【専門家監修】フレイルを予防するための食事を知ろう
フレイルとは、Frailty (虚弱)の日本語訳です。加齢に伴い、筋力や認知機能、社会性など「心身の活力」が低下した状態のことを指します。フレイルは要介護のリスクを高めるので、フレイルの進行を予防することはとても大切です。フレイル予防の3つの柱は、「食事」「運動」「社会参加」が大切と言われています。
このページでは、フレイルについての解説と、フレイル予防のための食事のコツについて、詳しく解説します。
フレイルとは?
フレイルの状態になると、身体の機能低下、心理的、社会的な側面の機能低下も含め、健康障害を起こしやすくなります。フレイルを予防するためのポイントは、「よく噛んでよく食べること」「適度に運動すること」「社会参加をすること」の三位一体が大切だと言われています。
「よく噛んで」「バランスよく食べる」には、「口の機能」の理解と、「食事と栄養」に関する知識が不可欠ですので、詳しく解説していきます。
オーラルフレイルとは?フレイルとの関係や予防法
食事を「よく噛んで食べる」には、口の機能が大切です。まずは、口のフレイルである「オーラルフレイル」についてお話しします。
オーラルフレイルとは
オーラルフレイルとは、「Oral(口)」と「Frailty」を合わせた造語であり、日本語では「口の虚弱」という意味となります。
口に関する「ささいな衰え」を放っておくと、口だけでなく全身の機能も低下してしまうことに警鐘を鳴らしたことばです。
「ささいな衰え」とは、滑舌が悪くなる、食べこぼしや僅かなムセがある、硬くて噛みきれない食品が増える、といったことです。
口の機能低下は食べられる食品の偏りに繋がり、栄養状態にも悪影響を与えます。この様なささいな衰えはご自身では見逃しやすく、対応が遅くなってしまいがちです。
オーラルフレイルの予防
オーラルフレイルは、全身の身体機能や死亡リスクなどを高めることが明らかになっています。
そのため、早期に進行に気づくこと、機能低下を予防することはとても大切です。
オーラルフレイル予防のポイントは、「口の運動をいつもより意識して行う」ことです。
例えば、食事をいつもよりよく噛むようにしたり、他者と話をする機会を増やしたり、口の動きや顔の表情を豊かに使うことがとても大切です。
フレイルを予防するための栄養と食事
低栄養、低体重(低BMI)は、フレイルを進行させる大きな要因となります。大前提として「これを食べればフレイルを予防できる」という完全食はなく、さまざまな食材をバランスよく食べることが最も大切です。
ヒトは心も身体も、食べたもので成り立っています。
例えば、糖質は心と身体のエネルギー源に、脂質はエネルギー源であると共に皮膚やホルモンの材料に、たんぱく質は筋肉や内臓、骨などの材料になったりしています。
この項では、フレイルを予防するための栄養の基礎知識や食事のコツについて解説します。
エネルギー源の糖質・脂質をしっかり摂る
ヒトの主なエネルギー源は、糖質と脂質です。高齢者の低栄養が社会問題になっており、現場でも糖質や脂質の摂取量が足りないケースをよく見かけます。その場合、筋肉をエネルギー源として分解してしまい、体重減少や筋肉量低下に繋がる場合があります。
- 糖質について
- 糖質は主に、お米やパン、芋類などに多く含まれています。
- 身体の中で分解されて「グリコーゲン」というエネルギー源になり、筋肉や肝臓に蓄えられます。
- 糖質は、身体の中におおよそ1日分のエネルギーしか蓄えられません。毎日しっかり摂取することが望ましい栄養素です。
- 脂質について
- 脂質は主に、肉・魚、乳製品やナッツ、揚げ物などに多く含まれています。
- 脂質は糖質に比べて貯蔵に向いていて、数日から十数日分のエネルギーを身体に蓄えることが可能です。
- また脂質はエネルギー源として脂肪に蓄えられるだけでなく、ホルモンの原料になったり、皮膚や細胞膜、脳細胞の原料になったりしています。
高齢者は糖質と脂質の摂取量が不十分な場合があるので、肥満や持病がある場合を除いて、しっかりと摂取することが望ましい栄養素です。
*糖質と脂質には栄養素として他にも様々な役割がありますが、このページでは割愛させて頂きます。
フレイル予防には「たんぱく質」をプラスワン
他にも高齢者に不足しがちな栄養素が、たんぱく質です。
たんぱく質は、肉や魚、乳製品や豆類などに多く含まれており、筋肉や内臓、血液まで、身体のあらゆる組織の原料となっていて、ヒトが生きていくうえで欠かせない栄養素です。
たんぱく質を十分に摂取しないと、筋肉の量や質が低下し、結果的にフレイルを招きやすくなります。
さらにたんぱく質は、高齢になると消化吸収効率が下がるので、推奨量をしっかりと摂取したい栄養素です。日本人の食事摂取基準(2020年版)でも、フレイルおよびサルコペニアを予防するために、65歳以上の高齢者はたんぱく質を一日に体重×1.0g以上摂取することが望ましいとされました。
体重が50kgの方は、たんぱく質を1日に50g以上摂りましょうということです。
たんぱく質をしっかり摂れていないと感じる方には、たんぱく質のプラスワン」をお勧めします。例えば、お味噌汁の具に鶏肉や豚肉、お豆腐や油揚げをプラスワンすることで、たんぱく質の量を無理なく増やす事が可能です。
3大栄養素である、「糖質」「脂質」「たんぱく質」の大切さについて、主に解説しました。
バランスよく、適度な食事と適度な運動を心がけることが、フレイル予防のために非常に良い習慣となるでしょう。
フレイル予防には、3大栄養素だけではなくビタミンやミネラルも必要になりますし、「これを食べればフレイルを予防できる」という食材はありません。さまざまな食材をバランスよく摂っていくことを心がけていきましょう。
フレイル予防のための食事で心がけて頂きたい3つのポイント
①1日3食を心がける
1回の食事で食べられる量は、年を重ねるともに減少します。できるだけ1日3回以上の食事を心がけ、1日に必要なエネルギーやたんぱく質などをしっかり摂取していきましょう。
規則正しい食事は、生活リズムを整えます。生活リズムが整うと、活動量が増え、食欲が増し、更に十分な食事を摂れるようになります。
②孤食より共食を
共食とは、誰かと一緒に食事をすることです。家族や友人と一緒に食事をすると、コミュニケーションをとりながら食事ができるので、「楽しく食べて、食欲が高まる」「品数も増えて、多様な食材を食べられる」ことにつながります。
地域の通いの場やデイサービスでも、共食への取り組みは増えてきています。
例えば最近では、コース料理を提供したり、カフェのような空間で食事ができたりするデイサービスなどもあり、共食の選択肢は少しずつ増えています。
③バランスよく食べる
菓子パンや麺類など単品メニューではなく、肉、魚、乳製品、大豆製品など、たんぱく質を多く含む食品をおかずに1品入れましょう。好きなものだけに偏らず、少量でバランスよく食べることが大切です。
これら3つのポイントは当たり前のことですが、疎かになっている方も多くいます。
食事の準備が難しい方は一品レトルトや冷凍食材を利用しても良いと思います。毎日の食生活にちょっとした食材をトッピングして、人生100年時代をより豊かに過ごしていきましょう。
最近では、管理栄養士が勤務する「認定栄養ケア・ステーション」という施設が、全国的に増えています。栄養相談だけでなく、個々の生活に即した食事の工夫やアレンジ方法を教えてくれるところもありますので、お住まいの地域の施設を調べてみてください。
まとめ
フレイルを予防するための食事について、食と運動を大切にする理学療法士の目線からお話させて頂きました。
フレイルの要因は多岐にわたりますが、進行予防には「食事」「運動」「社会参加」がとても大切です。
末長く元気な心と身体を維持するために、「3つのポイント」と「たんぱく質のプラスワン」を意識していきましょう。食事や栄養について気になることがあれば、お近くの役所の高齢福祉担当課や、認定栄養ケア・ステーションにお問い合わせしてみてください。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:新田 智裕(理学療法士)
横浜市青葉区の青葉さわい病院にて3歳〜105歳までのリハビリの担当を経験し独立。現在は、同じ青葉区内で、理学療法士と管理栄養士がつくる デイサービス「バレーナ」を運営。理学療法士が考案した、YouTubeで「バレーナチャンネル」を運営。シニア向けのホームエクササイズ動画を配信中。