年金繰下げ受給とは?得する人やデメリット、計算・手続き方法も

年金の繰下げ受給は、年金受給の開始時期を遅らせることで1ヶ月あたりの受給額が増額する制度です。受給額の増額という大きなメリットがある一方で、デメリットもあります。

得する人・しない人も明確に分かれるので、吟味して判断しましょう。

年金繰下げ受給とは?

年金の繰下げ受給とは、年金受給の時期を任意のタイミングまで遅らせられる制度です。

繰下げた期間に応じて、増額した年金を受け取れます。受給開始年齢は66歳〜75歳の間で選択が可能です。この制度によって「働けるうちは働いて、リタイア後に少しでも増額した年金を受け取りたい」など、選択の幅が広がりました。

関連記事国民年金とは|免除・追納・独自制度

関連記事厚生年金とは?基礎から保険料、厚生年金基金まで

繰上げ受給とは

年金の繰上げ受給とは、65歳より前に年金受給時期を早めることで、60歳まで受給開始時期の前倒しが可能です。早期に受給する分、請求時期に応じて1ヵ月あたりの受給額は減額されます。減額率の変更も生涯ありません。

繰下げ加算額の計算方法

増額率(%)=0.7(%)×65歳に達した月~繰下げ申出月の前月 までの月数

参照:日本年金機構「繰下げ加算額」

繰下げによって受給額がいくら増えるかを知るには、増額率を計算します。

たとえば、70歳ちょうどの月まで、5年間年金の受給を繰下げるとしましょう。65歳に達した月~繰下げ申出月の前月までの月数は60ヵ月になり、増額率は0.7(%)×60(ヵ月)=42(%)です。増額率×受給額で計算すれば、繰下げ加算額がわかります。

繰下げ増額率の早見表

請求時
の年齢
0ヶ月 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月
66歳 8.4% 9.1% 9.8% 10.5% 11.2% 11.9% 12.6% 13.3% 14.0% 14.7% 15.4% 16.1%
67歳 16.8% 17.5% 18.2% 18.9% 19.6% 20.3% 21.0% 21.7% 22.4% 23.1% 23.8% 24.5%
68歳 25.2% 25.9% 26.6% 27.3% 28.0% 28.7% 29.4% 30.1% 30.8% 31.5% 32.2% 32.9%
69歳 33.6% 34.3% 35.0% 35.7% 36.4% 37.1% 37.8% 38.5% 39.2% 39.9% 40.6% 41.3%
70歳 42.0% 42.7% 43.4% 44.1% 44.8% 45.5% 46.2% 46.9% 47.6% 48.3% 49.0% 49.7%
71歳 50.4% 51.1% 51.8% 52.5% 53.2% 53.9% 54.6% 55.3% 56.0% 56.7% 57.4% 58.1%
72歳 58.8% 59.5% 60.2% 60.9% 61.6% 62.3% 63.0% 63.7% 64.4% 65.1% 65.8% 66.5%
73歳 67.2% 67.9% 68.6% 69.3% 70.0% 70.7% 71.4% 72.1% 72.8% 73.5% 74.2% 74.9%
74歳 75.6% 76.3% 77.0% 77.7% 78.4% 79.1% 79.8% 80.5% 81.2% 81.9% 82.6% 83.3%
75歳 84.0%

参照:日本年金機構「繰下げ増額率早見表」

繰下げ増額率の計算が煩わしい場合は、早見表が便利です。繰下げを考えている年齢と月数に該当する増額率を確認しましょう。なお、増額率の上限は84%までです。

ただし、昭和27年4月1日以前に生まれた方は、最長でも70歳までしか繰下げられないため、増額率も最大42%になります。

年金繰下げのメリット

繰下げの最大のメリットは、増額した年金を受け取ることができ、長生きするほど受給総額が増える点です。

繰下げによる受給総額の増加例を、繰上げた場合、変更なしの場合と比較して下記にまとめました。仮に70歳まで受給時期を繰下げれば、夫婦分を合計した毎月の受給額は10万円以上増額します。

65歳から受給すると年間265万円を受け取れる夫婦の場合
60歳で受け取った場合
(30%減額)
65歳で受け取った場合 70歳で受け取った場合
(42%増額)
夫の老齢厚生 月6.3万円 月9万円 月13.3万円
夫の老齢基礎 月4.5万円 月6.5万円 月9.6万円
妻の老齢基礎 月4.5万円 月6.5万円 月9.6万円
合計(年) 183.6万円 265万円 390万円
合計(月) 15.3万円 22万円 32.5万円

夫:65歳(元会社員)老齢厚生年金:月9万円 老齢基礎年金:月6.5万円     
妻:65歳(専業主婦)老齢基礎年金:月6.5万円
合計:月22万円(※)

(※)令和2年度の平均的な厚生年金額を基に算出

  • 上記表はあくまで計算上(額面上)の数字で、手取り額ではありません。
  • 税金(所得税・住民税)と社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)を差し引いていません。
  • 住民税額と国民健康保険料・介護保険料は年金額やお住まいの自治体により異なるため計算に入っていません。また、加給年金額は含まれていません。

年金繰下げのデメリット

税金や保険料が上がる
加給年金を受け取れない可能性がある
受給総額が減少する可能性がある

年金の繰下げ受給にはメリットの一方、デメリットがあるのも事実。受給時期の繰下げは重要な決断なので、よく理解したうえで選択しましょう。

税金や保険料が上がる

年金の受給額が増えれば、所得税や住民税などの税金や国民健康保険料、介護保険料などの社会保険料も増額します。引かれる金額も大きくなるため、思っていたほどの収入にならないことも。

加給年金が受け取れない可能性がある

配偶者や子どもの年齢次第では、加給年金が受け取れなくなるケースもあります。被保険者の年金繰下げ期間中は加給年金は受給できません。

また、加給年金は配偶者の場合65歳、子どもの場合18歳に到達した時点で支給が終了します。配偶者や子どもの年齢と、繰下げ期間を考慮した上で判断しましょう。

加給年金とは

  • 厚生年金の被保険者期間が20年以上かつ、65歳時点で生計を担っている
  • 被保険者に65歳未満の配偶者または、18歳未満の子どもがいる

以上の条件を満たすことで受け取れる年金です。

受給総額が減少する可能性がある

繰下げ後に長生きできないと受給総額が減少する懸念も。たとえば、年金を繰下げなかった方と70歳まで繰下げた方が、72歳で亡くなると以下の金額差が出ます。受給開始時期と死亡時期次第では、繰下げなかった場合の半額しか受け取れない可能性もあります。

繰下げをしなかった場合 70歳まで繰下げた場合
生涯で受け取れる年金の総額 756万円 319万2000円

年金の繰下げで得する人

繰下げ期間中の生活費をまかなえる人
年金額が少ない人

65歳時点で受給できる年金額が少なかったり、年金以外で収入の見通しがあったりする場合は得する可能性が大きいでしょう。ご自身の状況と照らし合わせて検討してみてください。

繰下げ期間中の生活費をまかなえる人

繰下げ期間中は年金を受給できないため、生活費分の収入があるかが大きなポイントです。65歳以降も働く予定がある方などは、お給料で生活費をカバーできるでしょう。繰下げにより、受給開始時は増額した年金を受け取ることができます。

年金額が少ない人

年金額が年間で100万円前後など少ない場合は、繰下げで得をする可能性が大きくなります。繰下げで受給額が増額しても、非課税の範囲で収まったり、保険料の負担が少なかったりするでしょう。これは国民年金加入の自営業者やフリーランスの方も該当します。

年金の繰下げで得しない人

・繰下げ期間中の収入がない人
・年金額が多い人

繰下げの選択をするならば、期間内の生活費などをまかなえる収入があることが大前提です。十分な収入を確保できずに繰下げると、老後の資金を切り崩して生活することに。

また、そもそもの年金額が高額な人は繰下げるメリットが少ないです。年金受給額が増えても税金や社会保険料も増額し、負担が大きくなってしまいます。

繰下げられる年金

  • 老齢基礎年金
  • 老齢厚生年金

老齢年金とは、65歳など一定の年齢で受け取れる年金を指します。

老齢年金には、国民年金による「老齢基礎年金」と、厚生年金による「老齢厚生年金」の2種類があります。両方もしくは、どちらか一方の繰下げ手続きも可能です。厚生年金基金や企業年金連合会から年金を受け取っている場合は、同時に繰下げになるので支払先の基金に連絡が必要です。

繰下げられない年金

  • 遺族年金
  • 障害年金
  • 加給年金(増額しない)

遺族年金は、亡くなった被保険者の配偶者や子どもに支給されます。障害年金は、病気やケガで仕事や生活に支障がでた場合などに受給できる年金です。どちらの年金も繰下げはできません。

またデメリットの章で解説した通り、老齢年金の繰下げ期間中に加給年金は受給できません。老齢年金の受給開始後も、加給年金自体は増額しないので注意しましょう。

年金繰下げの手続き方法

65歳以前に特別支給の老齢厚生年金を受給している場合
上記以外のケース

年金の繰下げは、過去に特別支給の老齢厚生年金を受給したかどうかで手続き方法が異なります。いずれの場合も難しい手続きでないので、しっかりと把握しておきましょう。

65歳以前に特別支給の老齢厚生年金を受給している場合

65歳到達時に自宅に届く「年金請求書(65歳)ハガキ」を返送しなければ、自動的に老齢厚生年金の受給繰下げになります。老齢基礎年金または老齢厚生年金のどちらか一方の「繰下げ支給」を希望する場合は、ハガキの所定欄に〇印をつけて返送しましょう。

上記以外のケース

  • 国民年金のみ加入
  • 厚生年金加入期間が1年未満
  • 特別支給の老齢厚生年金を未請求

上述のいずれかに該当する場合は、年金請求書と老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ申出書を年金事務所や相談・手続き窓口に提出します。

年金請求書は所定の時期に緑色の封筒で届きます。老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ申出書は、日本年金機構のホームページなどでダウンロードすることができます。

年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)が届く時期

国民年金の方:65歳の3ヶ月前ごろ
厚生年金の方:受給開始年齢の3ヶ月前ごろ

年金繰下げ手続き時の注意点

  • 必要な持ち物を忘れずに持参する
  • 予約制の場合が多いので訪問前に確認する

年金相談・手続きの窓口は予約制の場合が多いため、事前の予約や受付時間を確認して訪問します。また「街角の年金相談センター」でも繰下げ手続きが可能です。駅の近くなど、アクセス良好な場所にあることが多いので利用しやすいでしょう。また、電話相談はできないので注意しましょう。

手続き時の持ち物

  • 年金手帳
  • 本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
  • 委任状(ご家族が訪問する場合)

介護費用は年金だけで足りる?

介護費用の平均額(月) 8.3万円

一時的な介護費用の平均額
(リフォームや介護用具の購入など)

74万円
年金の平均受給額

国民年金:約5.6万円
厚生年金:約14.6万円

出典:生命保険文化センター「令和3年度生命保険に関する全国実態調査」
出典:厚生労働省「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」

年金受給額は人それぞれ異なるため個人差はありますが、介護費用は年金だけでは余裕があるとは言い切れません。

毎月の介護費以外にも、自宅をバリアフリー化したり、必要な介護用品を揃えたりと一時的な出費も必要となります。もちろん介護費用だけでなく、生活費や万一の入院費なども考慮しておきたいところです。

また、要介護状態が進行した場合は施設入居を検討する方法もあります。介護サービスが受けられるほか、家賃や生活費、食費なども料金に組み込まれています。介護が始まる前は気持ちにも余裕があります。自宅周辺にある介護施設の価格などを調べておくと良いでしょう。

年金だけで介護費用は足りるのか

関連記事年金だけで介護費用は足りるのか

年金繰下げは、メリット・デメリットを十分踏まえて判断を

年金の繰下げにはメリットとデメリットがあり、得をするかどうかは人それぞれです。想定以上に税金や社会保険料が増額するなど、繰下げがおすすめできないケースもあるため、十分に吟味して判断しましょう。

また、老後の年金額や預貯金で介護費用を賄えるかも知っておきたいところです。要介護状態が進行した場合は、自宅での介護が難しく介護施設に入居する可能性もあります。自宅周辺の介護施設の費用を確認し、年金額や預貯金の切り崩しで入居できるか早めに確認しておくとよいでしょう。

「LIFULL 介護」では、月額15万円以下で入居できる施設情報も掲載しています。ぜひ活用してください。

イラスト:安里 南美

合わせて読みたい関連記事

この記事と関連するQ&A

すべてのQ&Aを見る

お役立ちガイド

介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅、その他介護施設や老人ホームなど、高齢者向けの施設・住宅情報を日本全国で延べ57,000件以上掲載するLIFULL 介護(ライフル介護)。メールや電話でお問い合わせができます(無料)。介護施設選びに役立つマニュアルや介護保険の解説など、介護の必要なご家族を抱えた方を応援する各種情報も満載です。
※HOME’S介護は、2017年4月1日にLIFULL 介護に名称変更しました。

情報セキュリティマネジメントシステム 株式会社LIFULL seniorは、情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格「ISO/IEC 27001」および国内規格「JIS Q 27001」の認証を取得しています。