できる「負担限度額認定制度」があります。この制度は所得が低く(非課税世帯)かつ資産が一定以下の方が対象です。介護施設であれば、入居だけではなくショートステイを利用する際も軽減措置の対象となります。

所得に応じて「利用者負担段階」があり、その段階に従って月額の料金は変動します。課税者の子ども世代と同居している非課税の親世代が、子ども世代と世帯分離することによって、非課税世帯となり、預貯金等の要件にも当てはまれば自己負担額を軽減できます。

対象となる施設サービスは、特別養護老人ホーム、介護老人保険施設、介護療養型医療施設、介護医療院です。

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メリット③ 後期高齢者医療制度の保険料が軽減される場合がある

後期高齢者医療制度とは、75歳(一定の障害がある人は65歳)以上の高齢者の医療費を負担する医療制度のこと。

保険料は、基本的には被保険者の所得によって決まりますが、課税者である子どもが世帯主になっている場合、子どもの所得によって親世代の保険料が軽減されないことがあります。世帯分離することによって、親世代の所得のみで軽減の算定が行われ、保険料が軽減される場合があります。

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メリット④ 国民健康保険料の納付額が減る場合がある

国民健康保険に加入している場合、納付額は前年の所得によって計算されます。子ども世代も親世代も同じ国民健康保険に加入している場合、世帯分離によって親世代の国民健康保険料が軽減される可能性があります。

ただし、反対に世帯分離によって子ども世代と親世代の国民健康保険料の総額が増えるケースもあるので、注意が必要です。

世帯分離のデメリット

デメリット①  国民健康保険料の納付額が増える場合がある

前述したように、世帯分離をすることで国民健康保険料の納付額が増えるケースもあります。世帯が別になると、それぞれの世帯主が国民健康保険料を支払わなければいけません。2つの世帯を合算すると、1人で支払っていた場合に比べて高額になることがあるのです。

デメリット② 介護保険サービスの費用を世帯合算できない

世帯分離前は1世帯で2人以上要介護の方がいた場合、合算した介護保険サービス費用で限度額より超過した分の払い戻しを受けられます。しかし、世帯分離によって1世帯に1人の要介護者になった場合は、介護費用は合算できず、個人では限度額内に収まるといったケースでは割高になることもあります。

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デメリット③ 健康保険の被扶養者から外れる場合がある

75歳未満の親世代が子どもの社会保険の扶養家族になる場合、国民健康保険料が75歳まで不要になります。同一世帯であれば、生計同一と認められますが、世帯分離をすることで生計が別とみなされ、別居と同様に扱われます。

そのため、社会保険の扶養家族として認定してもらうためには、親世代の収入を超える仕送りを子どもから受けているという事実確認が必要となり、同居であっても扶養には入れない場合があります。

デメリット④ 扶養手当が支給されない

子ども世代が同居の親を扶養しているということで、会社から扶養手当をもらっている場合で、扶養の要件が「同一世帯」であれば、世帯分離をすることで子どもが扶養手当を受けられなくなる可能性があります。

このように、世帯分離をすることのメリットとデメリットは、多岐にわたるためご自分のケースと照らし合わせて慎重に検討してください。

生活保護

前置きとして、生活保護は住民票ではなく、生活の実態で判断されます。そのため、ここでの「世帯分離」は、生活保護の「世帯認定から外れること」を意味します。

世帯分離を行うことで子ども世代が要保護対象から外れ、親のみが生活保護を受けられる可能性があります。

生活保護とは、あらゆる理由で生活に困窮している方々の生活を支える制度のことです。

受給するための条件として所得(年収)に具体的な基準額が設定されていないものの、「最低限の生活を維持するための所得があるかどうか」ということが重要視されます。その生活保護の認定を受けるのは、個人単位ではなく世帯単位であり、最低生活費より収入の方が高ければ生活保護は受けられません。

しかし、世帯分離が認められ、なおかつ収入の方が低ければ、例外的に世帯の一部を同居家族と分けて生活保護が適用されます。ただし、国としてもそのような要望をすべて認めてしまっては、自立できない人を増やしてしまうので、安易に申請してもケースごとに厳しく審査されます。

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生活保護の受給を目的とした世帯分離

では、認められる場合と認められない場合のどこが違うのか、過去の事例を比べながら確認していきましょう。

世帯分離が認められるケース①(家族構成:父親・母親・息子・息子の妻)

高齢の両親と同居しているが、父親が疾患により倒れてしまい介護が必要になってしまった。
老人ホームに父親を任せることを決断したが、その費用を支払うことで『要保護世帯』に。

この場合、父親の入居費用については生活保護の利用が必要ですが、母親、息子、息子の妻に関しては利用する必要がありません。

その際に世帯分離を利用することで「父親」と「母親、息子、息子の妻」で世帯を分けることができ、父親のみが生活保護を受けることになり、3人は生活保護対象から外れることができます。

生活保護を受けると、所有できる資産などに一定の制限がかかりますが、世帯分離をすることで、母親、息子、息子の妻は制限を受けずに済むのです。

世帯分離が認められるケース②(家族構成:父親・母親・息子)

病気で介護の必要がある母親を引き取ったが、そのために妻がパートを辞め、世帯の収入は激減。
自分たちの生活がままならなくなってしまった。

この場合、介護のために妻が仕事を辞めた事によって、夫の収入だけでは生活保護の月間基準額を下回ってしまいます。そこへ母親の医療費・介護費がかかり家計を圧迫しているので、経済的負担が大きいと判断。世帯分離が認められ、一緒に住んでいても母親だけが生活保護の対象となりました。

世帯分離が認められないケース(家族構成:父親・母親・息子・息子の妻・その子ども)

同居している年金暮らしの母親が寝たきりに。
父親からも生活費の援助を頼まれていたが、住宅ローンの残高や子どもの教育費などもあり、自分たちの生活で手一杯でとても援助できない。

この場合、同居の子ども側からすれば、両親だけを世帯分離して受給してもらいたいと思いますが、これだけの条件では難しいといえます。

なぜなら、寝たきりになったといっても母親にはまだ年金という収入があり、父親にも収入があります。そして、子ども側にも住宅ローンを支払えるくらいの収入があるため、こういったケースでは生活保護の世帯分離が認められないケースが多いです。

このように生活保護における「世帯分離」が認められるケースは、「世帯分離」を行わなければその世帯が「要保護世帯」となるときです。

そもそも生活保護における「世帯分離」は、「世帯認定」から外れることを意味し、実態としての生計が分かれることを指します。生活保護の「世帯分離」は、社会保険料を節約するために住民票の世帯を分ける「世帯分離」とは、概念が異なるのです。

世帯分離の手続き

そんな世帯分離をするための手続きについて解説します。まずは役所の住民課または戸籍課へ行き「住民異動届」という書類を入手します。書類の項目を埋め、捺印をして提出すれば完了です。また本人確認書類や印鑑も必要です。

その他、手続きに必要なものは、自治体によって異なりますので事前に確認しておきましょう。

生活保護の手続き

生活保護を申請する際の窓口は、自宅の最寄りにある福祉事務所となります。

まずは、最寄りの福祉事務所に行き、窓口で生活保護を受けたい旨を伝えてください。そこで申請書を提出すると、1週間以内にケースワーカーから家庭訪問を受けます。それと同時進行で、扶養調査と金融機関への調査が行われます。

そして、家庭訪問の結果と金融機関への調査結果などを総合的に判断して、受給の可否が決定されます。

まとめ

これから介護を始める人にとって、お金に関する不安はなかなか消えないものです。今回、ご紹介した世帯分離をすると、一般的には介護費用を抑えられます。特に、介護度が重い方や介護施設を利用している方はメリットが大きいでしょう。

しかし十分な所得がある方にとっては不要なものであり、場合によっては負担が増えてしまうケースもあります。まずはメリット・デメリットの要点を押さえて、世帯分離を検討してください。

この記事の制作者

藪内祐子

監修者:藪内祐子(公的支出診断士)

元行政職員。18年間の勤務のうち、年金・健康保険・税金と8年間の経験を重ね、介護保険に関しては10年の相談支援を行う。退職後に設立した合同会社AYUMIサポートで、公的支出の適正化「賢約サポート事業」を創設。一般社団法人日本ライフマイスター協会理事を兼任。多くの企業での講演やセミナーを通じ、従業員の可処分所得を上げる福利厚生に貢献。著書に『元行政職員が語る 介護 知っておきたいお金のこと』がある。

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