車いすの種類や機能、選び方のポイントを理学療法士が解説
車いすが必要になったとき、自分に合った車いすをどうやって選べば良いのでしょうか。
車いすは種類が豊富になり、公的介護保険でレンタルできたり、デパートやホームセンターで安価な物が買えたりします。しかし、広く普及した一方で、体や用途に合わせた車いす選びの大切さはあまり知られていません。
ここでは、体の状態や用途に合った車いすとクッションの選び方、安全に使うために気をつけるポイントを解説します。
車いすの種類
車いすの6つの種類
車いすは、大きく分けて6つの種類があります。
- 1.標準タイプ
- 一般的な車いすです。
- 2.6輪タイプ
- 大きなタイヤが体の横にあるため、小回りが利く車いすです。前後に小さなタイヤが2つずつついていて段差を上り下りすることが難しいため、大きな段差がある場所や屋外で使うのには適していません。
- 3.電動タイプ
- 電動タイプの自走用は、筋力が弱くて手でこぐのが難しい場合に使います。介助用には、坂の上がり降りのときなどに介助者が押す力を補助してくれる、電動アシストタイプの車いすがあります。これは、電動アシストの自転車をイメージすると分かりやすいかも知れません。
- 4.リクライニングタイプ(リクライニング・ティルトタイプ)
- 背もたれを後ろに倒したり、車いす全体を後ろに傾けたりできるタイプです。
- 5.軽量タイプ
- 標準的な車いすが11~15kgあるのに対して、軽量タイプは8~11kgです。持ち運びが楽で、車のトランクへの積み込みも手軽になります。ただし、構造がシンプルで強度も弱いことが多く、長時間・長期間の使用には適しません。
- 6.携帯タイプ
- ワンタッチで広げたり畳んだりでき、新幹線やバスなどの狭い通路でも扱いやすくなっています。軽量タイプと同じく、長時間・長期間の使用には適しません。
車いすには「自走用」と「介助用」がある
これらの6つのタイプそれぞれに、自分で操作するための「自走用」と主に介助者が操作する「介助用」があります。
自走用の車いすは後ろのタイヤが大きく、ハンドリム(漕ぐときに手で触れる部分)がついています。介助用の車いすは後ろのタイヤが小さく、ハンドリムがないため車体の幅も小さいので、狭い場所でも使いやすくなっています。
車いすはどこで手に入る?
どれも福祉用具の販売店で購入することができますが、高価です。デパートやホームセンターでは安価な物も販売されていますが、体に合うとは限らないため注意が必要になります。
一般的には、入院中や介護施設の入所中でなければ公的介護保険を使ってレンタルすることが多いです。入院中や介護施設を利用している間は、その施設の備品を貸してもらえる場合があります。しかし、限られた備品の中からの貸し出しであるため、必ずしも体に合ったものになるとは限りません。
体の状態や用途に合わせた車いすの選び方
次に、体の状態や用途に合わせた車いすの選び方を表にまとめてみました
一般的な車いす | 標準タイプ(自走用/介助用) |
廊下の狭い自宅内で、小回りが利く物を使いたい | 6輪タイプ(自走用/介助用) |
筋力が弱くて手で漕ぐのが難しい | 電動タイプ(自走用) |
スロープや坂道での介助が大変 | 電動アシストタイプ(介助用) |
他の車いすでは座った姿勢を保つのが大変 疲れやすい。低血圧を起こしやすい |
リクライニングタイプ (リクライニング・ティルトタイプ) |
歩くことはできるが、買い物や病院受診など距離を歩くのは大変 | 軽量タイプ(自走用/介助用) 携帯タイプ(自走用/介助用) |
体格や体の状態に合わせて細かく調整したい | モジュラー式(自走用/介助用) |
このほか、車いすには洋服のS、M、Lのように体格に合わせていくつかのサイズが選べるようになっています。
「オプション機能」でさらに細かく調整できる
車いすには、さらに細かく体の状態や用途に合わせるための便利なオプション機能があります。代表的なものを紹介します。
1.フットレスト(足乗せ台)の位置を合わせる
フットレストの高さがあっていないと座面から膝が浮いたり、足が届かなかったりして姿勢が安定しません。背が高い、あるいは低くてフットレストの位置が合わないときは、足の長さに合わせてフットレストの高さを調整できます。
2.フットレストの折りたたむ、取り外す
車いすの乗り降りを介助する際、フットレストに足をぶつけてケガをしてしまうことがあります。これを防ぐために、フットレストを折りたたんだり取り外したりできる機能がついた車いすがあります。
3.アームレスト(ひじ掛け)の上げ下げ、跳ね上げ
車いすの乗り降りのときにお尻がしっかり上がらないと、アームレストにあたってしまい乗り降りできません。この場合は、アームレストを上げ下げしたり、後ろに跳ね上げたりできる機能がついた車いすを使うと乗り降りが楽になります。
4.デスク型のアームレスト
テーブルの高さによっては、アームレストがテーブルにぶつかって十分に体をテーブルに近づけられない場合があります。これを解消するため、アームレストの上部が短くなっているデスク型のアームレストという物もあります。
5.背もたれの張りの調整
円背や腰痛などがある場合、背もたれの形状が合わずに苦痛を感じることがあります。背もたれの張りを調整できる車いすを使うと、細かく体の状態に合わせることができます。
6.立ち上がり自動ブレーキ
認知症の方はブレーキのかけ方を覚えられないことがあります。この場合は、立ち上がると自動でブレーキがかかり転倒を防いでくれるタイプの車いす、あるいは後付けの装置を検討されると良いでしょう。
クッションの選び方
もう一つ、大事なポイントとなるクッションについて、解説します。
車いすは「移動」を目的に作られており、椅子のように「長く座る」のに適した作りにはなっていません。そのため、長く座る使い方をする場合には、体の状態に合ったクッションを選ぶことをお勧めします。
一般的なのはウレタンタイプのクッションですが、体の状態によってはより適したクッションがあります。下の表にまとめてみました。
体の状態 | クッションの種類 |
---|---|
自分でお尻を浮かせたりしてお尻にかかる圧力を分散させることができない | ジェルタイプ |
脊髄損傷で下半身の麻痺がある | ロホ・クッション (ジェルタイプよりも圧力の分散に優れたエアータイプのクッション) |
座っている姿勢が安定せずに体が左右に倒れやすい | 背もたれに取り付けて両サイドから体を支える背もたれ用のクッション |
安全に使うために気をつけるポイント
車いすを長く使うことにはリスクもあります。
体に合わない車いすを使っていると、姿勢が悪くなったり、腰痛や脚力の低下につながったりすることがあります。これを予防するには、体の状態や用途に合った車いす、クッションを選ぶことが大切です。
また、タイヤの空気が抜けたり、ブレーキの位置がずれたりすることで、ブレーキの利きが悪くなることがあります。転倒・転落につながる危険がありますので、業者さんに定期的なメンテナンスをお願いすると良いでしょう。
まとめ
体に合わない車いすを使っているために、座っている姿勢が苦しそうな方や、車いすを漕ぐのに苦労されている方を見かけます。また、車いすからベッドに乗り移る介助で、アームレストやフットレストが邪魔になって苦労されている介護者の方も見かけます。
体の状態や用途に合った車いすを選ぶことは、とても大切です。ここでご紹介した内容がヒントとなり、皆さんが少しでも楽に、そして安全に車いすをお使いただけることを願っています。
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この記事の制作者
著者:安藤 岳彦(介護老人保健施設ひまわりの里 リハビリテーション部長)
認定理学療法士(地域理学療法、健康増進・参加)、中級障がい者スポーツ指導員
1999年秋田大学医学部付属医療技術短期大学部理学療法学科を卒業。
医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院に勤務。介護老人保健施設ライフプラザ鶴巻、医療法人篠原湘南クリニッククローバーホスピタル、医療法人社団佑樹会・介護老人保健施設めぐみの里の開設を経て、現職。療養・生活に寄り添うリハビリ専門職として、日々の業務に従事しています。