【介護負担を減らす】民間介護保険加入のメリットと注意したいポイント

民間介護保険

介護サービスを支える公的介護保険は、度重なる改正によって自己負担が増え、今後ますます自助努力の必要性は高まってきます。

そこで今回は、介護の経済的負担を軽減する「民間介護保険」(以下、介護保険)についてご紹介しましょう。

注目の民間介護保険!その背景とは?

増え続ける要介護(要支援)認定者数の存在はもちろんのこと、私たちの平均寿命が延びて老後が長くなったこと。

心身ともに健康で活動的に暮らせる期間である「健康寿命」の考え方が広まったことで、介護はより身近な問題になりつつあります。

その一方で、高齢化や少子化、共働き世帯の増加、ライフスタイルの多様化など、私たちを取り巻く環境の変化によって、民間保険に求められる機能も「死亡保障」から長生きリスクに対応した「生きる保障」へとシフトチェンジしています。

それがいわゆる、医療保険やがん保険、就業不能保険、介護保険などに代表される「第三分野」の保険商品です。

とくに、2016年以降、「認知症」に特化した介護保険が立て続けに登場し、ヒット商品となったことで、保険業界における介護保険分野が大きな注目を集めるようになりました。

とはいえ、介護保険の加入者は、それほど増えているわけではありません。

生命保険文化センターの調査によると、民保加入世帯(かんぽ生命を除く)における介護保険・介護特約の世帯加入率は14.1%です(図表1参照)。

同調査の医療保険・医療特約の世帯加入率は88.5%ですから、それと比べるとかなり低い水準といえるでしょう。

おそらく、介護に対する根強い不安感はあるものの、周囲に要介護の人がおらず介護に対する具体的なイメージが持てない、死亡・医療保障に比べ介護保障の優先順位が低い、介護保険への認知度が低いなどが、介護保険加入率の延び悩みの原因とみられています。

【図表1】介護保険・介護特約の加入率(%)

世帯 世帯主 配偶者
平成30年 14.1 10.5 7.8
平成27年 15.3 11.8 7.9
平成24年 14.2 10.8 7.6
平成21年 13.7 11.1 6.2
平成18年 16.1 12.9 7.3
  • 民保(かんぽ生命を除く)に加入している世帯が対象です。
  • 寝たきりや認知症により要介護状態となり、その状態が一定期間継続したときに、一時金や年金などが受け取れる生命保険、あるいは特約が付加された生命保険であり、損害保険は含みません。

出所:生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査<速報版>」

表で比較|公的介護保険と民間介護保険のちがい

では、民間介護保険は公的介護保険とどのように違うのでしょうか?

主な違いは次の通りです(図表2参照)。

【図表2】公的介護保険と民間介護保険の比較

公的介護保険 民間介護保険
給付 現物支給 現金支給
給付額 要介護度に応じて 任意に自分で設定
加入 強制加入(40歳以上) 任意加入
給付の対象者

第1号被保険者(65歳以上)は要介護(要支援)度に応じて。
第2号被保険者(40歳以上、65歳未満)は特定疾病の方のみ

被保険者
保険料(設定・徴収法など)

第1号被保険者は市区町村ごと。
第2号被保険者は加入している公的医療保険の保険料と一括徴収

年齢・加入条件等に応じて
税制優遇 社会保険料控除(全額) 介護医療保険料控除(上限あり)
保険料支払い免除 なし 保険商品による
手続き先 各市区町村 保険会社等

民間介護保険加入のメリット・デメリット

民間介護保険に加入するメリット・デメリットをまとめてみました。

メリット

  • 介護の備えとして経済的な安心が得られる
  • 公的介護保険の対象者や対象疾患以外でも給付が受けられる
  • 介護費用以外に収入の補てんに充当できる

デメリット

  • 保険料負担がある
  • 要介護状態になっても必ず給付が受けられるとは限らない
  • 給付要件が「公的介護保険に連動型」の場合、公的介護保険が改正されると給付条件が変わってしまう可能性がある

まず最大のメリットは、経済的な安心感が得られる点でしょう。

すべての介護サービスが公的介護保険の対象となるわけではありません。要介護度等に応じて限度額が設けられていますので、それを超過した分(いわゆる上乗せサービス)は、基本的に全額自己負担です。

そして、要介護者を抱えるご家庭の多くで経済的負担を感じているのが、介護サービスにかかる自己負担分です。

朝日生命の「民間介護保険に対する意識」に関する調査によると、公的介護保険の介護サービス利用者が介護に関して金銭的負担が最も大きいと感じているのは、「自己負担額」となっています(図表3参照)。

一方のデメリットとしては、保障内容に応じた保険料が必要なことや、給付を受けるための条件を満たす必要があることです。

条件は保険会社によって異なりますが、それに合致しなければ、要介護状態となっても、給付金は一円ももらえません。

また、支給基準が公的介護保険に連動している商品の場合、今後法改正等で公的介護保険の内容が変わることで、保障内容が変更する可能性もあります。

【図表3】介護に関して金銭的負担が大きいと感じていること

介護に関して金銭的負担が大きいと感じていること

本当に入るべき?民間介護保険の必要性

一般的に、民間介護保険の加入者は、50代、60代などの子育てを終えた世代で、親や家族などの介護を経験し、「自分自身の介護が心配になったから」という人が多いようです。

また、男性よりも女性の方が長生きであることから、女性の方が加入への関心が高い傾向にあります。

民間介護保険の加入の是非に関しては、他の保障と同様に、まず、自分が加入している公的介護保険や公的医療保険でまかなえる範囲を確認することが先決です。

その上で、介護費用に充当できる預貯金が300~500万円ある人、公的年金が月額20万円以上(夫婦で40万円以上)ある人、介護のためのマンパワーが十分期待できる人などは、とくに民間介護保険に加入する必要性は低いといえるでしょう。

逆に、預貯金や公的年金が少ない。‘おひとりさま’などで介護をお願いできる身内が近くにいない。手厚い介護サービスを希望している等の人は、民間介護保険で準備しておかれることをお勧めします。

前掲の朝日生命の調査によると、公的介護保険の介護サービス利用者のうち「民間介護保険(特約)」に加入している方に、保険商品の満足度について伺うと、8割以上(「加入しておいてとても良かった」47.6%+「加入しておいて良かった」34.1%)が満足という結果になっています。

民間介護保険も他の保険商品と同様に、「絶対加入しなければならない!」というものではありません。

しかし、経済的担保があることで、安心して介護ができるという点は否めないでしょう。

12項目をチェック|加入する上でのポイントと注意点

では、もし民間介護保険に加入する場合、商品を選ぶポイントとしては、次のような内容が挙げられます。

  • 1.「貯蓄型」と「掛け捨て型」のどちらを選ぶか
  • 2.給付金の受取りは「一時金タイプ」「年金タイプ」「一時金・年金併用タイプ」のいずれを選ぶか
  • 3.保障期間は「終身型」と「有期型(定期型)」のどちらを選ぶか
  • 4.給付要件は「公的介護保険連動型」と「独自基準型」のどちらを選ぶか
  • 5.保険金額をいくらに設定するか
  • 6.どのような特約を付帯するか
  • 7.保険料と給付のバランスが取れているか
  • 8.約款や給付内容がわかりやすいか
  • 9.現在の介護や医療の現状に対応しているか
  • 10.保険会社の支払い余力や健全性はどうか
  • 11.担当者・窓口のアドバイスは適切か
  • 12.保険加入後のフォローやサービスの対応は適切か

このうち1~9までは「保険商品」に関するものですが、10は「保険会社」、11~12は「担当者・窓口」に関するものです。

多くの人は、保険商品にばかり目がいきがちですが、保険は長期に渡って契約するもの。とくに、介護保険の場合、契約者本人の健康状態によっては、家族などが給付請求をする場合も考えられます。

保険会社の安全性や接する機会の多い担当者等の対応についても併せて確認しておきましょう。

民間介護保険に関わらず、保険選びは、「保険商品」「保険会社」「担当者・窓口」の3つのバランスが取れているかで判断することが重要です。

まとめ

メットライフ生命が全国20歳~79歳の男女を対象に行った「老後」に関する調査によると、老後に対する不安要因として、いずれの年代でも「お金」「健康」「認知症」「自らの介護」を上位に挙げていることがわかりました。

とくに、特徴的だったのが、20代では「健康」や「両親の介護」よりも、「認知症」や「自らの介護」への不安度が高いという点です。

一般的に、老後に対する不安は、年代があがるごとに上昇していくものですが、「人生100歳時代」に向けて、早くから、自分の将来の病気や介護に不安を感じる若年層が増えていることのあらわれなのかもしれません。

介護にかかわらず、病気や死亡などのリスクに備える場合、すぐに保険を思い浮かべる人が多いのですが、保険も万能でありません。

メリット・デメリットを理解し、必要な期間、必要な分だけ掛けるというのが大前提です。

著:黒田 尚子

イラスト:上原 ゆかり

この記事の制作者

黒田 尚子

著者:黒田 尚子(ファイナンシャル・プランナー)

CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
1998年FPとして独立。2009年末に乳がんに告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)などがある。

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