質問

父が入居した老人ホームは身体機能の維持や向上に積極的です。車いすの入居者も歩く訓練をしているようですが、リハビリ中に転倒・骨折した方がいると聞きました。

もし父がそのようなことになったらと不安です。無理にリハビリを行うことはよいことでしょうか?家族にできることはありますか?

回答
武谷 美奈子

リハビリは無理に行うものではありませんし、そのために転倒・骨折しては元も子もありません。そんなことを耳にしたとあっては、任せているてご家族としても心配ですね。

リハビリの内容は、必ず本人・家族の同意のうえで決められます。施設の方針に疑問があれば、ケアプランに印鑑を押す前に、納得するまで確認しましょう。

ここでは、リハビリの本来の目的、計画が決まるまでの流れ、家族の役割などを解説します。リハビリを正しく活用し、ご本人の生活の質を高めるためにお役立てください。 武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

【目次】
  1. リハビリは入居者本人・家族の同意が必要
  2. 本人が意思表示できないときは家族が代弁する
  3.  QOLが向上しないリハビリ
  4. リハビリは安全な環境で行うことが最優先
  5. まとめ

リハビリは入居者本人・家族の同意が必要

介護施設でのリハビリは、機能訓練指導員が入居者の目標に沿って行われます。

ケアマネジャーや看護・介護スタッフ、生活相談員などと協働してケアプランを作成し、入居者本人・家族に説明し、同意のうえで行われます。また、定期的に、ケアプランが本人の状態に沿った適切なものであるかの評価を行い、必要があれば入居者本人・家族の同意のうえ目標、リハビリ内容、頻度などを変更していきます。

そのため、リハビリの最終意思決定入居者本人・家族側にあり同意がない内容のリハビリを行うことは、基本的にはありません。しかし、意思疎通がうまくいかず、入居者本人・家族側の本意ではない内容になることはあるかもしれません。

また、転倒のリスクが高いにも関わらず、入居者本人や家族からの強い要望で、施設側の本意ではない内容のリハビリを行なうこともあるかもしれません。しかしその場合は、「事故リスクが高いこと」「何かあった時には責任を持てないこと」をきちんと説明するべきで、安易に引き受ける施設はリスク管理が甘いと思われても仕方ありません。

どんな状況でも、施設で起こった事故は施設側が責任を問われることになります。

>老人ホーム入居後のトラブル|防ぐために必要なことは?



本人が意思表示できないときは家族が代弁する

リハビリは、痛みを伴う場合もあり、本人が嫌がることも少なくありません。しかし、リハビリに熱心な介護施設だと、多少つらくても「本人のためだから」リハビリを強要する場合があります。

また、本人が意思表示をうまくできず、そのまま我慢してリハビリを受けて不満を募らせ、場合によっては「ここから出たい」「家に帰りたい」という帰宅願望を強めてしまうこともあります。

このような時には、まず家族が本人の気持ちをしっかり聞きリハビリを嫌がる理由をはっきりさせて、それを施設側に伝えましょう。痛みが原因であれば痛みの少ない方法を工夫してもらったり、リハビリの頻度や内容を変えることで解決できる場合があります。

どうしても拒否が強い場合は、少しの間リハビリを止めて様子をみるなど、本人の気持ちに沿った方法を施設に伝えましょう。



 QOLが向上しないリハビリ

リハビリは、入居者本人のQOL(生活の質)向上のために行うもので、無理強いをしたら本来の目的から外れてしまうことになります。たとえADL(日常生活動作)向上のためであっても、強要するものではありません。

また、リハビリ内容はとても個別性の高いものです。例えば「車椅子である」という状態は同じでも、そうなった原因や疾患、病状の経緯などで歩けるようになるかの見込みは人それぞれ違いますし、そのタイミングにおける適切なリハビリがあります。

その個別性を表したのがケアプランです。施設のケアプランには、施設での生活に対する入居者本人・家族の意向が記入されています。

・施設でどのような生活を送りたいのか(長期目標)
・それを果たすためには何ができるようになればいいのか(短期目標)
・そのためにはどんなサービスを提供するのか(援助内容)

こういったことが含まれており、それに従ってリハビリは計画されています。
リハビリ内容が「本人や家族の意向と違う」と感じたときは、ケアプランの内容を確認すると良いでしょう。

>ケアプランとは?作成方法や注意すべき点


リハビリは安全な環境で行うことが最優先

上記で述べたように、リハビリはQOLの向上が目的なので、リハビリが原因でケガをしてQOLを下げてしまっては意味がありません。安全な環境で行うことは最優先事項です。

安全な環境とは、リハビリの場所や機器などの安全性はもちろんですが、本人の体調や気分も影響します。体調が悪かったり気分が落ち込んでいる時は、注意力も散漫になりがちです。そのような配慮や入居者に対する観察力、判断力も、施設側に求められます。

可能であれば、家族もリハビリの様子を見学してみましょう。「本人がつらそう」「安全性に疑問がある」などを感じたら、施設に改善を求めましょう。


まとめ

繰り返しになりますが、リハビリは無理をして行うものではありません。無理をすることで目的から遠ざかることがあるのも上で述べた通りです。

しかし、すべて入居者の言いなりになれば良いというわけでもありません。長期間リハビリを行なわなければ、ADL(日常生活動作)の低下につながります。

嫌がる原因を探し出し、リハビリに参加してもらう工夫を重ねることも施設側のやるべきことです。

ご家族はそのことを踏まえたうえで、リハビリの方針に疑問や不安があれば直接施設側に聞いてみましょう。施設に改善を求め、家族も本人のやる気を促すなどの協力しながら、リハビリ本来の目的を果たしていきたいものですね。

>リハビリ体制を備えた全国の施設

このQ&Aに回答した人

武谷 美奈子
武谷 美奈子(シニアライフ・コンサルタント)

学習院大学卒 福祉住環境コーディネーター 宅地建物取引士
これまで高齢者住宅の入居相談アドバイザーとして約20,000件以上の高齢者の住まい選びについての相談を受ける。 「高齢者住宅の選び方」「介護と仕事の両立」等介護全般をテーマとしたセミナーの講師をする傍ら、テレビ・新聞・雑誌などでコメンテーターとして活躍。 また日経BP社より共著にて「これで失敗しない!有料老人ホーム賢い選び方」を出版。