褥瘡とは?読み方や原因、初期症状や見分け方など網羅的に解説
褥瘡は一般的に「床ずれ」と呼ばれるもので、同じ部位が圧迫され続けることで起こります。発症を防ぐことが1番ですが、万一症状が現れた場合は状況に応じた適切な処置が必要。悪化すると手術が必要になるケースもあるため、予備知識は必須です。
褥瘡(じょくそう)とは?
褥瘡(じょくそう)とは、圧迫された部位の血流が悪くなった結果、酸素や栄養が行き届かずに皮膚や皮下組織、筋肉などが死んでしまうことです。一般的には「床ずれ」と呼ばれており、寝たきりの高齢者によく見られます。
主な症状は下記にまとめました。正しく予防しないと、数時間で兆候が現れることも。重症化すると治療のハードルが一気に高くなるため、予防や対策が肝心です。
褥瘡の主な症状
- 発赤(ほっせき):床と接している肌に赤みが出る
- 水疱(すいほう):皮膚の膜に水がたまる。いわゆる「水ぶくれ」
- びらん:皮膚の表層がはがれ落ちて下部組織が露出した状態
褥瘡の原因
褥瘡は皮膚の同じ部位への圧迫状態が続くことで起こります。圧迫部への血流が悪くなり、血液内の栄養や酸素が行き渡らなくなります。栄養が行き渡らない皮膚は破綻(はたん)し、びらんや出血が起こるのです。
他には「栄養状態が悪くやせている」「失禁や汗により皮膚の状態が悪い」場合にも褥瘡が起こりやすくなります。
褥瘡になりやすい人
褥瘡には大きく分けて「なりやすい人」の状態は3つ考えられます。褥瘡を予防するためには、こうした特徴を理解しておくことが重要です。
それぞれについて詳しく解説していきます。
健康状態が悪い
褥瘡の原因は、血液内の栄養や酸素が皮膚に行き渡らなくなることです。そのため、栄養が不足している人や過度に痩せている人は褥瘡になりやすい傾向に。
また、栄養不足になるとむくみが起こりやすくなります。むくみにより皮膚の細胞が破綻し、褥瘡のリスクが上がる可能性も。
健康状態が悪い人の具体例
- 過度に痩せている
- 浮腫(むく)みがある
皮膚の状態が悪い
褥瘡は皮膚トラブルなので、そもそも皮膚の状態が悪い場合はリスクが高くなります。
失禁などで湿気が多くなると、肌が過度の水分で膨張してふやけた状態に。皮膚がふやけると摩擦が起きやすく、肌への負担が大きくなるため、褥瘡が起きやすくなります。
また、乾燥にも注意が必要です。加齢に伴い肌の水分量が減少することで、摩擦による刺激への抵抗力が低下。褥瘡リスクも高くなります。
皮膚の状態が悪い人の特徴
- 失禁がある人
- 皮膚が乾燥している人
- ずれや摩擦が起きやすい人
適切な介護が受けられていない
介護者の知識不足が褥瘡の原因になることも。例えば、介護者の方が原因や対策が分からない場合は適切な予防が行われず褥瘡のリスクは高まります。
中には、一人暮らしで満足な介護を受けられないケースも。身近に介護が必要な方がいたり、適切な介護方法がわからなかったりする場合は施設利用を検討すると良いでしょう。
褥瘡になりやすい箇所
基本的に体重がかかりやすい箇所は褥瘡が起こりやすいです。注意すべき箇所がわかれば対策もしやすくなるため、適切に把握しましょう。
仙骨部(せんこつぶ)
仙骨部は最も褥瘡になりやすい箇所です。具体的には「お尻と腰の間の骨が出ている部分」で、仰向けで寝た際に体重の40%は仙骨にかかるといわれています。
肩甲骨部(けんこうこつぶ)
肩甲骨部も仰向けで寝た際に体重がかかる箇所のひとつです。体の向きを変えることで予防しやすい箇所ですが、寝たきりなど自分で体の向きを変えられない場合は注意が必要です。
大転子部(だいてんしぶ)
大転子部は、足と腰の付け根に位置する部位です。横向きの際に体重がかかりやすく、寝返りせずに同じ姿勢でいると褥瘡になりやすくなってしまいます。
踵骨部(しょうこつぶ)
いわゆるかかとも褥瘡が起きやすい箇所です。あお向けの際に体重がかかりやすく、仙骨部や大転子部ばかりに注意し「気づいたらかかとが赤くなっていた」ということもあります。
その他
その他にも、仰向けなら後頭部、肘関節部、横向きで寝ている場合は耳、くるぶしなど、皮膚と地面が接しやすい箇所は褥瘡になりやすい傾向にあります。
褥瘡の初期症状と見分け
褥瘡の初期症状で見られるのは、皮膚の圧迫によって起こる発赤(ほっせき)です。地面と接している部分に赤みが出ることをいいます。発赤は、一時的なものと持続的なものがあり、一時的なものは微細な血管の拡張によるもので、褥瘡ではありません。褥瘡となるのは持続的な発赤です。
この2つを見分ける方法は指押し法を用います。指押し法を試して褥瘡の可能性があるか確認してみましょう。指押し法は発赤部分を3秒間押す方法で、褥瘡でなければ押した部分が白く変化します。一方、褥瘡であれば押した部分は白く変化しません。
褥瘡の処置
ここからは、褥瘡の具体的な処置について解説していきます。方法は症状の度合いで異なり、改善のためには状況に合わせた適切な処置が必要です。
軽症の場合
1.洗浄する
2.軟膏を塗る
3.患部に圧力がかからないようにする
皮膚の赤くなった部分を指で押したときに、白くならずに赤いままであれば褥瘡です。このような軽症の褥瘡は、清潔にして潤った状況を保つことで、皮膚が再生するのを助けるケアを実施します。
指で押して白くなる皮膚の赤みは褥瘡ではありません。しかし褥瘡になりやすい状態ですので、こまめな体位変換などで圧力がかからないようにして、褥瘡を予防しましょう。
重症の場合
褥瘡が悪化し、壊死組織(死んでしまった組織)が見られる場合は、メスなどを使ってその部分を取り除く処置が行われます。
褥瘡部分が膿んでいるなど、感染が疑われる場合は抗生剤も使用されます。
その後のケアは、清潔と湿潤環境を保つなど軽症の場合と同様です。その後のケアだけでは回復が見込めないほど重症な場合は、手術を行って他の部位の皮膚などを移植する、再建術を実施することもあります。
褥瘡の予防方法
・毎日の観察を欠かさない |
褥瘡は発症させないための予防が大切。適切な予防策を取ることで、発症や悪化を防げる可能性が高まります。
毎日の観察を欠かさない
褥瘡が発生しそうな状況を早期に発見することで、いち早く予防ケアを実施することができます。
次にあげるような症状がみられたときには、主治医や訪問看護師などに報告しましょう。
要注意の症状やケース
- 皮膚が赤くなっていて、指で押しても赤みが引かない
- 水ぶくれができている
- ただれている
- 滲出液(しんしゅつえき)が見られる
- 皮膚が熱を持っている
異常を感じたらすぐに主治医や訪問看護師に相談する
家族が感じる「言葉にしづらいけれど、なんとなくいつもと違う」という感覚がトラブルを発見するきっかけとなることは少なくありません。異変を感じたら、主治医や訪問看護師などに相談しましょう。早めに対処すれば重症化の可能性も減ります。
体圧分散寝具を利用する
マットレスなどの体圧分散寝具を利用してかかる体重を分散することで、褥瘡を予防できます。
エアマットや、ウォーターマットレスなどは介護保険でレンタル可能。詳しく知りたい方は医師や看護師、担当のケアマネジャーに相談してください。
最近では車いす専用体圧分散クッションもあるため、車いす利用者の方は検討するのもおすすめ。
皮膚の清潔を保つ
上述の通り、褥瘡は皮膚が清潔に保たれていないことで起きます。汗、尿、便などが付着したままだと、皮膚のバリア機能が低下するため、1日1回は洗浄して水分を拭き取りましょう。乾燥を防ぐために保湿ケアを行うのもポイントです。
栄養が摂れるように工夫する
食事量が少ないと栄養不足になり、褥瘡ができやすくなります。食べやすい食事を準備する、口内の清潔を保つなど環境を整えましょう。
食事量が増やせない場合は栄養補助食品を使用する手もありますが、糖尿病など基礎疾患の有無でも変わります。主治医や訪問看護師と必ず相談しましょう。
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定期的な体位変換、正しい姿勢の保持を心がける
体の同じ部分に圧がかかり続けないように、定期的に体位を変えて正しい姿勢を保持します。
2時間ごとに行うことが理想ですが、在宅介護では難しいのも事実。自動で体位を換えてくれるマットレスもあるため、ケアマネジャーや訪問看護師など相談して導入を検討しましょう。
介護サービスを上手に利用する
褥瘡予防は重要ですが、介護する側にとって大きな負担になることも。家族の負担削減の意味でも、訪問介護や入所施設などを上手に利用しましょう。
また、上記の介護用ベッドやマットは要介護2以上でないと介護保険で借りられないため、早めにケアマネジャーや訪問看護師に相談しましょう。
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褥瘡は予防が重要。場合によっては施設利用も検討しよう
褥瘡は悪化すると治療が困難になるため予防が肝心です。記事内でも紹介したように、原因は様々ですが、介護力不足がきっかけになることも。介護サービスや施設を利用することで介護者の方の負担も軽減できるでしょう。
「LUFULL介護」では、全国38,000件以上の施設情報を掲載中。褥瘡でも入居相談ができる施設にフォーカスして紹介も行っています。施設利用を視野に入れている方は、ぜひ1度チェックしてください。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
監修者:桐生 有紀(医師)
日本形成外科学会専門医
日本美容皮膚科学会会員
日本美容外科学会会員
日本抗加齢医学会会員
国公立大学医学部卒業後、東京都済生会中央病院にて勤務ののち日本医科大学付属病院形成外科・美容外科、天現寺クリニック院長を経て、2018年より勝どき駅前皮ふ科クリニック院長を務める。クリニックではアトピー性皮ふ炎など保険診療のほか、プラセンタ注射やリフトアップといった保険外の美容診療まで幅広く診療している。