年金繰り下げ受給のメリットと注意点!得をするのはどんな人?

年金繰り下げ受給とは、65歳からもらう年金を1年以上繰り下げて受給することで1ヶ月あたりの受給額を増やす制度のことです。今まで繰り下げ年齢は70歳まででしたが、2022年4月からは75歳まで延ばせるようになりました。

ここでは、繰り下げ受給で得をする人・しない人、申請方法、65歳以降も収入がある場合の注意点について、わかりやすく解説します。

この記事の制作者

笠原 洋子

著者:笠原 洋子(2級ファイナンシャルプランニング技能士)

川崎市在住。神奈川県内の私立中学・高等学校で15年間保健体育と家庭科の教職に就き、生徒への金銭教育の必要性を感じFP資格を取得。銀行での営業職を経て旧共済年金の厚生年金への一元化や年金に関するテーマのセミナー講師業を立ち上げました。
趣味は温泉。特に「にごり湯」が好きで箱根によく出かけます。また猫が大好きで岩合光昭さんの写真展に必ず行きます。

年金繰り下げにより毎月の受給額が上がる

年金受給には「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」があります。

繰り上げ受給とは、60歳~65歳になる前に年金を受け取ること。繰り下げ受給とは、65歳以後から70歳まで遅らせて受け取ることができる制度を指します。

繰り下げ受給のメリットは手続きをした翌月から、受け取る年金が1ヶ月ごとに0.7%ずつ増えることです。

今後は受給開始年齢を60歳から75歳の間で選択することができます。平均寿命の伸びや働き方の多様化により、「働けるうちは働きたい」「少しでも増額した年金を受け取りたい」と思う人に選択の幅が広がりました。

【Point!】75歳まで繰り下げできるのはどんな人?

今回の制度改正の対象は、2022年4月1日以降に70歳に到達する人(昭和27年4月2日以降に生まれた人)となります。

繰り下げでもらえる年金はこう変化する

では実際に受け取る年金額がいくらになるのか、具体例にみていきます。

例)65歳から受給すると年間265万円を受け取れる夫婦の場合

夫:65歳(元会社員)老齢厚生年金:月9万円 老齢基礎年金:月6.5万円     
妻:65歳(専業主婦)老齢基礎年金:月6.5万円
合計:月22万円(※)

(※)令和2年度の平均的な厚生年金額を基に算出

60歳で受け取った場合
(30%減額)
65歳で受け取った場合 70歳で受け取った場合
(48%増額)
老齢厚生 月6.3万円 老齢厚生 月9万円 老齢厚生 月13.3万円
老齢基礎 月4.5万円 老齢基礎 月6.5万円 老齢基礎 月9.6万円
老齢基礎 月4.5万円 老齢基礎 月6.5万円 老齢基礎 月9.6万円
合計 年 183.6万円 年 265万円 年 390万円
月 15.3万円 月 22万円 月 32.5万円

このように、65歳と比べ70歳から受給すると48%の増額。金額にすると125万円上乗せした年金を受け取ることができます。逆に60歳など受給開始年齢を早めると減額されるしくみです。

ご自身の年金見込額を知りたいときは「ねんきんネット」の年金見込額試算や、年金事務所で算出してもらうこともできます。

  • 上記表はあくまで計算上(額面上)の数字で、手取り額ではありません。
  • 税金(所得税・住民税)と社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)を差し引いていません。
  • なお住民税額と国民健康保険料・介護保険料は年金額やお住まいの自治体により異なるため計算に入っていません。また、加給年金額は含まれていません。

繰り下げできる年金・できない年金・繰り下げしても増えない年金

年金には「老齢」・「障害」・「遺族」の三種類があり、その種類によって繰り下げできるものとそうでないものがあります。それぞれの種別について解説していきます。

繰り下げできる年金:老齢基礎年金・老齢厚生年金

老齢年金

65歳など一定の年齢になった時に受け取る年金を「老齢年金」といいます。老齢年金には、国民年金から支給される老齢基礎年金と厚生年金から支給される老齢厚生年金があります。

両方とも同時に、またはどちらか一方だけの繰り下げ手続きができます。また、厚生年金基金や企業年金連合会から年金を受け取っている場合は、あわせて繰り下げとなりますので、支払先の基金に連絡が必要です。

繰り下げできない年金:遺族年金・障害年金

遺族年金

亡くなった人の配偶者や子に支給される年金です。子が受給する際は一定の条件があります。

障害年金

病気やケガにより仕事や生活に支障や制限がでるような状態になった場合に受給できる年金です。

繰り下げしても増えない年金:加給年金

加給年金

そもそも繰り下げ自体ができない人は、65歳の時点で障害年金や遺族年金を受給している人です。

加給年金は、年金における「家族手当」のような制度のことです。厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、65歳未満の配偶者や一定の年齢の子どもがいるときに加算されるものです。年額約39万円で、加給年金を受け取るには厚生年金の受給が必須です。

ここまで繰り下げできる年金について解説しました。次に繰り下げ受給のメリットについて解説します。
 

繰り下げのメリット・デメリット

年金繰り下げにはメリットだけではありません。デメリットもあるので、よく理解した上で慎重に判断しましょう。

メリット

増額した年金を受け取ることができ、長生きするほど受給総額も多くなる。

デメリット

1.年金額が増えると、税金(所得税・住民税)と社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)も増えるため、手取り額が思ったほど増えない。

2.夫婦の年齢差によっては、年下の妻がいる夫が受け取る「加給年金」が受け取れない期間が生じる。

年金繰り下げが得になる人・ならない人

年金繰り下げが得になる人とならない人について、具体的なケースで解説します。

【ケース1】夫婦単位で考えた場合

会社員の夫(厚生年金加入)と専業主婦の妻(第3号被保険者)の世帯の受給額は月額約22万円です。「夫婦単位」で考えるときに注意したいのが、夫婦の年齢差です。

例えば、妻が5歳年下であれば、夫が65歳から年金を受け取り始めると70歳までの5年間に合計約195万円の加給年金が加算できます。しかし、夫が受給年齢を70歳まで繰り下げしてしまうと、この約195万円が受け取れなくなってしまうのです。

この夫婦の場合、夫は65歳から厚生年金を受け取り、基礎年金だけを繰り下げるとよいでしょう。そうすることで加給年金も受け取ることができ、基礎年金を繰り下げることで受給額も増額されます。

【ケース2】妻が年上の場合

夫に加給年金が加算されるときに、妻がすでに65歳以上で老齢基礎年金を受け取っているというご夫婦もいらっしゃいます。

この場合、日本年金機構から「手続きのお知らせ(ハガキ)」が届きます。このハガキと必要な書類を一緒に年金事務所へ提出すると、妻に「振替加算」が支給され、この振替加算は妻自身の老齢基礎年金になります。

遺族年金を受給するようになっても、離婚したとしても振替加算がなくなることはありません(※)。振替加算の金額は妻の生年月日によって異なります。
(※)離婚時の年金分割した場合を除く。

夫に加算される加給年金に比べると金額は少ないのですが、妻の長い老後を考えると貴重な年金といえるでしょう。

【Point!】妻に振替加算がつかないケースもある

妻の厚生年金(旧共済年金加入期間も含む)が20年以上ある場合は振替加算がつきません。ただし、妻が20年以上厚生年金に加入していても、その厚生年金を受給する前までなら夫の加給年金はもらえます。また妻が失業給付(基本手当)を受けていて、65歳を超えて働く在職老齢年金が全額停止中であれば、夫に加給年金がでます。

【ケース3】単身者の場合

シングル生活の人や、離婚や死別により一人で生活している人。あるいは非正規雇用期間が長く年金保険料が少ない人は、年金受給額が少ない傾向にあります。

年金の受給時期を繰り下げて、65歳以降も社会保険に加入しながら働くことで生活費を賄いながら、老後資金を確保することも考えましょう。

【ケース4】65歳以降も働く場合の年金繰り下げ

70歳未満の人が厚生年金に加入しながら働いている場合は、老齢厚生年金の額と給料やボーナスの額に応じて年金の一部または全額が支給停止になります。これを在職老齢年金といい、令和2年度の基準額は47万円です。

在職老齢年金による支給停止額は繰り下げ支給の対象にはなりません。老齢基礎年金は全額支給されます。これらの条件を考えながら繰り下げを考えましょう。
 

繰り下げの手続きについて

ここでは、繰り下げ受給の具体的な手続きについて解説します。

65歳より前に「特別支給の老齢厚生年金」をもらっていた人

それまで受け取っていた「特別支給の老齢厚生年金」に変わり、本来支給の「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」になります。65歳到達時に「年金請求書(65歳)ハガキ」が自宅に届きます。これを返送しないと自動的に「繰り下げ」となります。

老齢基礎年金または老齢厚生年金のどちらか一方の「繰り下げ支給」を希望する場合は、ハガキの所定欄に〇印をつけて返送します。老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰り下げる人はハガキの返送は不要です。

誤って〇印をつけてしまい年金が支給されなかったときは、その旨を年金事務所に連絡する必要があります。

また、ハガキの返送では不安があるという人や、年金額をはっきり知りたい人は年金事務所で確認しましょう。または街角の年金相談センター窓口に行かれることをお勧めします。

国民年金のみ加入の人・厚生年金加入期間が1年未満の人・特別支給の老齢厚生年金未請求の人

国民年金の人は65歳の3ヶ月前頃に厚生年金の人は受給が始まる年齢の3ヶ月前頃に日本年金機構から住所や氏名などが印字された「年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」が届きます。「緑色」の封筒です。

この「年金請求書」と「老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ申出書」を同時に提出します。

持参するもの

年金事務所や窓口を訪問する際は、手続きをする人の基礎年金番号がわかる「年金手帳」と「本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)」を忘れずに持参しましょう。受給者本人ではなくご家族が訪問する場合は「委任状」も必要です。

現在、窓口での相談・手続きは予約制のところが増えています。受付時間も事前に確認してから行くようにしましょう。

【Point!】街角の年金相談センターについて

日本年金機構の委託をうけ、全国社会保険労務士連合会が運営している機関です。

全国に80ヶ所あり、年金の請求手続きや年金加入記録の確認、年金額の試算など年金受給に関するさまざまな相談・手続ができるところです。

ただし、電話による相談は受け付けていません。予約のうえ訪問しましょう

まとめ

繰り下げ受給を選択しても、「思ったほど増えなかった」ということもあります。また、繰り下げをしても年金の受給開始まで生活できる資産があるのか。ライフスタイルや、ご自身・配偶者の健康状態を考慮した選択であるのかを慎重に判断しましょう。

「自分では判断がつかない、専門家に相談したい」と思ったら、お金の専門家であるFP(ファイナンシャルプランナー)に相談してみてください。年金だけではなく、相続や不動産問題、資産運用など相談者に寄り添った方法がきっと見つかります。

FPに相談したいときは日本FP協会(https://www.jafp.or.jp)の「FPに相談しよう」「相談できるFPを探す」を参考にしてください。

また、「○○市 FP」でネット検索すると、お住まいの近くにいるFP資格者がわかります。ぜひ、活用してみてください。
 

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