【知って予防】ロコモティブシンドロームとは?

体の動きを担う筋肉・骨・関節などの「運動器」に障害が起こり、立ったり歩いたりしづらくなった状態を「ロコモティブシンドローム」(略称:ロコモ 和名:運動器症候群)と呼びます。

2007年、日本整形外科学会によってこの概念が提唱されました。

ロコモティブシンドロームが進行すると、徐々に日常の活発さが失われ、ついには介護が必要な状態になります。

そうならないためにも、早いうちから運動器の機能が衰えないよう予防していくことが大切です。

このページでは、ロコモティブシンドロームの原因、効果的な予防法などについて説明していきます。
 

発生しやすい年齢

骨や筋肉は20~30歳代でその量のピークを迎え、その後も、適度な運動により刺激を与えたり、適切な栄養を摂ったりすることで、よい状態が維持されます。

50歳以降、ケガや病気、加齢による衰えがきっかけとなり、ロコモティブシンドロームが始まりやすくなります。

ただし、若い頃に適切な体作りをしておかないと、もっと早い30~40歳代のタイミングから体の衰えを感じやすくなり、ロコモティブシンドロームは発生しやすくなります。

原因

ロコモティブシンドロームは、以下のような原因から生じます。

加齢による筋力やバランス能力の低下

加齢によって全身の筋肉量や筋力は自然と低下します。これをサルコペニアと呼びます。

特に下半身を中心とした大きな筋肉の筋力が低下すると、移動機能が低下し、動くことが辛くなります。これが運動不足を引き起こし、さらに筋力が低下するという、負のスパイラルに陥ることは少なくありません。

また、加齢や日頃の運動不足によって、バランス能力や神経伝達反応の感度も低下します。

筋力とバランス能力の両方が低下することで、ロコモティブシンドロームになる可能性はより高くなります。

骨や関節、筋肉の病気

骨・関節・筋肉の病気によって移動機能が低下し、ロコモティブシンドロームに陥るケースもあります。特に以下は3大原因病といわれています。

骨粗鬆症
骨粗鬆症は骨密度が低下する病気で、骨がもろくなります。そのため、軽く転んだだけで骨折するリスクが高くなり、骨折した場合も治癒にも時間がかかります。安静にする期間が長引いて寝たきりとなるケースも少なくありません。
特に女性はもともと骨が弱い上に、閉経後に骨を守る女性ホルモンが減るため、かかりやすい病気です。
変形性関節症
加齢や体の歪み(O脚など)によって関節の軟骨がすり減ってしまい、特に股関節や膝関節に痛みを生じます。
立ったり歩いたりすると痛みが生じるので、動きたがらなくなり、不活発になりがちです。
変形性脊椎症
背骨(椎骨)の変形や、背骨と背骨の間が狭まり、背骨の間にある椎間板が固くなって飛び出す椎間板ヘルニアなどにより、神経が圧迫されやすくなります。
また、背中を貫いている脊柱の中には神経が通る管がありますが、さまざまな原因でその管が狭くなり、神経を圧迫することを脊柱管狭窄症といいます。

これらのため、背中を使う多くの動作で足腰に痛みや痺れをともない、動きたがらなくなります。

症状の進行

ロコモティブシンドロームでは以下のような段階を行き来しながら、身体状況が悪化する経過をたどることが多くあります。

1.筋力が衰える
・筋力低下→疲れる→動きたくない・動けない→不活動な習慣→筋力低下
・骨や関節の疾患→痛い・安静→動きたくない・動けない→不活動な習慣→筋力低下
このような負のスパイラルを繰り返して、体のいろいろな筋力が落ちたり、病気や事故で骨や関節に問題が生じたりします。
2.バランスが取りづらくなる、関節に痛みが出る
筋力が低下することなどで、バランスがとりづらくなったり、関節などに痛みが出たりします。また、運動不足が進行すると、関節を動かせる範囲(可動域)が狭まります。
3.歩きづらくなる、歩く機会が減る
痛みへの恐怖や、バランス能力低下による不安感、関節可動域が狭まることによる歩幅の縮小などにより、歩行等の移動がしづらくなり、歩くスピードも落ち、歩く機会も減ります。
外出を避け引きこもるようになり、生活や社会活動の範囲が狭まる傾向があります。
4.1人では歩けなくなる、寝たきりになる
屋内での移動も徐々に困難になると、転倒や病気に見舞われる恐れが高くなります。そのために、立ち上がりや歩行が1人では困難な状態、さらにはベッド周辺でしか生活できない寝たきりの状態になってしまう傾向があります。

ロコモティブシンドロームのセルフチェック

自分やご家族がロコモティブシンドロームかどうか、簡単にチェックしたい場合、下の項目に当てはまるかどうかをみてみましょう。

  • 片脚立ちで靴下がはけない
  • 家の中でつまずいたり、滑ったりする
  • 階段を上るのに手すりが必要
  • 掃除機を使ったり、布団を上げ下ろしするなど、やや重い家事をするのが難しい
  • 2kg(1リットルの牛乳パック2個)程度の買い物袋を歩いて持って帰るのが難しい
  • 15分間続けて歩くと激しく疲れてしまう
  • 横断歩道を青信号の時間で渡りきれない

1つでも当てはまったら、ロコモティブシンドロームの可能性があります。

予防するには?

日常で少しずつ体を動かすよう気をつけたり、適切なトレーニングをすれば、高齢者でも筋力を維持したり回復したりできます。

いまからでは遅いとあきらめずに、運動器の維持・回復に取り組んでみてはいかがでしょうか。

日常生活でできる予防の工夫

日常生活で、少しずつ体を動かす意識を持つことがロコモティブシンドロームの予防につながります。

高齢な方の場合は、下記のようにいつもの生活の中で、体を動かす場面の運動量を少しだけ増やして、毎日実践するよう心がけてはいかがでしょうか。

  • 歩幅を広くして、速歩きする。
  • エレベーターやエスカレーターではなく、階段を使う
  • 地域の体作りイベントに参加する
  • テレビを見ながらトレーニングやストレッチをする
  • いつもより少し遠くのお店まで歩いて買い物に行く
  • 近所の公園や運動施設を活用する
  • なるべく外出の機会を作る

※厚生労働省「アクティブガイド2013」より

特に高齢の方は、体を動かす時間を少しずつ増やしていき、体調が悪いときは無理をしないのが原則です。

やっていくうちに痛みが生じたり、様子がおかしい場合は、医師などの専門家に相談しましょう。

続ける工夫も大切

運動意欲はなかなか続かないものです。下記のような、楽しく続けられるような生活の工夫も、ロコモ予防には大切です。

ロコモ予防を楽しく続けるために…

  • 友人と一緒にサークルに入る
  • スポーツクラブや地域のイベントなどを利用する
  • 地域のラジオ体操に参加する
  • スマホなどのトレーニングアプリなどを利用してゲーム感覚で継続する

痛みがあっても動かすことが必要

膝や腰などに痛みがある場合でもできる運動方法があります。適切な運動を続けていれば、痛みが改善することもあります。

反対に、痛いからとその部分を動かさずにいると、周辺の筋肉が衰え、少しの動きでも痛みを感じるようになります。

専門家に適切な運動やストレッチ方法を尋ね、無理のない範囲で継続しましょう。
 

自分に合った方法でトレーニングを

ロコモティブシンドロームの予防のためのトレーニングは、実際はどのような方法でもかまいません。しかし、高齢な方がはじめから辛いトレーニングを行ってしまうと、続かないばかりか、筋肉や関節を痛めてしまいます。

日本整形外科学会が推奨している、高齢者でも始めやすいロコモーショントレーニングは、太ももの後ろなど大きな筋肉を鍛えるための「スクワット」と、バランス能力を鍛える「開眼片脚立ち」です。

それぞれ、呼吸を止めず、ゆっくりと呼吸しながら行うこと、力を入れる筋肉を意識すること、そして何より、続けることが大切です。

開眼片足立ち

左右1分間を1セットとして、1日3セットが目安です。

開眼片足立ち

自信のない人は

開眼片足立ち(自信のない人は)

机に指先をつけて行う。難しい場合は、片手または両手をつけたまま行う。

スクワット

5~6回を1セットとして1日3セットが目安です。

スクワット

脚を肩幅に開き、つま先も開く。

スクワット2

いすに腰掛けるように、息を吐きながらゆっくり腰を下ろす。この時、ひざはつま先と同じ方向に曲げる。深呼吸するペースでゆっくり行う。

※腰を痛める恐れがあるので90度以上に曲げないようにしましょう。

自信のない人は

スクワット(自信のない人は)

机に手をつき、いすに腰掛けた状態から、ゆっくりと立ち座りを繰り返します。机に手をつかずにできる場合は、手を机にかざして行います。

※公益社団法人 日本整形外科学会発行「ロコモパンフレット2015年度版」より

食生活の工夫でロコモ予防

日常運動やトレーニングで骨や筋肉を鍛えたいと思うなら、その材料となる栄養素を体に供給してあげなくてはなりません。

高齢になって、食事量は減り、野菜中心のあっさりした食事を好むようになるにつれ、肉や魚、乳製品などを食べる機会も減ってしまいます。

すると、筋肉を作るために大切なたんぱく質や、骨を作るために必要なカルシウムが不足しがちになります。

骨にいい食事

骨は、骨にかかる負荷と血液中のカルシウム量に応じて、常に壊されて新しく作られています。

骨の形成よりも破壊の方が上回ると骨が弱くなり、骨粗鬆症になります。

骨を作るために必要な栄養素は、骨の主成分でもあるカルシウムです。

75歳以上のカルシウム食事摂取推奨量は男700mg/日、女600 mg/日です(※)が、実際に摂取しているのはそれぞれ100mg/日ずつ不足しているといわれています。

また、カルシウムは非常に吸収の悪いミネラルで、活性型ビタミンDがないとほとんど吸収されません。そのため、カルシウムと同時に、鮭・キノコなどに多く含まれるビタミンDもしっかり摂りましょう。

ビタミンDは紫外線にあたると皮膚で作られるため、日光浴もおすすめです。

さらに、骨の材料であるたんぱく質、マグネシウム、葉酸、リンなども必要です。

※日本人の食事摂取基準(2020年版)の概要 厚生労働省より

推奨量のカルシウムを摂るための工夫

  • 副菜として:緑黄色野菜・海藻類・小魚・干しえびなど干物や乾物類
  • 主菜として:大豆製品
  • おやつや飲み物で:牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品、チョコレート
  • 調味料として:ごま

筋肉にいい食事

筋肉組織は、上手に栄養供給と運動を繰り返せば、約3~6週という比較的短期間で筋肉量・筋力アップが期待できます。

筋肉を作る主な栄養素のたんぱく質は、アミノ酸から構成されています。特に動物性たんぱく質には体内で合成できない必須アミノ酸がバランスよく含まれているため、日常的な摂取が欠かせません。

たんぱく質は肉や魚、卵、乳製品、大豆製品に多く含まれています。

肉や魚ばかりを食べているだけでは効率的にたんぱく質を摂取することはできません。色々な食材から組み合わせて摂取することが大切です。

また、ビタミンDも筋力向上作用があるとされ、サルコペニアの予防や治療にも推奨されています。

栄養素の吸収を助ける栄養素

カルシウムやたんぱく質だけでなく、運動器の形成に補助的にはたらく以下のような栄養素も大切です。

栄養素 はたらき 多く含まれる食品
ビタミンK 骨の形成や維持を助ける 納豆、青菜など
炭水化物 筋肉をはたらかせるエネルギー源となる 米、パン、麺類など
脂質 油、バターなど
ビタミンB6 たんぱく質のはたらきを助ける マグロの赤身、カツオ、赤ピーマン、キウイ、バナナなど

実際は、栄養素はどれが大きく欠けても体に支障を及ぼします。

たんぱく質やカルシウムだけを多く摂るということではなく、それらをしっかり摂取することを意識しながらも、炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルのいわゆる「5大栄養素」を、毎日3回の食事からバランスよく食べることが大切です。

バランスのよい食事を楽しく続ける習慣づけを

ロコモティブシンドロームを予防するための食生活には、以下のような日常生活上の工夫も有効です。

生活リズムを整える
不規則な食生活のスタイルが定着してしまうと、体に本来備わっているリズム(サーカディアンリズム)が整わず、運動器に限らずさまざまな障害を引き起こしやすくなります。
まずは食生活のリズムを整えることから始めましょう。
栄養バランスはゆるやかに意識する
栄養バランスを気にするあまり、食べたいものをがまんする必要はありません。栄養のバランスは1週間の中でとれるように、ゆるやかに調整しましょう。
食べたくなる食事を用意する
きちんと栄養を摂るためには、食べたくなるような工夫が必要です。
和食・洋食・中華など献立に変化をつけたり、色の濃い野菜などを取り入れて、食卓を彩り豊かにするといいでしょう。
盛り付けや器など見た目にも工夫をしましょう。
楽しく食べる時間と機会を作る
家族や親しい人たちと一緒に食卓を囲んだり、外食やアウトドアで食事をとることは、食への興味と意欲を湧かせるためにはとても効果的です。

80・90歳の高齢になってからでも、体は毎日の努力にしっかりと応えてくれます。

高齢者になってしまったから、と体作りの意欲が減退することが、体力を衰えさせる一番の原因かもしれません。

少しずつでも体作りをして、健康に過ごす時間を1日でも伸ばしたいものです。

イラスト:上原ゆかり

この記事の制作者

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監修者:野溝明子(医学博士/鍼灸師/介護支援専門員)

東京大学理学部、同大学院修士課程修了。東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、順天堂大学医学部解剖学・生体構造科学講座で医学博士取得。東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。
医療系の大学、専門学校で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅・施設等へ出向き施術を行ったり、ケアマネジャーとして在宅緩和ケアや高齢者の介護・医療の相談にものる。
著:編集工房まる株式会社

介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅、その他介護施設や老人ホームなど、高齢者向けの施設・住宅情報を日本全国で延べ57,000件以上掲載するLIFULL 介護(ライフル介護)。メールや電話でお問い合わせができます(無料)。介護施設選びに役立つマニュアルや介護保険の解説など、介護の必要なご家族を抱えた方を応援する各種情報も満載です。
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