前頭側頭型認知症(ピック病)とは?|症状と経過、ケアのポイント

前頭側頭型認知症は脳の前頭葉や側頭葉が萎縮(いしゅく:縮んで小さくなる)することでさまざまな症状が現れる病気です。

ここではその症状や原因、どのような経過を辿るのか、治療やケアのポイントについて解説します。

前頭側頭型認知症とは

前頭葉、側頭葉の神経細胞にタンパク質が変化した塊が現れることから、前頭側頭型認知症と呼ばれています。

前頭側頭型認知症の症状で多いのは、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで理性的な行動ができなくなったり、言葉が出にくくなったりすることです。

物忘れや幻覚、妄想といった認知症に多い症状が中心ではないこと、患者さんご本人には自分が病気だという自覚がないことから、認知症の診断が遅れてしまうこともあります。

また、前頭側頭型認知症の患者さんは日本に約12,000人いると言われており、その多くは40〜60歳代と、認知症の中では比較的若い年齢で発症しています。

ピック病とは

前頭側頭型認知症にはさまざまな種類がありますが、ピック病もそのひとつです。

脳の神経細胞に「ピック球」というタンパク質が変性した塊が現れることから、ピック病と呼ばれています。現在ではピック病ではなく前頭側頭型認知症と診断されることのほうが多くなりました。

前頭側頭型認知症の症状と経過

脳の前頭葉は思考や人格、理性、感情に関わる部分です。また側頭葉は言語や記憶、聴覚を司ります。この部分が萎縮することで、人格や行動、言葉に変化がみられます。

<症状>

  • 自分本意な行動や万引きなどの反社会的な行動をとるようになる(脱抑制・反社会的行動)
  • 同じ行動や言葉を繰り返す(常同行動)
  • 無関心・自発性の低下
  • 共感や感情移入ができなくなる
  • 食事や嗜好の変化
  • 目標を立て、それを達成するために計画を立てて行動することができない(遂行機能障害)
  • 言葉がでにくくなる(失語症状)

これ以外にも、身体が振るえたり動作がゆっくりになったりする「パーキンソン症状」や、筋力が低下したり体がつっぱったりする「運動ニューロン症状」が現れることがあります。

経過
前頭側頭型認知症を発症してからの寿命は、平均して6〜9年と言われています。
初めの頃は人格変化や行動の異常が目立つことが多く、これらの症状は少しずつ進行していきます。しかし、無気力や無関心の症状が強くなり、行動の異常がみられなくなることもあります。
またパーキンソン症状や運動ニューロン症状は、誤嚥を繰り返したり、呼吸を司る筋肉が麻痺したりして、寿命に大きな影響を与えます。症状の現れ方は人それぞれ異なり、発症してすぐに出現する人もいれば、全く認めない人もいます。

前頭側頭型認知症の原因

最近の研究では、タウ蛋白、TDP-43、FUSと呼ばれるたんぱく質の性質が変化して蓄積されることで、前頭葉や側頭葉の萎縮が起こることがわかってきました。しかし、なぜそのような変化が起こるのか、今のところ明らかになっていません。

また、一部の前頭側頭型認知症の患者さんで遺伝子異常が認められ、遺伝することもわかりました。しかし、日本では遺伝性のものはほとんどみられません。

CTやMRIで脳の変性・萎縮を確認

前頭側頭型認知症が疑われる場合、まずCTやMRIを実施して、前頭側頭型認知症でみられる脳の萎縮が認められるかを確認します。

脳の血の巡りを調べる検査でも前頭葉や側頭葉前部の血流低下が確認できます。

治療は対処療法やケアが中心

現在、前頭側頭型認知症を根本的に治す治療法はありません。そのため、症状を緩和するための対症療法やケアが、治療の中心となります。

対処療法としては、抗うつ病薬の一部に行動異常を和らげる効果が認められています。

また、前頭側頭型認知症に特徴的な症状を理解して患者さんの環境を整えることで、トラブルを未然に防ぐことができます。ここからは前頭側頭型認知症の患者さんへのケアのポイントを解説します。

前頭側頭型認知症のケアのポイント

前頭側頭型認知症の患者さんは病気の影響で理性的な行動が取れなくなったり、人格が変わったりするため、介護をする家族は戸惑い、困惑することも多いでしょう。病気の特性を生かして先回りして対策することで、病気によるトラブルを減らすことができます。

同じ時間に、同じ行動をする
前頭側頭型認知症になると「常同行動」という症状が現れ、毎日同じ時間に同じ行動を取ることにこだわりを持つようになります。
こだわりを尊重したスケジュールを立てることで、患者さんがパニックを起こしたり、突然怒り出したりすることを防げます。
一度立てたスケジュールを毎日のルーチーンにするのも良いでしょう。患者さんの日常生活を乱さないように気を配りましょう。
周囲にあらかじめ声をかけておく
前頭側頭型認知症になると理性が働かなくなるために、人に暴力を振るってしまったり、万引きをしてしまったりすることがあります。
頻繁に会う人にはあらかじめ病気のことを説明しておきましょう。
またよく立ち寄るお店には、万引きしてしまったときのためにあらかじめ料金を支払っておけないかなど、事前に相談して対策を立てておくと安心です。
認知症ケアに慣れた施設を利用する
施設利用を検討している場合、グループホームなどの認知症ケアに特化している施設がおすすめです。
グループホームは認知症の人を対象とし、5〜9人の入居者が共同生活を送る施設です。定員数が少なく、他の施設に比べてきめ細やかなケアが可能です。
また、スタッフも認知症患者さんのケアに慣れている点も安心です。
他に、認知症対応型通所介護などもあります。ケアマネジャーに相談してみましょう。
グループホームとは

経済的な支援

前頭側頭型認知症は比較的若い人が発症します。働く世代でも発症するため、場合によってはこれまで得られていた収入が絶たれることもあります。経済的な支援を活用して、少しでも負担を減らしましょう。

指定難病の医療費助成
前頭側頭型認知症は、前頭側頭葉変性症という名前で指定難病に登録されています。そのため申請することで医療費の助成を受けることができます。所得に合わせて自己負担額の上限が設定され、超えた分は支払う必要がありません。
申請には主治医の診断書などが必要となるため、申請を検討する場合はかかりつけ医に相談しましょう。
介護保険サービスの利用
介護保険サービスは本来、65歳以上でなければ利用することができません。しかし、特定疾患として定められた病気によって介護となった場合は、条件を満たすことで40〜64歳でも利用することができます。
前頭側頭型認知症は「初老期における認知症」として特定疾患に含まれます。介護保険サービスの利用には要介護認定を受ける必要があるため、まずはお住まいの市区町村の担当部署に問い合わせてみましょう。

イラスト:坂田 優子

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この記事の制作者

矢込 香織

著者:矢込 香織(看護師/ライター)

大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。

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noteKaori Yagome*看護師

Twitter@KaoriYagome

伊東 大介

監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)

1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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